異術決戦上の宿命を巡る激戦が始動する英雄譚

紅薔薇棘丸(旧名:詩星銀河)

第一巻

序章「入学試験」

第1話「少女と出会う」

 俺は目的地を目指して歩いていた矢先で霊獣に襲われる。実際は霊獣が出現する場所は獣たちが死んで行った後も清めてもらえなかったのが原因だった。

 霊獣と称される類は獣が死んで現世に縛られた霊魂が具現化した末路だと言われている。つまり、現世を彷徨う怨念が残った獣の魂が形を成したものである。怨念を抱いた状態の魂は生物を無差別に襲撃する傾向が見られる。それが連鎖することで地上に縛られた魂の怨念は数多に作られてしまう。


「哀れだ……。今すぐ俺が解放してやる。待っていろ……!」


 俺は肉体が宿した霊力を呼び覚まして安易な戦闘技術を用いた霊獣処理を始める。霊力が俺の右拳に収束されてオーラが纏わされた状態を作り出す。そして俺が襲撃して来た霊獣に向けて殴打を放った。


「霊帯拳ぅ!」


 霊力が拳を帯びて強化された状態で殴った瞬間に霊獣が弾けて消えた。霊獣は姿を消して魂が分散すると俺はすぐに詠唱を始めた。


「死する魂を霊界に導け」


 そんな風に唱えると分散した魂は発光しながら空に消えて行った。これで魂を清めることが出来た。


 この世界に伝わる話だと死後は定められた詠唱で清めないと怨念を留めてしまう末路に繋がるらしい。何故なら生物は生命が絶たれると死後に怨念が残ってしまうからだ。それを防ぐために人語が話せる種族は成仏を促す詠唱を施して魂を霊界に送り届けて来た。稀に自然死を遂げる生物もいるが、それらの類でも同じ現象が窺える。


 そんな風にどんな形でも霊獣として留まった魂は【異術】を使って倒せば成仏する。つまり、さっきの一撃は霊獣を成仏させるために放った攻撃だった。


「ちゃんと霊界に行けたら良いけど」


 俺は倒した霊獣がちゃんと霊界を辿れたか気になるところがあった。やはり、死んでしまった獣が怨念を抱いた状態で霊魂として残ることは現世で害悪となる可能性が高い。それを放棄して置けば大抵は倒さないと行けない時が来る。ならば、ここで倒して置く必要があると判断した。


「取り敢えず目的地は近い。早いうちに到着したいから行くか?」


 俺が決断を固めると目的地を目指して歩みを再開する。今はとにかく徒歩を続けて目的地の到着が果たさないといけない。


 そして俺は目的地が見える範囲内に巨門の構えられた様子を視覚で捉える。そこが俺の人生を送る新たなる一歩として選択した場所だった。


 そこで今年も開かれる【王立総合異術学院】の進学を賭けた入学試験が行われる予定を入れている。入学試験は毎年決まった時期に特定の年齢層だけが受けられる実力が試される機会だった。それを受ける者は現在に至るまでの経過の中で積み上げた鍛錬が見出す成果を示して合格した時が晴れて進学を許される。だから、俺の抱いた一心は確実に合格することだけを胸に抱きながら王都を訪れた。


「取り敢えず門番を通らないと始まらない。ここで通行許可が降りないなんてことはあるはずがないよな?」


 通らなかった場合が少しでも可能性としてあることが不安を起こさせる。

 やはり、自分が通れない理由なんて特に見当たらない時点で大丈夫だと言い聞かせながら門番と対峙する。そこで門番が俺を目前に迎えたところで声を掛ける。


「止まれ。この先を進みたいなら身体チェックと身元確認が必要となる。それに同意できないなら立た去れ」

「もちろん受けよう」


 そんな風に俺は門番から念入りにチェックされた。俺の身元を証明する手帳が見られた時の反応は大して問題が窺えた訳でもない様子が一目で分かる。手帳を返してもらった後で身体チェックを終えて通行許可を得る。門番を抜けることが無事に出来たとろこで王都の中が視野に入った瞬間が新鮮を思わせる気持ちが起こる。


