信じるか人の悪性を、疑うか人の善性を


「アル大臣が伝説のミックスジュースを作る為に必要な乙女の内の1人を勧誘していたか……おそらくはオレ達が介入しなかった場合は金よりも大事なものがあるよ!とかクソキモい精神論を押し付けられただろうな」


「まぁ、そう言うのを言えるのは金に困ったことが無い立ち位置の人間ですからね」


 グラスを逮捕しオカルト課の研究所に送りつけた。

 まだ今回の一件が終わっていないのでどういう罪でどういう処置が施されるか分からない、ここから良いことをしても罪からは逃れられない。

 オカルト課の事務所で事務仕事をしており、最初の仕事はどうだ?と黒代さんに聞かれた。オカルト課の職員同士ならば仕事内容を暴露していいので黒代さんに起きた出来事を伝えた。

 もし俺達オカルト課が関与しなかった場合はお金よりも大事だなんだの精神論で事を解決しようとする……少なくともそれは黒代さんにとっては綺麗事であり、俺もホントに金が無いという状況になった事が無いから言えることだろう。


「しかし、伝説のミックスジュースを作る乙女達は集まりましたが……なにが足りなかったのでしょうか?」


「夢が宿る果実、叡智のミルク、慈愛の蜜……となると後は氷じゃないのか?」


「氷、ですか?」


「ミックスジュースの中には細かな氷をぶち砕いている。原液のカル◯ス並に味が濃かったのならば水で薄めるだろうが、おそらくは温度の都合上で甘いって感じたんだ。コーラとかが生温くなったらクソ甘いしジャムとかはホントは温かい方が美味かったりする。それと同じだろう」


 伝説のミックスジュースを作るのに必要な最後の物がなんなのか分からないので黒代さんに聞いた。

 黒代さんの予想では氷、あの時に作った伝説のミックスジュースは冷えていなかったんじゃないのか?と言われる……確かに冷えていなかったが、氷であっているのだろうか?


「そいつのコードネームがグラス……何処かの国の言葉じゃ氷じゃなかったか……つか、身分はどうなっている?」


「ああ、今出し終えました……涼風氷花すずかぜひょうか……白川未来月達が通っている中学の地域にある公立の中学の生徒です。夜間に出歩いて補導されたり色々と問題行動を起こしており、両親が責任者として迎えに来ない事も多々あります」


「……それ……クソ親?」


「手遅れなクソ親です。妹と弟が居るらしく、ランドセルや筆記用具なんかも昔の伝を使って手に入れたA4サイズの書類が入らない旧式のランドセル。自身が通っている中学の制服も色々と支援を受けていますが最低限の事で貰ったお金はパチンコで使っているらしく金に困っているところに目をつけられたらしいです」


「容姿はどう見ても美少女なんだから百歩譲ってパパ活だろう」


 いや、パパ活もダメですよ。


「アル大臣からは純金を受け取っており、変化の術と偽造された運転免許証を使い純金を換金しました……へそくりとして取っているそうです」


「その純金の回収はしとけよ……一応は錬金術で研究用に作って良いが売ってはいけない金属の代表格として純金は存在しているから。売ったらネオ六法全書のもと裁かれるから」


「そうなんですか……」


「因みに3つぐらい業者を経由してマネー・ロンダリングしてる馬鹿も居る」


「やっぱろくでもないですね、この業界は」


 プリ◯ュアみたいな子供達のマスコットを逮捕したり、プ◯キュアみたいな立ち位置の女の子がパパ活ならぬ悪の女幹部活動したり。

 邪気を祓う霊気の弾丸でバンバンと撃った俺が言ってはいけない事であろうがホントにロクでもない業界だ。


「まぁ、とりあえず親子の縁を切らせるのと施設にぶち込むのと天之岩戸学園への編入だな」


「天之岩戸学園にですか?」


「あそこはふつうの学校であると同時に元魔法少女とかプ◯キュアとかそういうのが通っていて社会復帰に頑張ったり部活動に頑張ったりしているから……鯨六はスポーツよりもクイズ派で今年こそは高校生クイズでテレビに出れるところまで行きたいって言ってたな」


