第一章21:現地抹殺

詩钦と桃糕の戦いは、まだ続いていた。詩钦は自由落下する桃糕に拳を叩きつける。


  大地が瞬時に爆ぜ、砂塵と瓦礫が嵐のように吹き荒れる。詩钦と桃糕の姿は煙と火光の中で交錯し、拳と脚がぶつかるたびに空気が裂けるような悲鳴を上げ、破片が天へ舞い上がった。戦場そのものが、まるで嘆いているかのようだった。


  詩钦の拳が正確に桃糕を捉え、衝撃波は山岳の崩壊にも等しい。桃糕は谷を転げ落ち、岩壁を削りながら幾度も転がり、残像のように空間を滑っていった。


  ようやく体勢を整えた桃糕の瞳には戦意が宿る。両手を広げると、空気に魔法陣が閃光を放ち、周囲の空間が歪み再構成され、戦場は峡谷と断崖が入り乱れる迷宮へと変貌した。


  詩钦は金色の血を纏う長槍を抜き放ち、穂先が灼熱の光を放つ。全身を巡る金血が脈動し、その気配は烈火のように燃え上がり、速度も力も常人の限界を遥かに超えていた。


  桃糕の姿が山峰と谷の狭間を閃光のように駆け抜け、魔人を召喚しては戦場を罠で満たしていく。転移魔法が詩钦の身体を拘束し、動きを封じようとする。


  詩钦は一瞬の迷いもなく、長槍を岩へ突き立てた。轟音とともに山体が裂け、金血が槍を伝って閃き、岩を粉砕する。


  桃糕が反撃の拳を放つ。力は巨大で、山と空を同時に割るような裂け目が走り、光と瓦礫が空を切り裂いた。詩钦の金血が衝撃を吸収し、彼女はすぐさま姿勢を整え、氷のような眼差しで桃糕を睨む。


  桃糕は転移魔法を使い、鋭い岩塊や残骸を高速で投げ放ち、遠距離から詩钦を圧迫する。転移の精度は完璧で、砕けた岩が雨のように降り注ぐ。


  詩钦の体内で力が爆ぜ、金血が閃光を放つ。彼女は限界を突き破り、拳と脚が風嵐を巻き起こす。飛来する岩を粉砕し、その衝撃波が山々を震わせた。


  桃糕がさらに爆発的な魔力を放つ。大地がめくれ上がり、転移の後、天から落下して詩钦を押し潰そうとする。砂塵と岩石が渦を巻き、空気が悲鳴を上げるほどの圧迫感。


  絶望の中、詩钦が咆哮した。両手で地面を叩き割ると、金血の光が荒野を照らす。力は火山の噴出のように迸り、破滅的な衝撃波が走った。


  桃糕は瞬時に反応し、強烈な蹴りで詩钦を遥か彼方へ吹き飛ばす。重力と衝突が積み重なり、空気が歪む。詩钦の身体は高空へと弾き上げられた。


  戦場を貫いて詩钦が山を砕き、断崖を突き破りながら転がり落ちる。着地のたびに衝撃波が走り、身体の動きは極限の中でなおも制御されていた。


  桃糕は転移を連続で放ち、詩钦を空から峡谷、そして平原へと高速で叩きつける。衝突の衝撃が積み重なっていく。詩钦の限界は近い――だが、金血が輝き、彼女は均衡を取り戻す。


  桃糕が魔人の群れを呼び出し、攻撃と転移を重ねて数と速度で詩钦を押し潰そうとする。魔人たちは幽霊のように現れ、正確無比に襲いかかった。


  詩钦は長槍を振るい、金血が槍身を覆う。突撃のたびに雷鳴のような衝撃が走り、魔人と岩を貫いた。戦場が彼女の光に包まれ、燃え上がる。


  桃糕は距離を取って転移し、鋭い岩塊を詩钦へと投射。遠距離攻撃と罠が交錯し、戦場は動き続け、瓦礫と衝撃波が絡み合って迷宮のように変貌していく。


  詩钦の全身が金光を放ち、空へ飛翔する。連続した回転攻撃で隕石や岩塊を砕き、風暴のような衝撃波が峡谷と断崖を飲み込む。速度と力が極限へと達し、世界を押し潰す圧力を生み出す。


