契約できるモンスターがいなかったので地元の友達と契約しました。

佐久間 ユマ

「人と契約しようとすんなよ。」

モンスターが町中に蔓延る世界では"モンスターテイマー"がかなり人気の職業である。


共に生活をし、時には己の強さの証明のために戦わせるそんなお仕事に昔から憧れを持っていたこのお話の主人公"アーレ"は夢の道へ進んでいく。


「......くそ、またダメだった。」


しかし現実は厳しく、思ったようにモンスターをテイムできずに、あきらかに才能がないことに気付いてしまった彼女は、同期の仲間にどんどん先を越されていく自分の姿をみてとうとう限界がきた。


「......こうなったら。」


そして彼女がとった最終手段、それは―――


-------------------------------


「......そんで俺のとこきたんだ。」

「そう、だからモンスターとして契約してほしいの。」

「ふざけんなよ!」


平日真っ昼間の人が少ないレストランにアーレから突然呼びだされた彼の名前はリョウジ。

アーレと小中が同じであり、家もそこそこ近かったのでたまに遊んでいた友達である。


「そのさ......モンスターを連想して俺に辿り着いたのもムカつくし、契約することで支配下になるのもムカつくわ。」


リョウジは夢の最中を生きる彼女の真っ直ぐな瞳に見つめられると、尚更モンスター扱いをされたことに腹を立てながら理由を訪ねる。


「ていうかなんで俺なんだよ!」

「ほら、"俺、骨折したことないんだよねー"みたいな自慢話してたじゃん。」

「......いや、え?」

「だから......それで。」

「それ一本で!?」

「いやだってさ!結構擦ってたから相当自信あるのかなって!」

「擦ってたっていうなよ!」

「途中からノートで数えたもん!」

「なに数えてんだよ!!」


確か中二の同じクラスになったときだけでも十五回くらい言ってたと彼女が話すと、リョウジは顔を真っ赤にして机に伏せた。


「......しょうがねえだろ。当時はそれしかアイデンティティがなかったんだから。」

「だから、そのアイデンティティが武器になる時が来たんだよ!」

「......モンスターにしてはよええだろ。」

「......まあ、うん。」

「否定しろ!」


真っ赤な顔を机から上げて急に乾き始めた喉を頼んだオレンジジュースで潤した男は、反論の準備を始めようとするが、彼女が追い討ちのようにまた口を開く。


「てかリョウジさ、今ニートじゃん。」

「......は?ニートじゃねえよ。転職先探してんだよ。」

「それ言って何ヵ月たったのよ。」

「......七ヶ月くらいだよ。」

「いや、もう半年以上働いてないじゃん!」

「いやだから......その......違......ちがうから。」


急に返しがなまくらになった男は今度は体をプルプル震わせながら顔を伏せた。


「こんな平日の真っ昼間に、急な昔の同級生から呼ばれて即返信レスするニート、どうすんのウチがマルチの勧誘だったら?」

「......」


実際はマルチよりも悪どいことをしようとしているのだが、そんな反論もできないほどに、見たくない現実と黒歴史を掘り返されたダメージがメンタルに来ている。


「今ここで契約したら、飯も生活もある程度国から負担してくれるんだよ?」

「......命の負担は?」

「それは大丈夫だよ、骨折したことないんでしょ?」

「おまえさぁ......よくこんなヘタヘタになってる人間に追い討ちかけられるよな!」


男は怒りで顔を上げて体内の熱を冷ますべく残り少ないオレンジジュースを全て飲み干し、一度ドリンクバーへ向かい飲み物を補充して再び席へつく。


「ていうかさ、なにすれば契約になるんだよ。」

「えーっとね、このリング。」


彼女は自分の腕についているものと同じような腕輪をバッグから取り出し、机の上にコンと置く。


「見た目の割に音が軽いな。」


シルバーで分厚くいため、一見重厚感のあるように見えるが、モンスターの大きさや特徴に合わせやすいように伸縮性のかなりあるゴムらしい素材になっている。


「ていうかこういうリングみたいなのってさ......人間だったら判定にならないみたいな扱いになってるんじゃないの?」

「......あ、ためしに一回、通してみる?」

「ああ......って、これで通ったら契約になるじゃん。」

「......チッ。」

「なに仕掛けてくれてんだよ。」


拾い上げたゴムを再び机の上に戻したリョウジは、来たときに注文したものの想像以上のお願いが飛んできて口をつける余裕がなかったフライドポテトをようやくつまむ。


