第4話 封印都市エリドゥ ― 国会編 ―
―― 東京・永田町
厚い雲に覆われた冬の空の下、国会議事堂の白い石壁が鈍く光っていた。
報道カメラのフラッシュが閃き、
「日本初の女性総理誕生」というニュースが、繰り返し電波に流れていた。
“国民自由党・芦田さゆり氏、内閣総理大臣に就任――
”議場の外は、祝福と混乱が入り混じる喧噪に包まれていた。
だが、その奥の閉ざされた会議室では、別の言葉が静かに交わされていた。
国民自由党・特別戦略会議室
橘 元総理は、議員たちを前に煙草を指に挟んだまま、
ゆっくりと口を開いた。
その声は低く、威圧感に満ちていた。
「……諸君、浮かれている場合じゃない。」静寂が広がる。
壁際には、政務官や事務次官、財務官僚の影。
誰もが目を逸らせず、橘の一言一句を聞き逃さぬようにしていた。
「今の国民自由党は、国民から完全に信頼を失っている。
富士山テレビの件もそうだ。報道が一つ漏れただけで、全てが揺らぐ。」
彼の灰色の瞳が、ゆっくりと横を向いた。
「話題をすり替えろ。」
沈黙の中、誰かが息を呑む音がした。
「ガソリン税でも、消費税でもいい。
“庶民の関心”を利用しろ!国民がテレビで怒り、SNSで騒げば、それで十分だ。」
若い議員のひとりが、恐る恐る口を開く。
「……しかし、それでは根本的な解決に……」
「根本的な解決?」橘は冷笑した。
「君、政治家が何か分かっていないな。政治家は実行しないことで安定するんだ。」
一拍置いて、
彼は立ち上がり、窓の外を見た。
「民間企業は利益を上げなければ潰れる。
だが政治は違う。利益を上げなくても、票と税金が自動で入る。
つまり ―― 動く必要がない。
動けば失敗する。失敗すれば責任を取らされる。
ならば、最初から何もしなければいい。」
橘は深く煙を吐き出した。「それでいて、課題を“議論”している限り、
政治家は“働いているフリ”ができる。 国民は“何かしてくれている”と錯覚する。
それが政治だ。国民は馬鹿だ。自分で考えることを放棄している。」
会議室の空気が凍りついた。テーブルの端で、芦田さゆり総理が静かに資料を閉じた。
彼女の微笑みは、完璧な政治家のそれだった。
「……橘先生。ですが、国民の信頼を失えば政権は持ちませんよ。」
「信頼?」
橘は口角を上げた。
「 “信頼できると錯覚させるだけでいいんだよ”
なぜ今、女性総理大臣にしたんだ、、?
日本初だぞ!私達政治家が、年間いくら自由に懐に入れているか…
わかっているだろう、
なぜ、そんな事ができる、国民は一瞬 現実が見えそうになっただけで、
見えてはいない、
貧乏な国民を差し置いて、
政治家は1日100万円使ってもおつりがくる生活だ、、
そりゃぁ~怒るだろう、私だって怒る、、、核心が見えそうになってきたから、
芦田さゆり総理を選出したんだろう!!
これで国民の半数、女性が味方になってくれる。
政治家の使うお金の事や、裏金の事なんてすぐに忘れるよ、、、
普段は与党と野党で、
右を言えば、、、左をぶつける議論をしていればいい!
世の中に正解は無いからだ、
私の正義は…君の悪だ、、、、
だから議論が正当性を持つ、、、
芦田総理大臣、あなたは誰に信頼されたいんだ、、、
国民からじゃないだろう、
言葉や行動は選び方一つで、民意なんていくらでも操れるのだから。」
彼はポケットから一枚のメモを取り出し、テーブルの上に置いた。
そこには、青いインクでこう書かれていた。
【プロジェクト・エリドゥ】― 国民管理計画 ―
メディア・教育・SNS操作・監視網再構築 芦田はその文字をじっと見つめ、
微かに眉を動かした。
「……“エリドゥ”とは?」
「古代シュメールの都市の名だ。」
橘の声が低く響く。
「人間が初めて“神”と契約した地――つまり、支配の原点だ。」
芦田の瞳に一瞬、迷いが走る。
「まさか、例の……“彼ら”との協定ですか?」
橘は薄く笑い、答えなかった。
代わりに、傍らに立つ官僚が低く呟いた。「……次の段階に進むのですか。」
橘は頷いた。「そうだ。人間社会の“感情データ”は、すでに十分に収集された。
AIによる選挙予測も精度は98%を超えている。
あとは、“意思”そのものを制御する段階に入る。」
「まさか……」
「脳波制御ではない。“情報”による制御だ。
見せたい現実だけを与え、信じたい真実を選ばせる。
それが “自由” の形だ。」
橘は振り返り、芦田を見据えた。「――君は、その象徴になる。」
――数秒の沈黙。
やがて芦田は、静かに微笑んだ。「分かりました、橘先生。
“自由と幸福”の旗の下で、すべての国民を導きましょう。」
「そうだ。」
橘は再び窓の外を見つめた。遠く霞む東京の街の明かりが、
まるで無数の監視カメラのように瞬いていた。「これが “ 国民の幸福 ” だよ。
――選ばされる自由。信じさせる真実。」
―霞が関の夜は、静かに腐っていた。
会議が終わり橘は議事堂をあとにし、黒塗りの車に乗り込んだ。
外は冷たい雨。ワイパーが静かに往復するたび、彼の表情を街灯の光が淡く照らす。
「議員定数削減とガソリン減税──これで国民の関心は十分そらせるだろう」
橘は低く呟いた。隣に座る秘書官がタブレットを開く。
「国民の反応は上々です。“身を切る改革”がSNSでトレンド入りしています。」
「それでいい。派閥を潰すには、“民意”を使うのが一番効果的だ。」
橘の口元に微笑が浮かんだ。
議員を減らすと聞けば、国民は喝采する。
だが、削られるのは“敵対派閥”だけだ、選挙なんていくらでもごまかせる!!
