ガラスの希望

夢摘

プロローグ

 湿気のある冷たい潮風が頬をなでる。曇天に白い鳥が飛んでいる。傘を持ってこなかったから、綺麗に包んでもらった花束が濡れてしまうかもしれない。この日は毎年天気が悪いな。雨の特異日じゃないのか?砂に足を取られそうになりながら心の中で文句を言う。

 強風で耳を彩るピアスが揺れた。もう何年もこのピアスの重さを感じながら生きている。外すことのできない枷のように、縋りたい大切なもののように存在している。

 

 もう二度と戻ることができないなんてあの頃は思いもしなかった。確かにいちばん近い存在だと思っていたのに、実際は何も届かなかった。本当の想いも、痛みも、何も知ることができなかった。言葉や仕草や表情はいくらでも思い出せる。一語一句違わず鮮明に、昨日のことのように覚えている。でも、それをどんな想いで話していたかはわからなかったし、もう知るすべもない。実際は幼さにかまけて、わかろうともしていなかったのかもな。まっすぐに君だけを見ていたかった。

 この世にあるどんな言葉も二人の関係を表すには取るに足らなくて。親友も家族も恋も、そんな言葉では全く足りない。憧れでもなければ親愛でもなく、運命なんてものでもない。

 ただ、ただ、目がくらむほど眩しくて大切なだけ。

 うるさいだけの蝉の声も初めて見た流星群も深緑色のマフラーも、色褪せることなくずっと心の真ん中を掬うのに。

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