隣の席の女子といい感じなのを知られたら、やきもちを焼いた幼なじみに、なぜか触ってもいいよと言われたボク

茶電子素

ノータイムで「じゃあ遠慮なく」って言ってやればよかった

放課後の教室って、なんであんなに空気がゆるむんだろう。

窓から差し込む夕陽が机をオレンジ色に染めて、

隣の席の佐藤さんが笑うたびに、俺の心臓は勝手に忙しくなる。


「ねえ、ノート見せてくれてありがとう。助かったよ」

そう言って彼女が微笑んだ瞬間、俺は完全にノックアウトされていた。


……で、その様子を、よりによって幼なじみの美桜に見られていたわけだ。


美桜が、じとっとした視線を俺に突き刺してくる。


「ふーん。隣の席の子と、いい感じなんだ」


声は平坦なのに、机の角を指でカンカン叩くリズムが妙に怖い。


「い、いや、別にそういうんじゃ……」


「そういうんじゃない? へえ。じゃあ――」


美桜は唐突に俺の机に身を乗り出してきた。

距離が近い。近すぎる。

俺がのけぞると、彼女はさらに一歩踏み込んで、耳元で囁いた。


「……触ってみる?」


一瞬、頭が真っ白になった。

なにを、とは言わない。けど、言わなくてもわかる。

俺の脳内では警報ベルが鳴り響き、

同時に「そんな展開あるか!?」とツッコミが木霊していた。


「な、なに言ってんだお前!」


「だって。あの子にデレデレしてるから、私だって……」


「いや!嫉妬の表現方法おかしいだろ!」


俺が慌てふためくと、美桜はぷいっと顔を背けた。


「……どうせ、あの子の方が可愛いし」


「いや、そういう問題じゃなくて!」


教室に残っていた数人のクラスメイトが、こっちをちらちら見ている。

やめてくれ、誤解される。いや、もう誤解どころじゃない。


「お前な……そんなこと言って、もし本当に触ったらどうするんだよ」


「……触らないくせに」


「挑発すんな!」


俺は机に突っ伏して頭を抱えた。

心臓はバクバク、顔は真っ赤。

一方の美桜は、勝ち誇ったようにムギュっと腕を組んでいる。


「……で、どうするの?」


「どうもしない!俺は健全な男子高校生だ!」


「健全なら、あの子にもデレデレしないでよ」


「それは……っ」


言葉に詰まる俺を見て、美桜はふっと笑った。

さっきまでの嫉妬の色は消えて、いつもの幼なじみの顔に戻っている。


「……まあ、冗談だけど」


「じょ、冗談……?」


「本気にした?」


「するわ!あんな真顔で言われたら!」


俺が口をとがらせて抗議すると、美桜は肩を揺らして笑った。

その笑い声に、教室の空気が一気に軽くなる。


「……でも、ちょっとは焦ってくれて嬉しかった」


「……お前な」


夕陽が沈みかけ、窓の外が群青に染まっていく。

俺は深いため息をつきながら、心のどこかで妙な安堵を覚えていた。


――結局、触るも触らないもなかったけど。

さっきのあの瞬間、俺の心臓は今日一日で一番忙しかったに違いない。

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隣の席の女子といい感じなのを知られたら、やきもちを焼いた幼なじみに、なぜか触ってもいいよと言われたボク 茶電子素 @unitarte

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