文学的ラップのすゝめ
小川一二三
本編
――二〇五〇年、四月一日。
春休み明けだというのに一日学校に行っては二日休みという面倒くさい金曜日。しかしそんな日に私、太宰花奈(だざいはな)に春が訪れた。
風情のかけらもない高層ビルたちを窓から眺めていただけの日々に淡い色の風が吹いた。
「名は――芥川来夢(あくたがわらいむ)。朝寝髪で失礼します」
黒板に白い字で書いた名に彼女はルビをふった。
私は彼女を見た瞬間、引き込まれるのを感じた。それは言葉ではとても表せない、本能のようなものだった。
しかしそんな私とは裏腹に私が所属する二年A組の面々は一様にざわつき始めた。
その内容はどれも彼女の話し方に関するものであった。
「あー、じゃあ芥川さんは……あそこの窓際の隣の席ね」
担任の東野先生が私の席の隣を指す。
彼女は席を確認し、トボトボと歩いてくる。
分厚いレンズの奥から覗く茶色の瞳は前は見ず、自分の足元を見ながら歩いてくる。ちなみに胸はそこそこある。自分の胸と比較し勝手に敗北感に駆られた。虚しい。
途中他の人の机の角に腰をぶつける彼女は私に一瞥して席に座る。
肩にかけた通学鞄から三冊の文庫本を取り出し机の中にしまう。それ以外のものは持ってきていないらしい。
瓶底メガネに対しての偏見が一つ解けた瞬間だった。
「それでは今日の学校はここまで。気ぃ付けて帰れよ」
二年生初日はあっけなく終わりを迎えた。しかし私の隣の席には人だかりができていた。
「どこから来たの?」 「どうして転校してきたの?」そんな質問が彼女に投げかけられる。
しかし、すこしすると彼女に周りから人が離れていった。
皆一様に彼女を不思議がっていた。
やがて教室には本に耽る彼女とその彼女をボゥっと見つめる私の二人だけになった。
時刻は十二時前。太陽は真上に座し、正午の知らせを私に伝えていた。
沈黙が重い。と思っているのは私の方だけだろう。
「あ、私帰るね……」
話しかけたかったのはやまやまだがこの空気が私にそれを許さなかった。
私は一言そう言って教室を後にした。
――四月四日。
いまだ休み気分が抜けない学生たちはあくびを掴みながら教室に入ってくる。
いつもより新鮮な匂いが鼻の奥に入ってくる。
私の隣に座る彼女は相変わらず本に耽っている。花柄の可愛らしいブックカバーのせいで何を読んでいるかはわからない。しかし時折吹き出しそうになっているのが可愛らしい。
いつの間にか時間は進み、HRが始まる。
私は先生の話を聞くよりも彼女に釘付けだった。頬杖をつきながらつまらなさそうに黒板を眺める彼女は凛としたオーラを纏っている。
先生の話も早々に終わり私は一限の準備をした。
チャイムが鳴り一限の授業が始まる。二年生最初の授業だからか軽い自己紹介の時間にあてられ本格的な授業をすることはなかった。それは他の授業も同じで昼休みまで机の上に出した教科書が開かれることはなかった。
「ねぇ、あーしと一緒にご飯食べない?」
私が机の上に弁当を置くと同時にクラスメイトから声をかけられる。
金髪に派手なメイク、スカートは見えるギリギリまで折られている。彼女は橘折香(たちばなおりか)。今日の自己紹介でも一際目立っていたので印象が強い。
第一印象はいわゆるギャルだ。
今の時代めずらしい黒ギャルの彼女は一年の頃から常に皆の注目の的だ。
そんな彼女がなぜ私に?
「ね、いいでしょ? 太宰さん」
彼女はそう言うと私の机に弁当箱を置いた。
ふと隣の席に目をやると芥川来夢はそこにはいなかった。
「いいよ」
私は短く答え、彼女と共に昼を過ごした。
放課後、私は少し教室に残る。
特にやることもないので窓から外を眺める。風情の欠片もないビル群の景色だが赤い夕陽が教室内に差し込んでくるのは風情を感じられた。隣から時折聞こえてくる笑い声をBGMに私はフッと瞼を閉じる。
次の瞬間、私はあわてて瞼を開いた。
外はすっかり暗くなっており、教室内もだいぶ影を落としていた。
隣にはもう誰もいない。
私は肩を落とし、机の横にひっかけてあるカバンに手を伸ばす。
そこで私は気づいた。私の前の席で私をじっと見つめる目に。
「起きたんだ」
「芥川さん……?」
私が彼女の名前を呼ぶと、彼女は本をパタンと閉じた。その音が教室内を反響し外に漏れていく。
「先生に鍵渡されたから、待ってた。こんな闇の中独りは寂しいでしょう?」
そう言うと彼女は私の手を握る。
彼女と共に教室を飛び出し、非常灯が灯る廊下を駆ける。それはさながら青春漫画のワンシーンだった。
校舎から出るとビル群の光が私達を照らす。
幼い頃はこの光が好きだったが、この光が灯っているということは残業をして働いている人がいる証だと知ってからはなんだか重く見える。
「都会は眩しいですね。星が見えません」
「そう、かな。私はこれが普通だからあまりわかんないや」
ついさっきまでほとんど話したことがなかったのに、彼女との会話は意外なほど弾んだ。
好きな食べ物やどんな動画を見るか等たわいもない話だったがそれでも楽しかったし近しいものを感じた。
しかし、一つそりの合わない話題があった。
――音楽の話題だ。
西暦二〇三〇年の日本ではラップミュージックが流行りに流行っていた。かくいう私もその魅力にとりつかれた一人だ。
だが、彼女はまったくラップを聴かないらしい。それどころか音楽すらまともに聴かないという。
音楽は雑音とまで言う彼女に私はラップミュージックを一曲聞かせようとした。理由は少し腹が立ったから。
「別にいい。興味ない」
「一回でいいから! 絶対気に入るから!」
「蝉の声を自ら聴く人なんていない」
「鈴虫だと思ってさぁ!」
「むしはむし」
「……上手いこと言ったとか思ってる?」
「その口にチャックはついていないんですか?」
そんな会話をしながら私達は電車に乗り込んでいった。
方向が同じなようで同じ車両に乗り込む。
「――なんでわたしと話してくれたの?」
時間帯的に空いていた車内の椅子に座るなり、彼女は私に訊いてきた。その表情はどこか怯えているようで。
「なんでって、そんなの決まっているじゃない。」
「――あなたとラップがしたいからよ」
電車内で告白まがいのことをしてから四日。
あれから彼女は私に話しかけてこない。話しかけようとするとそそくさと逃げていってしまう。
「――ねぇってば、花奈っち、ねーえー」
「あ、ごめん、ボーっとしてた」
昼休み、誰も座っていない隣の席をボゥっと眺めている私の肩を折香が叩いてくる。
「お昼食べよー」
折香はそう言って私の机の上で弁当を広げ始めた。
新学期が始まって一週間。クラス内ではおぼろげながらもグループができ始めていた。
なぜ折香のようなキラキラした子が私のような人間を構うのかだけは理解できないがそれ以外のグループは大方似た者同士といった印象だった。
芥川はというと、どこのグループにも所属せず、ずっと一人であった。体育の授業では先生とコンビを組んでいた印象だ。
「花奈っちさぁ、最近上の空じゃねぇ? なんかあったん?」
「ん? いや、そうかな……?」
「うん。隣の芥川さんがいなくなるといっつも悲しそうな目してるよ」
そんなに顔に出ていただろうか。それとも折香の観察眼が鋭いのか。
「花奈っちさ、あの子と友達になりたいんでしょ」
「えっ?」
「あーしにはわかるよ。あーしだってあの子と友達になりたいもん」
「折香も?」
「あの子さ、話し方面白いじゃんね!」
折香は箸を咥えながらそう言った。
私は折香に行儀が悪いとたしなめ、弁当を食べすすめた。
それから折香と彼氏がどうとか来る中間テストが不安だとか、そんな話をして昼休みは終わった。
その間、隣の席が埋まることはなかった。
――放課後、彼女は久しぶりに本を読んでいた。
相変わらずブックカバーをかけていて何を読んでいるかわからないが時折小さく吹き出しているからきっと面白い作品なのだろう。
一時間が経った。彼女は本にしおりを挟み、パタンと閉じた。良い作品だったのだろう、彼女は数分読了感に浸る。
そして校則基準の丈のスカートをパンと払いその場に立つ。
私はそのタイミングを見計らい、彼女の腕を掴んだ。
ひんやりしたその腕は私に気づくと少し強張る。
「……なに?」
「この前言ったこと、覚えてる?」
「……さぁ?」
一瞬の沈黙の後、彼女は短くそう言ってそっぽを向いた。
しかしその言葉とは裏腹に、彼女の体温はじんわりと上がる。
「やろうよ、一緒に」
「わたし、虫は苦手なの」
「また蝉の話?」
「なんでわたしなの?」
風向きが変わった。さっきまで否定、否定、の彼女が興味を持った。このチャンスをものにしてやる。
「あなたの話し方に惹かれたの。ラップにはポエトリーリーディングというものがあるわ。小説を朗読するようにリリックを紡ぐラップの仕方よ」
「わたしの話し方が……」
「そう、あなたの力が必要なの。私の夢に!」
「夢? 太陽でも夢は見るんだね」
「見るよ。両親を見返すって夢。それに――」
私は彼女の腕をグッと握る。
「太陽はあなたよ。――芥川来夢」
――この日、私は二度目の告白をした。
夕日が差す教室の中で、陽は彼女を照らしていた。
休みが明けて月曜日の放課後。私はとある空き教室に来ていた。時刻は午後三時半前。何年も使われていないのか埃臭い。
「まだかな」
なんだか不安になって私は無意識にそう呟いた。
今日の三時半、芥川来夢とこの教室で待ち合わせをしている。あの日の答えを聞くために。
いてもたってもいられなくて私は掃除ロッカーから箒とちり取りを取り出す。
雑念を取っ払うには掃除が一番だ。
私はカバンからヘッドホンを取り出しスマホに無線接続をする。自動的に音楽が再生され、それを装着する。
次の瞬間、鼓膜を震わせるのは私の好きなアーティストの曲だ。
――ひとしきり掃除も終わり、空き教室内は塵一つないほどきれいになった。
ヘッドホンから流れる音楽もプレイリストの最後の曲が終わった。
ふと時計を見ると五時を回っていた。
私は丹念込めて綺麗にした椅子に腰かけふぅと息を吐く。
――来ない。
その事実が私の周囲の重力を重くする。
自然と姿勢も悪くなってしまう。
その瞬間。
――ガラガラッ
「遅くなった、ごめん」
教室の戸が音を立てて開き、外と中を繋ぐ。
校則基準のスカート、化粧っ気のない顔。文庫本しか入っていない薄っぺらいカバンを肩にかけた来夢がそこに立っていた。
「来てくれたんだ……」
「物語が時間を奪ってきた……」
来夢は申し訳なさそうに言う。
「でも、来てくれた」
私は椅子から立ち上がり、彼女に手を差し伸べた。
「私とラップやろう、来夢!」
彼女は一瞬ハッとして、私の手を優しく握った。
サラッとした触り心地の手のひらを握り返す。来夢も私の目を見て握り返してくる。
「よろしく、わたしの太陽」
――この日、私と来夢はコンビを組んだ。世間に、世界に挑戦するために。
――太陽と言われた。
その日は何でもない日で、なんでもない風が吹いて、わたしが読んでいた本の頁をペラペラと捲ってきた。
ついつい物語に入り込んでしまって、気がついたら約束した時間を大分過ぎてしまっていた。
どうせもういないだろう。
そんなことを思いながらも一応足を運んだ。
階段を一段、また一段のぼる。徐々に足が重くなっていく。しかし後ろを振り返れば怪物が大きな口を開けている。前を向けば案内板が私の脚を急かしてくる。
はぁ、と息を吐きまた一段のぼった。
五階までたどり着いたはいいもののそこから廊下を進み、渡り廊下を渡ってさらに廊下を歩き二階降りなければならない。
学校というのはどうしてこう不便なのだ。
転校してから友達はできなかった。
転校する前も友達はできなかった。
けれど気にも留めなかった。なぜならわたしには無数の物語がついているから。
物語はいつもわたしを夢の中へ連れて行ってくれる。夢を見させてくれる人間なんていないし、友達なんていなくてもかまわない。
そう思っていた。
芥川来夢は変な奴。これがたいていの人間がわたしにつけるレッテル。
でも彼女はそうじゃなかった。
わたしに興味があるようだった。
ラップをやろうと言ってきた。
音楽なんて雑音と一緒で、興味なんてなかったのにわたしはその日の夜、デフォルトから一切いじっていないスマホで音楽を聴いた。
曲名も、アーティスト名もわからないその曲は私の中のなにかを少しだけ変えた。
聞き心地の良い言葉の紡ぎ方がわたしの脳内にこびりつく。
それが気になって気になって、かき消そうとして物語に入り浸った。
そうしたら約束の時間をすっぽかしてしまった。
なるべく急ごうと早歩きで約束した場所へ向かう。
その間、なにも浸かるものがないからか頭の中であの日聴いた曲がループする。
ほかに何も聴いていないから関連結果が出ない。
と、いつの間にか目的地が目の前にまで迫っていた。戸の前でピタッと止まり深呼吸をする。
雑巾がけをしたばかりのような窓越しにみえる中には椅子に腰掛ける彼女が見えた。
――ガラガラッ
「ごめん、遅くなった」
わたしは戸を開け、言った。
待ってると思わなかったから声が上擦っていたかもしれない。
彼女はわたしを見るなり顔をほころばせる。
茜色の背景が霞むほど、彼女は綺麗に見えた。
その瞬間、頭の中で鳴っていた音は消え去り、わたしの中にある決意のようなものが生まれた。
「来てくれたんだ……」
彼女は安心した声音で言う。
――あぁ、これは逆らえないな。
その日、なんでもない日、しかし同時に、煌めく太陽を見つけた日。
「ここを使ってもいい……?」
私が来夢とコンビを組んで二週間。担任の東野先生に先の空き教室に連れてこられた。
どうやら私が掃除したことが評価されて使用許可を取ってくれたらしい。
「でもなんで?」
「あたし知ってるのよ。あんたと芥川が放課後ここでラップの練習してるの」
「え、誰にも見られてないと思ってたのに」
先生は椅子をガラッと引いて座る。
ここ、私立女傑学園にて生徒からの人気のトップ5に入る東野先生は座る姿もなかなかどうして、様になる。
短く切った黒髪、端正な顔立ち、しかし出るところはしっかり出ている。生徒に優しく、時に厳しいその姿勢は多くの生徒のハートを射抜いてきたことだろう。
「それにあたし好きなんだよ、ラップ」
美人のボーイッシュは様になる。そんなものは二千年前から決まっているのだ。
先生はニカッと笑う。
と、教室の戸が音を立てて開く。
「あれ、先生……?」
「お、芥川! お邪魔してるよ」
「なんで……?」
来夢はあからさまな反応を示す。意外と顔に出るタイプなんだな。
「喜べ芥川。あたしのおかげでこの教室は三人の秘密基地になったんだぞ!」
「三人?」
来夢は私と自分を指さしあともう一人、というところで指が迷子になっている。
「あたしだよ、あ・た・し」
「先生、ですか」
「空き教室使えるようになったのあたしのおかげなんだからこれくらい許せって」
「まぁ、いいですけど」
しぶしぶと言った感じで納得した来夢は机にカバンを置いてその中から文庫本を取り出した。
あの日から来夢は毎日この教室に来ている。そしてずっと本を読む。
けれど時折私の方をチラりと見る。
ここいらで一発仕掛けてみようか。私のなかの悪魔が囁いた。
「ねぇ来夢」
「今、忙しい」
「ラップしてみてよ」
「は?」
来夢は私に向かって今まで見たことないような顔でそう言った。
パタンと本を閉じ、カバンにぶっきらぼうにしまう。そして帰ろうとする来夢を私は止めた。
教室の出入り口の前に立って来夢をブロックする。
「ねぇ、ダメ?」
私は来夢にそう言った。別に特別な所作はしていない。しかしこの数日間で分かったことがある。
――来夢は私の顔に弱い。
自惚れだと思うだろうか。否、事実だ。
「うぅ……わかったよ」
ほうら見たことか。
「おっ、待ってました!」
東野先生が手をたたく。
私はスマホに入っている八小節のバトルビートを再生した。
一定のリズムでドラムが鳴り、シンセサイザーなどの電子音がメロディーを奏でる。
「え、えっと」
来夢は困惑しつつもなんとかリリックを紡いでいく。
《 ✕塞がれた✕ 出入口←
「わたしが何をした?」
問う切に
同接人数たったの 二人 歌にノせるわたしの気持ち
ラップなんてわからない いまだできる気がしない
わたしを誘ったあなたの気が知れない…… 》
たどたどしい態度でラップをし終えた来夢はふぅと息を吐く。
その頬は少し朱に染まっていた。
「いいじゃないか! 芥川、お前やっぱり才能あるよ」
東野先生は来夢を褒める。それで来夢の頬はもっと赤くなった。
私はスマホの音源を止め、ポケットにしまう。そして教室の出入口から離れ椅子に座る。
「やっぱり、私の思った通りよ来夢。ポエトリーリーディングも少しできていたわ」
「……そんな顔するんだな、太宰」
「え? 顔……?」
「あぁ、たのしそうな顔だ。あたしな、すこし心配だったんだ」
そこから東野先生は語り始めた。別にこちらから頼んではいない。それに私だって笑う時は笑う。ただタイミングがわからないだけだ。
「お前、いつも神妙な顔してるだろ? 一年のときも友達いなさそうだったしさ。あ、今は橘と仲がいいんだっけか?」
「別に笑ってないわけじゃ……」
「そうかそうか。ま、そういうことにしてやるよ」
東野先生はそう言って笑う。
私は東野先生を放っておいて来夢に視線を移す。
「来夢、初めてラップをやってみた感想は?」
来夢は椅子に座り髪先を指でクルクルと弄る。そうして口をつぐんでしまった。
――数分の沈黙の後、来夢は口を開く。
「少しだけ、雲が晴れた気がする」
そう言って微笑んだ。
「うん、よくなってるよ」
――五月二日。世間はゴールデンウイーク真っ最中だというのに、学校はある。この日だけ。
どうせなら休みにしてくれてもいいのに。
なんて思う反面、来夢とこうして会えるのは嬉しいからこの日に感謝すべきか。
肩で息をしている来夢が椅子に座る。
「そうなんだ……自分ではよくわからない」
来夢はそう言いながらカバンから水の入ったボトルをだしてそれを仰ぐ。
「ねぇ、ラップってなんなの?」
と、来夢が唐突に私に聞いてきた。
そういえば話してなかったな。私はスマホを取り出し検索をしながら来夢に話す。
「ラップっていうのはヒップホップの中の要素の一つなの」
ヒップホップはMC・DJ・グラフィティ・ブレイクダンスの四要素から成り立っている。
そしてその中のMCがいわゆるラップだ。
