第4話 降りられない

 こんな夢を見た。

 灯り賑やかな夜さり、友人の母に連れられ高級な貸切バスに乗っている。観光に使われていそうなバスである。中は広く、ファミリーレストランのようなボックス席が狭隘な通路を挟んで二列並んでいる。全体的にダークウッドの内装で一され、テーブルは一枚板である。ソファはブラウンの革張りであった。

 友人の母はいつの間にか消えていた。その母の娘の友人、高校時代からの友人、そしてもう一人インターネットで知り合った友人と私の四人でディナーを囲んでいる。高級なステーキとワインで饗された。ワインは芳醇な香りがしたが、本来下戸である私はすぐに酩酊した。

 四人の中で、全員を知っているのは私だけである。軽く紹介をし、間を取り持った。酔っ払った頭でまともに喋れていたかも怪しい。

 食後、ギャンブルが開始された。コインに黒いカップを被せ、三つほど並べたカップをシャッフルし、何処にコインが行ったか当てる古典的なゲームである。勝敗は覚えていない。

 その後、バスは止まった。気がつくと地元までバスは来ており、歩いて帰宅できる距離にある。後は降車するだけなのだが、バスのステップが異様に高い。高所恐怖症の私には余りに恐ろしく、一歩が踏み出せなかった。

「どうやって降りたの?」

 私の質問に友人たちが嘲るように笑う。

「そんなの簡単だよ」

 小馬鹿にされ、手助けしてくれない友人たちに苛立ちを覚えた。運転席にロープが置いてある。これをつたって降りるべきなのか。そもそもこれは通常の降り方で降りられるのか。謎解きの類なのではないか?

「早くしなよ。答えはシンプルだよ」

 女たちがにやにや嗤っている。私だって焦っている。答えが見つからない。

 次第、宙に魚が泳ぎ始めた。私は車内に魚のぬいぐるみを置き忘れたことに気がついた。だが取りに戻る時間はない。刻々と時だけが過ぎていく。

 結果、私は最後まで降りられなかった。夢から覚めた後、水族館には――やはり一度も行っていない。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る