短編

しの

宝物

大きく心を動かされた作品がある。

フランスの作家 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリによる小説『星の王子さま』

最初から最後まで、優しく暖かいお話だった。

「こんな風に生きていきたい。」と強く憧れた。

何にでも影響を受けやすい私は、胸の中に王子さまを描いた。

自分も大切なものに気づけるようになりたかったから。

そうして自分の星を描いてみた。

しかし私の星はみてくればかりのハリボテだと気づいてしまった。

周りの星は本当の宝物でいっぱいなのに。


きっと、かつては小さな星にいっぱいに宝物が並んでいたはずだった。

いつの間にか大きくなった星はハリボテだらけになってしまったのだろう。


失ったものを探すのも、新しいものを探すのも億劫で、自分は不幸だから仕方がないと諦めてしまった。

諦める方が楽だと知っていたから。

諦めてハリボテの星で膝を抱えて泣いていた。


ある日、ふわりとその星は私の星の隣にやってきた。

その星には私の知らない物ばかりがあった。

煌びやかな宝石でもない、美しい物でもない、私には何が良いのかも分からないような物ばかりだった。

しかし、その星の住人は幸せそうに見つめ、抱きしめていた。

飽きることなく毎日。

あの住人と同じ物を持てば幸せになれるのだろうか。

毎日幸せそうな住人が羨ましくなった私は似たような物を集めてみた。

けれどやっぱりハリボテにしかならなかった。

羨ましくて、悔しくて、もどかしかった。

隣の星は何が良いのかも分からない物ばかりなのに眩く暖かく輝いていたから。


「ねぇ。どうやったらそんなに宝物がいっぱいの星を作れるの?」

我慢ならなくなった私は、ついに住人に話しかけてしまった。


「えへへ、ありがとう。綺麗な星でしょ?」

「だから、どうすればそんな風になれるの?」

「君の星も素敵だよ。」

「それは嘘だよ。全てハリボテの偽物だもの。」

「ハリボテでも君の大切な物なんでしょ?ちゃんと大切にしたら宝物になるよ。」

「偽物なのに?」

「でも、ほったらかしてちゃ可哀想だよ。」


そう話すと、私の周りに乱雑に散らばるハリボテを指差した。

ハリボテはどれも傷つき、埃に塗れていた。


「大切にする方法が分からないなら教えてあげる。」

そう話した住人は、私の星に降り立つと、ハリボテを綺麗に磨いて並べていった。

自分の星の宝物では無いのに、嬉しそうに幸せそうに、一つ一つ丁寧に。


「どうしてそんなに大事にするの?」

「だってこれは君の宝物じゃないか。」

「これは偽物だから宝物じゃないよ。」

「そっか、君にはこれが偽物に見えるんだね。」

「だってハリボテじゃない。」

「それでも宝物なんだよ。」

「意味がよく分からないよ。」

「星にはね、大切な物しか置けないんだよ。だからこれは君の宝物なんだよ。」

「…どうして私の宝物だけハリボテなの。」

「ハリボテかはまだ分からないよ。中に何か入ってるかもしれないし、全然違う物になるかもしれないよ。」


そう言うと、ニコニコと笑って、また磨き出した。

自分の物を他人に任せてばかりなのも申し訳なくなった私は、自分も同じようにやってみることにした。

そうやって毎日、彼とハリボテを綺麗にしていった。

綺麗にするのに疲れた時は彼の星に行って、彼の宝物を見せてもらった。

よく分からない物なのに、キラキラしているそれは、とても大切な物なのだと分かる。

だから彼にしてもらったように、私も大切に扱った。

すると彼は更に幸せそうにニコニコと笑った。

彼の笑顔は綺麗だと思えた。

そうして毎日、彼と過ごした。


そうして幾年が過ぎていった。

彼と一緒に磨き続けたハリボテはいつの間にか形を変えていた。

それは眩く光る宝石でも、金銀財宝の詰まった宝箱でもなかった。

何に使うのかもよく分からない物、キラキラしたビー玉、好きな色をした花。

他人から見れば何が良いのかも分からない、でも確かな私の宝物。


「ほらね、ちゃんと大切にしたら宝物になったでしょ?」

花に水を与えながら彼はまた笑った。

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