起源などは省くが自分の生い立ちや様々な葛藤を音に乗せて表現するのが従来のラップミュージックだ。だが、現在のラップミュージックは進化を遂げ、従来のものとはまったく様相が変わった。それが現在の人気を底上げしているのだろう。
今はエンタメとしての側面が強くなり、エンタメ・ラップと呼ばれている。
舞台上で様々なパフォーマンスを披露しながらラップをする。一種のライブのようなものだ。
「そんなにすごいものだったのね」
「えぇ、ヒップホップにはね、先人達の魂が刻まれているのよ」
私はヒップホップが好きだ。人生を賭ける価値すらあると思っている。先人達の魂に、ヒップホップに自分の名を刻む。それが私の夢だ。
「子供みたいね」
「え?」
突然の貶しに私はすっとんきょうな声を出してしまった。
「今のあなた、星空みたいな目をしてる」
「そうかしら?」
来夢はコクリと頷き、微笑んだ。
最近、来夢はよく笑顔を見せてくれるようになった。転校したての頃は仏頂面が目立った彼女も私の前では笑ってくれる。それがなぜかうれしくて私まで笑ってしまう。
ふと窓の外を見るとすっかり日は落ち暗くなっていた。
来夢と一緒にいると時間が光のように過ぎ去っていく。
「もう遅くなってきたし、今日は帰ろうか」
私はカバンを肩にかけ、教室の戸を開ける。ガラガラっと音が響き反響した。
誰もいない廊下に私達二人の呼吸だけが静かに響く。
後ろに振り向くと黄昏た瞳で外を見つめる来夢が目に入る。その視線の先には先日できたばかりの大型商業施設であった。
東京では珍しい大型商業施設。たしか広さは東京ドーム十個分と聞いた。流石にでかすぎやしないかとも思ったがそのおかげでそこに行けばほとんどのものが手に入るともっぱらの噂だ。
「――来夢」
呼びかけても返事がない。私がもう一度呼びかけるとハッとしてこちらを向いた。
「な、なに?」
「あそこ、行きたいの?」
「そんなこと言ってない」
来夢は目を逸らしプイっと横を向く。
「行きたいんでしょ~」
「別に……」
「あ、私もあそこ行ってみたかったんだよね。一緒に行ってくれない?」
私がそう言うと来夢は少し考えた後小さく頷いた。
「あなたが行きたいなら、付き合ってあげてもいい、けど」
「やった! じゃあ明日の十一時に渋谷駅前集合ね!」
「わかった」
私は心の中でガッツポーズをし、来夢の手を引いた。
長い廊下も今は一瞬に思える。
ビルだらけの外の景色も、今は満天の星空に見えた。
――わたしは今、猛烈に悩んでいる。
難関大学の入試試験を受けているみたいな感覚だ。わたしは部屋の全身鏡の前で四苦八苦する。
芥川来夢はいわゆる陰キャである。
自分自身もそう思っているし、周囲の人間もそう思っていることだろう。
別にそんなことに腹を立てたりはしない。友と呼べる者なんて一人も……いや、一人はいるかもしれないが一緒に遊びに行くなんてことはしたことがない。
手には数種類のワンピース。目の前には一種類のわたし。何がベストか、考えれば考えるほどわからなくなる。
わたしはワンピースを投げ捨てベッドへ身を投げる。
ぼうっと天井を見上げていたらその向こうまで見えた気がした。
「どうしよ……」
友達と遊ぶ時の服なんて考えたことがなかった。
もう寝てしまおうか。明日の朝に勢いで決めてしまおうか。
そう考えたら一気に睡魔がわたしを襲う。
そしてわたしは意識を手放した。
――土曜日。わたしは窓から差し込む陽の光で目が覚めた。
陽の角度的に六時頃だろうか、緊張して早く起きてしまった。しかし僥倖。服選びに時間をさける。
そうしてわたしは昨晩と同じ行動をする。
うーん、うーんと唸り、あーでもないこーでもないと嘆く。
服選びに頭を悩ませていると部屋の扉がコンコンと叩かれる。
「なぁに、おばあちゃん」
一緒に暮らしている祖母が戸を開けてわたしを見る。ぎょっとした顔で。
「ら、らーちゃんどうしたんだいこんな朝っぱらから……!」
「いや、これは……」
「はっ! そうかい、友達と遊びに行くんだね! そうなんだね! なら、うんとおめかししなきゃ! おばあちゃんの一張羅持ってくるからね!」
祖母は途端に張り切ってどこかへ行ってしまった。
まったく、わたしだって友達と一緒に遊びくらい……なかった。そうだ、一回もなかった。
そりゃあ祖母が張り切るのも当然かもしれない。
祖母と暮らして十数年。わたしは一度も祖母に友達の話をしてこなかった。いや、できなかった。
と、そんなことを考えていると廊下からドタドタ音が近づいてくる。
「らーちゃん! これ! これ着てみなさい!」
バァン! と部屋に入ってきた祖母の手には陽の光のように鮮やかな紅に金の花がちりばめられたドレスが握られていた。
昔の価値観とは相容れないようだ。
わたしはやんわりと断って祖母に私の手持ちの服でどれがいいか相談をした。
「らーちゃんにはこの白いワンピースが似合うわよぉ」
祖母に言われたワンピースを着てみて全身鏡の前に立つ。
うんうんなかなか、我ながら似合っている。
らしくない感想だったがわたしは満足だった。
「うーん、バッチリ! 可愛いわぁ! そうだ、今日の朝ご飯はうんと豪華にしましょう!」
そう言って祖母は再びけたたましい猛牛の如き足音を立てて台所へ向かっていった。
まるで王族の食事の如き朝食を終え、祖母はわたしにちいさな封筒を渡してきた。
「これは?」
「お小遣いよ。友達と遊ぶ時にお金の心配なんてしたくないでしょう?」
祖母はニッコリ笑ってわたしの手を握る。
これは何も言わず受け取るのが祖母孝行だろう。
「ありがとう、おばあちゃん」
わたしはそう言って封筒を受け取り懐にしまう。
そして部屋に戻り家を出る時間までそわそわして待つ。
映画三本は見れたんじゃなかろうか。すくなくとも体感時間はそのくらいだ。チッチッチと時計の音だけがわたしの鼓膜を揺らす。
十時半。決戦の時だ。
わたしは玄関でピンクのブーツを履き、ドアを開ける。
「いってらっしゃい。楽しんでくるのよ」
「うん。いってきます」
――十一時。渋谷ハチ公前。
駅前の広告板にはよくわからないアニメの宣伝がされている。私はそこから少し外れた位置で来夢を待っていた。
腕に巻いた時計の針はチッチッチと時を刻む。
チラリと駅の方に視線を移すと奇怪な恰好したお姉さんがチラシを配っている。そしてそのお姉さんにとてつもなく絡まれている子が目に入る。
白いワンピースを身にまとい、分厚いレンズが陽の光にあてられキラリと光る。間違いない、来夢だ。
「原石感半端ないんだけど! ねぇ、こういうの興味ない?」
「え、えっと……」
「コンカフェって知ってる? こういう格好して勇者様をもてなすのよ!」
「ゆ、勇者……⁉ この世界は破滅の危機……」
「面白い子だねぇ! ぜったい人気出るよ! 給料はずんじゃうよ! うちに権限ないけど!」
「世界の破滅……」
どうやら店員として勧誘されているようだ。
そして来夢は世界が破滅の危機に瀕していると勘違いをしているようだった。きっとコンカフェというものを知らないのだろう。私だって詳しくは知らない。
謎の使命感に駆られそっちの道へ行かないよう、私は来夢の腕を掴んで胸へ引き寄せる。
「すいませーん、この子私のツレなので~」
「え、あ、世界の破滅……」
「ほら行くよ」
来夢を抱いて私は駅前からそそくさと離れる。
スクランブル交差点を渡り、目的地の方角へと進む。
「さ、さっきはありがとう……」
歩いていると来夢がもじもじしながらそう言って来た。
「大丈夫よ。それよりもああいうのは無視しなさい。面倒くさいことになるから」
言いながら私達は進む。すこし細い道を抜けると歩行者天国へたどり着く。
視線の先には目的地の大型商業施設が見える。まさか東京のど真ん中にこんなものができるなんて。
「ま、魔王城だ……」
来夢が小さく呟く。さっきの件がまだ尾を引いているようだ。
私は目を凝らし施設の入口を探す。
「来夢、入り口いくわよ」
わなわな震える来夢の腕を引いて私は入口を目指した。
「ひ、広……」
入口を抜けるとそこにはとてつもなく開けた空間が広がっていた。
ど真ん中に大きな噴水、そして横には所狭しと店が連なっている。上を見れば上の階の様子が一望できさらに上にはおおきなシャンデリアが輝いていた。
もはや時代、世界が違って見える。
来夢も圧巻され口が開いたままだ。
「す、すごい。本当に物語の中に入った気分」
口角があがり、軽やかな足取りで前へ進む来夢。その度にふわりとワンピースが揺れる。
なかなか上等なものなのか光が当たるとキラキラと煌めく。
「来夢、それ似合ってるね」
「え、そうかな……」
来夢の視線は明後日の方向へ向き、指先で毛先をクルクルと遊んでいる。一種の照れ隠しのようなものだろうか、口角がニヤついているのがわかる。
「似合ってるよ」
「……ありがとう」
来夢はそう言うと私の隣に来る。
「ねぇ、映画見たい」
そう言う来夢の視線の先には映画館で上映中のポスターがあった。
近づいて見てみると様々なジャンルの映画が上映されていることが分かる。
恋愛映画、アクション映画、ホラー映画、アニメ映画、実写映画、エトセトラ……。
その中でも来夢が興味を示しているのは恋愛映画であった。
「なんか意外ね」
「お気に入りがどんな風になっているか、気になって」
「ん? もしかしてこれ実写映画?」
「そう。 わたしの好きな物語」
そう言って来夢はカバンから本を取り出す。
少し焼けていて年季が入っているのがわかるその本のタイトルは「明日、世界のオワリで」という作品だった。
「ねぇ、映画ってどうやって見るの?」
内容が気になってきた私の耳に耳を疑う言葉が入ってきた。
「知らないの?」
「一人で来たことない」
「意外だね。来夢って一人で色々してそうなのに」
「インドアだから」
私はそんな会話をしながら映画のチケットを買う。無論、席は隣だ。
映画の時間も差し迫っているので私達はエスカレーターで映画館のある五階まで向かった。
映画館に近づくほど照明が少なくなり、暗くなる。青い照明がより雰囲気を醸し出している。
「ポップコーン食べる?」
私が訊くと来夢は何も言わずコクリと頷いた。
それどころか複数種類が一つになったバラエティーパックと果物がゴロゴロ入ったドリンクを指差した。
来夢ご所望のポップコーンとドリンクを購入しチケットに書いてあるスクリーンへ向かう。
道中、来夢との会話はなかったが楽しみにしているということはわかった。
――映画本編が終わり、エンドロールが流れる。
映画の出来は素晴らしいもので特に和楽器を駆使した音楽がシーンの臨場感をさらに豪華に演出していた。
エンドロールを見ずにスクリーンから出る者も少なくないと聞くが私はそれがもったいないと思う。エンドロールには作品を創った人々の名が記されている。それを調べればさらに素晴らしい作品に出会えるというのに。
だが、私は音楽の欄を見た瞬間息を呑んだ。
――太宰枯介(だざいからすけ)、太宰蕾(だざいつぼみ)。
私の父と母の名だ。
自分の感性に酷く嫌気がさす。
「花奈……?」
「ごめん、私外でてるね……」
私は来夢の返事も待たずその場を後にした。
映画館の外のベンチに座り、私は来夢を待つ。
せっかく良い作品だったのに、台無しだ。まさか両親の音楽が使われているなんて、そしてそれを良いと思ってしまったなんて。
私の音楽をくだらないと切り捨てた両親。私はその時から両親に反発するようになった。家では話さないし、学校だって自分で決めた。
一代で和楽器奏者として確固たる地位を確立した両親。小さなころはそれを誉れと思っていた。
だが、そうではなかった。私は私の音楽を見つけた。それがヒップホップだ。しかし両親はそれを良しとしなかった。日課だった和楽器の稽古も投げ出した。両親の音楽なんてクソくらえだ。そう思っていた。
なのに、どうして。
――どうして……!
私は無意識に自分の腕を振り上げた。
「花奈、終わったよ」
来夢に話しかけられ、私は振り上げた腕を慌ててしまう。
「どうしたの……?」
「い、いやあ、なんでもないよ⁉」
「そう……」
なんとか誤魔化すことに成功した私はなんでもないような顔で来夢の腕を引っ張り近くの服屋に飛び込んだ。
ファンシーでメルヘンな服が所狭しと並ぶそこで私は服を物色するフリをする。
自分から入った手前なにも物色せずに出るのは不自然だろう。好みでもない服を何も考えずパラパラと捲った。
「こういう系統が好みなの?」
「え? いやー、まぁ普通? かな」
来夢との会話をうまく流しつつその場を後にする。
と、ぐぅ~っと腹が音を上げる。スマホを見ると十三時、丁度お昼時だ。
来夢もお腹が空いたのか案内板に載っている料理に釘付けだった。
「ご飯にしよっか」
その一言で来夢の顔がぱぁっと明るくなる。
フードコートで食事を済ませた私と来夢はCDショップへ立ち寄った。
店内は流行りの音楽で包まれ、多種多様なCDが並んでいる。ジャケットが所狭しと並んでいるその姿は美術館のようだ。
「本屋みたいだね」
「まぁ媒体が違うだけだからね」
気になったジャケットを手にとっては棚に戻す。それが楽しいのだ。
と、つい最近好きなアーティストが新しいシングルを発売したことを思い出し、そのシングルを手に取る。
こういう時に値段がいくらであろうとすぐにお金を出してしまうのはなぜだろうか。他ならいくら駄菓子の十円だろうと出し渋ってしまうのに。
私は商品を持ってレジへ向かう。
「いらっしゃいませー」
「おねがいします」
「こちら特典になりまーす」
「ありがとうございます」
思いがけない景品が手に入って満足だ。
私は店内で来夢を探す。
だがいくら探しても来夢は見つからない。
白いワンピースに端正な顔立ち。来夢は自覚しちゃいないがあれは相当な美形だ。普段かけている瓶底メガネが悪い。
おそらく向かいの本屋に行ったのだろう。私はそう睨んで店を後にした。
――ううん、背表紙のままだとタイトルが読みづらい。目がゴロゴロしてきた。
これだからコンタクトは嫌なんだ。
わたしはCDショップを抜け出して向かいの本屋に来ている。
本屋はいいものだ。毎回新しい出会いをくれる。毎日違う街に訪れるようなものだ。ここは都会の街。新しい人ばっかが並んでいる。
わたしはもっと年季の入った街の方が好きだ。
背表紙をグルっと見回して、つまらなそうな顔でわたしを見る本達にフッと笑ってやる。
わたしはもっといい本を知っている。
そう言い残してわたしは本屋を後にした。
――いない。本屋にいると思ったのに。
来夢の姿が煙のように消えた。あの子はどうして……子供みたいだ。
私は頭を掻き周りを見渡す。
と、私の視線の先の先に白いワンピースを発見した。
まったく。そんな気持ちを押し殺し、私は来夢に近付く。
「来夢、一人で行動しないで」
「わ、花奈……」
「心配するでしょう?」
「ごめん……」
存外素直に謝った来夢の手を引いて次の目的地を探す。
「次、どこ行こうか?」
私が来夢にそう言った矢先、私の視界に一つのポスターが映る。
「ねぇ! 来夢!」
「な、なに? 藪から棒に」
私が指差した先にはラップバトル大会のポスターが貼られてあった。
東京のど真ん中のステージで開かれるラップバトル。題名は「Shibuyaラップバトルトーナメント」
「これ、出ようよ!」
「はぁ⁉ こんなの勝てっこない! ていうか出れないよ!」
「出れるよ! あれに出て、私達の存在をこの東京に知らしめてやろうよ!」
――出る。絶対に。
それが私の夢への第一歩だから。
「――へぇ、君たちも出るんだ? この大会」
私が来夢に出場を打診していると横から声が聞こえた。
「出るんでしょ? この大会」
ピンクのメッシュが入った黒髪のショートカット、黒い革ジャンを羽織り黒いショートパンツに網タイツ。
切れ長の目の奥はグリーンの瞳だ。外国人とのハーフといった雰囲気を纏っている。
「僕は百瀬ビート。同じ大会に出る者同士仲良くしようよ」
彼女は私達にそう言って握手を求めてきた。
「待って、まだ出るって」
「いいや、出るね。そして僕に負ける」
その言葉にカチンときた。
「勝つのは私達よ! 来夢、絶対に勝つわよ!」
私は来夢の肩を掴み、百瀬ビートを睨みつけた。
「いいね、その眼。好きだよ。決勝で待ってるよ」
彼女はそう言って手をピラピラと振りながら群衆の奥へと消えていった。
――ラップバトル大会まで残り三週間。
あの日、私達はすぐに大会にエントリーした。
来夢もあの「負ける」発言が頭にきたようですんなり話が進んだ。
そして現在。
私達はいつもの教室で曲作りに勤しんでいた。
ラップバトルといっても大体は曲とパフォーマンスのぶつけ合い。どちらのパフォーマンスがより観客をアガらせたかで勝敗が決まる。
あの場の高揚感は何物にも代えがたい。実際にその場にいるからこそ感じるものが確かにある。
早速私は家から持参したパソコンにこれまた家から持参した電子キーボードで音を打ち込んでいく。
一旦音の感覚、メロディをつかみたいので電子音で打ち込んでいく。
チラッと来夢の方を見ると、椅子を三つ連結させそこにごろんと寝転がりながら本を読んでいた。
しかし時折むくりと起きて机に広げたノートに何かを書き込んでいる。あれが来夢なりの作詞なのだろう。私は首を画面に戻し作業に戻った。
――ラップバトル大会まで残り二週間。
空き教室の容貌は一週間で様変わりした。
いたるところに置かれた楽器、壁一面に並んだ本、吸音材で囲われた簡易録音スペース。
もはや空き教室と呼ぶには窮屈すぎるくらい物であふれかえっていた。
一週間前、私は東野先生に許可をもらっていくつかの楽器を持ってきた。それが歯止めが利かなくなり家にある楽器の半分をこちらに持ってきてしまった。
鼓や三味線、尺八などの和楽器とエレキギターやベースなどのバンドで使うような楽器が主だ。
「なんか秘密基地みたいだね」
と来夢がつぶやく。無理もない、こんな好きを詰め込んだ空間をほかにどう言い表そうか。
私達は空き教室もとい秘密基地の真ん中に椅子と机を移動させ、この一週間の成果を発表しあう。
まずは私のターンだ。
私はパソコンからこの一週間で作ったビートを流す。まだデモ音源といった感じのものだが、そんなクオリティのものを三つ流した。
来夢は特に一番最初のものを気に入ったようでそれを三回も流した。
三味線が普段とは毛色の違うアップテンポなメロディーを奏で、ベースとギターがそれを補助する。ドラムの合間に鼓を挟み尺八のソロを突っ込んだ。
この音源でDJパフォーマンスをすれば会場が盛り上がること間違いなしだ。特に尺八のソロ部分でスクラッチなんかしたらそれはもう大歓声が巻き起こるに違いない。
