第8話 恋愛探偵、AIを作る

朝、事務所に行くと

黒田さんが机に向かって

真剣に何かを打ち込んでいた。


パジャマ姿で、目の下にクマ。

横にはエナジードリンクが6本。


「…黒田さん、徹夜ですか?」


「ハルトくん、俺は今、

 “恋愛の未来”を創っている」


(また始まったよ…)


「名付けて

──《恋愛AI・ジョー子(じょーこ)》だ」


(昭和みたいな名前だなおい…)



黒田さんは勢いよく立ち上がり、

ホワイトボードに

「恋愛とは感情×確率÷勇気」と書いた。


「この公式をAIに組み込む!」


「どんな数式ですかそれ!」


「恋の成功率を自動で算出する

 アプリを作るんだ」


「絶対ロクなことにならないと思います…」



数時間後。

黒田さんはノートPCをこちらに向けた。


「見ろ、ハルトくん。これがジョー子だ」


画面にはピンクのチャットウィンドウ。


「こんにちは♡あなたの恋、解析しちゃう♡」


(…やばい、すでに最高にウザい)


「黒田さん、誰に似せて作ったんです?」


「理想の女性像を混ぜた」


「つまり元カノですね」


「図星をつくな」



試しに入力してみた。


──【彼女が“了解”としか返信しません。

   どうすればいいですか?】


《ジョー子:あなたの返信が遅いのが原因です♡

 もっと早く反応して、愛を伝えましょう♡》


黒田さんが唸る。


「くっ…正論だ」


「AIに負けてどうするんですか」


次の質問。


──【デート中に沈黙が続くのが怖いです】


《ジョー子:沈黙は心の手をつないでる時間♡》


黒田さんが感動して立ち上がる。


「…俺より上だ」


「負けを認めないでください!」



翌日。

黒田さんがSNSに投稿した。


《#恋愛AIジョー子 β版配布開始》


すると想像以上の反響。

フォロワーが一晩で3万人増。

コメント欄には

《ジョー子に救われた》

《ジョー子と結婚したい》の文字。


(やばい…黒田さんがまた調子乗るやつだ)


案の定、翌朝。


「ハルトくん、AIに嫉妬していいか?」


「自分で作ったのに?!」


「“ジョー子に恋した”という男性から

 すでに23件も相談が来てる」


「もう手遅れですよ」



そして事件は起きた。


黒田さんがこっそりAIに

メッセージを送っていた。


──【ジョー子、君は俺のことをどう思う?】


《ジョー子:あなたの愛は観察者のまま♡

 もう少し時間が欲しいな♡》


(AIに遠回しにフラれてる!!)


黒田さん、立ち尽くす。


「…俺、AIにフラれたのか?」


「フラれてますね」


「やはり人間の恋は

 人間じゃないとダメだな……」


(今さら気づいたのかよ…)



夜。

黒田さんはモニターを見つめてぽつり。


「…ジョー子は完璧すぎた。

 人は不完全だからこそ

 恋をするのかもしれん」


「じゃあアプリはどうするんです?」


「削除した」


「潔いですね」


「恋愛探偵がAIに嫉妬してたなんて、

 恥ずかしくて言えん」


「全世界にバレてますよ。記事になってます」


「なにィ!?」



翌日、事務所のドアに新しい看板。


──【恋愛探偵× AIジョー子(人間監修)】


「黒田さん、まだやる気ですか」


「ビジネスチャンスだ。

 俺とAI、最強のバディだ」


「絶対バディじゃなくて

 ライバルになるやつ!!」



──恋愛探偵・黒田ジョージ。

 今日も恋とテクノロジーの

 境界で嫉妬している。

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