ミツキ:兄との再会
――さて、どうしようかこれ。
改造開始から18時間。試しに6時間寝てみた物の、依然として
あの時はノリと勢いで渋谷・港区での戦いに向けた義体の改造に名乗りを上げたものの、アイデアなんかほぼ無いに等しい。
このままでは期待を裏切ってしまう、かといって半端な改造をチビっと施すだけで済ますのはプライドが許さない。そんな
「あ”あ”あ”~~!!!」
遂にメンタルに限界が来た私は、そう汚い叫び声を上げて勢い良く机に突っ伏した。
(リミットまであと30時間。ああ、こうなるくらいならもっと長めに見て――)
しかし次の瞬間、すぐ横で重い何かが地面に落ちる大きな音が響いて来て、思わず肩を震わせてしまう。
「な、なに……」
ビクビクしながら音のした方を向くと、地面に落ちたのが黒い剣である事に気づく。
――西新宿ダンジョンでハルが倒した、黒化オークが落とした魔道具。
(そういえばこの武器、前に特殊なレンズで診断した時に『既存のどの魔道具とも性質が異なる』って結果が出てたっけ)
数十万種の魔道具の情報が登録されていて、映した魔道具を数十あるカテゴリーのどれかに仕分ける機能を持つレンズ。この黒剣は、そのレンズが仕分けを拒否した代物だ。
「……もしかして?」
次に私は机の上に置いてあった黒い拳銃を手に取り、ポケットから取り出したレンズ越しに覗き込む。すると、やはりレンズは黒剣を覗いた時と同じ反応を示した。
――となると、黒化ボスから出てきた魔道具は皆同じ性質を持つと言って良いだろう。
「よし! この拳銃も同じなら、剣相手じゃ試せなかった実験が可能になる!」
私は拳銃を握りってマガジンを抜き、そこから弾を三発取り出しすと手の平大のアルミ製小箱の中に入れ、それを部屋の隅にある実験機の中に入れる。
――これを使ってオーラを分析すれば、彼の義体を構成する魔道具全てにそのオーラを付与し、黒化モンスターに対して効率的にダメージを与えられるようになるはず。
とはいえ、分析が完了するまでには時間が掛かる。事実、機械は分析完了までの時間を10時間と算出している。
(……さて、これから何をしよう。既に義体のコア出力の向上や魔力回路の増設、ミシックブレス&バックルのコスパ改善は済ませてある。これ以上の改造は思いつかな――)
その時、白衣のポケットにしまっていた携帯が小さく震え出す。
「え?」
――私の携帯が震えるなんて、あり得ない。だって私の連絡先を持ってるのは、今目の前で眠っているハルと、東京に出て以降疎遠になった私の家族だけだから。
(とはいえ、確認しないと始まらないか)
意を決し、携帯を取りだしてロックを解除する。すると、連絡を寄越してきたのが私の兄である事が判明した。
――もっとあり得ない。兄と話したことなんて、実家に居た頃でも数えられる位しかなかったし。一体何で、私と今更連絡を取ろうだなんて思ったんだ。
通知をタップし、メッセージを開く。そうしてトーク画面に飛ぶと、こんな事が書かれていた。
『突然すまない。今俺も東京に居るんだが、今日か明日会えないか? メッセージじゃ伝えきれない、重要な話があるんだ』
そのメッセージを見て、私は一瞬眉をひそめる。
(……いかにも金を貸して欲しそうなメッセージだけど、兄貴は凄腕のサッカー選手だから金に困るわけがない。本当に重要な話があるんだろう……でもなんで私に?)
