この変わる世界に何を思う?
ぴょん吉
第1話 始まりの光
あの光が降った日から、世界は静かに、そして確かに変わり始めた。
その変化を“奇跡”と呼ぶ者も、“災い”と呼ぶ者もいた。
けれど、天咲れなにとってそれは――すべての始まりだった。
夜の空が、静かに裂けた。
誰もが見上げていた。
スマートフォンを構え、息を呑み、ただその光を見つめていた。
雲の向こうに、月よりもはるかに大きな“何か”が浮かんでいる。
光でも、星でもない。
――それは惑星だった。
巨大な球体が、地球のすぐそばを通過していく。
その表面を走る青い稲妻のような光。
海のような輝きが、夜空をゆっくりと流れていった。
天咲れなは、ひとりで走っていた。
アルバイトも講義もない休日の日中。
音楽を聴きながら、いつものランニングコースを走っていた。
「……あれ、何?」
足を止めた瞬間、空が青く染まった。
街の灯りがかき消えるほどの、深く静かな青。
音が、消える。
世界が――息を潜めた。
れなは顔を上げた。
その瞬間、視界に無数の光の粒が降り注いだ。
青白い粒子が、雨のように。
まるで夜空が、地上へと零れているかのように。
反射的に腕で顔を覆う。
けれど、逃げられなかった。
その光は、彼女の肌の上で溶けていった。
熱くも冷たくもない。
ただ、身体の奥で何かが“反応した”と感じた。
それは恐怖ではなく、どこか懐かしいような――奇妙な感覚だった。
(……なに、これ……?)
瞳の奥がわずかに疼く。
視界の中で、光の粒が心臓の鼓動に合わせて明滅していた。
そして――ほんの一瞬、れなの目が青く光った。
⸻
翌朝。
テレビでは「前例のない惑星通過」「色光現象」などの見出しが並んでいた。
各地で落下物が確認されたというが、被害は軽微。
専門家は“磁気嵐の一種”と説明していた。
れなはニュースを眺めながら、コーヒーを飲んでいた。
いつも通りの朝。
けれど、どこか違う。
空気が、少し重く感じる。
そして何より、自分の身体がわずかに軽い気がしていた。
「気のせい、かな……」
窓の外で、猫が屋根の上を歩いていた。
ふと視線を向けると――その猫の動きが、はっきりと“読めた”。
足を出す角度、しなやかな重心の移動。
風の流れすら感じるような、妙な感覚。
瞬間、心臓が跳ねた。
指先が震え、視界が一瞬ぼやける。
そしてまた――青が、瞳の奥で光った。
(……また……)
れなはすぐに手で目を覆った。
けれど、すぐにその光は消えた。
ただ、確かに感じていた。
あの夜の光が、まだ自分の中で“呼吸している”ということを。
⸻
夜、外では雨が降っていた。
雨粒のひとつひとつが、街灯の下で淡く光る。
れなはベランダに出て、空を見上げた。
(あの青い光……あれは、なんだったんだろう。)
誰も答えを知らない。
けれど、世界は確実に――変わり始めていた。
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