「すごいね、和楽器をこんな風に扱うなんて」
「うちは和楽器奏者の家だからね。これだけは人よりずば抜けているんだ」
「いいね、そういう特技があるの」
「来夢にもあるでしょ、とびきりの才能が。ほら、見せてよ」
私は来夢を急かす。すると来夢はすこし恥ずかしそうに一冊のノートを私に渡した。
表紙には丸っこい字で「作詞ノート」と書かれている。
表紙を捲った先には、とてつもない量の文字がずらーっと並んでいた。なにやら単語がたくさん並んでおり、そのどれも共通点は見つけられない。
一ページ、また一ページと捲っていくが終わる気配が見えない。
おそらくこれは来夢がビビッときた小節の中の言葉たち。
例えば「五月雨」「毬遊び」「歌舞伎町」「がらんどう」「どっひゃあ」
正直私には理解ができない。特に「どっひゃあ」なんてどうやって歌詞にするんだ。
だがページを捲っていくとだんだん文字数が減っていき、歌詞を作ろうと試行錯誤する様子が伝わってくる。
今まできれいに並んでいた文字が斜めになったり、変な位置に書かれていたり、見ていてとても面白い。
そして完成と思われる歌詞がわたしの目に飛び込んできた。
それはまるで小節を読んでいるようだった。
「ど、どうかな?」
私の顔を覗き込み不安そうな顔で聞いてくる来夢。
私はそんな来夢の手を握りしめ言ってやった。
「――さいっこうだよ!」
この日、確かに私達は”勝利”を確信した。
――ラップバトル大会まで残り一週間。
この一週間、収録や音源調整をしていたらあっという間に過ぎてしまった。
しかしここで問題が発生した。
ラップバトルではパフォーマンスも重視される。
しかしそのパフォーマンスをどうするか、私も来夢も一向に思いつかないのだ。
専門外のこととなると、とことんダメダメなことを痛感した今日この頃。東野先生には音楽以外のことはてんでダメと言われ頼ることもできない。
どうしたものか。
と、頭を抱えた私達の耳にコンコンとドアをたたく音が聞こえた。
来夢と同時に教室の戸の方に視線を移すと一つの人影が見える。
「先生かな?」
「さっき過酷な労働に戻ったばかりだけど」
そう言いながら私達は戸を開ける。
そこには――クラス一のギャル、橘折香がいた。
「お、折香ぁ⁉」
「花奈っち⁉ ってかなにこの教室! 秘密基地みたいじゃん! え、まって、芥川さん⁉」
「あ、あ、あ……」
折香は興奮状態になり、来夢は圧倒されて手から金をだす化け物みたいになってしまっていた。
「折香、落ち着いて」
「ギターあるじゃん! てかパソコンも、マイク……? なんでマイク?」
「折香」
「これ何~? 尺八ってやつ? こんな形してんだ」
ダメだ。折香が子供になってしまった。
まぁそういうところが可愛いところでもあるのだが、さすがにこれは許容できない。
来夢は教室の隅に行ってしまうし。
とりあえず折香を止めなければ。
私は折香の肩をつかむ。
「んえ? 花奈っち?」
「落ち着きなさい、折香」
目を見て、丁寧に。
私がそう言うとさっきまでの暴れっぷりが嘘のように静まり返る。
きょとんとした顔で私を見つめる折香。可愛い奴め。
そうして折香を落ち着かせ、端にいる来夢を引きずりだす。
いいことを思いついた。
私は椅子を三角形に並べ、そこに二人を座らせる。
「私、いいこと思いついちゃった」
「「いいこと?」」
二人の声が重なる。
「折香、私達に力を貸してくれない?」
「――あーし?」
折香に事情を話すと二つ返事で引き受けてくれることになった。
「ってか、めっちゃ意外かも、二人がラップやってるなんて」
「まぁ誰にも話してなかったしね」
「わたしは花奈に誘われて仕方なく……」
「仕方なく? 仕方なくで大会でないっしょ~」
折香がそう言うと来夢は恥ずかしそうに目を伏せた。
何はともあれ折香がパフォーマンスを考えてくれることになった。これは大きなプラスだ。
大会まで残り一週間。私の初陣になる。
最初はただ頭にきたから、なんて幼稚な理由でエントリーしたが今はそうじゃない。
あの生意気な百瀬ビートを打ち負かし、有名になる。
そして、両親に私の本気を知ってもらう。
「花奈っち、なんかいい顔してんね」
「いい顔?」
「うん、野心家って感じ」
野心家、なんて初めて言われた。
でも、気に入った。
その日は三人でお話をして終わった。
明日からまた特訓の日々になるだろう。
――ラップバトル大会前日。
いつもの教室に私達三人が集まる。
フゥ、と一斉に息を吐き私達は手を合わせる。
「明日、全部出し切ろう……!」
「この命に代えても!」
「いや、らいむんさすがに気合入りすぎっしょ。でも、あーしも応援してるよ!」
三人顔を見合わせ、二ッと笑う。
――五月二十一日。ラップバトル大会当日。
「おーい、花奈っちー、らいむん~」
渋谷駅前で待ち合わせをしているととびぬけてオシャレな人影がこちらに向かって手を振っている。
ピンク色の丈が短いダウンジャケットにショートデニム、髪はポニーテールに結んでおりとてもかわいらしい。そして靴が緑。緑⁉ おしゃれさんの感覚はよくわからない。
「靴、すごいね」
「ん?あぁ、これあーしのお気に入りなんだ! かわいいっしょ?」
「う、うん、かわいい、かわいい」
隣にいる来夢もコクコクと頷いている。
そんな来夢はというとこの前とは打って変わってストリート系のファッションで着飾っている。
「らいむんの私服なんかイメージ違うね」
「気合入れるために……!」
「青パーカーにオーバーオールとか最高にいかしてんじゃん! らいむんセンスあるよ!」
「ありがとう……」
来夢は顔を下に向けてそう言った。しかし真っ赤になった耳がチラチラ見える。
私と折香は顔を見合わせ静かに笑った。
ステージはあのショッピングモールのイベントホール。
私達三人はそのイベントホールの楽屋の椅子に座っていた。
大勢の参加者が各々ステージについて話している。そんな空気に押しつぶされそうになるが、こんなところで負ける訳にはいかない。
と、楽屋のドアがギィィと音を立てて開く。
その瞬間、その場の大勢が彼女に注目する。
そして楽屋内がざわめきだす。
「おい、あれって」
「向こうで結構有名な……」
「まじかよ、出んのかよ」
皆の視線の先にいたのは――三週間前、私達に喧嘩を売ってきた、百瀬ビートだった。
百瀬ビートは颯爽と楽屋の中へ入り、椅子に座る。
彼女の周りには人だかりができ始めていた。
どうやら有名人らしい。見たことないが。
と、百瀬ビートと目が合う。
その瞬間、彼女はガタっと立ち上がり、私たちの方へツカツカ歩み寄ってくる。
「エントリーしてたんだ。てっきり僕に恐れをなしてエントリーしてないと思ってた」
「見くびらないでちょうだい。吠え面かかせてあげるわ」
私と百瀬ビートの間に蒼い稲妻が走る。
そして始まる一回戦。
「あーしらは第六試合か」
トーナメント表には出場者の名前がずらりと並ぶ。
百瀬ビートは第一試合だ。
楽屋のテレビで百瀬ビートのパフォーマンスを見る。
それは圧巻そのものだった。
「みんなー! 今日は僕のライブにようこそー!」
百瀬ビートが観客に向かって手を大きく振りながら叫ぶ。
手にはキラキラにデコられたマイクが握られている。そして背後に設置されたDJブースに走り、音が流れ出す。
音の波が会場全体を襲い、その波に百瀬ビートが飛び乗る。
電子音で構成されたテクノポップに合わせてスポットライトが百瀬ビートを照らす。
《 僕は Super☆Star
この「ハコ」
喰喰 │
喰喰
〇 喰 タ
喰 らい尽くす ス
〇 喰
喰喰 ン
喰喰 モ
は
つまり誰も に
「僕」
✕
✕ 敵わない ✕
✕
と が
こ 体
む 自
挑
×間違い× 》
スポットライトが百瀬ビートを照らす。しかしその輝きを覆いつくすように、百瀬ビート自身が太陽のように輝いていた。
煌めく汗、震える喉、ギラギラした瞳。
本物ってやつをまざまざと見せつけられた気がした。
百瀬ビートはステージ上からバッと上空へ飛び上がりワイヤーにぶら下がり宙を舞う。
《
|
ー神ーーー から
|
し
り 能
か この ☆
ず 才
さ
どんな奴も
で
発 K☆O
♡ 一
ル
ド なんて 々
イ 目じゃない 堂
ア
♡
「 宣・戦・布・告 」
これが僕の ☆☆☆
☆学☆
☆美☆
☆☆☆ 》
――バン!
音が破裂し会場全体が静まり返る。
アイドルみたいなキラキラしたラップ。その立ち姿は堂々としていて。かわいいポーズを取っていた。
刹那、歓声が会場を包む。その全てが彼女に向けられているものだ。
百瀬ビート、末恐ろしい。
一瞬でこの会場を味方につけてしまった。
対戦相手の敗北は火を見るよりも明らかだ。
こんなステージを見せられては、観衆の心は揺らがない。傾かない。
第一回戦、結果は百瀬ビートの圧勝。
私達はまざまざと見せつけられた。彼女の実力を。溢れんばかりの自信を。
「や、やっべえね……あの子」
「全身から自身のオーラが出てた。あれは、ラスボス」
折香も来夢も開いた口がふさがらない様子だった。
「でも、あの人がラスボスなら主人公はわたし達。主人公は成りあがるから物語は面白いのよ」
来夢が呟く。
そう。主人公は私達。主人公には障害がつきものだ。
「かましてやりましょう。私達の音楽で」
「うん!」「はい!」
二回戦が終わり、ついに順番が回ってくる。
心臓がバクバク鳴って、体全体がスピーカーになった気分だ。
先程衣装に着替えてあとは出るだけだ。
「花奈っち、らいむん、頑張ってね! あーし、客席で動画撮ってバズらせるから!」
折香はそう言って楽屋を後にした。
来夢と目が合う。
瞳孔が開いて、閉じてを繰り返している。
耳をすませば、互いの心音がシンクロしているのがわかる。
「来夢、緊張してる?」
私が訊くと、来夢は小さく頷いた。
「心臓が喉から飛び出そう。でも、ワクワクしてる」
来夢はギラギラとした目で私に言う。
これは初陣。刺し違えてでも、なんて甘い考えはもたない。
圧倒的勝利。
私の初陣にはそれがふさわしい。
私は来夢とコツンと拳を合わせ、ステージへ向かった。
「ワクワクしてる」
これは本心だ。それでいて自分を騙すための虚勢だ。
花奈と拳を合わせ、楽屋を後にする。
わたし――芥川来夢の人生は平々凡々だった。
海外で仕事をする両親の代わりに祖母に育てられた。
祖母の家にはたくさんの小説があった。幼い頃から本が好きで、文字を理解するようになってからは小説にのめりこんだ。
そのせいで、いや、おかげで口調が変になった。曰く文学的な言い回しを多用してしまうらしい。
友達はできず、クラスメイトからは不思議ちゃんのレッテルを張られた。
でも苦じゃなかった。
わたしには物語がついているから。
そんなわたしにも友達ができた。
一人から二人に増えた。一緒に遊びに行った。
このステージは友達のため、いままでのわたしからすればあり得ない舞台。
わたしはマイクを握りしめ、ステージへ向かった。
袖から見える景色が緊張感を高める。
今から向こうの舞台に自分が立つ。
わたしは深呼吸を一つして袖から飛び出す。
観衆から注目されることには慣れている。教室サイズが五千人規模になっただけだ。
「よろしくおねがいしまーすっ!」
わたしの合図で音が流れる。後ろに花奈がいる。それだけでとても自信になる。
和装をイメージした袖口が大きく開いた長袖を風の赴くままに靡かせる。
垂れ下がってきたワイヤーを掴み、宙を駆ける。
スポットライトを浴びてレーザーがわたしの周囲を駆け巡る。
わたしのマイクを握る手に力が入る。
マイクに口を近づけて、ついに詩を紡ぎだす。
《 あなたの 視線→を 「ha〇ck」
する 最中
この □会場□ を 「ja×ck」
X
A LEVEL―――
M ――
―にあげてく
ステージ←上
異常気象 すらも驚く嵐
の
目
観客
でたらめ な詩で 観客 を騙す
観客
カラス で 蛹悶°縺(化かす) 余すことなく 》
わたしはマイクを宙へ放る。
その瞬間、背後の巨大スクリーンにカラスが映し出される。
そしてスポットライトが黒く染まり、空へ放たれる。まるでカラスが空へ飛び立つように。
歓声が空に、わたしに舞う。
――気持ちよかった。
心臓がドキドキして、瞼がピクピクして、膝ががくがく震えてる。
ステージに風が吹き、わたしの汗が冷える。
清々しい気分だ。学校の屋上から飛び降りる時はこんな気分だろうか。
ステージが暗転しわたし達の番が終わる。
後ろを向くと花奈がサムズアップでわたしに応えた。
第三回戦、勝者はわたし達だ。
そう確信した手だった。
最高のひと時だった。
ターンテーブルを回し、私の音を、私の相棒を皆が注目していた。
興奮が冷め止まぬまま、私は楽屋に戻った。
「き、緊張した……パトカーに乗せられる方がまだマシだわ……」
来夢はそんなことを言いながら胸に手を置いて椅子にもたれかかる。
楽屋のテレビには私達の相手のパフォーマンスが映し出されていた。
ブレイクダンスをしてパフォーマンスをする姿はまさにヒップホップそのものだ。とても素敵だ。
「ねぇ、勝てるかな」
来夢はテレビを見ながら小さく呟いた。ステージ上の彼女とは大違いだ。
「大丈夫よ。それに、自分自身を信じないと始まらないわ」
「そうね。ありがとう」
来夢はそう言うと今度は自信に満ちた目でテレビを見た。
「第三回戦、勝者は! ――花奈・来夢チーム!」
ステージの上で私達の名前が轟く。
背後のスクリーンにはでかでかと私達の名前とビジュアル写真が映し出されていた。
歓声の波が私達をさらい、それに溺れる。けれど不思議と息はできる。
初勝利だ。初陣にして初勝利。
最高じゃないか。
と、客席から手を振る折香が目に入る。
私は折香のスマホに向かって精一杯笑ってやった。
第一回戦、無事に勝つことができた。
しかしトーナメントはまだ続く。
準決勝、私達は二回戦目だ。
楽屋でその時を待つ私達。準決勝からは個別の楽屋が用意され、私と来夢は次のステージについて相談をしていた。
「次はどうするの?」
「次の対戦相手は……」
私はそう言いながらトーナメント表をなぞる。
――西尾新(にしおあらた)。数々のラップバトル大会で優勝経験のある本物のプレイヤー。
相当な強敵だ。
西尾新は界隈では有名なワンマンプレイヤーで、ビート、リリック、その全てが高水準。
正直対戦できるだけでありがたい。
そうして西尾新のステージが始まった。
――ドン!
スピーカーが振動し、会場を揺らす。
西尾新はニィッと不敵な笑みを浮かべ、マイクを懐から取り出した。
《 un 怪しい リズムに乗り ey
妖しい カードはスペードのA
チキンレース じゃなくて俺がやりたいのは
スリルあるゲーム
yo 圧倒的なスキル 尽きるカウントダウン
1・2・3 》
西尾新の背後に1・2・3と表示される。
――刹那。ステージの方々から火の手があがる。
観客のボルテージは最高潮に達し、会場が観客の歓声で震える。
そこからはまさに圧倒的だった。
ステージを使いこなし、宙を舞い、観客席すら巻き込んだパフォーマンス。
――圧巻だ。
その一言に尽きる。
その後も西尾新のステージは続き、もはや優勝確定かのような盛り上がりを見せた。
来夢は口をぽっかりと開け、私も画面に釘付けだった。
ふとスマホを見ると時間が差し迫っていた。
「やばっ、もうこんな時間じゃん!」
「早く行こう」
私達は大慌てで楽屋を飛び出した。
舞台袖には先程ステージを終えたばかりの西尾新が私達を待っていた。
「よぉ、かわいこちゃん」
「嬉しいこと言ってくれますね、西尾新」
「フルネームかよ。なぁ、新って呼んでくれてもいいんだぜ?」
「断ります」
「そうかい。なぁお前ら、本当に俺に勝てると思ってんのか?」
「なんですかいきなり」
すると西尾新はズイッと私達に歩み寄る。
「女が軽くヒップホップ語ってんじゃねぇぞ……」
その言葉は重く私にのしかかった。
まただ、また私を否定された。
「軽くかどうか、わからせてあげるわ。吠え面かかせてあげる」
私は西尾新にそう吐き捨て、来夢の手を引いた。
「行くわよ、来夢」
そうして私達はステージへ上った。
「行くわよ、来夢」
多少の怒気が含まれたその言葉と共に、わたしは花奈に手を引かれステージへ上った。
その瞬間、会場の灯りが一斉に落ちる。
何事か。こんなの演出には含まれていない。
周りを見渡すと困惑する花奈、スタッフ。しかしそれとは裏腹に期待を膨らませる観客。
スタッフは既に復旧作業に向かっているだろう。
――ならば。
「花奈! 行こう!」
わたしは花奈にそう言って懐からマイクを取り出した。
花奈もわたしの意を汲み取ってくれたようでDJブースへ走る。
「みんな! クラップしてーっ!」
花奈はそう叫びながら手拍子を始める。
手拍子は観客に伝染するように前の方から徐々に手拍子の音が大きくなっていく。
手拍子とわたしの心音がリンクして頭の中にビートが流れてくる。
――――ドクン
――ドクン
ドクン
居ても立っても居られない。
その瞬間、スタッフがマイクを指し、大きく丸の合図をわたしに送る。
マイクは使えるようになった。
わたしは息を大きく吸い込んだ。
「この勝負! わたし達が勝つ!」
《 突如 暗闇 吐き出す恨み
あの男は言った 「軽く語んな」
☆ い
わたしは知った この 素晴らしい か
☆ せ
い
軽くなんて 滅相も ×
な
自分の気持ち
こんな表に
この手に握るマイクを通し
「俳句」 も 音 音
り 音 に乗せ
よ 「リリック」 音
音
つ 明
わたしは それをここで
勝 証
当然 会場騒然 それでOK 》
その瞬間、会場の灯りが一斉に点き、ビートが大音量で流れる。
どうやら電力が復旧したようだ。
「みんなここからだよー!」
ヘッドセットを装着した花奈が叫ぶ。
ターンテーブルを自在に操り、スクラッチ音が響き渡る。
わたしも音の波に乗り詩を紡ぐ。
《 ビートが復活
クラップ変わらず
わからす
このバトルの勝者
R 飾る完璧な フィナーレ
E ム
N 優勝かっさらう ァ ファタル
a N フ
’m I
I W 嘲笑う 払う だけど誇りは捨てずにいたい
肩の
埃
oh Yeah 這い上がってやる やる気だけは誰にも負けないさ
oh Yeah 賽は
投げられている
ミ ロ
ヒ じゃなくてシ でいたいの
フ ゴ
見たいよ もっと 上の
上の
上
世界を ドッとわたしの 渦 へ 》
――ダン!