彼にとって政治とは、支配のシステムにすぎない。
国民の幸福は、あくまで“演出”である。
霞が関を見下ろす富士山テレビの報道フロアでは、赤い警告ランプが瞬いていた。
SNS上で拡散された“裏金リスト”が、止まらない。
――「国民自由党 献金疑惑」政界最大派閥“橘派”の名前が並び、与党は火の海だった。
現職の芦田総理は緊急記者会見を開き、「調査を約束する」とだけ述べたが、
その裏で官邸は“沈黙”を指示していた。
報道各社に届いた通達――「国家の安定を乱す虚偽情報の拡散を控えるように。」
その一文で、真実は封じられた。
富士山テレビ報道局の地下階。
消灯された編集室のモニターを一人見つめる男がいた。
片山 洋介 ―― 国民自由党・橘派の政策秘書。
かつてこの局で、政治部記者として名を馳せた男だ、
今は政治の内部に潜り込み、“敵を内部から崩す”道を選んでいた。
机上のPC画面に、数行のコードが走る。
SNS上の投稿群を“システム的に削除する”操作。
「……これで、しばらくは沈静化する。」その表情は冷静だった。
しかし、胸の奥では
――燃えるような怒りが燻っていた。(あや……お前の死を、俺は忘れない。)
――その頃、鎌倉の夜の海岸が見えるカフェ
鎌倉の海風が窓を叩いていた。
部屋の隅に置かれたランプが柔らかく光を落とす。
迅は、緊張した面持ちの梓と向かい合って座っていた。
「迅くん……私を香坂さんたちに合わせてほしいの」梓は真剣だった、、
「え? どうして……? 理由を教えてくれないかな?」
「・・・“メンタリズム”って知ってる?」
「うん、心理を読むやつでしょ?」
「そう、私の特技なんだ。……人の目を見れば、考えてることが“見える”の」
「見えるって……そっちの意味かい(笑)」
「冗談じゃないよ。本気だから、、、」
―――数時間後、港近くの喫茶店「ル・フォワール」──
香坂、桧山、迅、そして梓。
4人が向かい合っていた。
コーヒーの香りの中、張り詰めた沈黙。
最初に口を開いたのは香坂だった。
「迅くん、本当に連れてきたのか……この状況、遊び半分じゃ済まないんだぞ」
「分かってます。……でも、彼女はただ者じゃないんですよ、、、
それに信頼できるんです」
「信頼ねぇ……。この世界は信じた瞬間に裏切られる事だってある、それに危険かもしれない、、、」
梓は香坂を見つめ、淡い笑みを浮かべた。
「香坂さん。奥様のお名前“かおる”さん。娘さんは“愛”ちゃん。五歳。
犬の名前は“スプマンテ”。……ご家庭の情報は誰にも話したことが無いですよね?」
香坂が固まる。
桧山がコーヒーを口にしたまま、吹き出しそうだった、、
香坂「……なんで……? どこで調べた?」
迅の方をにらみつける香坂
「僕も知らないですよ、その情報は誰にも話した事なんてないでしょ!!」
「香坂さん、これはねメンタリズムと言う技術です」
桧山「見たことある、、やるじゃない、梓ちゃん……」
梓は続けた。
今度はゆっくりと桧山の方へ目を向ける。
「桧山さん。……あなたは、誰かと“取引”をしてますよね、、、
――国民自由党の人、では?」空気が張り詰めた。
香坂と迅が同時に桧山を見る。
桧山は目を細めて、カップを指で弾いた。
その“チッ”という小さな音が、沈黙を切り裂いた。
「……なるほど。 鋭い子ね。」
香坂が立ち上がった「桧山!!お前裏切ったのか!!」
第四話 終
次回・・第5話 沈黙の協力者 ― 嘘を背負う者たち ―
週1回更新 11月21日(金)20時
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