「…………それらの手続きもか……まぁ、いいか」


「なんか必要か?」


「問題ありません……1年生、2年生、3年生の問題作成完了」


「律儀だな」


「なんちゃって教師にはなりたくはないので」


 事務仕事をすると同時に白川未来月達が通っている中学で取り持っている数学の授業に関する小テストを作る。

 俺は1年生も2年生も3年生も受け持っている……輪駆?あいつは2年のD組だけ……非常勤の講師が何故に1つのクラスしか受け持とうとしないのか。漫画とかでよくある教師が霊能力者とか魔法使いやっていて教師としてあんまりいい人じゃない的なのは割と困る。


「それで、どうするんだ?……伝説のミックスジュースを作るのに必要な奴は揃った。涼風氷花に対してスカウトをして金銭的な支援をこちらがするという事にすれば伝説のミックスジュースを作るのに必要な奴はしっかりと手綱を握れる……」


「……輪駆から聞きましたが、ソフト王国の王子として日本と貿易らしい貿易はするつもりが無いそうです」


「都合のいい時だけこっちの世界を支援してくれでリターン無しか、そいつマジで王族か?」


「アン◯ンマンみたいな世界観の世界に居るせいでおかしいんでしょう」


「お金の概念があるからどうぶつの◯に近いだろう」


 伝説のミックスジュースを作るのに必要な人員は揃った……後は伝説のミックスジュースを作るだけだろうが、おそらくはここから色々と問題が起きるだろう。輪駆が伝説のミックスジュースを飲む……いや、展開的に奪われるかカジツ達が飲むことで伝説を超える新たなり伝説が生まれるとか…………ありえそうだな。


「アル大臣の元に毒ガス流して終われないかな……」


「毒ガスはやめとけ。練炭辺りにして一酸化炭素中毒で殺すんだ……こう、結界で空気を閉ざして酸素を生み出せない様にしてだな」


「黒代さん……やったんですか?」


「ああ、息の根が止まってもキッチリ3時間置いてキッチリと仕留めた」


 エグいな。

 黒代さんと今後どういう風に動けばいいのか等を話し合う……ではなく、些細な愚痴を例えるのならば深夜ラジオの様に零す。

 この人もこの人でなんだかんだでキッチリと仕留めている……オカルト課に入ってまだ間もないがこの人もなんだかんだでオカルト課の人間なんだなと実感する。


「上原さん……あの子はどうなりましたか?」


 場所は変わり未来月達が通う中学校の生徒会室。

 間もなく生徒会長と言う役職そのものを終える未来月はあの子、例の逮捕した涼風氷花について聞いてきた。


「彼女とは司法取引をする予定だ……彼女の持っているコールの力と彼女固有の伝説のミックスジュースを作る乙女の力の研究をする代わりに新しい戸籍と慶應義塾の様な有名な大学に通っても問題無いお金を彼女と彼女の弟と妹に支援をする形で来年から天之岩戸学園に編入する事が決まった」


「……その……話し合いは出来ないでしょうか?」


「話し合いをしてどうすると?……彼女はお金に困っていたから雇われた。アル大臣からすれば伝説のミックスジュースを求める輪駆を妨害する事が出来る。彼女にお金という契約をすることで縛り付ける。もし、お金よりも他のものが大事だなんだと言うのならば悪いが俺はそれを取り持たない」


