母は涙もろい

うしき

母は涙もろい

 母は涙もろい。


 他人様の子供の成長で涙する。そりゃ、赤ちゃんだっていつかは立つし、歩きもするだろうさ。


 ニュースで涙する。甲子園で負けた高校に感情移入する。


 「だってぇ、この子達こんなに頑張ったのに負けちゃってさぁ……」


 そりゃ勝負なんだから勝ちもすれば負けもするさ。


 「あんた感動とかしないの」


 そんな真顔で娘の顔を見ないでよ。私だって感動して涙くらい流すさ。……最後がいつか忘れたけど。


 「若い時は私だってそんなに泣かなかったんだけどねぇ……」


 あんたの若い時は知らん。


 感動系の話なんか見ようものなら洪水のように涙を流す。


 「ティッシュぢょうだい……」


 あんたの目の前でうず高く積まれてるよ。


 こんな母だから、私の結婚式の時は旦那の両親も、さらに私の父まで引く程泣いてた。こっちは貸衣装の留袖を汚すんじゃないかとヒヤヒヤしたさ。


 「良かったよぉ、結婚式、ほんとによかったよぉ」


 思い出すたびに泣いてる。もう一月以上経ってるのに。




 そんな母なので、私に子供ができた時は私以上に喜び、そして泣いた。



 その子が生まれる前に、空へと帰った時は、もっと泣いた。



 そんな事があってからしばらく経って、上の子が生まれた時はすごかった。病室に来て泣く。孫の顔を見て泣く。あげく看護師さんの手を握って泣く。


 「ほんとに、ほんとに、ありがとう、ありがとうね」


 生んだの私。それ看護師さん。


 孫ができてからは毎週のように我が家に来た。そして子供の成長を見て泣く。先週と変わっとらんて。


 「目なんかお父さんそっくりになってきたね」


 あんたそれ、生まれた時からずっと言ってる。




 上の子が生まれて、一年近く経った時。私が食器を洗っている時に何気なく子供の方を見た時。立ってたの。子供が。それを見たら、驚いてお皿割りそうになっちゃった。




 気付いたらね、私の頬を何故だか涙が伝ってた。




 下の子が生まれ、上の子は保育園に入った。朝連れて行くと、保育園の玄関で行きたくないと泣く。私は泣きながら先生に預けるの。そして、迎えに行った時にぎゅっと抱きしめる。泣きながら。


 「おうちに帰ろうね」


 私の声に子供が笑うの。それを見て私はまた泣く。


 「ねぇ、今日の発表会、カッコよかったよ」


 上の子は見に来ないでって言ったのにってすねる。でもね、私は黙っていきたかったの。


 見つかったら、泣いてるのがバレるから。


 母は涙もろい。

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