カレンシューズ
明日美 燁乃
プロローグ
コツコツ、カッ。
大理石の床に響く、華奢なヒールの音。
私はエレベーターを見送った。
ドアが閉まる直前、中にいた女性が焦るような顔で私を見た。
彼女の視線が「急がないんですか?」と問いかけているように感じたけれど、私は微笑みを浮かべ「お先にどうぞ」と無言で返した。
私は、あらゆる場面で急がない。
電車は一本見送り、信号も点滅を始める前には立ち止まる。
理由は全て、この靴を履いているからだ。
真っ赤なソールの華奢なヒールの黒いエナメルパンプス。
華やかなパーティーには馴染むかもしれないが、日常には全く不向きな靴だ。
アスファルトのガタガタ道、人混みで足元をすくわれること、そして何より走ることをこの靴は許さない。
特別オシャレでもなければ快適でもないこの靴に執着する理由はただ一つ。
あの人が、私を迎えに来てくれる気がしているから。
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