 少なくともお前達が通っているこの学校は私立の中学校だ。ただの私立の中学校ではない。女子中学校だ。

 私立というだけでもお金がかかる。女子中学校と言うだけでもそれ相応のブランド力があり経営を維持するのにお金がかかる。

 若い頃から金、金と言い続けるのは下品と言うのだろうがお金のホントの使い道等を知らないのはそれはそれで問題だし将来的に自分に立ち塞がるお金の問題がある。


「…………上原さんは意地悪ですね」


「仕事をしていると言ってもらいたい……少なくとも、お前と滴はまだまともに1回も戦っていない。なんだ?白馬的なのに乗馬して颯爽と剣でも振るいたかったのか?悪いがそういうのはアニメや漫画だけにしてくれ」


 なにかを言う前に可能性を潰す。

 コレがニチアサキッズタイムみたいな感じならばクソみたいな展開と言われているだろうが、比較的に頑張っている方だ。

 今回はパターンが黒、既存の技術で倒せないという判断が出ているので龍一課長が使い物にならない。他に仕事に行っている人達もどうにかならないのかと聞いたりしたがどうにかすることが出来ているのならなとっくの昔に誰かを派遣している。


「はい、こちら上原です……ああ、どうも……成る程……分かりました」


 スマホに電話が掛かってきたので電話に出た。研究所の桃彦さんからであり、研究成果が一先ずは出たとの報告があった。

 捕獲しているヴァドスとヴァッティングを仕留める事に成功したと言っておりそれを使えばアル大臣を殺すことが出来る可能性がある……が、が……まだまだだ。


「未来月、敵の倒し方がなんとか見つかった」


「……それは……」


「どういう意味なのかはお前の想像に任せる……だが、これでは終わらない。万が一の予想外の出来事が起きる可能性も考慮しておかなければならない。アル大臣を倒す本来の手段を用意、更にはアル大臣の封印準備……それが終わればアル大臣の本拠地にカチコミに行く」


「そ、そこまでするのですか!?」


「ああ、そこまでするつもりだ……龍一課長がアル大臣を倒す技術を会得するのに1週間ほど掛かる。その1週間の間に伝説のミックスジュースを完成させる。伝説のミックスジュースを……未来月が飲むんだ」


「……え?……リンクが飲むんじゃないんですか?」


 アル大臣を倒す手段を手に入れた……かもしれないがプランAが無理だった時を想定しプランBとプランC作る。

 伝説のミックスジュースは飲めば不思議な力が宿る……アル大臣は既に命の盃に入っていた聖水を飲み干したのにまだ命の盃を狙っている。それは輪駆が伝説のミックスジュースを飲むことを恐れているのかそれとも伝説のミックスジュースも自分が飲んで力を得たいのか、どちらかは分からないが……輪駆でなく未来月に伝説のミックスジュースを飲んでほしい。


「コレはあくまでも予想だが、何かの拍子に伝説のミックスジュースをアル大臣が飲んでしまう可能性もある。伝説のミックスジュースを飲んで今以上に謎な異世界の力が強まったのならば俺達では対応が出来ない。お前達に任せなければならない」


「任せてください……とは言えませんね……最後は任せてとリンクが言っていましたがなんというか黒原さんとリンクは万が一等を想定していません。ポジティブと言えば聞こえは良いですがマイナスな事も時には考えなければなりません」


 一番あってはならない事は未来月達に全てを任せるという事だ。

 未来月は任せてください!と言わない……カジツならば任せてと言ってくるだろうが、特に深く考えずに承諾してしまうのだろう。しかし未来月は自分には無理だと思っているししたくないとも思っている。それに関しては構わない事だ……彼女達が戦うのが一番あってはならない事だから。


「……隠れていないで出てこい」


 非常勤の教師としての仕事を終えた後に帰路についていれば誰かにつけられている事に気付く。

 カジツ達の持っている氣はどんなものなのかを探知をしている、それとは違う物を感じ取ったので神社まで移動した後に出てくる様に言った。


「おやおや、こんなにもあっさりと見つかってしまいましたか……出来れば貴方達の本部が何処なのかを知りたかったのですが……」


「……何者だ?」


「ああ、はじめまして。それがしはソフト王国の大臣……アルです」


「っ!!」


 カチコミに行くつもりの相手が向こうから接触をしてきた。

 懐に拳銃は入れてあるが……開幕で殺しに来ない、暴力を使ってこない……コレが毎回の敵ならば銃で撃ち抜いていたが、アル大臣はこちらに対して敵意らしい敵意を向けてこない。