「リョウジ......ダメかな.....?」

「......あのさ、もうひとついいかな。」

「え?」

「俺が中々断れない性格なの、知ってるよね。」

「......」

「俺が小中とさ、誰もやらない頼み事引き受けてきたの知ってるよね。」

「......うん。」

「嘘でも"そんなつもり無かった"って言えよ......。」

「......」

「......」

「......」

「こういう無言の空気とか嫌いで!頭ぐちゃぐちゃになってその場の空気をなんとかするために全部被るの知ってるよね!」

「......うん。」

「一回くらいなんか否定しろ!」

「え......あー、七ヶ月もニートするな!」

「そういう否定じゃねえよ!!」


静まりかえる空気。

無言の空気に耐えられない男が再び口を開こうとしたとき、また彼女が遮るように口を開いた。


「分かった!ごめん!」

「......え?」

「私が間違えてた。」

「......いや、うん......まあ、うん。」

「そもそも人をテイムする行為って駄目だよね。」

「いや......それはほんとにそうだよ。」

「同期がどんどんモンスターをテイムしてくから気が動転して変なことしちゃった。」

「......いや、あのさ。」

「いいの!もうこのことは忘れて!間違えてたから。」

「いやほんとに間違ってはいるんだけどさ。」

「......ごめん、ほんとにごめんね。」


彼女は顔を下に向け席を立ち上がると、伝票を開き合計金額分を財布から取り出して机にそっと置く。


「じゃあ......またいつか。」

「......待て!」

「......。」

「......俺がそうやって急に突き放された時、自責の念に駆られて引き留めるの、知ってんだろ。」

「......うん。」

「なんで否定しねえんだよこいつ......。」


男は立ち上がった彼女を再び席に戻すと、今度は先手をとられる前に口を開く。


「アーレは小学校の頃からずっと夢は絶対モンスターテイマーって言ってたよな。」

「......。」

「必死に勉強して、資格取ったのをSNSで見た時俺はめちゃくちゃ嬉しかった。」


「そんな夢への一歩を踏み出すアーレがこんな最初の段階で絶望して、"もし諦めてしまったら"っていうのがさっきの会話でめっちゃ頭によぎってさ。」


男は顔を下に向ける彼女をまっすぐ見つめながら、優しく話しかけるように語る。


「俺のせいじゃないのに、絶対俺のせいじゃないのに!」

「......」

「こんなん絶対俺のせいじゃないのに!俺があの時契約してたらって自分を一生攻めると思うんだよ!」


男は机をバンッと叩き、席を立つ。


「だから俺は!俺が自責のしないように戦う!」


そういうと男は机に起きっぱなしだったゴムのリングを腕にはめこんだ。


「リョウジ......。」

「......まあ、もうそろそろ親からブチギレられる......いや、結構ブチギレられ始めてるからさ。しばらくこの仕事で食い繋がせてもらうわ。」


そのときリングが光を放ち、ファミレス内が一瞬真っ白になった。


「え、やっばめっちゃ光ってるやばいやばい。」

「ああみなさんごめんなさい、ほんとにごめんなさい。」


二人は周りにせこせこと頭を下げ、本題に戻る。


「てか、人間でも契約できちゃったよ......。」

「......次はシュウタ呼ぼうかな。」

「イカレてんのかお前!」


彼女からスマホを取り上げ、プチ説教をかました男は頭を冷やすために表面張力スレスレのオレンジジュースを飲み干して心を落ち着かせる。


「とにかく、他のモンスターと契約するまでな。」

「契約したら、それ外すってこと?」

「うん、てか当たり前だろ。」

「そしたら仕事どうするの?」

「............いや、まあ......それは......まあ。」


彼女はこれからモンスターをテイム出来るのか、そして男は本当にモンスターと戦うのか。

どうなるか分からない、どこかの世界のひよっこテイマーによる冒険が多分始まる!









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

契約できるモンスターがいなかったので地元の友達と契約しました。 佐久間 ユマ @sakuma_yuma0839

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