モフモフ・パンチ!

渋谷かな

第1話 モフモフしちゃうぞ!

「zzz。」


 彼女は寝ている。


 夢の中では・・・・・・。


「夢ちゃん!」


「モフちゃん!」


「アハハハハッー! アハハハハッー! アハハハハッー!」


 夢の中で彼女は、笑顔でぬいぐるみと戯れていた。アハッ!


ガン! ガン! ガン!


 フライパンを叩く大きな音が夢を壊す。


「夢! 起きなさい! あなたは、いつまで寝てるの!?」


 彼女は、お母さんの雷で目を覚ます。


「ふわ~あ! いいじゃない。寝たって。私、暇なんだから。」


 彼女の名前は、希望夢。19才の無職の引きこもりである。


 なぜ彼女が引きこもりになったのか?


 彼女の過去。


「おまえのどこに希望と希望があるんだよ! ワッハッハー!」


 と学校でいじめられ、自宅待機。


「ギャアアアアアアー!? 学校怖い!? 世の中怖い!?」


 そして彼女は、底辺・最弱を手に入れたのであった。エッヘン!


 再び現実へ。


「あんた、家にばっかりいると、お友達ができないわよ?」


 娘を心配する母親。


「大丈夫! 私には、お友達がいるよ!」


「どこに?」


「モフちゃん!」


 彼女は子供の頃からぬいぐるみを大切にしている。彼女の唯一のお友達。それがぬいぐるみのモフちゃんだ! アハッ!


「い、痛い・・・・・・。」


 母は娘の言動にダメージを受ける。


「いいから、起きるのよ! まったく・・・・・・。」


 母は彼女の部屋から去っていく。


「フン! 私だって、好きで引きこもっているんじゃないやい・・・・・・。」


 彼女の苦しい気持ちを誰も分かってくれない。


「zzz。」


 そして、彼女は二度寝した。アハッ! 


 彼女は夢を見た。


「夢ちゃん。」


 誰かが彼女を呼んでいる。


「夢ちゃん。」


「誰?」


「僕だよ。僕。」


「モフちゃん!?」


 彼女の前に、ぬいぐるみのモフちゃんが意思をもって現れる。


「夢ちゃん。僕の乗って、世の中をぶっ飛ばそう!」


「モフちゃんに乗る!? そんなことできるの?」


「できるよ! だって、僕と夢ちゃんはお友達だもの!」


「モフちゃん・・・・・・ありがとう。モフちゃんは私の大切なお友達だよ!」


 彼女のぬいぐるみを愛する気持ちが、ぬいぐるみに奇跡を起こしたのである。


ピキーン!


「そうだ! これは夢なんだ! 夢なら何でもありだ! やってやるぞ~! うおおおおおー!」


 そして彼女は夢だと開き直った。


「おお~! いくよ! モフちゃん!」


「おいで! 夢ちゃん!」


 彼女は、ぬいぐるみに搭乗した。


「本当にモフちゃんに入っちゃった!?」


 彼女は、パジャマ姿である。


「モフちゃんの中って、暖かくて柔らかい! モフモフ! モフモフ!」


 あり得ない体験をして、モフモフして楽しんでいる彼女。


「さあ! 夢ちゃん! いじめっ子を倒しに行こう!」


「おお~!」


 彼女は、モフちゃんを操つる。


「いた! 私をいじめたいじめっ子だ!」


 そして、彼女を恐怖で引きこもりにしたトラウマの原因を発見する。


「オラオラ! いじめてやるぞ! 私より弱い奴はどこだ! ワッハッハー!」


 確かに最低な、いじめっ子。弱い者いじめしかしない。


「キャア!? 怖い!?」


「大丈夫だよ。何も怖くないよ。ここは夢ちゃんの夢の中なんだ。ニコッ!」


「私の、夢の中?」


 そう、ここは彼女の夢の中。


「そうだよ。夢の中では、夢ちゃんの思い通りだよ。」


「私の思い通り・・・・・・。」


ピキーン!


「モフモフしちゃうぞ!」


「モフッ!」


 ここで彼女に覚醒スイッチが入る。


「・・・・・・許せない! 絶対に許せない! 返せ! 私の人生! うおおおおおー!」


 臆病な彼女だが、夢の中なら、いじめっ子も怖くない。いじめは、彼女から。進学、就職、恋愛、他人を信じる心、自分を好きになる気持ち、夢や希望を奪っていた。

 

「いくよ! モフちゃん!」


「おお! 必殺技をかまそう!」


 彼女はぬいぐるみを加速させ、いじめっ子に突撃する。


「モフモフ・パンチー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 夢の中のいじめっ子を、夢ちゃん搭載のぬいぐるみが殴る。


「ギャアアアアアアー!」


 夢の中のいじめっ子は一撃で倒される。


「ああ~、スッキリした! アハッ!」


 彼女はトラウマを振り払った。


「やった! やったよ! モフちゃん! ニコッ!」


 彼女の顔に笑顔が戻った。


「おめでとう! 夢ちゃん!」


 少しだけ前向きに、自分のことが好きになれたのかもしれない。


ガン! ガン! ガン!


「こら! 夢! 早く起きなさいー!!!!!!」


 母親が再び襲来した。


「ふあ~あ。もう、うるさいな。人がいい気持ちで寝てたのに・・・・・・。」


 彼女は夢から覚めた。


「いいから起きなさい! 無職でも、引きこもりでもね!」


 これも言い方は厳しいが、母親の娘を心配する愛情である。母親は部屋から去っていく。


「あれ? 夢? 面白かったな! アハッ!」


 彼女は、今度は気持ちよく、スッキリ目覚めた。


「・・・・・・夢は、夢だよね。はあ~。」


 夢オチに彼女は、現実に戻され、ため息をつく。


「タッ! タッ! タッ! タアッー!」


 着替えて、顔を洗い、歯を磨く夢ちゃん。朝の準備完了。アハッ!


「おはよう!」


 彼女は、家族のいる居間にやってきた。


「あれ? 誰もいないや?」


「あんたが寝ている間に、みんな出かけたわよ。」


「アハッ!」 

 

 笑って誤魔化す彼女。


「テレビでも見よう! ポチっとな。」


 リモコンでテレビをつけた彼女。


「次のニュースです。若者が闇バイトの現行犯で逮捕されました。」


 テレビに犯人の顔と名前が出る。


「ええっー!?」


(こいつは、私をいじめていた、いじめっ子だ!?) 


 なんと、彼女をいじめていた、いじめっ子が逮捕されるのでした。


(まさかの正夢!? こんな奇跡がある!? 私、モフモフしちゃった!?)


 こうして夢ちゃんの夢が、汚れた汚い不条理な現実を少し正します。


「うおおおおおー!」


 あり得ない展開に、思わず発狂する彼女。


「ど、どうしたの!? 頭でもおかしくなったの!?」


「え!? え~っと、ご飯おかわり! ニコッ!」


 苦し塗れに、ご飯のおかわりで誤魔化す。


「美味しい! お母さんのご飯は美味しいな!」


「まあ、無職でも、引きこもりでも、食欲があることはいいことよ。」


「アハハハハッー!」


 母親も娘の健康を喜んだ。 


「ニコッ!」


 笑っている彼女の姿を見て、ぬいぐるみが少し笑っているように見えた。


(また、見れるといいな。モフモフ・パンチ!)


 夢は見るものではなく、夢は叶えるものだから。


 つづく。

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