腕を横に広げ、わたしは歓声をその身に受ける。
音楽が止まり、スポットライトがわたしを照らす。今この瞬間、まちがいなくわたしが世界で一番お姫様だろう。
後ろを向くと花奈が観客に向けて手を振っていた。
観客に手を振りながらわたし達は下手袖へ隠れる。
「来夢、ありがとう」
袖に入ると花奈がわたしに言った。
「ん? なにが?」
「いや、トラブルにうまく対応してくれたからさ。助かった」
「花奈もクラップの合図すごいよかった」
と、わたしたちに近付く影が一人。
パンパンパンと人を舐め切った拍手で近づいてくるのはわたし達の対戦相手、西尾新だった。
「とてもよかった。いい演出だ」
「あら、ありがとう」
「だが、俺には敵わない」
「それを決めるのは観客の皆よ」
花奈と西尾新の間には蒼白い稲光が走っていた。
ここに来て花奈の新しい一面をたくさん知れた気がする。
負けず嫌いなところや煽りにすぐに乗るところ。
学校の彼女からは想像できない。
と、スタッフからステージに上がるように言われ、二人の間の稲光が収まる。
わたしは花奈と一緒にステージに上がる。
勝っているのか、いや、勝つ。
気持ちで負けていてはダメだ。
そう思い顎を引き、胸を張る。
「準決勝第二回戦、勝者は!」
――バッ!
次の瞬間、上がっていたのは花奈の手だった。
わたしは花奈と手を合わせ勝利を分かち合う。観客の歓声が豪雨のように一斉に降りかかってくる。
いつもなら雨なんてうっとうしいだけなのに、この瞬間だけは自ら打たれに行くくらい嬉しい。
「俺が、負けた……?」
と、横からそんな声が聞こえる。
この世のオワリかのようにか細い声だった。
視線をそちらに移すと、膝から崩れ落ちる西尾新の姿が映る。
彼にもなにか負けられないものがあったんだろう。
しかしそれはこちらも同じだ。
わたしは彼から目を逸らし、花奈と共にステージからはけた。
「決勝進出おめでとう、二人共」
楽屋に戻る道中、廊下で百瀬ビートに声をかけられた。
その声音からこの結果を事前に知っていたようにさえ思えた。
「次に倒すのはあなたよ。百瀬ビート」
「ふふっ、自信だけは認めてあげるよ。でも、僕には敵わない」
百瀬ビートはそう言って花奈の顔の前にビシッと指を突き立てる。
ニヤリと口端を吊り上げ、言い放つ。
「僕が負けたら君の言うこと何でも聞いてあげるよ」
百瀬ビートは手をフリフリとわたし達に振ってステージへ向かって行った。
圧倒的強者の余裕をまざまざと見せつけられ、わたし達はその背中をボーっと見つめていた。
あの瞬間、あの瞬間だけは彼女が主人公だと感じてしまった。
「来夢……勝とうね」
「えぇ、必ず」
けれどそれで再びわたしの胸に火が点いた。
赤から青へと変化する炎がわたしを奮い立たせる。
”負けない”のではなく”勝つ”のだと。
「みんなー! お待たせ! 僕のステージだよー!」
楽屋に戻り、モニターに映る百瀬ビートを眺める。
もはやこれを見たところでなにか対策ができる訳ではないのでひたすらに相手のパフォーマンスを目に焼き付ける。
ステージから音が消え、百瀬ビートの足音が木霊する。
――タン、タン、タン
音は次第にリズムとなり、その場を支配する。
《 ジ
お待たせ 僕の │
テ ム 奏でる まるで 使
ス ズ ☆
リ 天
羽
翼も ラッパも ×持ってないけど×
羽
\〇〇/ 部 気
この 〇〇〇〇マイク があれば 全 平
/〇〇\
張 り 安 そんなもの全部
緊 焦 不 取っ
払う 「マイクロフォン」
P!
はい O!
注目 T!
S! 》
――ダン!
百瀬ビートが足を強くステージに叩きつける。
その瞬間、リズムが止まり場がシンと静まり返る。
そして音源が再生される。
機械音で構成されたアップテンポのテクノチューンがステージを一気にゲーミング空間へ変容させる。
地面を青いラインが走り、空が暗くなる。
「ぶちあがれー!」
百瀬ビートが叫ぶ。
観客のボルテージは最高潮に達していた。
会場が揺れるほどの歓声が百瀬ビートを包んでいた。
《 はい、登場⇦
最高潮 全 全
世 全 全 全 全
僕が の の 全 全全全全全てを
盛りアゲる こ 全 全 全 全
全 全
不得手も
↓
得意に 変えてあげる
かける 額なら ¥一〇〇億ドル¥
いつかなりたい 大統領
そのためにまずはここで
大優勝
最優秀賞
みんな「僕が一番」って言うっしょ! 》
百瀬ビートが天に向かって、人差し指を高く掲げる。
そこで音源が止まり、ステージが終わった。
一回戦のように、宙を飛んだりなんてことはしていないのに、とてつもない満足感だ。キングサイズの牛丼をたいらげても、ここまで腹いっぱいにはならないだろう。
これからわたしはあのステージで百瀬ビートと対決をする。
その事実に心臓が鳴りやまない。
「来夢、行こう」
わたしの心音をぶった切るように花奈が私の手を取った。
いままで見たこともないような真剣な面持ちだった。
きっと彼女にもこの大会になにかを賭けている。わたしは……特に賭けているものはない。
もともと誘われて始めたものだ。
でも、この大会でなにかを見つけたい。
このヒップホップという存在に、ラップという表現に、わたしはなにかキラキラしたものを見た。
それを見つけ出したい。
「うん、行こう!」
わたしは花奈と共にステージへ向かった。
私、太宰花奈は今から人生最大の大舞台に立つ。
幼少期、両親の勧めで色々なお稽古をした。
和太鼓、鼓、琴、三味線、色々やった。
和楽器の音色はたしかに好きだ。余韻が響くあの感じが特にいい。しかし、私は辞めた。
両親の期待に応えるのが辛くなってきたから。
天才と言われた両親の下に生まれた私はずっとその期待という重圧に押しつぶされていた。
まだ幼い私には重すぎた。
それに私は逃げた。
母は言った。「あなたには才能があるんだから、それをのばさないといけないの」と。
父は言った。「お前は最高の和楽器奏者になるべく生まれたんだ」と。
私は言った。「そんなのは自分で決める」と。
喧嘩して、引きこもって。
そんな時に出会ったのがヒップホップだった。
動画サイトの自動再生で偶然再生された曲。それが私の中の音楽観を変えた。
自分をさらけ出す。
私とは真反対の音楽だった。
それからヒップホップについて調べた。何もかもが新鮮だった。
そして私は決めた。
この音楽で両親をぎゃふんと言わしてやる。
そして今日、それの第一歩を踏み出す。
隣を見れば来夢がいる。
私は来夢と拳をコツンと交わし、ステージへ上がる。
「ここからはわたし達のステージだー!」
来夢の叫びと共に私はDJブースへ走る。すぐさま曲を再生し、来夢へ合図を送った。
《 憩 している
休 暇なんてない!
日はわたし達が 勝
今 優 する日だ!
の り
説 ま しかと見とき?
伝 始
ヒップホップの
進化の時
(
誰に微笑む )勝利の女神
( じゃなくてその手掴むため握る
このマイクで
心つかんで灯すよ炎
熱くなるほど 激しくなる音
おっと、この先心臓 注意 空気 すら緊張 する雰囲気
まだまだここからできるかどうかわからないけどやるしかないな
自由なリズムでラップする女 illなスタイルで沸かせる今夜
今宵の現場 わたしにとっては
一歩目
素人目で見ても拙くね?
でも負けられねぇ 仲間のために
自分自身のために
破る殻
やれるから 言い聞かせる
こんなの柄じゃないけど
いままで着なかった柄にも挑戦したかったから 》
そして来夢は息を大きく吸う。
「わたしは! あいつに勝ちたいから!」
そう叫んだ。
肩で息をして、膝も少し震えている。でもそんな来夢の後ろ姿がなぜか大きく見えた。
頼もしい仲間に巡り合えた。
そんな時だった。観客の方から声がした。
「らいむーん! かっこいいぞー!」
折香の声だった。
その声を筆頭に、観客から来夢を呼ぶ声が溢れ出す。動画サイトのコメントよりもおおいその声はあっという間に私達を埋め尽くした。
来夢はステージから降り、花道を走りながらラップを再開する。色とりどりのテープが発射され、雨のように降る。
幻想のようだ。夢の世界のようだった。
私も負けじとレコードを操作しスクラッチをする。
その度に観客が反応をくれるのでつい楽しくなってしまう。
「ラストスパート! 盛り上がっていくよー!」
来夢が叫ぶ。
私も叫んだ。
さっぱりとした気分だ。視界が二倍くらいになったように思える。観客席の奥の奥の方まで見えるし、そのどれもの顔が鮮明に見える。
もう親を見返すとか、今はどうでもいい。ただこの場が盛り上がれるように――。
「皆さんもっと盛り上がりましょー!」
私は全力でスクラッチをした。クロスフェーダーを動かし、さらに音に複雑さを加える。
そして一番盛り上がる場所で一気に上げる。
《 ⇦⇦⇦上がるクロスフェーダー
盛り上がれ Hands UP!
私のラップで心臓バックバック
おっと、前に来すぎだよバックバック
誰が一番?
そう、わたしがチャンプ
今日はみんな会場でキャンプ
やろうよライブを一晩中! 》
「いーねいーねぇ! 盛り上がってるねー!」
と、袖からそんな声がした。
会場はいっせいにその声の主に注目する。
その声の主とは――私達の相手、百瀬ビートだった。
「最高だねぇ! 二人共!」
私と来夢は百瀬ビートに「なんで?」と目線を送る。
そりゃあそうだ。今は私達のステージのはずだ。なのになぜ。
しかし百瀬ビートは止まらない。
「二人共! このステージをもっと面白くしようよ!」
「もっと?」
来夢が問う。
「そう! 僕と君たちで!」
《 飛び入り参戦!
観戦
観戦 だけじゃつまらないぜ
観戦
ジステージ
┃
こんな テ に飛び込まないなんて
スステージ
ス
ン
セ
ン
ナ 次は君の番だよ
要「チェック」! 》
《 ?
聞いてないです あなたの参戦
? だけど盛り上がるなら
然 成 緒 に奏で
当 賛 一 ましょう
最高で最強な セッションを!
これはまだまだエピソード1 この手に握る△――ソード―〇は
相当やばいよエクスカリバー
伝説の神話の 始まりだ! 》
《 味わいな この最高なフ
ロ 〇
ウを 素人目でもわかるだろ?
〇
張り合いない奴らばっかなバトル
けれど出会えた
高
最 のライバル!
どうせならここでサバイバル
ル
タ
暴いたる胸中の イ
バ
音と シンクロしてほら ドクドク 》
《 その毒々しい衣装
いかした 髏 の意匠
髑 本当最高
才能 だけでは説明できないフ
ロ
ウ 苦労 したんでしょう 》
《 たしかにその通り でもとうに捨てた 過去は
――素通り
無常に すぎる世界に差す//
一筋の光
それはいわずもがな 目の前の 君たち「「二人」」 》
《 ありがとう それを歌に乗せて
詩を奏で そして
←―――光の先へ 》
この三人で!
来夢と百瀬ビートの声が重なり曲が終了した。
なんの打ち合わせもしていないのに、まるでもともとその曲だったかのようだった。
――ワアァァァアッ!!!
