これはひどい異世界転移騒動

GGMN

第1話 割と酷い始まり

 それなりに生きてきた人生だった。

 それなりの学校を卒業し、就活に励むも全て失敗。こりゃ駄目だと手に職を付け生きていく為に建築現場作業員に。

 それなりの歳になった頃には結婚もしたが子は成せず後に離婚。そのままズルズルと自営業。

 それなりに頑張ってきたつもりだが飛び込み営業ができる性格でもなく色々な影響で人生設計自体のピンチに。

 久々に生えてきたお仕事を頑張るぞいと思っていた所の筈だったと伝える。あ、ちなみに生まれも育ちも関西地方の田舎です。

 いや、口の感覚ないんですけどね。どうなってんのこれ。


『はい、ありがとうございます。説明は大変お上手だと思いますよ』


 いえそんな事は。


 事前に自分は口下手で説明が下手かもしれないが、と伝えてはいたが大体無事に伝わったようでなによりである。

 軽く人生経験を語ってくれと言われ適当にかいつまんで話をした。その聞かれる事自体の意味がわからんのですが?


『先ほどお伝えしましたが貴方の身体は我々の延命処置でなんとか生きている状態であり、非常に危険な状態にあります』


 確かに目覚めて一番に聞いた。と言うか体が動かない状態で無理やり頭に情報を叩き込まれた気がする。なんかそんな感じ。

 そんな事できるのか? って思うが実際急にこれこれこうだ、と言う情報が生えたのでそうだったとしか言いようがない。そして体の感触がないので危機的実感がない。


『不思議に思うのも無理はありません、とり急ぎこの惑星に合ったコミュニケーションを取れる状態にと処置しています』


 気になるワード出現。この惑星ときましたか。

 なんかいい感じの病院の先生が相手なのかと思っていたのですが? できれば色っぽい女医さん希望します。


『否定します、治療の場に色気は必要ありません。詳しい事は言えませんが、この惑星の文明でほぼ不可能な技術を使用した上での現状に至っています。技術的に厳密には違いますが、例えば骨伝導に似た技術などがソレにあたります』


 震えて音を伝える技術的な?


『ええ、その認識で間違いないですが技術レベルに合った説明が難しく……軽く説明しますと鼓膜と神経の代わりに信号を脳に届ける技術です。あまり続けると脳によろしくありません』


 こっわ…………え? よろしくないの? こっわ。


『そして脳から発信される耳や口を使い会話を行っていると言う信号を読み取り今の状態があるわけです。しかし記憶媒体が読めるわけではありませんのでプライベートには配慮されております、ご心配なく。ぶっちゃけ色々とあちこちにぶっ刺さってますので見えない方が精神の安静に良いと思われます』


 ぶっちゃけ。

 そんな言葉使うんだ?

 いや、記憶覗かれなくて良かったけども。


『ええ、ぶっちゃけ。ポーンとなるまであまり時間がありません』


 なるほど、会話ができている事を錯覚させている様な状態か。疑い深いかもしれないが踊らされている様なそうでない様な。

 そもそも自分なんぞ騙した所で何があると言うのか。てかポーンてなんだポーンて。情報を叩きつけ過ぎやろ。

 なにより何故こんな事になっているのかがわからない。わし植物人間状態? なして?


『簡潔に説明します。貴方は高層ビルの屋上、その塔屋周辺にて集中落雷を受け生命の危機的状況となりました』


 あー、そう言われればその辺で仕事してた気もしてきた。

 晴れていたのに集中落雷だったと。まぁ本当だとしたら光の速さで事故ったらわかんないよね、警戒なんてしてないし。


『現場に応援に来て下さっている方に何か面白い事を言えと無茶振りをされ、事をなした直後に集中落雷です。つまらなかったのですかね?』


 つまらん言うなし。


『ふぅぅぅ、これは良い避雷針だぁ…………以上、これがあなたの辞世の句になります』


 句じゃねえよ。知りたくなかったわそんな最後……ってか何でそんなに毒吐きっぽい台詞多いの?

 嫌いじゃないけどね? むしろ冗談の多い会話は好きだけどね? でもね、ソレはある程度仲良くなってからの話だと思うの。


『言葉として外部に発言した音のコミュニケーションではなく、直接イメージを送りあって会話しているが故に生じる障害、と仮に思って頂ければ』


 なるほど、わからん。 


『我々が貴方を回収した時点で身体の組織がほぼ壊滅状態でしたので致し方なくこの様な方法を取りました。眼球や鼓膜が蒸発して存在しない状態での試みになりますのである程度は妥協すべきかと』


 あー、いや、気にいらないわけではないのですよ。会話とか確認とか大事だよね、そのまま放棄されなくて良かった。

 助けてくれてありがとう。

 自分の思う助かっているかどうかとは別として。


『お連れの方々はショック状態で救急搬送されましたが、特に心配はいらない状態だと情報を入手しております』


 そりゃ良かった。気にはしてたんだ。

 思い出して聞く前にお知らせされる気遣いっていいよね。


『ここからが本題に入ります』


 あ、はい。


『我々の治療を受け実験場へ旅立つかそのまま命を終えるか、貴方は選ぶ権利があります』


 ……わしの過去聞いた意味は?


『この場は我々の厚意で成り立っている事をお忘れなく』


 ですよね! ありがとうございます!



 うーん…………ほぼほぼ答えは出ているが引っかかるのが実験場。

 一人っ子の自分は特に欲も無く会社を大きくしたいわけでもなくそのままズルズルと生きてきた。

 世間でおっさんと言われる頃には天涯孤独になり、やりたい事も見つからないまま生きていくのかとげっそりしていた。

 痛みもなくこのまま寝ている様に終わるのならそれも良いかと思えたが、面倒をかけた義理を果たせないままと言うのもモヤモヤする。

 そしてやはり実験場が引っかかる。ってかマジ怖い響きが怖い。


『こちらで言う人権や尊厳を無視した内容ではありませんのでご心配には及びません。意思あってのものですから』


 なるほど。信用するわけでもないが、そもそもとして自分の居場所自体がもう無いだろうって事は想像がつく。

 おそらく落雷を受け蒸発した建築作業員(自称)とニュースに出ている事だろう。

 つまりきっちりと外堀を埋め尽くした後の話なのだこれは。なにそれハメですか?


『ご理解頂けてなによりです』


 わからせられプレイをこの歳になって……あれ? わしいくつだったっけ……


『一部記憶媒体に障害を確認、無理に思い出そうとせず落ち着いてこれからの事を考えて下さい』


 そっか、じゃそうしよう。

 でもお高いんでしょう?


『只今より30分以内にお電話下さった方に限りもう一セットをお付けします』


 面白い。好き。

 もう二度と瀕死などしたくない状況を見越した上でのナイスジョークに感嘆する。

 この会話が己の好みの会話へと変換されていると思いたくはないな。


 やはりもう少し生きていたい。己の意思で。


『確認しました。それでは治療を施していきます、しばらくの後、意思が戻る頃には身体が無事にある事の幸せを理解できる事でしょう』



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