『仲間と暮らしたいだけなのに、なぜこんなに危険!?』

初心者

第一章01:新生は万物

空が裂けた。


  一条の光が高空から落ち、幾重もの雲海を貫き、見知らぬ大地全体を照らし出した。


  大地が息をしていた。


  山脈は脈打つ巨獣のように震え、灰塵がその鼓動に合わせて盛り上がり、また崩れた。


  河は逆流し、滝は巻き戻り、時間は無数の破片に裂けて空気中で煌めく。


  光に照らされたその地は、宙に浮かぶ廃墟の都だった。


  城壁は傾き、橋は断たれ、石柱には欠けた符文が漂っていた。


  無数の機械の残骸が空中に浮かび、銀色の歯車がゆっくりと回転している。まるで失われた命令を待つかのように。


  裂け目から吹き出す風は、灰と鉄の匂いを運んできた。


  山脈の向こう、巨大な影が動いていた——それは生物ではなく、歩く城だった。


  一歩踏み出すたびに大地が共鳴し、眠る神の鼓動のように響き渡る。


  光の中心に、一つの影が天から落ちてくる。


  衣は風に裂かれ、長い髪は光の中に散り、全身を覆う符紋が淡く青い焔を灯す。


  彼が地に触れた瞬間、周囲の浮遊石はすべて砕け、塵は見えぬ力に巻かれて渦を成した。


  死の静寂——風の音だけが残る。


  世界は、彼の到来を見つめていた。


  ……


  彼方:「!!!!」


  鼻をくすぐる新鮮な草の匂いに、彼は思わず目を開き、身を起こした。


  彼方:「おかしいな……俺はもう……」


  自らを彼方と名乗る青年は、突如としてこの異世界に転移していた。

  そこはまぎれもない異世界——符文と修仙という二つの要素が存在するが、前者は稀で、後者はほとんど姿を見せない。つまり、大した重要性はない世界だ。


  (もっとも、彼はまだそれを知らない。)


  当然ながら、異世界に来た彼方の第一目標は「冒険者になる」ことだった。

  だが、今の彼の姿は非常に危うい。


  彼の服はボロボロで、乞食のような格好。見るに耐えないほど破れ、隠すべきところもまともに隠れていない。しかも、彼は町の外にいた。


  彼方:「はぁ……まずは服を買わなきゃな。でも、その前に城下に入る方法を考えないと……」


  異世界に来たことに興奮と喜びを感じつつも、彼方は長年の“アニメ視聴経験”から異世界のテンプレ展開を熟知していた。


  彼方:「異世界には必ず魔法と冒険者がいて、魔物や巨大な怪物もいる。だから、夜になる前に街へ入るのが得策だな……」


  頭の中では完璧な計画を立てていたが、現実には実行不可能だった。

  この格好では、門番に怪しまれるのがオチだからだ。


  彼方:「もし冒険者が任務中に通りかかったら、助けてもらえるかも……」


  『ドォォォォォォォォォォン!!!!!!!!』


  突然、遠くで爆発音が鳴り響いた。

  彼方は驚いて飛び上がり、音のした方向を見た。


  彼方:「まさか……戦争中とかじゃないよな……?」


  視線の先には黒煙が立ち昇り、遠くからも衝撃波が伝わってくる。

  しかし、すぐに彼はそれが熱兵器ではないことに気づいた。


  彼方:「違う……この衝撃、戦闘だ……!」


  その威力、その震動——これはきっと……


  彼方:「魔法だ!!」


  胸の奥から湧き上がる高揚感。

  まるで世界そのものが、自分に「ようこそ」と語りかけてくるようだった。


  彼方:「もしかして俺は、あの城に召喚された勇者か? それとも冒険者? どこにシステムが? ステータスは? 魔法少年? いや、他人の体に転生したとか?」


  自分の正体を確かめるために、彼は近くの小川に駆け寄り、水面に映る姿を覗き込んだ。


  彼方:「体は変わってないし、顔もそのまま……」


  それで確信した——他人の身体に憑依したわけではない。


  ……


  『パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ……』


  そのとき、背後から馬の蹄の音が近づいてきた。

  振り返ると、そこには数名の人影があった。


  彼方(冒険者か……? でも、この格好……怪しまれそうだな)


  すると、一枚の外套が不意に彼の肩にかけられた。

  顔を上げると、冒険者たちは穏やかに微笑んでいた。


  冒険者:「君はオーラ王国の遺児か? すぐ先が私たちの街だ。避難するといい。」


  「オーラ王国」も「遺児」も知らなかったが、彼方は親切なその言葉に少し安堵した。


  彼方:「ありがとうございます。」


冒険者:「我々は急いで“機械遺跡”へ向かわねばならない。異常なエネルギー反応があったんだ。君は街から出ないように、危険だからな!」


  「機械遺跡」と「エネルギー反応」——それが先ほどの爆発の場所かもしれない。


  彼方:「わかりました。ご武運を。」


  冒険者たちは頷くと、馬に鞭を入れて走り去った。

  残された彼方は、外套を見下ろして苦笑する。


  彼方:「……これ、どうやって返せばいいんだ?」


  助けてくれた人の顔は、結局よく見えなかった。


  彼方:「まあいいや。外は危なそうだし、早く街へ行こう。」


  ……


  数分後、彼方は城門へたどり着いた。

  門番の質問に対し、「オーラ王国の遺児です」と答えると、無事に街へ入ることができた。


  街は穏やかで、住民たちは笑顔に満ち、至る所で冒険者の姿が見える。

  ——だからこそ、人々は安心して暮らせているのだろう。


  さらに、彼方と同じように薄汚れた服を着た人々も多く見かけた。

  彼らこそ本物の「オーラ王国の遺児」なのだろう。


  無数の冒険者たちが次々と馬を駆り、街を出ていく。

  どうやら、例の機械遺跡の異変が原因らしい。


  彼方:「この街は“ヒナの街”っていうのか。いい場所じゃないか……!

      ここで俺の冒険者ライフを始めよう!」


  彼方:「それに、いつか仲間とパーティーを組んで、共に戦って暮らすんだ!」


  戦闘や冒険にも惹かれるが、彼方が本当に求めているのは——仲間と共に過ごす日々だった。


  言葉ではうまく表せない。

  けれど、安心できる温かい時間を望んでいた。


  ……そんな仲間を見つけるのは、きっと難しいだろう。

  人の心は、いつだって残酷だから。


  まずはやるべきこと——


  彼方:「冒険者ギルドに行って、名前を登録しよう!」


  ——だが彼は知らなかった。


  その“機械遺跡の異変”こそが、彼の運命を根底から変える事件になることを。

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