会場は歓声に包まれた。
それは会場を飛び越えて周囲にも漏れているだろう。それほどまでも凄まじい歓声だった。
地面が、空気が、魂が揺さぶられた。
息が詰まる。
うまく呼吸ができない。
楽しさのあまりか、私は息をすることも忘れていた。
「最高だよ! 二人共!」
百瀬ビートがそう叫ぶ。
私も、来夢も同時に首を縦に振った。
「――最高!」
会場の盛り上がりも落ち着き始めた頃、私達はそのまま結果発表に移った。
正直もう結果なんてどうでもよかった。
そもそも私達のステージはすでに私達だけのステージではなくなってしまっていたし。
会場がざわめきだし、私達は横一列に並ぶ。
「さあ発表いたしましょう! 優勝は!」
司会者が叫ぶ。
結果なんてどうでもいい。なんて思っていたがやはりドキドキはするもので、膝が笑っている。
瞬間、会場全体が息を吞んだ。
もう来夢の方をみる余裕さえない。
私は司会者の結果発表の待った。
「優勝は!」
――・・・
「花奈・来夢チーム!」
私は自分の耳を疑った。だが、その直後に巻き起こる歓声がそれを現実だと私に教えてくれていた。
「勝った……?」
来夢が呟いた。私は来夢の手を握る。
「えぇ。勝ったのよ……! 優勝したの!」
「わたし達の勝ち……!」
私達は勝利を噛みしめた。
言われた瞬間は実感がなかったが、こうして時間が経つと優勝したと実感が湧いてくる。まるでするめいかみたいだ。
「おめでとう」
と、抱き合う私達に百瀬ビートがそう話しかけてきた。
自分は悔しいだろうに。
よく見れば目に涙を浮かべている。人間だれしも敗北の二文字には弱いのだ。
彼女もそうだろう。
だが、彼女はそれでも私達に賛辞の言葉を送ってくれた。
いい奴だ。
「ありがとう。あなたのおかげよ」
私は百瀬ビートにそう伝え、司会者の方を向いた。
大会から二日。昨日は疲労で一日中寝ていた。一日を無駄にしたが、優勝の代償だと考えれば安いものだ。
ベッドから起きてカーテンを開ける。
まぶしすぎる朝日が私の目を焼く。
ググっと伸びをしつつ、私は朝食を摂る為リビングへ向かった。
「あら、起きたのね」
「おはようございます……」
リビングでは十人前はあろう朝食が机にずらっと並ぶ。
父はコーヒーを嗜み、私には目もくれない。この家では当たり前だ。
私が和楽器を放り投げてから、両親は私に興味を示さなくなった。
私は机からパン、ヨーグルト、果物を取って両親と少し離れた位置で椅子に座る。
両親には私が大会に出たことも、優勝したことも言っていない。
あの日、帰って来てから言おうと思っていた。でも、勇気が出なかった。
しかしそれではだめだ。
私は意を決して両親に向き直る。
「……お父さん、お母さん、ちょっといい?」
「なんだ?」
「なに?」
二人の冷えた視線が私を突き刺す。
それに言葉が詰まりそうになったが、私は言葉を続ける。
「Shibuyaラップバトルトーナメントって知ってる?」
「なんだそのくだらない大会は」
「くだらないなんて言わないで!」
「ラップ? 俺がそんなものを認めると、まだ思っているのか?」
「えぇ。私その大会で優勝したの」
「だからなんだという」
「認めてくれないの⁉ 私の音楽を」
「もちろん」
その答えに腹が立った。
娘の好きなことを認めない親なんて、大嫌いだ。
私はパンとヨーグルトを持って自室へと戻る。わざとダンダン音を立てて。
私は部屋のドアを乱暴に閉めてデスクの上にパンとヨーグルトを置いた。
「なによ! 私は優勝したのに!」
ベッドの枕を壁に投げつける。
それで鬱憤が晴れればいいが、そんなことはなかった。
私は溜息を吐いてベッドに身を投げる。
ぼうっと天井を見上げていると鳥のさえずりが耳に入る。
もうすぐ夏休みだ。そうすれば来夢と折香と共にさらに音楽活動ができる。
それだけを心の支えに、生きよう。
――この最悪な家で。
「おはよう」
「えぇ、おはよう」
一学期最後の日。私はウキウキ気分で登校した。
なんせ今日が終われば夏休みなのだから、ワクワクしないわけがない。
――夏休み。それは学生にとって待ち望んだ、喉から手が出るほど欲しいものだ。
私とて例外ではない。
「花奈っちー!」
校門をくぐったタイミングで折香が後ろから話しかけてきた。
私が振り向くや否や折香はスマホの画面を見せてきた。
そこにはあの日の私達が映し出されていた。
楽しそうにラップをする来夢と百瀬ビート。あの時は本当に楽しかった。
「この動画! バズってるよ!」
折香が指さした場所には、♡八万五○○○と表示されていた。
「万バズだよ、万バズ!」
その♡の数は今もどんどん上昇している。
バズった。
私達が。
「折香……私達、有名になった?」
「なったよ! 有名人だよ!」
やった。これならあの両親も認めてくれるかもしれない。
私達はこのことを来夢に伝えるべく教室へ急いだ。
教室はもう夏休みムード一色だ。皆浮かれている。
「あれ? らいむんまだ来てないんかな?」
来夢の席はまだ誰も座っていなかった。そんなやり取りを教室の入り口でしていると、背中をコンと小突かれる。
少しビクッとして振り向くと、眠気眼でこちらを見つめる来夢がいた。
「ゴーレムか何かなの?」
「おっ、らいむ~ん!」
「わたしへの当てつけと受け取ってよろしいかしら……」
折香が来夢をぎゅうっと抱きしめる。
来夢は折香の豊満なバストに埋もれ、そんなことを呟いていた。
「ねえらいむん、らいむん達万バズしてるよ!」
「まんばず……?」
来夢は聞きなれない言葉に首をかしげていた。
「有名人ってことだよ!」
「ど、どういうこと……?」
折香のスマホをいぶかしげに見つめる来夢に折香は説明をした。
「つまりあの大会のわたし達のステージがSNSでたくさんの人に見られてるってこと?」
「そう! そういうこと!」
折香が興奮気味に言う。
ふと教室を見渡すとクラスメイト全員が私達に注目していた。
「ねぇ、これっと太宰さんと芥川さん……だよね?」
そう言ってクラスメイトは折香が見せてきた画面と全く同じものを私達に見せてくる。
全員の眼差しが私達に集中する。
「そうよ、私達よ」
私がそう答えるとクラス中がワァっと沸き立つ。
それから「すごいね」や「意外だった」など多くの意見が寄せられ、このクラスだけフェスの会場のようになっていた。
と、ガラガラっと音を立てて教室のドアが開く。
「お前らうるさすぎだぞ……職員室まで声が届いてたぞ!」
東野先生がご立腹の様子で教室に入ってきた。
いつも始業ギリギリなのに今日は十分も早い。
「あれ? 先生今日ははえーじゃん」
「お前らがうるさすぎるんだよ!」
「先生これ見たぁ⁉ 太宰と芥川の動画!」
「あー見た見た。っていうかあたしその会場いるし」
その発言には、私含めクラスメイト全員が驚きの声をあげた。
「あ、それと今日転校生来るから」
そのセリフにクラスメイト全員がさっきよりも大きな声をあげた。
放課後。と言っても午前中だからあまり放課後という感じはしない。
私達”四人”はいつもの空き教室へ向かった。
私、来夢、折香、そして百瀬ビートの四人だ。
なぜ百瀬ビートがここにいるのか。それは二時間ほど前に遡る――。
「どーも! 転校生の百瀬ビートです! よろしくぅ~!」
私はHR中開いた口がふさがらなかった。
漫画顔負けの展開だ。
仇敵が転校生でしかも同じクラス。なんだ、ラブコメでもはじまるのだろうか。
「あ! あなたたちは⁉」
私が開いた口をなんとか閉じようと奮闘していると、案の定というか百瀬ビートが私達を指差して叫んだ。
その叫びでクラスメイトは気づきはじめる。
目の前の彼女が私達と一緒に映っていた百瀬ビートだということに。
「で、なぜあなたはついて来ているのかしら?」
いつもの教室の鍵を開けながら私は百瀬ビートに訊く。まぁ大した答えは期待していないが。
「えぇ? だっておもしろそうじゃん」
「まーおもしろくはあるよねー」
と、折香がそれに応じる。
違う違う。そういう反応はマズい。
「だよね! だよね! っていうか君、なんか見たことあるような……」
と、百瀬ビートが折香の顔を覗き込む。
「思い出した! 君、インフルエンサーのリカでしょ!」
聞きなれない言葉が百瀬ビートの口から発せられる。
リカ? 聞いたことないが。
そう思って私は折香の方を振り返る。
「え、あ、えっと……」
折香は絵に描いたように目を泳がせていた。
「髪色とメイクの系統違うけどやっぱそうだよね!」
百瀬ビートはそう言ってスマホを操作しだす。
そして画面を見せてきた。
そこには、黒髪で儚げな雰囲気を纏った女性が映し出されていた。
サラサラストレートヘアーに狐目と呼ばれるような切れ長の綺麗な目、シックなドレスに身を包んでいるその女性は私達よりいくつか年上に見える。
しかし折香の方を見れば百瀬ビートのスマホを取り上げようと躍起になっている。
折香の反応をみるに百瀬ビートの言っていることは本当なようだ。
それにしても、うーん。
面影ほとんどないじゃないか。
ザ・ギャル。な折香からは考えられないほど清楚な彼女をまじまじと見ていると、来夢が覗き込んでくる。
そして何も言わず折香の全身をジィっと見回す。
そして首を傾げた。
わかる。わかるぞ。
私はそう思いつつ教室へ入る。
三人もそれについてきて、とりあえず適当な場所に座った。
「で、どうしてここへ?」
私は話を仕切り直し、再び百瀬ビートに訊いた。
話が逸れてホッとした折香も百瀬ビートになおり、問うた。
来夢は何も言わないが分厚い眼鏡の奥からジィっと百瀬ビートを見つめていた。
私達に見つめられ、はぁと息を吐き百瀬ビートは口を開く。
「君たちと一緒にラップがしたいんだ」
「わたしたちと……?」
意外にも一番早く反応したのは来夢だった。
「あの時、今まで感じたことのない高揚感を得た。僕はもういちどあの感覚を味わってみたい」
まっすぐな目で彼女は言い放つ。
その気迫に少し気圧される。
端正な顔立ちの彼女の真面目な顔を見ていれば、彼女の言葉が本心か否かはすぐにわかった。
私は二人に目線を送る。
答えは三人一緒のようだ。
「えぇ。歓迎するわ、ビート」
「もちもち! ももちゃんって呼ぶね!」
「昨日の敵は今日の友……」
私達は彼女に手を差し伸べた。
かくして私達は四人組のチームになった。
夏休みに突入してから一週間。
私、いや、私達は堕落しきっていた。
夜通し通話をして、朝方眠りにつく。そんな生活をこの一週間送っていた。
そんな生活の中でも不思議と課題は片付いており、気づけば残りは読書感想文や自由研究などの一般的なめんどくさいもののみとなっていた。
私はしょぼつく眼をゴシゴシと擦り、顔を洗いに下へ降りる。
「花奈、夏休みだからって気を抜きすぎじゃないかしら」
時刻は十四時。キッチンに立つ母にそう言われる。
返す言葉もない。
私は何も言わず洗面所へ向かった。
顔を洗ってさっぱりした私はとりあえずめんどくさい課題その一を終わらせるべく部屋に戻り外へ出る準備を始めた。
外に出ると太陽が容赦なく私に紫外線を注いでくる。
せっかく白いワンピースを着てきたというのに背中が汗でびしょびしょになってしまう。
日焼け止めを塗ってきたはいいものの汗ですぐ流れ落ちそうだ。
私は肩掛けカバンを肘でグッと抑え、目的地へ急いだ。
私はまるでお城のような日本家屋にたどり着いた。天守閣にあたる部分の主張が激しめで金のしゃちほこの代わりに金の鳳凰が翼をバサッと広げている。世界観がごちゃ混ぜだ。
門の隅にあるやけにハイテクそうなインターホンを押すとピンポーンと甲高い音が閑静な住宅街に響く。
『はーい』
インターホンからお年寄りの柔らかな声が発される。
「太宰花奈と申します。来夢さんはいらっしゃいますか?」
『らーちゃん、お友達だよぉ』
『あぁ、ねぇおばあちゃん、家に上げてもいい? 友達』
『もちろん。じゃあなにか美味しいものつくらないとねぇ』
そんな会話がインターホン越しに聞こえる。
『あ、今、門開けるね』
来夢がそう言うとガーっと音を立てて門が開く。ハイテクだ。
「おじゃましまーす……」
家の中は築何年だろうか、今の時代から軽く百年は前につくられたような雰囲気を感じる。
足を動かせばギシっと床が軋む。
「こっち」
来夢に連れられ階段を上る。
その先にある扉を来夢が開ける。
次の瞬間、壁一面にギッシリと詰められた本とエアコンの涼しい空気が私を出迎えてくれた。
「おぉ……」
その圧倒的な光景に思わず声が漏れる。
ベッドの横にはサイドテーブルと間接照明が置かれておりオシャレな雰囲気を醸し出している。
そんな部屋に入ると来夢が本棚からいくつかの本を取り出してきた。
「あ、まだ早いか」
しかし来夢はそう言って私に本を見せずサイドテーブルにポンと置く。
私は不思議に思いながらも来夢の誘導で部屋の真ん中に座る。
白のフカフカのラグがなんとも心地よい。
――ピンポーン
唐突にチャイムがなり私の肩がビクッと震えた。
「折香とビートが一緒に来てる」
来夢の部屋からはちょうど外の門が見えるようで、カーテン越しに来夢が二人を発見したようだった。
少しすると折香とビートが部屋に入ってきていつものメンバーが勢揃いする。
「おっひさー!」
「対面では一週間ぶりだね」
二人と話しているとコンコンと部屋のドアが鳴る。
「らーちゃん入るよぉ」
来夢のおばあちゃんの声がしてドアが開く。
その手にはお茶と結構でかめのみたらし団子が人数分お皿に盛られていた。
「あ、おじゃましてまーす!」
「ってか団子おいしそー! 食べていいんですか?」
「もちろんだよ。らーちゃんに友達なんておばあちゃん嬉しくってねぇ……」
そう言っておばあちゃんは机に団子を置く。
私達はいっせいに団子に手を伸ばす。
もちもちの食感に甘じょっぱいたれが口いっぱいに広がる。串につき三つ団子が刺さっているので最後の団子も無理なく食べることができる。
「おいしかったー!」
「それは良かった」
おばあちゃんはニコニコと笑いながら言う。
私達がお茶をいただいている間におばあちゃんは部屋を後にし、私達は本題に入る。
「そうだ、あーしらが今日ここに集まったのって読書感想文の本をらいむんに決めてもらうだった」
「あ、そうだったわ。団子がおいしくて忘れてた」
すると来夢も待ってました! と言わんばかりの表情でサイドテーブルの方へ向かう。
「これ、これ!」
ふんすふんすと来夢が私達に本を渡してくる。
きちんとブックカバーがかけられていて来夢の性格を表している。
ふと本棚に並ぶ本を凝視してみるとその全てに透明のブックカバーがかけられていた。
「おぉ、これがあーしらに合う本……」
私が渡されたのは太宰治の人間失格だった。
パラパラとめくれば文字の羅列が流れる。特別読書が好きな人間以外はこの文字の羅列を見ただけでめまいがするだろう。
隣の二人は見事に頭を抱えていた。
私は再び本に視線を戻す。
今後一週間はこの本と生活を共にするのだろう。そう思うとなんだかかわいらしく見えてきた。
「あ、そうだ。この前話した夏祭りの件なんだけどさ」
折香がスマホを操作しながら言う。
その瞬間、話題はその夏祭り一色になった。
夏祭りといっても地元の夏祭りに遊びに行くのではない。私たちにその夏祭りでパフォーマンスをしないか、と依頼がきたのである。
日時は八月二十日の夜五時。私たちはもちろん快諾した。
そして新曲、チーム名を引っさげて登場してやろう。と話が固まっていた。
すこし前では考えられないことだった。
来夢と出会って、折香と友達になってビートと戦って。それを経てこの結果に至ったのだ。
皆やる気は十分だった。
新曲はどういう系で行こうか、チーム名はどうしようか。
そんな話を日が暮れるまでした。
橙色の陽が窓越しに私たちを照らす。
透明なブックカバーが陽を反射し部屋中がオレンジ色に染まっていた。
「あー、楽しみだねー!」
「僕、夏祭りって初めて行くよ!」
「わたしも久しぶりに行く……」
三人はそんなことを話し、笑いあう。
――楽しいな。
心からそう思える初めての夏休みだった。
三人が帰ってこの部屋がすっかり静かになってしまった。
時刻は夜八時。夏休みならまだまだゴールデンタイムだ。わたしは最近お気に入りの曲をかけて本を眺めていた。
こんなに部屋が静かに感じたのはいつぶりだろうか。
家の工事がやっと終わった時以来だろうか。
――会いたいな。
さっきまで会って、話していたのにもうそんなことを考えている。
意味もないのにスマホの画面をつけたり消したり。
四人が入ったグループラインの通知を探す。
「らーちゃん、お風呂はいいのー?」
「入るー」
おばあちゃんの声で一気に現実へ引き戻される。
着替えを持って部屋を出るとモワっとした熱気が私を包む。夏はこれだから苦手だ。
はやくシャワーを浴びてさっぱりしよう。
私は浴室へ急いだ。
八月十日。夏祭りまで残り十日。時刻はお昼十二時。
わたしとビートはわたしの部屋で夏祭りライブのリリックの最終チェックをしていた。
「そうそう、夏祭りっぽい乗り方でさ」
ビートにそう言われ、わたしの頭の中に祭囃子が思い浮かぶ。
チャンチャカチャンチャカ鳴っていて月明かりの下、太鼓の音と共にその周りをくるくる回る。
わたしは再びリリックを口ずさむ。今度は夏祭りっぽく。
「うんうんいい感じ!」
ビートが親指を上げて頷く。どうやらあっていたみたい。
――ピーンポーン
と、家の中のインターホンが鳴る。
「おっじゃましまーす!」
「ちょっと遅刻してなーい?」
「メンゴメーンゴ!」
折香は手をパンと合わせながらそう言って両手にある大きな荷物を置く。
アニメに出てくる爆弾並みのサイズのそれは非常に重量がありそうで、意外に折香に体力があることが伺えた。
「ってか外暑すぎ~! 人類滅亡待ったなしでしょこれー!」
折香は物騒なことを言いながら胸元をパタパタと仰ぐ。汗がつぅっと谷間に吸い込まれるのが見えてわたしは咄嗟に目を逸らした。
わたしが目を逸らしたのに気づいた折香はずいっと顔を近付けてくる。
「どしたの? なんかついてる?」
「い、いやぁ、なんでもない……」
わたしは言葉を濁しつつ折香の持ってきた服を手に取る。
どれも質感がよく手触りが気持ちいい。一発でいいものだと分かった。
「お、それ気に入ったん? 着てみなよ」
折香がはわたしに言う。
しかしどれも柄が派手でわたしには似合わなそうだ。似合ったとしても馬子にも衣裳というやつになるだろう。
わたしは首を横に振った。
「えー、せっかく持ってきたのにぃ? 着よーよ着よーよー!」
折香はわたしの反応を一蹴しいくつかの服を見繕ってわたしにバンと渡してきた。
ビートも乗っかってきて断るに断れない雰囲気だ。
ギャルというのは雰囲気作りがうまい。物語の中でもギャルが一人いるとその作品の雰囲気ががらりと変わる。
「着ればいいんでしょ、着れば」
結局わたしは根負けし着替えることになってしまった。
わたしは部屋の片隅でカーテンを閉めた。
黒を基調にホログラムで花柄が浮かび上がる和服のような洋服に袖を通し鏡をじっと見てみる。
驚異の似合わなさに自分で自分に苦笑いをしてしまう。
「着れたー?」
そんなことをしていると外からわたしを呼ぶ声が聞こえた。
出ていく勇気などこれっぽっちもないが渋々カーテンを開ける。
「お、いーじゃん!」
「っぱ似合うね! 和服っぽいの」
「……え?」
想像していない反応におもわずまぬけな声が漏れる。
「あとはちゃちゃっとメイクすれば……」
「ヘアメイクもやらないとね」
呆気にとられるわたしをよそに二人で勝手に話を進めている。
まあこういうオシャレやらメイクやらはさっぱりだから二人に任せる方がいいか。
わたしはそう納得し着替えるためにもう一度カーテンを閉めた。
「ってか花奈っち遅くね?」
カーテン越しにそんな声が聞こえた。
今日は八月十日。
本来なら私は今、来夢の家にいる予定。のはずだった。
しかしどうも今のトラックに納得がいかない。
いまだ髪はぼさぼさでパソコンの前で画面とにらめっこをしている。
――カチッ、カチッ
マウスのクリック音が部屋に響く。
わたしはヘッドホンを装着し音を聞いてみる。
祭囃子をイメージした和太鼓や笛、鉦鼓を用いたアップテンポのトラックがヘッドホンから流れ出す。
いいとは思う。和太鼓がリズムを作り迫力を出す。笛でメロディーを、鉦鼓をアクセントに。
ト、トントトン、トン、ト、トントトン、アソーレ。
でもなにかが足りない。
なにか明確なピースが足りない。
――ピコン
と、パソコンの画面に通知が表示される。
折香からの連絡だった。内容は今日の集まりに関して。
わたしはアプリを開き「少し遅れる」とだけ返しアプリを閉じた。
と、さきほどの通知音がなぜか頭から離れない。
――ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン。
これだ!