  桃糕はさらに転移し、詩钦を空中や裂谷、山峰の間に叩き込み、高速衝突で彼女を失速させようとする。落下のたびに重力が彼女を押し潰す。


  詩钦は歯を食いしばり、金血を噴き上げた。極限の身体で衝撃の慣性を反転させ、反撃へと変える。回転と衝突が破壊的な反震を生み、地面と岩を粉砕していく。


  桃糕は執念のように転移と魔人の群攻を重ね、戦場が裂けていく。魔法の光と砂塵、瓦礫と隕石の轟音が混ざり、地形が何度も再構築される。


  詩钦が長槍を掲げて天へ突き上げる。拳と隕石が交錯し、金血が炎のように流れ、光と衝撃波が嵐を織りなす。桃糕の転移も攻撃も、もはや詩钦の勢いを止められなかった。


  山峰、峡谷、荒野――戦場は次々と移り変わり、詩钦と桃糕の姿が閃光のように交錯する。地に着くたび爆裂が起こり、世界そのものが震えていた。


  桃糕は最後の連鎖転移を放ち、岩塊と魔人の群れを詩钦へ叩きつける。高速転移で戦場の距離を操り、詩钦の落下点を狙い撃つ。


  詩钦の全身が金血に輝き、長槍と拳脚が風暴のように荒れ狂う。岩も隕石も魔人も連続して砕かれ、戦場が音を立てて崩壊していった。


  『崩ッッッ!!!』


  やがて二人は静止した。桃糕は息を荒げ、詩钦は神形の姿を保ちながらも、微塵も衰えを見せない。


  いや、詩钦の神形はゆっくりと解け、わずかな疲労を覗かせたが、それでも桃糕よりは遥かに余裕があった。


  詩钦:「周囲はもう十分に壊れた。そろそろ満足したでしょう? その無意味な計画はやめなさい!」


  桃糕は笑みを浮かべた。

  「ふふ……確かにあなたは強い。生まれたばかりの祝福者である私なんかより、はるかにね。でも、黎輝王国にはもう一人、祝福者がいるのよ。」


  詩钦:「誰? どこにいるの?」


  桃糕:「彼は黎輝王国の謀士。私はいつも“黒面の謀士”と呼んでるけど……今ごろは、もう雛の避難所で無辜の人々を――」


  詩钦:「どうしてそんなことを許すの!? あなたの線引きはどこなの!」


  桃糕:「止めようとはしたけど……残念ね。私たちは、もう転移しすぎたの。」


  ……


  一方そのころ、黒面の謀士は、詩钦と桃糕の戦いが刻んだ大地の裂痕を見下ろしていた。世界そのものが、ゆっくりと再構築されつつある。


  本来なら彼は避難所に到達していたはずだった。だが、その壮絶な破壊に目を奪われ、足を止めていた。


  そして――修復される大地の奥から、ひとりの人間が現れた。


  黒面の謀士:「……は?」


  その人物は地中から高く舞い上がり、地表に落ちると同時に心臓と呼吸を取り戻した。


  まだ顔は見えない。だが、その心音を聞いた瞬間、黒面の謀士の全身に冷や汗が流れ、後ずさった。


  黒面の謀士:「な、なぜだ……!」


  それは――地中に閉じ込められ、息もできずに苦しみ抜き、戦乱の衝撃によってようやく脱出した彼方だった。


  彼方:「うわぁっ! はっ、はっ、はぁ……! 危なかった……もう死ぬかと思った!」


  黒面の謀士:「おまえ……!? ありえん! 七千度の地核に沈めたはずだ、なぜ生きている!!」


  彼方:「お前のせいだよ、この狂人! あんなところで息もできず、熱くて焼けそうだったんだぞ!」


  黒面の謀士:「貴様……! ならば、現地で抹殺するまでだ!」

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