<泥臭>ユウシャの獣道
@Ciro22332
第0話 初めに
セト歴10年<暗幕節>
魔神勢力の侵攻により、定命の者たちは住処を追われていった。
地下洞窟から命からがら逃げ延びたもの、大自然によって命を助けられたもの、持ち前の身体能力で命を守り抜いたもの、築き上げたものに命を守られたもの。
皆、集まる地は同じ。太陽王アリのいる地こそが名誉の最後の大砦…。
定命集えば都市となる。我々が
金色に輝く麦畑、緑黄に満ち満ちる果実園、深緑葉が広がる田畑、街の街頭に照らされるは酒場や民家。建物の前には決まって、食卓がある。決して街灯の光が消えることはない、宴は終わらないのだ。それも、これも、前述した彼の王の強大な結界魔法によるものである。
国民たちの心の支えが彼の王の卓越した魔法の才への絶対的信頼であることは論述するまでもない。だが、後の学者会の中には彼の持つ人並み外れた魅力こそが定命の者たちの心の支柱ではないかと述べる者もいる。
しかし、そんな生活も長くは続かない。彼の王の黒髪が白くなっていくにつれ結界の効力も弱まっていき、やがて国民たちの中の不安は増大していく。なおも続く宴は、今になってみれば外界を監視をする者たちが眠らぬようにという願いを込めているからであろう。
詩人 フリル・シナッツ著 【四叉路の行き止まり】より一部抜粋
何も知らぬ者からしてみれば、この光景は楽園の一幕を切り取ったような物にしか映らないかもしれないが、宴にいる誰しもが楽園にいるとは思っていない。
ある種の生き地獄と言うべきだろうか、養鶏場の最後の一匹が思い出にくれながらその時が来るのを待つように。衰弱する希望を横にただ死を待つこの惨劇を後世に伝えねば」。・・・{第1幕}
心の支えであるはずの存在が、そうでなくなることは定命の者たちにとって大きなダメージとなった。精神的に追い込まれ、余裕や平静を失ってもなお宴は続いていく。だが、誰しもが心の声を出すことはしない、共感を求めず、行動にも表さない。
皆が感じてることは同じであり、言うまでもないからだ。
もし、時代が違えば心の支えは彼の王から他の強大な存在に代わりそうなものだが、代わらないことには訳があった。
終幕を告げしセト誕生50年前<命乱節>
位界の序列は覆すことのできない、それ即ち絶対的な強さの指標であった。
世界が位界によって分けられた時から
純粋な力比べや魔法を扱うにおいての才覚といった戦闘力であれば果てしない時間の中では些細な差と言える。
最も大きな差を生み出したのは、一つとなろうとする団結力であろう。
言ってしまえば、序列の差は統率者の存在一つで大きく変わると言うことだ。
その序列の差を覆した要因となったものが二柱。
魔神王ギダールとヤヌスの参戦により、
圧倒的な統率力を持つギダールと恐るべき先見の明の持ち主を持つヤヌスによって、瞬く間に魔神は集った。何かに引き寄せられるように。
しかし、本来であれば絶対的である天神が敗れたのは二柱の戦闘力によるものでは無いのは後の学者会の研究により明白であった。
万策持ちし神の策を持ってしても、その快進撃を止める事は出来なかった。
神々の全知をもって結集されたあらゆる包囲網や防衛網でさえも抑えられぬ侵攻は何をもって止められようか。
位界間戦争は定命の者たちの世界である
生めし神は憂いた。
単に一つ。もしも、あの可愛げな者たちと私たちが少しの時を過ごすためなら、きっとこの壁を壊すことは容易であろう。
万に一つ。それにより、均衡が壊れるのならそれでも良いのではないか、私たちが守ってやるのは容易であろう。
妙に一つ。しかし、私たちが行ってしまえば、今見てる後景と同じ世界とはかけ離れたものとなることは考えるに容易であろう。
喜に一つ。ならば、私たちもともに歩もう、汝らとともに
ここに一つ、何かが欠けておる
祝福はもたらされた。
アーディの矢、侵入10日前…
多くの人が集う酒場には、静寂は来ない。陽気と愉快が踊り話す場所の定番はここ以外にはないといえるような空気の中に、詩人は今宵も歌う。
今日こそ、シーナさんにこの詩を読んであげなければな!ガハハハッ!
詩人 フリル・シナッツ著 【第三都市の春が告げて】より
第三都市に揺れる、木々が僕に知らせるんだ。秋がもうじき来ると。
第三都市に揺れる、木々が僕に知らせるんだ。葉が落ちると
第三都市に揺れる、木々が僕に知らせるんだ。葉が落ちてもここにいると
多くを知っている彼らでも、君の心は知らない。
君は第四都市の太陽だから、君が第四都市に夏をくれるから。
まだ、春を知らない僕と君がやがて秋を迎えれば。
第四都市に二つ目の太陽が産まれるはづ。・・・{第六十二の詩}
僕はなんて罪な男なんだ。都市長に向けた詩、都市長の娘に向けた詩も、都市長の娘の母に向けた詩も、都市長の娘の母の夫に向けた…?、それは都市長か!