私はすぐさま通知音に似せた音を作った。
そしてそれをさきほどのトラックに組み込んでみる。
ト、トトン、ピコン、トン、トトン、ト、トトン、ピコン、トン、トトン、アソーレ。
うん。我ながら気に入った。
自然と口端がニヤリと上がる。
私はすぐさま音源データをメモリに移しぼさぼさの髪をととのえるために洗面所へ向かった。。
その足取りはいつも以上に軽かった。
――ピンポーン
インターホンが鳴り響く。
「お、花奈っちかな?」
折香が言う。
インターホンの画面を見てみると花奈がはやくなにかを見せたそうにうずうずしていた。
「聞いて聞いて聞いてー!」
バン! とドアを開けるなり花奈は大声でそう言いながらわたしの部屋に入ってきた。
普段の花奈とは比べ物にならないほどはっちゃけているその姿にわたしとビートはおろか、あの折香でさえすこし腰が後ろに引けていた。
「すっごいピッタリなトラックができたの!」
花奈はそう言ってわたしの部屋に置いてあるパソコンにUSBメモリーを挿す。USBメモリーの中に入っている音源を再生しはじめた。
ト、トトン、ピコン、トン、トトン、ト、トトン、ピコン、トン、トトン、アソーレ。
祭囃子みたいな音楽に電子音がミックスされたような音源がパソコンから響く。
隣の折香、ビートはうんうんと頷いている。しかしわたしはなんかしっくりこなかった。
「どう? どう? いいよね!」
「うん。うちはすげー好み」
「僕もいいと思う」
三人はうんうんと頷きおのおの好きな部分やリリックをどうしようかなど話していた。
そんな会話に入れるはずもなく、わたしはただただ聞いた音源を頭の中でリピートしながらしっくりこなかった部分を探していた。
と、折香が「らいむんは?」と話題を振ってきた。
「わ、たしは……しっくりこなかった」
「え?」「お?」「へぇ」
三人が一斉にわたしの方を向く。
その表情は、意外だったというようなものや怪訝な表情等様々だった。
なかでも花奈はわたしのセンスを疑うような目でわたしを見てきた。
「わたしはステージを観てる人に私達に夢中になってほしい」
「それが?」
「なのにスマホの通知音はふさわしくない」
「……私の希望は無視?」
「ステージの魅力の方が大事……」
わたしは花奈の瞳をじぃっと見つめながら言った。
「ちょ、ちょっと二人共……!」
「そんな怖い顔しないでよ」
わたしと花奈の雰囲気が金悪になったことを察したのかビートと折香が割って入ってくる。
折香は花奈を連れてコンビニに行くといって部屋を後にした。
部屋にはわたしとビートの二人だけとなった。
沈黙が流れ、空気が重い。
わたしだって悪いことを言ったと思う。でもそれはよりよいステージにするためには欠かせない意見だ。
「来夢、僕はさっきのことうれしかったよ」
ビートが口を開く。
重い空気をじりじり進むようにゆっくりな口調で。
「ああいうことを言うってことはそれだけラップに本気ってことだもん」
「本気……」
ビートに言われて気づいた。
わたしはこのラップというものに魅了され、本気になって取りくんでいる。少年が野球に夢中になるように、画家が目の前の作品に命をかけるように。
わたしもそんな風にラップに真剣になっている。
だからああいうことを言ってしまたのか。
ビートに言われて腑に落ちた。
「わたし、ラップが好き。だからステージをより良いものにしたい」
「そうだね。でもその気持ちを押し付けるだけじゃチームとは言えないんじゃない?」
そう言ってビートは続ける。
「僕たちは友達でありチームだ。自分だけの意見ではチームは成り立たない。大事なのは協力だよ」
協力、と言ったビートの表情は少し暗い気がした。
しかし協力とな。
生まれてこのかた協力なんてせいぜい学校の運動会や合唱祭くらいだ。
わたしにとって協力とは宇宙のブラックホールに入ってみることくらい未知の世界だ。そんなことが果たしてできるだろうか。
「来夢? どうかしたの?」
ビートの声でハッとして意識が脳内から現実へ戻る。
「あぁ、なんでもない」
「そう。で、これからどうする?」
ビートはベッドにダラーンと身を預けながら言う。
花奈を追うか、それともなにもせずここにいるか、ということだろう。
わたしは窓の外を見つめた。それでなにかなるわけでもないのに。
スッと立って窓に手をかける。
いつの間にか日は傾き、太陽が眠りこけている。
わたしが悩んでいるというのに呑気なものだ。
「わたし行くよ。このままおわりなんて嫌だもん」
わたしの宣言にビートはニコッと笑う。
「うん。その言葉待ってた」
茜色がさす部屋を後にしてわたしたちは外へ飛び出した。
その時の風は追い風でなんにでもやれそうな気がした。
「ちょっと花奈っち! 待ってってば……ぁ!」
走る私の腕を折香が掴み、強制的に私のあしが止まる。
コンビニに行くために外に出たわけじゃない。いつの間にか私は知らない道に出ていた。
「なによ、折香には関係ないでしょ」
「はっ……? 花奈それ本気で言ってんの?」
折香の声音があきらかに低くなる。
私の腕を握る力も強くなり、鋭い視線が私を突き刺す。
――やってしまったかなぁ。
心の中で少し後悔しつつ私は折香の手を振り払う。
「花奈、あなたは音楽制作にかかわっていないじゃない。それなのになんで私と来夢の問題に首突っ込んでくるのよ!」
「あーしだって二人の仲間じゃん!」
折香はそのままの勢いで続ける。
「あーしも、ビートも、もちろん来夢もみんな花奈の仲間じゃん!」
私は何か言い返そうと口を開いた。
けれどなにも言えなかった。
その瞬間、なぜだか胸の中に劣等感が押し寄せてくる。大陸が移動している時の波のように。いや、それ以上。
気がつけば私の顎からピチャンと雫が落ちた。
「折香……私……」
「花奈っち、あーしは花奈っちがなに背負ってるか全くわからないけどさ、今はみんなで一つの目標に向かって突っ走ろうよ! 何もかも忘れてさ」
空は暗くなり、私の顔は折香には見えない。それが本当に運のいいことで、私のことをこんなにも思ってくれる友達がいることも本当に運のいいことだ。
「ごめん私、自分のことしか考えてなかった。来夢ともう一度話してみるよ」
私は折香にそう伝え、今来た道を戻っていった。
「花奈……!」
「来夢!」
わたし達の声が重なる。
空はすっかり暗くなり、わたしの視界を導いてくれるのは街灯のみ。
しかし彼女を映し出していたのは宙に浮かぶ月の明かりだった。
彼女の目元を雫が伝い、キラキラと輝く。
それはそれは、月が綺麗だった。
「来夢、私……!」
彼女の目がわたしをまっすぐ見つめる。
「ごめんなさい! 私、自分勝手だった!」
花奈はそう言うと深々と頭を下げた。最敬礼、いや、それよりも深かった。
「花奈……頭を上げて」
「来夢、あなたのことを全く考えてなかった。私は自分のことしか……」
「わたしの方こそごめんなさい。自分のことで精いっぱいで……」
ふと、昼間のシーンがわたしの頭の中に浮かぶ。
言い争いをしてお互い引き下がらないで。終数時間前のことなのに今ではとても馬鹿らしく思える。
「ふふ、仲直りできたじゃん」
「ね、いいコンビじゃん」
後ろからそんな声が聞こえる。
「ふったり共! まだ曲できてないぞ~?」
折香がわたし達をうしろから抱きしめ、そう言った。
「そうね。戻りましょうか」
頬に煌めく涙をぬぐい、花奈はそう言った。
これがわたし達の新たな門出になるような気がして、帰りの足取りはさながらレッドカーペットを歩いているようだった。
明日は夏祭り当日。私は自室のベッドに寝転がり物思いにふけっていた。
来夢に出会い、折香に出会い、そこそこ大きい大会で優勝して、ビート友達になって、そして大衆の前でパフォーマンスをする。
大会よりも規模は小さいけど、大会よりも手ごわい舞台。
興味を持ってくれている人間がいるのかすらわからない中でのパフォーマンス。緊張なんてするにきまってる。
でもそれはみんな同じ。
そして私の決意の日。
私はベッドから起き上がり部屋の鏡を見た。
自分では特に良いと思ったことのない顔を見つめる。でもこの涙黒子は少し気に入っている。
後ろに振り返り部屋に唯一置いてある家族写真を見つめる。
写真に写る小さな自分は泣いていた。お琴の発表会でヘマしたのだ。思えばあのころから両親の音楽に嫌気がさしていたのかもしれない。
自分の音楽を親に認めさせる。この夏祭りで。
それには聴かせなければ。自分の音楽を、自分たちのラップを。
――両親に。
私は部屋を出て両親のもとへ向かう。
運よく今日明日と仕事が休みなので帰ってきている。きっとリビングで晩酌でもしているだろう。
「お父さん、お母さん」
私はドアを開けると同時に二人を呼んだ。
二人はこちらを向くと、珍しいといった感じで私を見つめる。
「明日、近所で大きな夏祭りがあるじゃない? それに来てほしいの」
「夏祭り? なぜだ」
「私……そこで音楽のパフォーマンスをする」
私がそう伝えた瞬間、部屋の空気が重く冷たくなるのを肌で感じる。
「パフォーマンス? なにのだ」
「ら、ラップの……」
どうしてだろう。何も悪いことはしていないはずなのに、声が小さくなってしまう。
こんな投資ではだめだ。
私は心の中の自分を叩き震わせる。
「ラップのパフォーマンスをするの! 二人が言う音楽よりもすごいってわかせるために! じゃ、おやすみ!」
私は勢いのままに言ってその場を後にした。
もうなるようになれ! そんな気分で部屋のベッドに潜り目を閉じる。
視界の暗さはやがて世界の暗さへと成っていった。
朝日のまぶしさが容赦なく私の目を焼き、私は目が覚めた。
昨日の夜カーテンを閉めなかったせいだ。
私は仕方なく体を起こしカーテンを閉める。時計に目をやると十時をすぎるくらいだった。
ふわぁあとあくびをつかみながら洗面所で顔を洗い目を完全に覚まさせる。
覚醒した私の脳にはタイムリミットが表示される。
待ち合わせは十三時。今は十時。
――時間がない。
大慌てでスキンケアを終わらせ部屋で寝間着を放る。下着は勝負下着というやつにした方がいいかしら。なんて考えつつがん掛けのつもりで持っている中で一番派手でレースがついたものにした。着替えもあるしね。
急いでメイクを済ませ着ていく服を選ぶ。衣装に着替えるのであまり関係はないが悩んでしまう。
結局少しオーバーサイズのシャツにショートデニムという様相に落ち着いた。時刻は十二時。時間というものはなぜこんなに早いのか。
歯磨きを済ませ私は急いで家を出た。
家で朝ご飯を摂る気にはなれなかった。
「「「花奈~!」」」
夏祭りが行われる神社へ着くと三人がわたしに向かって手を振る。
会場はこの辺では有名な神社とその向かいにある河川敷だ。都会のど真ん中だというのに不思議な場所で神様が残してくれた自然なのでは、と感じる。
「花奈っちギリギリ~」
「珍しいね、こんなギリギリなの」
「まぁ間に合ってるんだしよくない?」
と三者三様の反応で私を迎え入れるのは私の仲間たちだ。
「ごめん、昨日なかなか寝れなくて」
と言い訳をし、私は三人の輪の中へ入る。
三人ともいつもより気合の入った服装だ。
折香はいつもよりタイトめな白シャツに丈が短いブルゾンを羽織っている。メイクもきりっとしていてお姉さんといった雰囲気だ。
対してビートはメンズライクな恰好で大き目なジャケットやカーゴパンツを履いている。
そして来夢はというとかわいらしい雰囲気を纏っているが胸元が大胆に開いている。
「来夢……その服どうしたの?」
「暑かったから」
この子は私が守らなければ。
私は来夢の前に立ち人目にさらされないようにする。
「はやく衣装に着替えましょう」
「え、でもまだ」
「いいから」
私は半ば強引に来夢を更衣室へ押し込んだ。
日も傾いてきた雀色時。私達はお祭りを満喫していた。
「釣れた!」
「らいむんヨーヨー釣りうまぁ⁉」
「へへ、おばあちゃん直伝」
折香と来夢はヨーヨー釣りや射的などアトラクション系。私とビートは焼きそばやりんご飴を堪能した。
「ん、もうすぐ時間ね。みんないくよ」
スマホの画面を見て私は三人に言った。
楽屋に入ると衣装がずらっと並ぶ。
「衣装こういう感じなんだ~」
ビートはそう言いながら衣装をヒラッと捲る。
スパンコールが煌びやかにひかる着物風の衣装だ。
私のはピンク色を主体に黄色の差し色が入っている。全員の衣装が同じ形のものだとチームだと目に見えて分かってなんだか気分が良い。
「折香のはないの?」
「あーしはステージに出ないし……」
衣装は全部で三人分。折香の分はなかった。
それに気づいた来夢は折香に訊いた。それを聞いた折香の顔はすこし陰ったように見えた。
すると来夢が衣装のリボンを折香の腕に巻く。
「これで一緒、だね」
来夢はぎこちない口ぶりで折香に伝えた。
それを見た私とビートも折香の腕にリボンを巻く。
「僕達はチームだよ」
「仲間外れなんて許さないわ」
「みんな……ありがと!」
折香はにっこりと笑って私達をぎゅうっと抱きしめた。
と、スタッフが時間になった旨を知らせてくる。
「もう……か」
「ほら、行ってきなって! あーしも最前で見てるからさ!」
折香はそう言って楽屋を後にした。
外には多くのギャラリーがいるのが楽屋からでも見える。こんなにも多くに人が私達を待っているのか。そう思うと少し緊張が高まる。
と、私の視界にある人物が映る。
それは私の心を鼓舞するのに十分すぎるものだった。
私は二人の方を向いて言う。
「来夢、ビート絶対成功させるわよ」
「当然!」
「わたし達の音楽で、耳目を集める。やろう……!」
私達は視線を合わせ頷く。
「行こう!」
私はそう叫び、ステージまでの階段を駆け上がった。
「こんばんは! 私達の音楽、聴いてってください!」
開口一番私はそう叫んだ。
ステージに現れた私を見て口を大きく開けている両親に向かって。
私はDJブースに到着しビートを流す。
祭囃子に電子音をミックスさせたビートだ。
あの日来夢と二人で完成させたビート。これがあれば何でもできる気がする。
「お、お願いします!」
「みんなー! 盛り上がろー!」
照明が赤、黄色にチカチカ点滅し、二人を照らす。
《 わたしをテラスは
赤
光
黄
したり顔で 会場見下ろす→
愛想 振りまいてるだけじゃダメなの
り
か
時には 明 ダークに
の
夜
て
立
し 調子いい奴は早く立て
や
祭囃子では
リ
縦ノリ ノ 併せ呑み
横
とことん 踊れビートの上 》
[ ビートの上で ライム吐く
スパンコールでひかる プ
僕らのッ
ラ
皆聞かせてコール!
セイHoooooo! ]
ビートが叫ぶ。すると客席から「Hoooo!」と声が上がる。
こういうことは来夢にはできないから助かる。
ビートはさらに観客を煽る。
スポットライトも様々な色にかがやき、縦横無尽に動く。月まで光が届きそうな勢いだ。
[ く っ
ら としちゃう 会場の熱気
れっきとしたこれは ジ
の|
らテ
僕ス
アイムビート 来夢をリード
上
ヒートアップした 台
舞 回すは花奈
花火なんて めじゃないでしょう?
まだまだみんな 盛り上がろう! ]
会場はさらに熱気を増していく。
私は視線を観客に向け両親を探した。
どこにいたっけ……。
と、奥の方で腕を組んでいる両親と目が合った。
そのまま父は私をじっと見つめ、睨む。
まだ、まだ認めてはくれていない。
《 子
囃と太鼓
祭
太古の昔からみんなの「心」
掴んで
離さないそんなところ
に
それが今 僕らの 楽
音
し 悪だくみ
ト
ク 巧みなフロウでみせる
タ 技
ン の
コ 匠
今日はわざわざありがとさん
こっから打ち上げる花火を
Banーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!》
ビートが手を銃の形に見立て天に掲げる。
そして、「Ban!」の合図と共に空に綺麗な花が咲いた。
それと同時にステージからボン! とカラーテープが発射され、スポットライトが私達を照らす。
ワアァァァァァァアアッッッ!!!
歓声と拍手が私達を包む。
両親もパチパチパチと拍手をしてくれていた。
ふと、折香の方を見るとグッ! とサムズアップをしていた。
私達は観客にお辞儀をし、そのまま舞台上を後にした。
「みんなー、めちゃくちゃよかったよー! もうさいっこう!」
楽屋に戻ると折香がいた。
それから興奮気味に先ほどのステージの感想を喋る折香。スパンコールが最高だとか、ラップもビートもすごいノれたとか、最後の花火がすごかったとか。
二人も最後の花火にはビックリしたと語っていた。
私もあれには驚いた。あれは演出ではなく完全な偶然だった。
外ではすでに花火の弾幕が空を覆っている。
ヒュ~……ボン!
また咲いた。
外の人たちの注意は既に花火に移っていることだろう。
「花火すごいね。音」
「僕はじめて見るかも。本物の花火」
「なら外でよ! あーし絶景スポット知ってんだ~」
そう言って折香はビートを連れ出した。来夢もそれを追うように外へ出る。
私も外へ出て、三人とは別の方向へ進む。
「――お父さん」
私は木の陰で座る両親の元へ向かった。
少しの沈黙が場を支配する。
「……良かった」
父は小さく言った。
――良かった。たしかにそう言った、私の鼓膜が私の脳に教えてくれた。
良かった。「良」という言葉には優れている、好ましいと言った意味がある。つまりはそういうことだ。
「じゃあ……」
「あぁ、認めるよ。お前の音楽はいい音楽だ」
そう言って父は母と共にその場を後にした。
母は何も言わなかった。
「あれ? 花奈っちなんでこんなとこに? はやくいこーよ!」
私が二人の背中を見つめていると折香が私を呼んだ。
「うん」
私は小さく頷いて折香の方へ走る。
――ドンッ。
晴れた心に、花火の音が響いた。
――あの夜から一年。
「っしゃー! 今年も大成功だったね!」
「えぇ、みんないい顔してた」
「あ、来夢が笑ったー!」
「みんなといるとつい頬が緩んで……」
夏祭りの帰路、私達はそんなことを話しながら月明かりの下を歩く。
一年前は考えられなかった。
こんな夜に友達と一緒に入れるなんて。
「っしゃ、今日はあーしの家でパーティーしちゃお!」
折香はそう言うと私達の手を握る。
青春ってこういう感じなのかな。一年前の今日から私のすべてが変わった。
「花奈、早く行きましょう?」
「そうね」
来夢に手を引かれ、私は折香の家へ向かった。
折香の部屋に到着し、各々が好きな場所に腰を下ろす。
「いやー、ほんとにお疲れ様!」
折香がジュースを机に置きながら言う。こういうことがきちんとできるギャルだということはこの一年で身に染みて分かっている。
「一年前よりもパワーアップしてみんなバイブスブチ上がりだったね! 僕も気持ちよかったーっ!」
ビートはそう言ってジュースに口をつける。
来夢も頷きながらジュースを飲んでいた。この一年、来夢はよく笑うようになった。クラス替えの時はワンワン泣いていて、結局みんな同じクラスだったのだけれども。
帰り道にカフェに寄ったり、クレープを食べたり、本当に楽しかった。
けれどそれももうすぐ終わってしまう。気がする。
私達ももう三年。それも夏休みだ。人によっては進路が確定している人もいる。
「……ねぇみんな」
それとなく聞けばいいものを、私はそれができない。
突然私がしゃべりだしたものだからみんな頭の上に疑問符が浮かんでいる。
喉まで声はでかかっているのに門が固く閉ざされていて声が通過できない。この先を言ってしまえばすべてが終わってしまう気がして。
「花奈……? どうかしたの?」
「なんか言いたそうだけど」
「み、みんなはさ……進路とか決まってる?」
言った。私は言ったぞ……!
