第3話 共犯の疑いと、100円の奇跡

「あなた、一体何をしたんですか?」




バイト終わりのコンビニ裏。


美月は、退路を塞ぐようにまっすぐ俺を見据えていた。




「え、何のこと? 俺なんかしたっけ?」




俺は、口笛でも吹きそうな勢いでとぼける。


だが彼女の視線は、冷蔵庫より冷たかった。




「とぼけないでください。あまりにも不自然です。


……まさか、あの男性はあなたの協力者ですか?


自作自演のクレーマー騒ぎを起こし、それをあなたが解決することで、私の関心を引こうとした。


そういうことでしょう?」




彼女は分かっている。


自分が美人で、男がバカなことをする生き物だと。




「はぁ!?」




俺は絶句した。違う、そうじゃない!


……が、論理的に考えたら、その推理が一番あり得る。




何より、超タイプの美少女に“そういうクズ”だと思われるのは、人生最大の屈辱だった。




「ち、違う! 俺はそんなんじゃねぇ!」




必死に否定しても、美月の疑いは晴れない。




「では、どうやってあの『偶然』を引き起こしたのか、論理的に説明してください」




論理的に、って言われても。


こっちは“感覚とノリ”で生きてんだよ!




追い詰められた俺は、最後の手段に出た。




「……わーったよ! 見せりゃいーんだろ、見せれば!」




俺は“運が見えるモード”に切り替え、幸運を探した。




すぐ見つかった。


自販機の下に、落ちている小さな白い光。




屈み込もうとした瞬間、美月が心底軽蔑したような声を出す。




「……何をしているんですか。お金に困って、自販機の下の小銭でも探しているのですか」




「うるせぇ! 見てろって!」




俺はそのツッコミを無視し、白い光を拾う。




「いいか、あれは偶然じゃねぇ。俺が起こした――『幸運』なんだよ!」




「幸運……ですか?」




美月の目がさらに冷えた。


この人、冷気属性かな?




俺は白い塊をポケットに入れ、自販機を指差す。




「ああ、そうだ! 俺、今マジで喉渇いてんだけど、財布には20円しかねぇんだ」




美月は深いため息をつき、心底哀れむような目を向けた。




「……22歳にもなって、所持金が20円ですか。なんだか、少し、可哀想な方ですね」




「うるせぇ! 余計なお世話だ!


でも大丈夫だ。あの自販機の釣り銭口には、前の奴が忘れてった100円玉が絶対に入ってる!」




「……ええ。もう結構です。本気で病院に行くことをお勧めします」




美月がそう呟いた、その瞬間――




俺は自販機に近づき、釣り銭口に手を突っ込んだ。




――チャリン。




金属音。


俺の手の中には、まさかの100円玉。




「……!」




ほんの一瞬、彼女の瞳が揺れた。


完璧なポーカーフェイスが、初めて崩れる。




俺は100円玉を突き出してドヤ顔。




「どーだ、信じたか!」




数秒の沈黙。


そして美月は、研究者のような目で俺を見た。




「……なるほど。あなたは、世界の因果律に干渉する、極めて危険な能力を持っている、と」




「だから、なんかカッケー言い方すんなって!」




「承服しかねます。あなたのその能力、私が責任をもって――監視させていただきます」




こうして、最悪の誤解から始まった、俺と美月の奇妙な関係が幕を開けた。




――この日から、俺の人生はとんでもなく“監視される”ことになる。







その頃田中は、柱の角に足の小指を強打し、悶絶していた。






ふう……やっぱり、放っておくと事件を起こしましたね。これだから、彼から目が離せません。

今後も観察を続けるため、★やフォローで経過報告を残しておいてください。数が多いほど監視体制が強化されます。

(陸)いや監視体制って何だよ!? ……でも、次も見てくれたら嬉しいっす!

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