腕。
NNN.
第1話
昼下がり。
実家でいつものように過ごしていると、
チャイムも鳴らさず、
勢いよく玄関扉を開けて入り込んできた
制服姿の友人と鉢合わせた。
驚きでスマホ片手に固まっている俺に、
友人が抑揚の無い声で言った。
「なあ、あそびにいこうや」
… いや、遊びにってお前、
「急やな、俺まだスウェットなんやけど」
「じゅんびして。まっとるから」
… ええ。んな勝手な。
しかし、期待で目を剥くほど大きくしている
友人を見て断れそうになかった。
「ほな待っといて。着替えてくる。」
約束してたっけ?
髪を掻きながら、俺は玄関とは反対側の2階へ続く階段をあがる。その途中で
スマホのロック画面の表示を見た。
81月02日(回) - 04:90 -
何や、もうこんな時間やったんか。
約束 。……してたな。そうや、してたわ。
約束してたのに、えらい待たせてしもた。
急がな。
俺は小走りに長めの階段を上がって、
自室のドアノブを回し、手前に引いた。
扉の隙間から見えるのは奥行きが分からない程、黒で塗り潰された部屋だった。そこから
いきなり音もなく白い手がぬぅっと現れ、
俺の右手首を掴んだ。
「は!? え、うわああっ!」
女の手のようだか俺の力でもほどけない。
やや長い爪が服の上から肉に食い込む。
袖が捲れて、肌が触れた。
冷えた珪藻土のような感触から
相手が人ではない事だけが分かる。
中に、引っ張られ、る。
「なんやねん!… クソッ!」
俺は腕を掴み返して壁に足をつけて、
体重を乗せて仰け反り、引っ張り返す。
すると、手首より先がズルリと伸びた。
「キッショ!」
相変わらず手は俺の手首を掴んだままだが、
腕は引けば引く程伸び続ける。
「このまま…、引きずり出したらぁ!」
トイレットペーパーのようにどんどん手繰る。
後ろでホースのような腕が雑にとぐろを巻いている。
程なくして、やっと肘の部分が見えた。
「はぁ、はぁ、観念しろや!」
今まで以上に俺は力を込めて引っ張った。
するとクンッと何かの手応えを感じた時、
今度は勢いよく腕が部屋に巻きあげられていく。
旧式の掃除機のコードのようだ。
その勢いで、掴んでいた手も
最後には離れて暗闇に消えた。
バンッ!
訳が分からず、呆気に取られていたが、
我に返った俺はとりあえず部屋の扉を閉めた。
掴まれた部分をそっと見ると、
青い痣になっていた。
もう一度、開ける勇気は …無い。
息を整え、階段を下りる。
玄関で壁にもたれ、
退屈そうにしている友人と目が合った。
「じゅんびできた?はよいこうや」
俺は眉をひそめながら答える。
「俺、この格好のまま行ってもええ?」
友人は嬉しそうに首を縦にグルンと振った。
腕。 NNN. @_66
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