と、みんなの顔を見渡してみるとキョトンとした顔をしている。そして顔を見合わせドッと笑った。
「あははは! 花奈っちぃ、それマジで言ってるの―⁉」
「もしかして難しい顔してたのって……ぷっ」
「何言ってんのさ花奈! 僕達はこれからも一緒に音楽やるでしょ!」
三人はそう言ってまたジュースを飲んだ。
なんだ、悩んでいたのは自分だけか。そう思って私もジュースを飲んだ。
花奈が進路についての話をしてきた。
わたしはこれからもみんなで音楽を続けていくと思っていたからまさか花奈があんな顔をするとは思っていなかった。
自分の部屋に帰ってきてパソコンを開いた。このパソコンはこの一年でわたしの部屋に仲間入りした新参者だ。いまだに操作やシステムが理解しきれていない。
わたしはパソコンに入っているとある曲を再生した。
ヘッドホン越しに鼓膜を揺らすそれを聞けば無意識に体が動く。
今では本だけだった本棚の一角をCDが占拠している。本当に音楽が好きになったんだとわかる。
高校生になりたての頃は普通の大学の文学部に進もうと思っていた。けれど今はどうだろうか。
わたしは本棚から本を取り出す。
パラパラとめくれば美しい文字達が情景を映し出す。小説というものは不思議で、文字列が目の前で世界を構築するのだ。声も、顔も不器用なところも全部、全部。
音楽は音にそれが込められている。
歌詞だけではなく曲に思いが込められている。それが好きだ。
わたしはこれからもみんなとラップをしていくだろう。しかし進路と言われるとどうだろうか。
さっきまではみんなとずっと一緒にいると思っていたのに、途端にそれの実現が不安になってきてしまう。
わたしはパソコンを閉じ、ベッドに身を預ける。
こういうことは一日置いて考えるとよい。そうしてわたしは目を閉じた。
――翌日。わたしは花奈の家を訪れていた。
「急にどうしたの?」
「昨日の進路のことで相談があって……」
そう、わたしは進路の相談を花奈にすることにした。わたしの人生を変えた人に。
わたしは花奈に文学の道に進みながら音楽を続けるか、音楽一本で生きていくか悩んでいると打ち明けた。
不思議にも緊張はしなかった。彼女はわたしを導いてくれるから。
「昨日、私が進路のこと話したから?」
バツの悪そうな顔で言う花奈に対してわたしは首を横に振った。
「違う……いや、たしかにそれを聞いてから考えるようにはなったけど、花奈のせいじゃない」
「そっか。――私はさ……これからも来夢とラップしたいよ」
やっぱり、花奈はわたしの――。
「でも――」
わたしがそう思った瞬間、花奈は言葉を重ねた。
「来夢はどうしたい?」
「……え?」
「来夢は、どうしたい? 本当はどっちをやりたいの?」
そう言う花奈の目は真剣そのものだった。
わたしは勘違いをしていたのかもしれない。わたしの人生を変えたのは花奈だと。花奈がわたしを変えてくれたんだと。
けれど違った。
人生は選択の連続だという。
それを選択するのは他の誰でもない自分自身なのだ。
目の前にある無数の道の中からただ一つを選び、進む。
ラップをする。という選択ももちろんわたしがした選択。
文学が好き、という選択もわたしが。
「……まだ、わからない。目の前の二つの世界がどっちも魅力的で、でもどちらも違う煌めきで」
そう。どちらも好き色の煌めきだった。
「私はみんなと音楽やりたいよ。でもそれと同じくらい、みんなが好きなことをして輝いている姿もみたい」
そう言われてわたしは、わたしのなかの何かが明確に光って見えた。
「ありがとう花奈」
わたしは花奈にそう伝え家へ戻ろうと荷物を持った。
「頑張ってね。来夢」
「うん」
そうしてわたしは自分の進路を決めた。
――三月。
今日は卒業式だ。
教室はしんみりした空気とわくわくした空気が入り混じり不思議な感じ。
私が教室の椅子に座っていると折香が教室に入ってくる。
「おっはよー花奈っちー! 卒業式楽しみだねー!」
いつもより派手なメイクに短いスカートの折香は満面の笑みで私にそう言った。
卒業式が楽しみというのはすこし理解しかねるがきっとイベントの一種だと捉えているんだろう。ギャルマインド恐るべしだ。
私は『そうね』と話を合わせ折香と談笑を楽しんだ。
彼女は友人が多いので私との会話は早々に切り上げほかのクラスに行ってしまった。少し寂しい。あぁ、これが卒業か。
と思っていると廊下にビートと来夢の姿を発見した。なんてタイミングのいい奴らだろうか。
私は席から立ちあがり二人の方へ向かう。
「ビート、来夢。おはよう」
「おはよー花奈。ねぇ聞いてよ、来夢が朝からべそかいててさぁ」
「べつにそんなんじゃ……」
「いやいや、泣いてたって」
「お口縫ってあげる……!」
と来夢がビートの口を手でぎゅうッとふさぐ。
「まぁまぁ、とりあえず入りましょう?」
二人は頷いて私の席へ向かう。
三年最後の席替えは自由に決められたので私たちは教室の後ろの窓側に固まっていた。二年から引き続き担任の東野先生には頭が上がらない。
「卒業式か。僕、日本の卒業式初めてなんだよね」
「アメリカにもあるの? 卒業式」
「まぉあるにはあるけど……日本みたいにピシッとはしてないね」
そう言うビートの顔はこれからの卒業式にわくわくしているようだった。
「そうだ! 日本には卒業アルバムに寄せ書きする文化があるんだよね⁉ 僕たちもやろうよ!」
ビートはそう言うとカバンから先日配られた卒業アルバムを取り出した。
「どこに書くの?」
アルバムを広げビートは私達に訊く。
私は自分のアルバムを広げて一番後ろの真っ白なページを開く。来夢も同じ場所を開いていた。
「ここに書くの」
「ここね。じゃあさっそく二人とも書いてよ! 僕このためにいろんな色のペン持ってきたんだ!」
ビートはカバンから結構な数のペンを取り出し机に広げた。よほど楽しみだったのだろう。
「みんなも寄せ書きしようよ!」
私達が書こうとしたタイミングでビートがクラスのみんなにそう呼びかけた。
するとたちまち私の席の周りは寄せ書きのためのアルバム交換会場へと姿を変えてしまった。
私のアルバムはたらいまわしにされ、私のもとにもクラスメイトのアルバムが回ってくる。
少し窮屈だがこれも卒業式の醍醐味だと思えばそんなに悪い気はしなかった。
とうちのクラスの騒ぎ聞きつけたのか折香が帰ってくる。帰ってくるなり『あーしもあーしも!』と自分のアルバムを広げていた。
そんなこんなで時間は過ぎ東野先生が教室へ入ってくる。
「お前ら席つけー」
先生から卒業式の注意事項等を伝えられ、折香はスカートが短すぎると指導されていた。まぁパンツが見えるぎりぎりを責めていたので仕方ない。
「よし、あと五分くらいで廊下ならぶから準備しとけよ」
先生はそう言って朝のHRは終了した。
少し時間がたって、私達は廊下に並び、体育館へ向かう。
なにもかもに最後という枕詞がつく。それはなんとも寂しいもので。隣を歩く来夢の方を見る。
来夢は下を向いて肩を震わせていた。
それを見て私は自然と彼女の手を握る。
泣き顔ではなく、笑顔で式を迎えられるように。
式が始まり生徒の名前を一人ずつ呼んでいく卒業証書授与がはじまった。いちおう練習はしているが本番となると緊張するものである。
来夢は最初の方なのでもっと緊張しているんだろうな。そう思うとなんだか緊張がほぐれてくる。
「芥川来夢」
東野先生が来夢の名前を呼んだ。
「はい……!」
透き通るような声で返事をし、来夢はその場に起立する。最初みた時とは大違いのその姿に目を奪われた。
隣に座る折香も『おぉ』と感嘆の息を漏らしていた。
その後、私、折香、最後にビートが呼ばれ各々卒業証書をもらう。本当に卒業するんだと改めて思った。
式も無事に終わり教室へ戻ると皆緊張の糸が切れふぅと息を吐く。
「いやー、ほんとに卒業したんだよねぇ」
「僕の返事変じゃなかった?」
折香はググっと伸びをし、ビートは自分の返事が気がかりなようだ。特段変なところはなかった旨を伝えるとビートはふぅと胸をなでおろす。
「よかったぁ……あんなところで失態は勘弁だったから」
そんな話をしていると東野先生が教室に戻ってくる。
「お前ら席つけー」
先生の号令で全員が席に座り、最後のHRがはじまる。
「卒業おめでとう。あたしはこのクラスを受け持つことができて幸せだった」
先生が感動的な話をし始めるのでみんな揃って涙を流す。私も例にもれずしっかり泣いていた。
だってずるいじゃん! こういう場でそういう話は!
「お前ら、あたしをお前らの担任にしてくれてありがとな! 元気でやれよ! よし、起立!」
号令とともに全員が椅子から立ち、礼をした。
これで私の高校生活は終わり。満足のいく高校生活だった。
「花奈っち、らいむん、ももちゃん、向こうの教室行かない?」
その提案に私達は頷いた。
二年弱前、空き教室をたまり場にして、学校でラップをやるとなると決まってここに集合した。
もうそれぞれに私物はないので殺風景だが匂いだけはまだ私達のものだった。
「なんだか最初のころみたいで懐かしい……」
来夢が椅子に座りながら言う。
「わたし、みんなと一緒にラップ出来てよかった」
「あーしも楽しかった!」
「僕も楽しかったよ」
みんながそうやって言うので私も同じように言う。
「私も楽しかったよ。あの時来夢を誘って、折香と一緒にステージを作って、その大会で出会ったライバルのビートが仲間になって。本当に最高だった!」
思えば奇跡のようなものだ。
来夢と出会わなければ、折香と、ビートと出会わなければ。まるで漫画のような奇跡が連続して今を作っているのだ。
「ねぇ、写真撮らない?」
折香の提案にみんな頷き、ぎゅうッと小さく集まる。
「いっくよー! はい、チーズ」
――パシャッ
シャッター音が響き、取った写真が画面に表示される。
「みんなかわい~!」
ちゃっかり加工された写真を見て折香が叫ぶ。
「あっそうだ、この写真公式SNSにあげていい?」
公式SNSとは私達四人のグループの活動報告場所のようなものだ。基本的にそういうのに強い折香が管理しており、仕事の依頼もそれを通して受け取っている。
あげても問題ないだろうと私は頷いた。しかし来夢は首を横に振る。
「だ、だったらもうすこし可愛く映りたい……」
その一言が可愛い。
出会った当初からは考えられない発言だがここ最近は来夢もこういうことを言うようになった。
折香にメイクを教えておらったり、みんなでコーディネートしたり、密かに進んでいた来夢可愛い大作戦のたまものだ。
「十分可愛いけどらいむんが言うなら、もう一枚撮ろっか!」
そうして今度は折香から角度やポーズの指導が入り、写真を撮る。その出来栄えは確かに先ほどのものより数段レベルアップしていた。
「らいむんはどう? これでいい?」
折香が訊くと来夢は満足そうに頷いた。
上目遣いでこちらを見つめる来夢はそれはもう可愛い。
折香に指導された影響かシャツのボタンを二つ開け、スカートは膝上に、瓶底眼鏡とおさらばしてコンタクトに変えた今の来夢は可愛いと言わざるを得ない。実際昨日後輩の男子生徒から告白をされたらしい。
「うん。満足」
「よし、じゃああとで投稿しとくね」
「ねぇみんな、やりたいことがあるんだけど」
来夢が言う。
ピシッと伸びた手と真剣な目には闘志の炎が宿っていた。
「みんなでラップ、してみない?」
その言葉に皆顔を見合わせる。みんなで、ラップか。
「あーしと花奈っちも?」
「うん。みんなでやりたい!」
「あーしはいいよ。花奈っちは?」
そこで少し考える。でも答えはすぐに出た。
「やる!」
そして全員がマイクを構えた。
《 あーしが 先頭 色
駆けてく閃光 イ ビ カ 光 でもいいっしょ?
ナ リ 蛍
あーしら一生一緒
ラップで世界を ! そ 返 り く っ ひ
しっくりくるよな このメンバー
会った時のことをここでリメンバー
ト どんな
ン 敵
ウ だ
カ ろ
ン う
エンカウント と
四人
の 四人 で ←
こ 四人 ←挑めばコンプリート!》
四人 ←
【 ¦¦¦¦¦¦ ☆♢☆♢☆♢
舗装されたコンクリート きらびやかな キングロード
¦¦¦¦¦¦ ☆♢☆♢☆♢
?
メ
誰の タ ♰ジャッジメント
ン ↓
エ カ
ン 何回目?
エ
勝ち抜く権争
覇抗
バトル上等
マイクと木刀
そして僕と
違うな僕たちと
ド
ン
食い込ェむ
ジ
レ
四つのエレメント
先導 セメント
ぶち込むセメント
決闘 セメント 】
[ 林山 わたし
風火 のターン
凛とした
林が言った
臨機応変に
グ ぶつける ↑
ンに←上がり 今日は ←誰に→微笑む
リ まにまに ↓
勝 利
の
女 神
的
誰もまねできないわたしのライム 倒スタイル
圧
嫌な奴はこの指で
プ
イ
ワ
ス ]
〔 目の前のクライム あかさたなスライム
あからさま韻踏む 私のスタイル
ル
台 バ 夜 ♢
様々な イ ♢煌めく サーバルキャット
舞 バ 闇 ♢
サ
バッドつける奴 中指立てる
る パ
け 全財産 つまり全 ッ
賭 ツ
スーパーなラップ ウォーミングアップ
ワールドマップ 塗り替えるマイク〕
私は吐きだした息をスゥっと吸い込む。
肺が酸素で満たされ、熱気に満ちた視界が少しクリアになってくる。
ラップをするのがこんなに楽しいとは……! 改めて実感した。
いつもDJをしているからか最近ラップをしていなかった。
「いやー、花奈も折香もウマいじゃん!」
「これからは四人でやってもいいかも」
と、ビートと来夢が言う。
「いやいや、あーしは柄じゃないって」
折香はそう言うと机の上にマイクを置いた。
「えぇー、結構いいと思ったのに」
「ありがとももちゃん。でも、あーしは演出に特化したいんだ。みんなをどれだけ魅力的に見せられるか、そこにあーしはノイズになっちゃうから」
うーん、プロだ。
と、来夢と目が合う。
「花奈もステージではラップしないの?」
来夢に問われる。きっと今の私がすごい楽しそうな顔をしているからだと思う。鏡を見なくてもわかる。
けれど私も折香と答えは同じだった。
「私もDJに特化したいかな」
「そっか、なら仕方ないね」
来夢がそう言ってマイクを置いた。それに続いて私とビートもマイクを置く。
さすがに高揚して少し熱かったので私は教室の窓を開けた。真冬の冷たい風がブワッと教室の中に入ってきてたまらず窓を閉めた。ちょっと寒すぎた。
外は何度だろうと思いスマホを開くと最高気温は一桁台だった。太陽は出ているのに風が寒いので今のことは当然の結果である。
「っー……外めっちゃ寒くね?」
折香はそう言って来夢にひっつく。それを見たビートは折香に引っ付いて、私もビートに引っ付いた。
「ねーみんな、これからも一緒だよね?」
「当たり前じゃん」
「わたしもそう思ってる」
「そうね。これからも……」
そう言って私達は一通り引っ付いた後教室を後にした。
下駄箱から靴を取り出して上靴を袋にしまう。もうこの学校に来ることはないからだ。
後ろに振り替えれば毎日上った階段が目に入る。これまでの学校生活が走馬灯のように頭の中を駆け巡っていった。
「花奈、行こ?」
「そうね」
来夢に腕を引かれ、私は学校を後にした。
――四年後。
世間はとあるグループの登場により熱狂の渦に包まれた。その名も『クワトロ』
それぞれ個性の違うボーカル二人と曲によって全く違うトラックをかけるDJ、そしてライブでの圧倒的な演出を武器としたラッパー集団である。
このヒップホップ全盛期に突如現れた期待の星との呼び声も高い。
そんな『クワトロ』が近々大きなライブを行うと発表し世間は大いに盛り上がっていた。
「ライブまであと一週間か……」
私、太宰花奈はライブ予定のドームのステージで折香と共に演出の最終チェックを行っていた。
高校を卒業してから私達はそれぞれの道へ進んだ。
私は両親に頼み込み和楽器の稽古を再開した。両親はひどく驚いていたが、私の音楽に対する気持ちを汲み取ってくれたようでそれはもうスパルタに、ビシバシ鍛えられた。
折香はインフルエンサー活動の傍ら演出家としての仕事を引き受けはじめ、その腕を磨いていた。この前折香が演出家を務めた舞台を拝見したがとても良いものであった。
ビートはラップの特訓をしてくると言って二年ほどアメリカへ戻っていった。
そして来夢は大学の文学部へ進んだ。その来夢の卒業の日が六日後である。つまりこのライブは来夢の大学卒業を祝したものなのだ。
この四年間、私達は個々に力をつけてきた。その集大成と言っても過言ではない。私はもちろん、この場にいる折香も気合は十分だった。
「花奈っち、最後の演出はあーしにまかせてくれていいんだよね?」
「もちろん。世界で一番信頼してるもの」
「もー、嬉しいこと言ってくれちゃって~」
そんな会話をしながら各々チェック項目をこなしていく。
チェックもすべて終わり、折香と共にドームの外に出ると、外はすっかり暗くなっていた。
「うへー、もうこんな時間かぁ」
スマホの画面を開くと時刻は十八時を回っていた。
「ももちゃん待ちくたびれてるかも」
「まだ大丈夫よ。食材買っていきましょ」
私は『大丈夫かなぁ』とこぼす折香の手を引いてスーパーへ向かった。
折香と共に帰宅し、玄関のかぎを開けるとビートがまるで犬のように玄関まで駆け寄ってくる。
「遅い! 僕お腹空いたよ!」
可愛らしく頬を膨らますビートを折香に預け、私はキッチンへ向かう。
「荷物部屋に入れとくよ」
折香の呼びかけに返事をしながら野菜を切る。
そう、私達はルームシェアをしている。基本料理は私担当。一度ビートの作る料理を食べたことがあるのだが、ダークマターとしか敬称できない恐ろしいものが出来上がったのでそれ以降は料理に手を出さないでもらっている。
そのかわりと言っては何だが、ビートにはこの家の掃除等をしてもらっている。折香は家計全般だ。あのギャルギャルしい見た目とは裏腹に計算が得意で母性溢れる折香はこの家のママと化していた。
料理ができたので机に運ぶ。今日は酢豚だ。パイナップルは入れない。あんなものは邪道の極みである。
「おいしそー!」
「ほんと花奈っち料理うまいよね」
「ありがと。さ、食べよ」
私達は手を合わせて『いただきます』と言ってから料理を口へ運んだ。
酸味がきいていて美味しい。我ながらあっぱれである。
二人にも好評なようでご飯が止まらない。
そうして夜ご飯も終わり、お風呂を済ませた私達は寝室へ向かう。
寝室にはダブルベッドが二つ。間接照明が部屋の隅に二つ置かれている。間接照明の明かりがぼんやりと部屋を照らし、ムーディーな雰囲気だ。ちなみになぜダブルベッドかというと、三人ともベッド同士の間にできる隙間を嫌ったためだ。幸いみんな一緒に寝るのに抵抗がなかったのでダブルベッドとなった。
友達同士が一緒のベッドに入ってすることと言えばやはり恋バナだ。
「花奈っち気になってる人とかいないの~?」
「いないよ。出会いもないし」
「とか何とか言って、この前スタッフの男の子と仲良く話してたじゃーん。僕知ってるよ~?」
「あれは好きなアーティストが一緒だっただけ」
と、恋バナが盛り上がっていると必然的に夜が更けていくわけで。気がつけば時刻は三時を回っていた。
そろそろやばいか、とみんなが布団をかぶる。
「おやすみ」
私達はいっせいに眠りについた。
――そうしてライブ当日。
私達はドームの控え室で来夢を待つ。
――コンコンコン。ドアがノックされる。
ドアが静かに動き、その向かいにいる人物の姿が露わになる。
「久しぶり……」
暗い茶色に染まった髪、お洒落なデザインのメガネに可愛らしいメイク。黒いオーバーサイズシャツを白のコットンリネンスカートにタックインしている。
「らいむーん!」
来夢の顔を見るなり折香が来夢に抱きつく。
「会いたかったよ~!」
「わたしもだよ」
折香に抱きつかれたまま来夢は部屋に入り荷物を置く。大きなキャリーケースの中身は服やらなんやらでパンパンの様子だ。
「今日のライブ、みんなが用意してくれたんだよね。ありがとう」
来夢は私達に礼を言うとニコッと笑った。こんなことができるようになるなんて、大学の力ってすごい。
まぁそれは置いといて、観客席の様子がモニターに映し出される。今は開演三十分前だが既に満席状態であった。
「来夢も着替えてきな」
私がそう言うと来夢は折香を引っぺがし更衣室へ向かった。
……緊張してきた。
今回のライブは正念場だ。そして一番大きな規模だ。その両方で緊張している。
「花奈っち、ももちゃん、頑張ってね」
「もちろん。僕と来夢の圧倒的なコンビネーションで会場を沸かせてみせるよ」
「そうね。あなた達を魅力的にみせれるよう全力を尽くすわ」
私達は顔を見合わせる。
数分経ち、衣装に身を包んだ来夢が控え室に戻ってくる。
シックな黒の振袖に下はミニスカートという出で立ちだが様になっている。
「らいむんチョー似合うじゃん!」
「ほんとに?」
「ほんとほんと。すっごく可愛い」
「じゃあ似合ってるのかな……」
来夢はすこし頬を赤らめながら言う。
時間も迫ってきていたので私達は急いで舞台袖に向かった。
「よし、今日は来夢の卒業祝いと私達『クワトロ』の新たな一歩を象徴したライブ。絶対に成功させるよ!」
「うん。僕たちのすごさを見せつけてやろう!」
「わたし、ラップが好き。みんなが好き。だから、成功させよう! 絶対に!」
私達三人は手を合わせバッと天に掲げる。
「「「クワトロ! てっぺん奪い取ろう!」」」
ステージへのぼるとたくさんの歓声が私達を迎え入れる。王の凱旋。英雄の帰還。レッドカーペットを歩くスーパースターのようだ。
私はDJブースへ向かいながらマイクを掴む。
「みんなー! 盛り上がってるー⁉」
私が観客を煽ると観客のみんなが黄色い歓声をあげる。この瞬間の高揚感は筆舌に尽くしがたい。
「このライブは私達『クワトロ』がステップアップするためのライブです! 日本中、世界中を揺らす勢いで盛り上がっていこー!」
私はヘッドホンの片方を右耳に付けてパソコンを操作する。
来夢、ビートと目を合わせて頷く。その瞬間、二人はマイクを構え私はトラックを再生する。
《 最高なShowに
ごショーたい!