「おーい、フリル。一人事は家で済ませておけとあれほどいったろ。」
シンボ!、今日はシーナさんが2日と7時間、23分の15秒ぶりに来る日だぞ!
僕のロマンスを壊さないでくれ!
「おいおいフリル。まだ、あきらめてないのか?」
おいおい、冗談はよせよ?、詩人フリル・シナッツは常にひまわりなのだよ、この先はみなまで言わずともわかるな?
「よく言ったわ!、フリル。あんたも見習ったらどう?」
「おらぁなどうも外界を見通せても女は真っ暗だ」
俺が照らしてやるから、そのうちに見通せばいいじゃんないか?
「シンボ、フリルの詩を一つくれ!真ん中のやつな、埃を被ったのはごめんだ。」
高くつくけどサインはいるかい?
「お前は面白いことをいうやつだな、ハッ」
リド!、どうしてそんな顔してるんだい?
これをやるよ、ベィステイオ製薬トップグレードSTIMULαだぜ。
「よく、手に入れれたな?トップグレードなんか」
つてだよ、つーて、詩人フリル・シナッツは有名人なんだよ!
「あ、ありがとうございます。」
きらせたなら早いうちに買えよ?
どうしてもって時は草原の小屋に行って、ティケってやつに会いに行ってくれ
「フリル!シーナ嬢ちゃんがご登場だぜ」
「シーナちゃん、入って入って」
「こらっ、デバラ急に大声出さないでよ。シーナちゃんが驚いたでしょ」
「シーナちゃん、ケイト、シルク、レーヨンなら奥の角席だよ」
「シーナちゃんが通るぜ、野郎ども道を開けろ!」
「デバラってば、これだからドワーフは!」
「シンボ、このやかましい女になんか言ってくれ」
「やかましいのはお前さんだ、ドワーフの評判を下げないでくれ。
後から大変になるぞ」
「それは、すまんな友よ」
「分かればいいんだ」
「シンボ、こっちに酒くれ酒…。5つか1つくらい」
「あいよ、テネシー12番だ」
「シーナ、こっちこっち!」
「シーナが三つ編みにしてる!かわいい」
「エルフの三つ編みってやっぱり華があるね」
「いいな」
「お母さんが久しぶりの外出で張り切っちゃって…」
「てか、その服可愛い」
「それなー」
こら、小娘どもが!太陽に軽々しく触るんじゃありません!
「もー、フリルったら!独り占めはずるいじゃない」
「そーだそーだ」
寄ってたかって、なんだよ
「はっはっ」
「フリルさん、その…。私の家に来ない」
宮廷詩人への、仕事依頼は昨日で閉めたぜ?
「お父さんが…」
なっ、それはどういう意味だい?
「フリル、シーナこっちだ」
ありがとうデバラ。
行こう、シーナ。
「一緒に頑張る仲だろう、いいってことよ。シーナちゃん、これをお父さんに渡してくれ。あと、よろしく言ってくれよ」
「わかりました」
「待ってくれ、これも渡してちょうだい。シンボからだ、フリル無茶はするなよ。」
わかってるよ。また、あとでな
「ああ、」
「あれ、デバラ?フリルとシーナちゃんは?」
「あの件だ…」
「そう、こっからが正念場ね」
「そうだな。」
シーナ、弟はどうだ?昨日で10歳になっただろ。
「何も変わってないよ。相変わらず大人びてる…、特に最近なんか部屋にこもりっぱなし。」
セトは賢い子だ、君のようにね。感じることがあるんだろう。
「フリルさんは何で、詩を未来に残そうとするの?未来に読者なんていないのに」
シーナちゃん、それは違うよ。
未来の読者は確かにいないかもね。だって、まだ今にいるんだから。
「そんなことばっかり、言って!」
「お父さんが私に尋ねたの、「私の役割は繋ぐことだ。その役割はもうじき果たされる。しかし、君たちのお父さんとしての私は何かを果たせたのだろうか。」私、それで何も言えなくて・・・。太陽王なんかどうでもいいの、みんなの太陽王として弱っていくくらいなら、こんな檻なんか壊れればいいんだよ…」
シーナ、君のお父さんはいつだって強い人だ。でも昔は君に似て泣き虫だった。
※太陽王の結界:学者会の研究により、彼の王の結界はあの時代のどの結界魔法とも形態とはそぐわない異質な魔法と判明。当時の結界魔法は攻撃を打ち消す固い結界こそが崇高とされていた、打ち消すことこができる者こそが絶対的強者であり、そういった結界魔法を生み出し、発動できる者こそが崇高なる魔法使いとされていた。だが太陽王の結界の究極目的は魔法陣の中の対象を覆い隠し、認識させいないようにすることである…。
※詩人 フリル・シナッツ:当時を生きた定命の者の一人。希望を抱くことに一切の美徳を感じえない時代を記録した本を多く残したエルフの詩人。彼の詩には悲惨な時代とその中で懸命に生きる者たちの姿が記されている。片手にハープを持って愉快に詩を書き続ける。他ならぬ未来の読者に向けて。
※位界 :定命の者たちを神々から守るために作られた世界を分かつ均衡が生み出した壁。隔てられた豊な土地が第一位界、隔てられた荒涼とした土地が第三位界。その間にあるのが第二位界とされる。
※アーディの矢:
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