31 お嬢様方は綺麗なものがお好き


 今日は、久しぶりにシャルとオルタンスに会う日だ。

 テーブルの上には、宝石みたいなキラキラしたフルーツがたくさんのったタルトに、柔らかい香りの紅茶。生憎の雨も気にならないほどの、キラキラしたお茶会という名の近況報告会だ。

 前回から少し期間が空いてしまったのは、私が式典の準備などで忙しくしているだろうと二人が気を遣ってくれたからみたい。まぁその間に私は観劇に足繁く通ったり、ベッドの上で頭を抱えていたわけだけど。


 そうしていた間も、二人は社交界や夜会で花を添えてきたわけで。私が出不精且つ、内弁慶なのが原因であるのは間違いないとして、正直社交に精を出す理由が見出せない私としてはそんなに頻繁に顔を合わせて何をするの? という感じである。

 もちろん参加している人を否定はしないし、やる意味や理由はわかっているわよ? 顔つなぎだったり情報交換だったり。人によっては進めている事業の会議を突発的に行ったりもするらしいし。

 でも高々未婚の貴族令嬢の社交なんて噂話しかしていないし、そのほとんどがあまりいい噂ではなかったりして参加しても疲れるだけなのよ。だから、頻繁に顔を出している二人を否定はしないけど、私自身は好んで参加はしない。

 幸い、と言っていいのかわからないけど、去年一年間はエリックが旅に出ていたから「婚約者がいない状況で、一人で参加するのは」とほとんどの夜会を不参加で済ませられたのは有り難かった。ダメだわ。人間、一度楽を覚えると戻れなくなる。


「そういえば、式典のドレスは仕上がりましたの?」


 最近の貴族間の話題といえば専ら式典の話らしい。あまり社交会やサロンでの顔合わせに参加しないので詳しくはないのだが、エリックたちの功績は貴族間でも有名らしく、もちろんエリックの大幅な肉体改造についてもよく話に上がるのだとか。

 その中でも、シャルとオルタンスが興味を惹かれるのは私が着ていくドレスの様だけど。


「試着は済んでいますわ。あとは細かい手直しですわね」

「やっぱり今回もドレスの色は青色?」

「それは……まぁ、そうですわ」

「きゃあやっぱり!」


 そんなに喜ぶこと? それこそキャッキャッと黄色い声を上げている二人に何とも居心地の悪い恥ずかしさを感じる。

 シャルとオルタンスには、ドレスの色の意味は伝わっているのよね? 以前この色を勧めてくれたデザイナーは、パートナーの瞳の色をドレスにあしらうのはよくあることだって言っていた。

 ドレスのデザイン自体もフリルが多めでちょっとふわふわし過ぎな気がする。その分並んだ時に、がっしりとしたシルエットのエリックの雰囲気が柔らかくなるのでいいんだけど。結局色以外はほとんどお任せしたし、可笑しいわけではない。はず。


 式典で着るドレスについて語る二人に気圧されてドレスのデザインを話す。

 今回はエリックが主賓であるため、婚約者である私のドレスにもかなりの予算がかけられている。コルセットとパニエが苦しいし重いけど、それ以外に不満はないわ。ちょっと可愛すぎないかしら?

 改めて、こういう話をしている時、二人は貴族令嬢らしいなと思う。綺麗なものへの憧れや、婚約者の話。綺麗なものはともかく、婚約者への思いを惜しげもなく話すのは、恥ずかしくない? お父様とお母様といい、どうしてそんなに軽々しく口にできるの?


 ドレスはもちろんのこと、式典自体も楽しみにしていると言う二人に、曖昧に返す。

 もちろん二人も式典には参列するが、主賓のパートナーとして参列する私とは、式典中に顔を合わすことはあっても話をする機会は限りなく低いのよね。

 王様から魔王の討伐を労われる式。という名目ではあるけれど、魔王の討伐に出資した人たちへのお礼の挨拶周りの会でもあるわけだし。

 大変なのは想像に難くない。何が気が重いって、去年一年間楽をした分、今後エリックと結婚したらこのレベルとはいかずとも、それなりの格式の式典や夜会に何度も参加して、その度に挨拶周りをしないといけないのよね……。上手くできるかしら?


 ただでさえ、友人関係だってわかっているクルミさん相手にやきもきしているのよ? 伯爵家やお仕事で出会った女性たちに嫉妬しないとは言い切れない。その度に一人でもやもやして気分が沈んだりイライラしたりして、今以上に苦しいに決まっている。

 家族、ひいては夫婦になれば、もっと女主人としてもっとしっかりしなければとは思う。でもこのまま結婚するにはまだ不安がある。エリックのことは好きだけど、それだけですまないこともあるのね。


「あら、ごめんなさい。私たちだけで盛り上がりすぎちゃったかしら?」

「大丈夫よ。ただ、上手くできるかが心配で」

「そんなことを心配していたの? マリーは真面目ね」

「心配せずとも、きっと素敵な式になるわ」


 くすくすと笑いながらも慰めてくれる二人に笑顔でお礼を言いながら、机の上で大人しくしていたフルーツタルトに手を伸ばす。

 そうよね。きっと上手くいく。根拠なんかなくても、そういう言葉が欲しかったのかもしれない。何にも解決なんてしていないのだけど、どういうわけか心が軽くなった気がする。

 一口サイズにフォークで切り分けたタルトは、酸味の利いたベリーと濃厚なカスタードが合わさって、なんだか不思議な心地だった。




****

女子会のターン!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る