wE
僕達のom
hi まだまだ
St 声足りない
Hoooooo!!!
オーライ! 声出せよセイHooooo!!!
Hoooooo!!!
る でしょう?
て
っ
古来より 知
X
僕達のラップ 重量級 A かきならす ブチ倒す
M サックス アックス
隠す気はない 僕達のpower
ウに秘められた
ロ
フ 様々なカラー
↑アナザールート↓でも
1「ナンバーワン」1
←アンダーグラウンド
←上がり
←から駆け
←スタンディングワン 》
ビートは軽快なステップを踏みながらステージ上を縦横無尽に駆けまわる。そして観客を煽りながらワイヤーで宙に浮かぶ。
陽の光が衣装に反射して七色の光が会場に降り注ぐ。
ニカっと眩しい笑顔を浮かべるビートと目が合い私はグッと親指を立てた。
[ 完璧だ なんてけして言わないが
わたし達のプ
ッ 久滅
ラ は永不 つまり語り継がれるもの
そんなものなか
なか ないだろう?
目指すは面目躍如の大活躍 ら
か → 復活するフェニックス
灰
トリプル
6 7
今日のナンバー6 否一個あげて 7
6 7
シックス
ヘブンへ誘うこのマイク ]
スクリーンに本が映し出され、パラパラと捲られる。
そこにリリックが綴られ、それらが一気に燃え盛る火の海に放り投げられる。
すると灰の中から不死鳥が羽ばたき王冠をかぶった赤き龍に猛攻を仕掛ける。
まるで物語の中のような映像が割れ、来夢がドデカイスロット機を持って現れる。
スロットバーを引くと777が揃い、大量のカラーテープが発射される。赤いスポットライトを浴びて来夢もワイヤーに吊るされ宙を駆ける。その様はまさに不死鳥のようだった。
《 アイムビート 火傷するぐらいヒート
の 帝王
久
一時の栄光? 違う永
¦¦¦¦¦¦
ほら見ろ帝のお通りだ シカトはご法度 こっち見な
¦¦¦¦¦¦
→→→落っこちな 僕達の沼に
掴んだら離さない 浸かれ肩まで
入浴剤なら花奈のトラック
出てくるおもちゃは僕らのラップ 》
来夢とハイタッチをしてステージ上へ戻ってきたビートは大量のスポットライトを浴び、ラップをする。
その姿はさながら神様のようだ。
と宙から帰ってきた来夢がビートのキラキラした装飾が施されたマイクを受け取り構える。
[ スマホにつけた――ストラップ
\M/
それわたし達のROMにしちゃいます
/R\
――ある日出会った 突然であった 私の前に現れた宿命(さが)
仇花と散るか否かそれじゃあ
出会いがわたしを↑変えたから↓
す
示
に
こ
こ ス
今 答えならば エ
イ 仲間を
愛すわたしのマイク ]
来夢がラップをし終えたタイミングで私は音楽を止める。
「みんなー! 盛り上がってるー⁉」
「わたし達のラップ、どうだった?」
ここでMCパートに入る。
私もDJブースから離れスタッフが用意した椅子に座る。
私達三人は横並びになり、それぞれ用意されたトークテーマを話す。
私は今後の展望について、だ。
ビートは今回のライブに対して、来夢は今までの活動についてだ。来夢、ビート、私の順でマイクが回ってくる。
「今後の展望について、ですか」
私の番になったのでマイクを通して喋る。
「このライブの後、私達はメジャーデビューします。どんどんアルバムを出して、私達『クワトロ』の音楽を世の中に知らしめていけるよう活動していきたいと考えています」
と、私の『メジャーデビュー』という単語に観客がワァッと沸く。
「あえっ、それ言っていいやつだっけ……?」
「袖裏でマネージャーさんがあたふたしてる」
まずい、口が滑ってしまった。
「花奈、まずいよ」
どうしようか。まぁこれも生だよね! って強がってみる。
「まぁ大丈夫でしょ。これが終わったら発表する予定だったし」
「あ、マネージャーがマル出してる。いいっぽいね」
来夢の報告で私は胸をなでおろした。
さて気を取り直して――。
「私達の武器は二人の個性が違うラップとそれを取りまとめるトラック、そして圧倒的なライブパフォーマンスにあります。特に最後のライブパフォーマンスは私達の大切な仲間が携わってくれています。チーム名の『クワトロ』はその子も含めた四人を表しているんです。今後はそのライブパフォーマンスに力を入れたいと思っています。あとアルバムも出るのでそちらも」
「花奈、それも言っちゃダメなやつじゃ……」
またもややってしまった。うーん、私MC向いていないのかも。
「――私はマイクを離した方がよさそうですね」
そう言って私はマイクを置いた。今後は二人に任せよう。
「じゃあ口滑らしの花奈に代わって僕が! 『クワトロ』の今後の展望について語っていこうと思うよ!」
ビートはマイクを握りしめ、熱く語った。
折香の演出がいかにすごいか、今回のライブの演出でもこんなところがすごいとかあんなところがすごいとか、それはもう熱弁であった。
それを聞いている来夢もうんうんと頷いている。
「っと、そろそろ時間か」
ビートが椅子から立ち上がる。そろそろラストパフォーマンスの時間だ。私達はそれぞれの立ち位置へ戻る。
ビートはマイクを構え叫ぶ。
「さぁラストスパート! いくよ皆!」
「天衣無縫のラップをご堪能あれ……!」
私は二人と顔を見合わせターンテーブルを回す。
《 エビバディセイ『クワトロ』 の
ド
| 〉
ワ 検索 高
| 答えは 最
リ 〈
フ
僕達と
今世紀最大の邂逅 ↓ の出会いこそ
みんな
MICの力 ら
言葉と言葉 か
む
僕達が絶対掴
だから顔を←上げて
→落ち込んでいるなら「僕」を見て
虜にさせてあげるから 》
観客席の方に降りたビートはラップをしながら進む。観客たちとハイタッチをしたり、ファンサが多めだ。
対する来夢はせっせとゴンドラの準備に取り掛かっていた。というのもこの演出はつい先日、急遽決まったものでゴンドラが一つしか用意できなかったのだ。
ビートよりは来夢のほうが適任だろうと折香と話し、この形となった。
ビートはラップを続け、マイクを空高く投げる。すると観客席から一本のマイクがビートの元へ投げられビートはそれを格好よくキャッチした。そして目の前の観客に向かってウインクを放った! 効果は抜群だ。
[ から紅に染まる両の頬 春の模様 る
ぼ
の
陽 ←
太 ←
は
に
空
踊る阿呆
に 楽しければどうでもいいだろう?
見る阿呆
今日がスタートだ
スターとなる 第一歩ここで踏み込みます
明日にはしてる
|
ュ
ビ
デ
|
ャ
ジ
メ
TELが鳴りやまぬ 眠
気
眼
熱気に包まれる午前
七時
わたし達の熱で季節が一に ]
ゴンドラで進む来夢の背には大きな太陽の陽が。彼女をオレンジ色に照らし上へ上へと昇っていく。
と、来夢が懐から昔ながらの黒電話を取り出し耳に当てる。
sうクリーンに映し出された時計は七時を指し、長針と短針が太陽の前でクロスする。まるで何かのロゴマークのようだった。
ゴンドラから降りた来夢はビートと息の合ったダンスをし、くるっと回転してターンをビートに返した。
《 最高
最高 ジ最高じゃん
マ 挙げて
音に乗って手を挙げて
挙げて
全国チャート塗り替える今夜
だ
O
そうは問屋が N 卸さない?
が
れ
そ 》
ビートがその場でぴょんぴょんと跳ねる。それを見た観客も跳ね、私と来夢も跳ねた。小さな地震の発生である。
[ 説
伝
そうだ る こっから
ま
始 どんな演説よりも
うまくやれる
ド
ら世界に 戦 | 闘
か モ
今
どーもカチコミ頭長
先隊 ]
来夢が珍しく観客を煽る。会場の熱もさらに上がり私たちのテンションは限界をとうに超えていた。
来夢は激しくステップを踏みラップをする。そしてビートにターンを渡した。
《 〉
ロ
ト
ほしいもの全部奪い取ろう
ワ
ク
きん きん 〈
きら の星砕 くぞ
そうして手に入れる「金剛石」
どんな喜劇が待ってる
さ あ い く ぞ 》
ビートは宙を指差し、手のひらをぐっと握りしめる。
渾身のシャウトを披露し来夢へバトンを渡した。
[ 幾星霜の
に
言霊を武器に こ
こ
も
つ
目に見えない仲間がい
待ってろ世界
連れてく未来
光
わたし達 す 四人が
示 ]
来夢のラップが終わり、私も音楽を止める。三人とも汗だくであった。
肩で息をし、垂れる汗をぬぐう。
そして三人横並びになり礼をした。
その瞬間、鼓膜が破れるくらいの歓声と拍手が私たちに降り注ぐ。やってよかった、そう心から思える瞬間であった。
そのままステージは暗転し私たちは袖へ向かった。
三人ぁ尾を見合わせ刃具をする。汗とかそんなものはどうでもいい。この達成感、高揚感、何にも代えがたい幸福を分かち合っているのだ。
「最高のライブだったね! 花奈、来夢!」
「夢のような時間だった」時間それぞれが思い思いの感想を述べる。するとそこに折香が現れ私達を抱きしめる。
「みんな! さいっこーだった!」
皆思いは同じなのだ。今はこの幸せをかみしめよう。
私達は控え室に戻る。
途中所属予定のレーベルの先輩方が挨拶をしてくれたがあまり頭に入っていない。マネージャーも『言いたいことはいろいろありますが、今日は見逃してあげます』とのことだった。
シャワーで汗を流し、衣装から私服に着替える。
今日は一刻も早くみんなで家に帰りたかった。
「みんな、荷物持った?」
折香が確認し、私たちは頷く。そしてドームを飛び出した。
久々の外は空気がおいしくてさわやかな気持ちにしてくれる。
帰り道、スーパーで惣菜やらをしこたま買い込んで帰路へついた。
家の玄関の前につき、来夢を中心に立たせる。
「来夢、開けていいよ」
「うん」
――ガチャっ
鍵を回しドアを開ける。私たちは来夢がどんな反応を見せるか楽しみにしていた。
笑うのか泣くのか、まぁ泣くってことはあまり考えられないけど。
ドアを開けた来夢はすぅっと息を吸って一言、
「みんなの匂いだ」
と言った。
「今日から一緒に暮らせるの、すごいうれしい!」
と言って家の中に飛び込む。
その後は来夢に部屋の案内をしつつ私と折香がご飯の準備をする。
今日の夜は豪勢だ。寿司やピザ、パスタにラーメン、唐揚げ、カレー、思い浮かぶおいしいものは全てある。もちろん酒も。
たこ焼き器を準備している間に缶ビールを開け、手を合わせる。
「来夢の卒業を祝して!」
「ライブの成功を祝して!」
「「「「かんぱーい!」」」」
――カンッ!
缶がぶつかり小気味よい音が響く。
そのままグッと飲めば気分は最高だ。一口目が圧倒的にうますぎる。
ビートと折香とは一緒に飲んだことがありある程度酔っ払った時の対処法を心得てはいるが、来夢は未知数だ。さてどうなるのか。
そんなことを思いながらも食事は進んでいく。
たこ焼きを焼いたり、焼きそばを焼いたり、ステーキを焼いたり、って焼いてばっかだな。
酒も進み、みんなのろれつが怪しくなってきたころ、来夢が私の肩に頭をのせてくる。
「わたしは幸せ者だ……こんなに幸せで罰が当たらないだろうか」
なんて言い出す。目がウルウルしていて、上目遣いで、可愛い。
わたしも酔って正常な判断ができなくなってきている。否、可愛いのは事実であろう。
「幸せでいいじゃない。私だって幸せだもの」
私が来夢にそう伝えると来夢は満足そうな顔をして眠りについた。
「あれ? らいむん寝ちゃった?」
「なんだよー、これからが楽しいのにぃ」
頬を膨らませるビートを横目に折香が来夢をベッドへ運ぶ。
実は酒癖が一番悪いのはビートだ。なので調子に乗らせてはいけない。一年ほど前居酒屋でナンパされたとき、ビートは相手に怒涛の罵声を浴びせ喧嘩に発展したことがある。以来三人で居酒屋には行っていない。
「ビートももうやめといたら? 明日頭痛いと思うよ?」
「ぼくはだいじょうぶらよ。花奈のほうこそ大丈夫?」
わたし達が話していると寝室から折香が返ってくる。
折香は酒に強くほとんど酔わない。なのでいつもみんなのセーフティー役だ。先の居酒屋喧嘩事件も折香が丸く収めてくれた。
「二人とも顔真っ赤だよ。早く寝な」
折香の言葉で私たちは飲む手を止め、寝室へ向かった。
ベッドに入るとふかふかの布団が私に睡魔を押し付けてくる。これをされてはもう抗うすべはない。私は素直に目を閉じ、眠りについた。
朝目が覚めると案の定頭痛がひどい。
しかし隣を見ると、来夢の寝顔が目に飛び込んでくる。
カーテンの隙間からさす朝陽が彼女を照らし、長いまつげがキラキラと輝いている。
いたずらで頬をプニプニと刺すと、身をよじらせる。
その光景を折香とビートも見ていたようで『ズルい』と言い、私たちのベッドに侵入してくる。ダブルベッドといえど狭くみんなが密着している状態となる。
と、それに気づいたのか来夢がゆっくりと目を開けた。
きれいな瞳が私たちを映し、彼女は口を開く。
「おはよう」
私達もそれにこたえるように声を発した。
「おはよう」
これから新しい生活が始まる。そんな期待を胸にベッドから起き上がる。
「昨日風呂入ってなくね?」
とビート。
それに呼応するかのように折香が続ける。
「ならみんなではいろっか!」
その後は言うまでもない。女子で一緒にお風呂に入ってやることといえば一つ! 胸の大きさチェック一択なのだ。
折香は言うまでもなく大きい。多分Gくらいありそうだった。触り心地も柔らかさの中にハリがしっかりとあって……。少し惨めな気持ちにもなった。
私はどんなにあがいてもC。届きそうにもない。
「花奈っちのおっぱいもみ心地神じゃん!」
と折香が言うが煽りにしか聞こえない。明らかに神なのは向こうであって……。
ビートと来夢は同じくらいだが二人とも雰囲気に合っている。
こんな感じで女子同士の乳繰り合いが行われ、出るころにはみんなのぼせていた。
風呂から出てリビングに向かうとテレビでは私達『クワトロ』のメジャーデビューについての特集がされていた。
「……本当にデビューしたんだよね」
「うん。これからもっと頑張らないと」
「あーしらなら大丈夫! ねっ、ももちゃん」
「もちろん。僕たちがてっぺん! 取るんでしょ?」
わたしたちは手を合わせる。
「「「「『クワトロ』! てっぺん奪い取ろう!」」」」
わたしたちは挑戦する。このHipHop界に。
見せつけてやるんだ。――私たちを。
文学的ラップのすゝめ 小川一二三 @ogawahihumi
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