初めての配信者友達が出来た!

「……おお、なるほど……」


 俺は湯船に浸かりながら、スマホでネット掲示板を見ながら呟く。


 ――妙だとは思った。俺は今まで普通のボスゴブリンとも戦ったことがあったが、黒い奴とは比較にならないほど弱かった。


「年齢と疲労のせいで強く思っただけかと思ったが……黒化こっかねえ」


 A級の二段階上となると、俺が相手していた黒化モンスターはS級と言う事になる。まあそんな単純な話では無いと思うが。


 ミツキは俺が目覚めた際に『世界は色々変わった』と言っていたが、この事も含まれていたと見える。


 ――まあ、俺が気にするべき事じゃ無いと思うが。こういう異変は、冒険者協会が調査すべき分野だ。


(それなりにみんな困ってるみたいだし、協会が力を貸せと言ってきたら貸す気ではある。機会があれば、率先して動こう)


 ホーム画面に戻り、動画サイトでダンジョン配信切り抜きを見ようとしたその時――


 ふと通知バーに、SNSへダイレクトメールが届いた旨の通知が届く。


「……ん!?」


 その通知が届くこと自体に、俺は目を丸くして驚く。


 ――俺のアカウントには、相互フォローのアカウントからしかDM出来ない様になっている。そして俺がフォローしているのは、今のところ新神あらがみマイ一人のみだ。


「おいおいおいまさか……!!」


 急いで俺は通知をタップし、メッセージ画面に映る。すると、確かにメッセージは新神マイから送られていた。その内容は……


『お久しぶりです! 貴方の配信、凄く為になりました! 色々相談したいことがあるので、お手すきの際にこのIDにメッセージください!』


 というメッセージと共に、LIMEというメッセージアプリのIDが貼られていた。


「……マジか」


 送信先のアカウントは本物だ。逆に、フォロワー200万人に金バッヂを点けた偽物を作れるなら作ってみて欲しい。


 俺はその場でLIMEアカウントを追加し、簡単な挨拶を送る。するとすぐに通話が掛かってきたので、それに応答した。


『も、もしもし! 素早い対応、ありがとうございますっ』

「そう堅苦しくしなくていいっつの。というより、本来なら俺が敬語を使うべきなんだがな」

『良いんですよ、ダンジョン攻略については私が後輩なんですし。というより、今はその立場に甘えさせてください。誰かの後輩になる事って、今までほぼ無かったので』


 ――そりゃあ、15年も配信者として活動してて、登録者1000万人というデカい数字を持つマイ相手に先輩ぶれる奴なんて居ないだろうしな。俺は畑違いの人間だから普通に接せるが。


『声が反響してる……入浴中でした? 都合が悪いなら掛け直しましょうか?』

「いや良い。入浴の時間は至高の一時だ、むしろ長居できる都合が出来て助かる」

『そ、そうですか? ならこのままで』

「ああ。確か相談があるんだって? 是非聞かせてくれ」

『では遠慮なく。相談したいことは二つありまして、一つは今日の貴女の配信アーカイブを使った同時試聴会をして良いかという事です。まずはこちらの可否について聞いても?』


 ――わざわざ許可を取りに行くとは、しっかりしてるな。伊達に大物配信者はしてないってことか。


「元々お前やお前のリスナーに聞かせるためにした配信だ、断る理由は無えよ」

『ありがとうございます! では二つ目の相談なんですが……明日、三鷹みたか駅周辺で会えませんか?』


 ――え? 会うだって? 別になんの用事だろうと構わないが、懸念点がひとつある……


「マネージャーはなんて言ってる? 流石に得体の知れない無名の配信者と、マネージャー陣に何の連絡もせず会うなんて言わないよな?」

『最初は難色を示しましたが、つい先程OKを頂けました。アーカイブを見て、倫理観は悪くないと判断したんでしょうね』

「……ちなみに、2人きりか? もしそうなら、お前がリスナーに見つからない保証はあるか?」

『ご心配なく。麦わら帽子を被るだけで、大抵の人はアタシの事を見失います。傍から見れば、赤髪の美人と親戚の子供がむつまじく話し合ってるようにしか見えませんよ』


 ――確かに、あいつの見た目は子供そのものだ。まあ本人がそう言ってるし……マイを信じよう。


「わかった、明日会おう。先に言っておくが、俺はお前のどんな話も真摯に聞くつもりだぜ」

『……!』

「俺も同じ配信者だからわかる、配信活動にはストレスと多くの悲しみ、無力感がつきものだ。それを聞いて欲しいんだろ? 聞いてやるさ」


 少しの静寂が訪れる。


『ありがとう……ございます。ああそれと、ダンジョン配信に関する相談にも乗っていただきたく。色んな情報の精査を手伝って欲しいのです』

「それも構わない。俺でよければ力になるぜ」

『重ね重ねありがとうございます。すみません何でもかんでもやってもらって……』

「お礼を言うべきは俺の方だ。お前が俺を話題に出してくれたおかげで、俺の初配信は成功した。その礼は、ちゃんと返さないとな」

『そう、ですかね……? えへへ。ではその言葉に甘えちゃいます。ではこれからアタシは配信があるので、これにて失礼します!』

「おう、頑張ってくれ」


 耳からスマホを離し、通話が切れたことを確認すると時計を確認する。


 ――今は14時20分か。とりあえずもう10分ぐらい浸かったあと風呂を出て、マイフレンズにおすすめされたマイの配信を見よう。


 それから俺は風呂おけの中に携帯を投げて、全身の力を抜いて入浴を楽しむのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る