新神マイさんじゅうさんさい
――
ダンジョン配信が人気を博してもなおそこになびかない姿勢が評価されており、柔らかい雰囲気の裏に隠された、意思の強さと底なしの向上心が評価されている。
取り扱うコンテンツはゲーム配信、歌枠、雑談枠に月1の旅行動画など様々。その中では歌枠が特に人気で、彼女の歌は大手音楽レーベルと契約を結べる程に上手い事で有名だ。
――配信内で、彼女はこう目標を
冒険者界隈がこの宣言に騒然とする中、マイはこの日、運命の友との再会を果たそうとしていた――
◇ ◇ ◇
マイとの待ち合わせ当日。
――以前にマイと会っていたお陰か、山ほど居る人の中からマイを探さずに済むのは有り
センサーを起動したことでマイが残した足跡が赤く強調されており、俺は一分と経たずにマイの姿を見つける事に成功する。
「居た、けど……」
マイは大きな木のふもとにあるベンチに座り、板チョコを両手で持って食べていた。
服装は以前会った時と同じ白ワンピースの
その小さな体格も相まって、傍から見れば完全に中学生になりたての子供だろう。
――だが事実は違う。アイツの実年齢は33歳で、俺の1個上なのだ。それを切り抜きで知ったときの俺の気持ちは、言わなくてもわかるだろう。
(……まあ、かく言う俺も16歳ぐらい若くなってる。お互い様って事で、年齢の話は出さないことにしよう)
咳払いをし、俺は意を決してマイに近づいていく。すると早い段階でマイも俺の姿を補足し、サングラスを外して駆け寄ってきた。
「おお、生で見ると一層お
「お前こそ、生で見ると一層可愛いじゃねえか」
「えへへ、そうでしょう? よく言われるんです、こんなちんちくりんが配信歴15年のベテランだなんて信じられないって。実際はただ背が伸びなかっただけなんですがね」
「でもこの見た目だと、本当に目立たなさそうだよな。見た感じ変装も最低限っぽいし、楽でいいな」
「おかげで、外出に
――よかった。その言葉を聞いて、少し安心した。
「ちなみに今日は何時まで空いてるんだ? 昨日の配信を見て知ったが、明後日には初めてのソロライブの準備にはいるんだろ?」
「時間が許す限りいつまでも。最近気を張ってばかりだったので、たまにはのんびりしたいのです」
マイはそう言い、ふうとため息をついた。
「じゃあ早速、近くのカフェで少し話すか。そこからの予定は、そこで決めても遅くは無いはずだ」
「はい! 是非そうしましょう!」
満面の笑みを浮かべるマイと手を繋ぎながら、俺達はカフェの近くにあるコーヒー店に向かうのだった。
◇ ◇ ◇
「――って流れで訴訟の大変さを実感してから、アタシはマイフレンズ達を放置気味にし始めたんですよね」
カフェに着いた俺は、こんな感じの活動のえげつない裏話を滝のように浴びせかけられていた。
「ファンの監督責任を問われる事も近年増え始めたんですけど、あの数のマイフレンズを全員まとめて監督するの、普通に考えて無理じゃないですかね?」
「まあ、そうだな」
「でしょう? ……っと、ついアタシの話ばかりになっちゃいましたね。すみません、誰にも言えないホンネを結構な数溜め込んでたもので」
目の前のコーヒーカップを人差し指と中指で持ち上げ、カップの口を付けるマイ。
「……なあ、
「どうぞ?」
「なんで、俺の事をこんなに信頼してくれるんだ? あんまり俺達、出会ってそう時間は経って無いと思うが」
「そうですねえ。アタシも、初めてこの場でその信頼への理屈を言語化にするのですが――」
少し間を置いて、マイは答える。
「信頼を置き始めたのは、マイリスナーに勧められて貴女の配信を見てからですね」
「つまり、同時視聴してからか?」
「いえ、同時視聴をする前に一度プライベートで見ました。最初は配信するときの参考にと思って見てたのですが、次第に貴女の、マイフレンズの上手い扱い方に目が行きまして」
――上手い、か。五年間毎日行っていた『バズりシミュレーション』で、治安悪めのリスナーへの対応を練習しておいて良かった。
「普通の配信者は、マイフレンズらしきリスナーが来たらモデレーターに頼んでBANしちゃうんですよ。彼等を放置してもロクな事にならないんで、それが正解なんですがね」
「でも、それは
「……ほう?」
「アイツらの勢力は凄まじい。身内ノリが通じると分かれば仲間を連れてくるだろうから、アイツらを引き込めば生きた数字が一杯取れる」
マイは口角を上げ、前のめりになってテーブルに両腕を乗せる。
「予想通り、やはり貴女は成果に飢えた人だ。ソレを得るためなら手段を選ばない、アタシと似た考えを持つ人。誰かを信頼する事において、決定的な共通点がある事以上に強い理由は無いでしょう?」
「ああ、言われてみれば確かにその通りだ」
「なので、アタシはこれからも貴女といい関係を築いていきたい。信頼できる貴重な友達として、お互いの痛みを分かち合える存在に」
――ああ、こいつは15年孤独に戦ってきたんだな。あの優しい笑みの裏で、あれだけの痛みを抱えて。
俺はコーヒーを一口飲み、少し微笑む。
「もちろん、俺もそういう存在でありたい。だが俺も、今までの5年間同業者の友達がいない身でな。手探りでも良ければ、いつまでも付き合うぜ」
「私もです。お互い、これからも強く生きて行きましょうね」
そう言って、お互い微笑みあった。
――あの苦しい五年間が、俺に無二の友達をもたらしてくれた。その期間がなければ、彼女の痛みを分かってあげられ、信頼される事もなかっただろう。
努力が無駄にならなかったことに感謝しながら、俺はマイと楽しく会話を続けるのだった。
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