「なにが目的だ?」


 なにが目的なのかを聞いた。

 ここで何かしらの洗脳を俺にしてくると言う可能性も普通にある……色々な可能性は否定することが出来ない……どういう風に出てくるかと思えば……白旗を上げた。


「参りました、降参です」


「……降参、だと?」


「ええ……ナナシノゴンベエと言う人からアドバイスを貰いましてね、このまま某が戦い続けていても意味は無いどころか負けると判断をしました。なので降参を致します」


 ナナシノゴンベエ……誰だそれは?今の今まで名前が出たことが無い人物だから分からない。

 ただ、少なくともアル大臣が今にでも襲いかかるという行為をしてこない。白旗を掲げており文字通り戦うことはしないと言い切った。


「そして日本政府に対して交渉をしたいです……ソフト王国という王国に対して不可侵条約を結ぶのを。ソフト王国は鎖国の道を選びます」


「……鎖国していてもあまり良いことは起きないぞ」


「いえいえ、大して変わりませんよ……こちらの世界を見下していましたが驚きましたよ。王様が政治をしていないのですから」


「そういう時代は終わったんだ」


「ええ、終わりです……ソフト王国はこれから王国ではなく共和国に作り変えます……なので貴方から約束をしていただけないでしょうか?」


「約束?」


「ソフト王国の王子であるリンクの持つ命の盃を破壊するのを。その代わりにソフト王国はソフト共和国に生まれ変わり、新しい大統領として某が君臨します……そして某の政治として外の世界に一切関与しない」


「っ!!」


 日本に対して一切の関与をしない……喜ぶべき事だ。

 だが、交換条件として提示されている命の盃を破壊すると言う行い……いや……やれる価値はあるか。


「分かった……とは言え俺が壊したと言ってもお前は信用しないだろう。だからお前は破壊の立会人になってはくれないか?」


「立会人……貴方、意外と食えないですね……」


「食えなくなるのは伝説のミックスジュースだ……1つ、勘違いしている事があるがこっちはお前を倒す準備を着々と進めている」


「ええ……ヴァッティングがある日を境に帰ってこなくなり、伝説のミックスジュースの作成を阻止する為にスカウトした涼風氷花もあっさりと倒されました」


「バカかお前は。殺す……は、無理にしても岩手や大分県の様に下手したら人生で一生関わり合いが無い土地に住まわせればいい。涼風氷花が伝説のミックスジュースを作れる乙女ならば関わり合いを持てない状況下に追い詰めるんだ」


「…………………その手がありましたか…………」


 そもそもでこの手のもので問題なのは割と近くに味方になってくれる人間が居ることが。

 岩手県や大分県の様な場所ならば人生で下手したら一生関わり合いを持たない土地に送り込む。最終的に4人組になるのならば何かしらの状況で1対多を作り上げる。その上で日本刀の様な物理武器を使う。


「とりあえず某の方針としては白旗で……貴方達と関わり合いを持たない。そして命の盃を破壊する光景を見ましょう」


「……分かった……が、俺は担当者であり政治家ではない。現場での判断はある程度は任されるが流石にこれに関しては上に持ち込まないといけない案件だ。少し時間をくれ」


「わかりました……命の盃を破壊するときは命の盃を持って我がアジトに来てください……失礼しますね」


 アル大臣はそう言えば姿を消し。なにかの魔法か特殊な異能なのか道具を使って計測をするのだがなんの反応も出てこない。

 アル大臣を殺す大義名分は手に入れた……だが、アル大臣は白旗を上げて降参を宣言してきた……


「信じるか、人の悪性を。疑うか人の善性を」

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