12 そうしたらきっと
朝だわ。
メイドに起こされてぼんやりした頭で起き上がる。ものすごく清々しくない朝ね。なんだか色々考えちゃって、あんまり寝れなかった。
のそのそとメイドの手を借りて朝の身支度を始める。
昨日はエリックと出かけた。そう、デート自体は楽しかった。楽しかったのよ。でも、あの方に会ってしまった。
エリックと同じく教会に信託を受けて聖女となった女性、クルミさんに。
聞くところによると。聖女とは、教会により選ばれた清廉な乙女に与えられる役職らしい。
クルミさんは異世界? から来たと仰っていた。帰る家がないというのは、いくら教会の後ろ盾があったとはいえ苦労も多かったでしょう。ただでさえ聖女としての招集も急だったと聞くし、その上平穏に暮らすではなく、魔王を倒す旅に同行させられて。
エリックはクルミさんの教会から賜った、聖なる力を扱うための杖を早々に鈍器として扱うなどの思い切りの良さを褒め称えていたけど、不安もあっただろうし。……あれって、本当に褒めていたのよね?
とにかく。クルミさんは立派な方だと思う。
その、ちょっとエリックとの距離が近い気はしたけど。
その辺りは、一年間一緒に旅をした積み重ねとか、一緒にトレーニングをしてきた結果なのだと思う。それがあったからエリックは大変な旅の中でも楽しかったと言える心の強さを手に入れたのだろうし、無事に帰ってきてくれた。
それに感謝こそすれ、何もしていない私が何かを得る立場にはない。はず。
エリックは旅を終えた後もトレーニングメニューを相談するために時々、クルミさんがいる教会に足を運んでいたらしい。昨日私たちを囲んだ子供たちとは、その時知り合ったのだとか。
真面目なエリックのことなので無用な心配だとはわかりつつも、一年間一緒に旅をすればあれほどまでに、お互いを理解し合えるものなのかしら?
確かに私よりもずっとしっかりとしたお嬢さんだし、エリックの趣味にだって彼女の方が、理解度が高い。……あれ? もしかしてクルミさんの方がエリックと気が合う?
「あら? マリー、なんだか顔色が優れないみたいだけど、大丈夫?」
「え、ええ! 大丈夫ですわ。お母様、お父様。おはようございます」
「はい、おはよう。ママ、あまり聞いてあげてはいけないよ。ほら、昨日はエリック君とデートだったから」
「まぁ! そうだったわ。ごめんなさいね、私ったら。きっとはしゃぎ過ぎて疲れが出たのね」
違う。二人が想像しているのとは全然違う。
食堂に来て朝食をと思ったのに、朝からすごく疲れてきた。
どうしてうちの両親はこんなにテンションが高いのかしら。今日も二人でべったりだし。仲が良くていつも機嫌がいいのは良いことだとは思うわ。その、まぁ。少し、羨ましくもあるの。ほんの少しだけよ?
「お二人は、仲がよろしいですわよね」
「まぁ! パパとママがずっと仲良しだなんて! ママ照れちゃう!」
こういうところがしんどいのよねぇ。
感性が私とは全く別なのでどう反応したらいいのかわからない。
「どうしたら、お二人の様に、その、仲良くし続けられるのでしょうか」
「あらあら、とっても素敵な悩みね。大丈夫よ、マリー。その不安は皆持っているもので、あなた一人が悩んでいるわけではないわ。大事なのは相手を思いやる気持ちよ」
「相手を、思いやる」
「あぁ。私たちも今でこそ家族としても、夫婦としてもお互いのことが大好きだが、初めから仲がいいわけではなかった」
それはさすがに嘘じゃない? 仲が良くない二人なんて想像できないわ。
曰く、二人も元々親が決めた婚約者同士だった。でも、家族になるためにお互いに努力をした。努力、努力かぁ。私に出来るかしら? そも、努力の仕方を教えてもらっていないのに、何をどうしろと?
「結婚したからと言って本当の意味で家族になれるわけではない。大事なのはお互いをよく知り受け入れることさ」
「えぇ。そうすればきっと、素敵な家族になれるわ。マリー、私たちはいつもあなたの幸せを願っています」
「ありがとうございます。お父様、お母様」
こういうところがあるから嫌いになれないのよね。感性は合わないけど、大切にしてもらっているのだけはしっかり肌で感じる。何なら必要以上に甘やかしてもらっていることも。
……話、聞けて良かったわね。いずれ、私とエリックも結婚して夫婦になる。そう、自覚したら少し不安になってしまったけど、お父様とお母様の言う通りお互いを知れば、きっと。
エリックを改めて知るということは、私よりもずっと今のエリックについて詳しいクルミさんについても知っていくことになるのでしょうね。
明るくて、しっかり者で旅の苦楽を共にした相手。エリックが信頼している女性だって考えると、クルミさんについて知るのは、今から自信を無くしそうだけど、いずれ結婚するのだし。まだ夫婦になる相手としてエリックを見るのは気恥ずかしいけど、家族になるのだから。
きちんと彼にも、彼の大切な仲間であるクルミさんにも、向き合っていかないと。
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