リアル・フィクション
雛伎 楯七
リアル・フィクション
「いやっ、いやぁーーっ!!」
静かな夜景きらめく街に、突如ネオンサインをつんざくような悲鳴がこだました。
暗い暗い路地は夜景の光が差し込み、大柄の男と壁に押さえつけられている女のシルエットが映し出される。
なにかの創作にありふれたような、組織に仇なす者を始末するワンカット。
だが、男だけが大きい。悪漢のシルエットは小型クレーン程、あり得ないほどにデカいのだ。
そう、男は「改造人間」だった。
この街のバイオメカニクスやユージェニックコントロールによる身体強化を受けた「改造人間」。男の巨躯と力強さは遺伝子操作を受けてもたらされたものなのだ。
そして男は「ラート二ム」というコードネームをもつ、女が勤務する組織の機密情報を盗む『ネズミ』を狩る闇の存在であった。
「グハハハ!もう逃げられんぞ。さあ!貴様がガヤに漏らそうとしている製薬会社の資料は渡してもらおうか……!」
そう笑いながら呼びかけ、男は女の首を鉄骨カッターのように締め付ける。男が潰そうと思えば、彼女の首はネギの茎みたいに千切れ飛ぶのは確実であった。
「ぐっ……許せるものですか……効果の実証実験すら、ずさんな薬品を……」
「グハハハ!それは全て儲けのためよ!どうせお前が言ったところで、そのずさんさすら見抜けないこの街の連中には無駄なことだ。」
「なんて……ひと……たち……」
首の動脈を塞がれていき、女の意識は朦朧とし始めていた。
その時だった。
『カズミさん、よく頑張りましたね。』
若く朗々とした声が、路地に響く。
『よくも人々を騙し、薬を街にばらまいたな!その所業、キッカリと、俺が晒す!』
暗い路地を照らす希望の光が現れた。
透き通る翼のようなマントと、鳩をモチーフにした仮面をつけ、常にまばゆい正義の心を放つ。
弱者救済のヒーロー『ソラキ(Soraki)』
彼は製薬会社に勤務するのカズミの相談を受け、曇りなき正義の心で彼女の勇気の心を揺り動かしたのだ。
「なるほど、用心棒を雇ったわけか……。なら、お前から死んでもらおうか。」
『やってみろ、貴様は陳腐な悪役にすぎない。』
「ヒーロー育成所の新卒が!死ねい!」
悪漢は彼に掴みかかろうとした。しかし、それをソラキはひらりと頭上を舞い、鋭い蹴りを食らわせた。
うぐぉ、と声を上げて、呆気なく男はドスンと倒れる。
『なんだ、デカいのに大したことないな。』
ソラキは男を後目に、へたり込んだカズミの方へ向かった。
『大丈夫ですか?』
そう声をかけたとき。
「うしろ!アイツはまだやられてない!」
彼女が叫ぶ前に、ソラキは男に押さえつけられ、まずは仮面に巨大な鉄拳がなだれ込む。
割れた仮面の奥には、美少年の顔があった。
男は道に散った破片を指に挟み、拳を振り上げ、こう言った。
「さて、始めるぞ。」
直後、麗しい素顔に向かって拳が振り下ろされた。
グリグリと拳を動かすたび、潰れるような水の音を響かせる。それを男は無の形相で行い続ける。そして、ようやく見えた顔は、顔面は乱雑に斬りつけられ、瞼は今にも剥がれ落ちそうになっていた。
『い……や……だ……』
ソラキは男に背を向け、這いながら必死に逃れようとする。
しかし男に長いマントを掴まれてしまった。
彼の自慢であり、純粋な心を表す透明なマントは千切られ、引き裂かれ、路地を吹き抜ける風とともに闇に吸い込まれていった。
『あっ……あ……ああ……』
その中の一切れに、自分が写った。
惨たらしい姿で悪党に屈する自分の姿が、もう閉じられない両目に、刻みつけられる。
男は、目の前を這いずり回る残骸にとどめを刺す。
残骸の背を全体重を載せて踏みつけると、胸骨の砕け散る感触が靴を通して伝わった。
かつてヒーローだったものは、こうして何も成すことができずに、ただひたすらに死んだ。
「ご利用ありがとうございます、スタッフの演技はいかがだったでしょうか。」
「ええ、とても満足できました。製薬会社で働く励みになります。」
「それは良かったです。では、またのご利用を。」
『ヒーロー敗北ショー』。それは街角で提供しているサービス。
正義感にヒーローを作り、それをラートニムのような“スタッフ”が殺す。
もちろんただ殺すわけではなく、別途コースが存在する。例えば今回、『ソラキ』は優しい両親(偽りの記憶)から人のために生きることを調教させ、更に、厳しいヒーロー訓練所(試験場)を合格させた“熟成モノ”であった。
起こったことは全ては現実に起こったフィクションであり、実在を保証された人物、地名、団体は一切存在しない。
リアル・フィクション 雛伎 楯七 @Hinagi_Tate7
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