第45話 雑草エース




 朝の八時半、智久は昔ながらの朝ご飯としても定番の雑穀米に味噌汁、鮭とお漬物を順繰り順繰りゆっくりと食べている。夢中で食べていた智久はふと視線に気づき、顔を上げた。


「なにかついてる?」


「いやぁ、美味しそうに食べてるなぁって思ってね」


 智久の目線の先には鈴羽、今は智久の婚約者だ。

 にこにこと微笑んだ笑顔に智久はは顔を絆されそうになる。

 付き合い始めてから半年と、どこか初々しいところがいまだ残っていた。


「なんか恥ずかしいな......そういえば鈴羽、大学は大丈夫なの?」


「うん、今日は一限ないから」


 智久は現在二十歳、あと少しで二十一とプロに行っていなければ大学の三年生となる。それに対して鈴羽は一つ上、大学も最終学年だ。就職も食品系の大手に決まり、後は単位さえどうにかなれば大学卒業である。


「今日、実験で残ると思うから試合観に行けないかも」


「うん、大丈夫。卒論がんばってね。ごちそうさま、おいしかったよ」


 智久は皿をまとめ、水につける。

 現在、智久は選手寮を出て鈴羽と同棲をはじめていた。

 鈴羽は昼に大学が、智久は練習のために一日の半分を外で過ごしているためあまりふたりの時間は取れていない。


(付き合って半年なんだけどな......)


 智久は鈴羽が初めての恋人であったため、夜を中々誘えずにいた。

 一方の鈴羽も、智久は知らないのだが彼女も初の恋人であるため遠慮をしていたので半年経っても初夜は行われなかった。お互いの容姿が整っているためかどこか遠慮をしている節があるのだ。


「いってらっしゃい」


 そう言って智久は鈴羽を見送る。

 今日試合がある智久は見送ると同時に準備を始めた。

 ホーム開催の試合のためトレーニング施設やシャワーなども完備していて早めに家を出ることが多い。


(よし、行くか)




 時刻は五時を回り、すでにブルペンの投球も終えていた。

 シーズン最序盤をアウェイで投げていた智久にとってはホーム初試合、久しぶりに感じるシーグルズファンの声援を背に受ける。


 現在シーグルズは十試合を消化している。

 勝敗は六勝三敗一分と勝率は六割超えと大阪ノームスと同率で二位に位置していた。

 今年のナ・リーグは荒れており、前期と順位がまるっきり違っている。


 今日の相手はその大阪ノームス。

 ネットなどでは二位争いなどとシーズン序盤から盛り上がっていた。

 その理由だけではない、下順位から成り上がったエース候補の智久に対して大阪ノームスはシーグルズからトレードで移籍してから覚醒した大盛おおもりが当てられたからでもあるだろう。


 両方ともシーグルズ出身な上に雑草魂で上がってきたエース候補ということでファンからすればとても興味深い試合だったのだ。


 一回の表のマウンドに智久は降り立つ。

 智久自身もこの対戦は楽しみにしていた。

 正確に言えばネットでエゴサした時に知ってから、だが。


 いつも以上に気合が入っていた智久は初回からエンジンを飛ばす。

 初球から150キロを超え、三者連続三振で一回を締めた。


 それに呼応するように大盛も有薗、助っ人のアイトン、中川の打線を三者凡退に抑えた。智久の三振劇とは違うが、わずか五球で打線を抑える。大盛はシーグルズベンチを指さして不敵に笑う。


 事実上の宣戦布告に智久も自分の口角がだんだんと上がっていった。

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