俺だけダンジョンで倒れても教会で目を覚ます理由
@ugnat
第1話
また、白い天井だ。
薬草の匂い。鈴の音。光の差し込み方まで、いつもと同じ。
――俺、また死んだのか?
体を起こそうとすると、胸が痛む。
左腕に包帯、右脚は木の板で固定されている。まるで人形だ。
「おはようございます、ザコ兄」
声の主は、ベッドの横で本を読んでいた聖女――いや、義妹のミリア。
銀髪の聖衣姿。目だけは冷たいのに、口調だけ妙に柔らかい。
「……お前なあ、ザコって言うなよ、ザコって」
「でも事実じゃないですか。前回はスライムに飲まれて、今回はコウモリに突撃。
どっちも初級のモンスターですよ?」
ミリアは笑いをこらえたような口調で、俺のコップに水を注いでくれる。
普段は聖女らしい気品があるのに、俺の前だとこれだ……。完全に兄を舐めてやがる。
「ほら、口を開けて。飲ませてあげます」
「いや、自分で――」
「駄目です。動くと縫った傷が開きます。ほらあーん」
まるで子供扱いだ。
周囲の信徒から見れば、これも“慈愛”のひとつなんだろうが、
俺にはどうにも、やりすぎに見える。
俺が死ぬたび、こうして教会で目を覚ます。
もう十回以上はある。
てっきり、ダンジョンで死ぬと“教会で復活”する仕様なんだと思っていた。
だが、昨日、冒険者仲間に笑われた。
「は? 何言ってんだお前。教会で生き返る? そんなの聞いたことねえよ」
「そもそも死んだら終わりだろ。治療できるのは生きてる奴だけだ」
冗談かと思ったが、みんな真顔だった。
じゃあ、なんで俺はこうして生きてるんだ?
不安になって、ミリアに聞いてみた。
「なあ、俺、どうやってここに運ばれてるんだ?」
「気づいたら棺桶に入った状態で運ばれてきますね」
「……誰が運んでくれてるんだ?」
「さあ? 私も普段からザコ兄のために時間を割いているわけじゃないんですよ。きっと親切でザコ兄よりもずっと強い冒険者の方が運んでくれたんじゃないですか?」
普段は人前では“聖女ミリア様”と呼ばれている彼女。
老若男女に優しく、慈悲深く、奇跡の力を使って人を救う。
でも、俺にだけは口が悪い。
「兄さん、もう少し戦闘向いてる仕事にしたらどうです?」
「いや、俺、勇者にはなれそうにないし」
「知ってます。だから“ザコ兄”なんです」
「お前、昔はそんなこと言わなかっただろ」
「昔は少しは強そうに見えたんですよ」
そう言って、ふいに視線を外した。
数日後。
治ったばかりの体で、俺はまたダンジョンに行った。
今度は三層の奥。
進んでいると、足元で何か踏んだ感触。その直後、背後から石槍が飛んできて、肩を貫いた。視界が歪んでいく。
ああ、またか――と思った瞬間、世界が暗転する。
白い天井。薬草の匂い。
「……おかえりなさい、ザコ兄」
ミリアがベッドの脇に座っていた。
俺が起き上がろうとすると、彼女は無言で押さえつけた。
「動かないで。もう、何回言わせるの」
「……また助かったみたいだな」
「本当にザコ兄なんだから。まさか罠に引っかかって死ぬなんて。私がいなきゃダメなんだから」
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