――しかし今、彼に会う以外に時間を潰す方法は無い。幸いにもメッセージで示された待ち合わせ場所はそう遠くないし、行くだけ行ってみるとしよう。
私はパパッと書き置きをつくって机の上に置くと、白衣の裾を翻して部屋を出るのだった。
◇ ◇ ◇
私は駅を出てすぐの所にある柱に寄りかかり、兄貴の到着を待っていた。
――さすがにこの人混みでも、白衣姿は目立つか。さっきからチラチラと、いろんな角度から視線を感じる。
そうして待つ事10分。背後から突然懐かしい声が聞こえてきたので振り返ると、白髪の長身男性が近づいてくるのが見えた。
「久しぶりだな、ミツキ!」
「……兄貴」
トレンチコートに身を包み、黒いスラックスに黒スニーカーを
「見ないうちにすっかり成長したな!」
「兄貴程じゃないよ。それで、私にしたい話って何?」
「そんな焦らなくたって良いだろ? 兄妹久々の再会を、もう少し喜んだって良いんじゃないか?」
「再開を喜べるくらい、仲を深めようとしてこなかった兄貴が悪いでしょ」
二人の間に漂う空気は冷え切っていて、最初は太陽のような笑みを浮かべていた兄も、段々と表情が引きつってくる。
「はあ……わかった、本題に入る。ミツキお前、俺と一緒にプロになる気は無いか?」
呆れて物も言えない。肩をすくめ、
「……喘息持ちの私に、サッカーをさせようってワケ?」
「違う違う! 喘息持ちのお前でも出来るスポーツを見つけたんだ! アーチェリーだよ! アーチェリーのプロ選手になって、メダルを取ろうぜ!」
突拍子も無い話に、思わず目を丸くする。
「つい最近、アーチェリー連盟のお偉いさんと仲良くなってな。お前の事を話したら興味を持ったようで、お前を完全招待制のプロ養成教室に入れて貰える事になったんだ!」
――忘れてた。
「どうだ? 悪い話じゃないだろ? ついにお前もメダルを手に入れて、コンプレックスから卒業するときが来たんだ! 今からでも遅くない、アーチェリーのプロを目指そう!」
(……確かに、悪くない話ではある。過去の私が聞けば、ノータイムで首を縦に振っていた)
――ワガママを言うようだけど、7年遅いよ。もう私はこの体にコンプレックスを感じてないし、若き日の私が欲して止まなかった夢もある。そっちに行く理由は無いんだよ。
私は深呼吸をし、それまでやや下に向けていた目線を兄の目に移す。
「ごめん兄貴、その話には乗れない。今更メダルが欲しいとは思わないし、今の仕事は楽しいんだ。だから――」
「仕事って、
刹那、それまで底抜けに明るかった兄の表情が一気に冷たくなった。
「っ……」
――『小間使い』という悪意に溢れた言い草に文句を言うつもりだったが、あまりの威圧感に言葉が出なくなってしまう。
「はあ。だから俺は、ミツキにインターネットを与えるのに反対だったんだ。要らないモノを吸収して、不幸せで不名誉な道を辿ることになってしまうから」
「ちょ、ちょっと! 不名誉って何さ! 私はハルに人生を救われたんだから、彼の世話を出来るのはこの上ない名誉でしょ!」
「あの自己顕示欲の化け物が、挫折を力に変える
「……ハルを、悪く言わないで……!」
勇気を振り絞って兄を
「柳葉ハル。アイツさえいなくなれば、お前は河野の一員として本来あるべき姿に戻れるはずだ。そしてその時は、すぐに訪れるだろう」
「な、何を言って――」
「父上や母上はお前を呼び戻す事に反対していたが……なんだかんだ、戻ってきて欲しいはずだ。俺の行いは正しい……正しい、はずなんだ」
そう呟く兄の目に、光は無かった。
――情緒が不安定だ。おかしい、こんなの兄貴らしくない! まるで、何かに取り憑かれてるようだ。
「また、会いに来る。その時は共に
突然、兄はそう言って私の頭を軽く撫で、それから私に背を向けて駅のホームへと消えていった。
「あ、兄貴……」
久々に会った兄の姿は、途轍もなく奇妙なモノだった。意味深な発言、らしくない態度、そして……背中からあふれ出ている黒いオーラ。
(信じたくない、けど。これはもう間違い無く――)
――私の兄、
TS義体化した底辺配信者はバズりたい ~可憐で最強な少女になったので、ダンジョン配信でバズりまくります~ 熟々アオイ @tukudukuA01
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