「ここが王都か? 人が沢山いるなぁ〜」


 目前の光景を見た時に自然と感嘆が漏れてしまう。その瞬間は俺を新たに始まろうとしている生活の予兆を思わせるようだった。


 そんな気持ちを抱きながら俺の歩みは目的地でもある異術学院が位置する敷地を目指した。その場所は事前にもらっていた王都内の地図を見ながら向かった。


「ここだな?」


 随分と広い敷地が目前に広がっており、王国内だと名高い学校はどんな方針で動いているのか謎だった。

 後はこれぐらいの敷地だと試験の合格者は大勢いると判断して安心感を抱いた。


 そして俺は校門を通過しようと歩んで行くと踏み入れる前に後ろから声が掛けられた。


「おーい! そこの君! ちょっと待ちなよ!」

「……ん?」


 俺が振り返った瞬間にぶつからない程度の距離を空けて停止する少女が一人だけ笑顔で話したがる。彼女はショートヘアーがお似合いの小体型を目立たせる女子である。

 見た限りだと右手に握られている本は勉強のために持参した書物かも知れない。ちゃんと服装が整っている姿は入学試験を受けたくて来たはずだと予測できる。

 そして少女は俺と視線が合うと早速話が進められた。

 相手は碧眼を宿していた知名度の高い人物だった。それが本来の可愛いを際立たせて立ち尽くす。


「おはよう。今日は絶好の天気だね?」

「……はぁ? どちら様ですか?」


 視覚で捉えた髪を掻き上げて自然体で振る舞う少女が俺に恋心を抱かせた。自然に惹かれて行くような心が彼女の切り出した話を理由に大きく揺れ動いて期待が生じる。


「どうやら私たちは同じ試験を受けるんですね? そうそう私の名前は美波海子って言うんだよぉ! クラスメイトになれた時はよろしくね!」


(か、可愛い……⁉︎ こんな女子が話しかけて来るなんて思わなかったぁ⁉︎)


 こんなところで初対面の女子から急に自己紹介されて困惑する。このタイミングで俺は何と答えて良いか分からなかった。しかし、これが彼女と出会った初日だと言うことは事実である。これから待ち受ける運命が導いてくれる先の未来が楽しみで仕方がない。だから、俺から言えることがある。


「よ、よろしく。俺は天条昴だ。今回の試験は合格だけが目的で来た。それは互いに同じ目的だろ?」

「もちろん。それ以外に目的がある訳がないでしょ?」


(見た感じだと幼い印象が残っている。これで試験を受けるなんて少し心配だな。けど、結果は本番で示せる。そこで彼女の実力は明かされるはずだ)


 俺の内心は海子の戦闘能力を測りたくてしょうがない気持ちで溢れた。やはり、幼い容姿から窺えるイメージは多少の劣等を思わせる。そこで抱かされたイメージを凌いで見せる実力を持っていた場合の意外性は半端ないだろう。

 しかし、そうだとしても俺は一切の敗北を許さない。自身で掲げた目標は必ず遂げて見せたいと内心で思っている点があった。その時点で俺が彼女をライバルと認める時が訪れる可能性は気を引き締めてくれる。だから、今の気持ちは忘れないで試験が臨めることを願う。


 そして俺たちは一緒に試験会場を目指して歩み出した。

 まさか校門の前で女子と仲良くなってしまうなんて意外性を感じさせる。これまで女子を近くで窺ったことがなかったから凄く珍しいと思う感情が芽生える。もしかして彼女が恋愛の対象として捉える衝動が起きたのかも知れない。だけど、それが自身の真意であることは素直に認められるが故に今後は協力関係が築かれると予測した。


「ねぇ? 君はどこから来たの? この辺だと見掛けない顔だから珍しく甘えちゃうんだよね?」

「その気持ちは分からなくもない。逆の立場に置かれた時は俺も同じ気持ちが起こったはずだ」

「私たちは友好関係の相性が抜群かも知れないね? まさか昴くんは嫌だったかな?」

「え……?」


 唐突な質問に回答が詰まる。まだ出会って間もない関係で彼女の発言が嫌であるなんて判断は内心が抵抗を強いる。初対面で言えることは現状だと率直に回答を出すのは難関だった。それでも回答は少なからず出して置いた方が良いと判断した。


「嫌とか言えないだろ。俺たちの関係は始まってから時間の経過は少ない。その状態で嫌だと言う回答が本音なんて性根は持ち合わせていないんだよ」

「へぇ〜。かっこいいじゃん!」

「はぁ? そんな回答で良いのかよ」

「駄目だった?」

「別に」

 女子と交わす会話経験が少ない俺の内心は緊張よりも楽しいと思う気持ちが強い。これは少しだけ彼女に好意を抱いてしまった可能性が考えられる。けど、それが即座に認められるほどのメンタルは持っていない。だから、彼女が勘違いしない方向性を見出して行こうと考えながら会話を続けた。


 二人で会話を進めながらあらかじめ伝えられていた集合場所を目指す。俺たちが集合場所に到着した時から自分たちと同じく受験する目的で来た者たちが揃っている。この光景を見た時に俺は再び気持ちを抱き直す。


 すると、集合した者たちから騒々しい声が上がる。そいつの上げた声を周囲が迷惑だと思うような行動が見られる。


「ぎゃーひゃっひゃっひゃっひゃっ! やっと総合異術学院の試験が受けられるぜ! ここで圧倒的な実力を見せて学内トップの成績を残すんだよぉ!」


(うるさい奴がいるな? 正直こいつの合格は望めないだろ)


 俺の考えていた通りだと大声を上げたお調子者は落選が予測される。こいつが予選を通ることなど敵わないと考えている。何故なら自分の実力を身余るような行動を取る点が大きく落選させる原因となることは明らかだ。それが彼が夢を追えない理由を作る。


(残念だけど彼は見込めないだろう。奴と一線が交える機会があるなら倒す。過ぎた態度を取るから最悪を招くんだよ。浮かれていられるのも今のうちだ)


 俺の思った奴の辿る末路は最悪を予測していた。真の実力は日常を送る中で言動が伴われると考えている。日頃の言動はどこでも素が出てしまうなんてことが俗にある。それが俺を常に内心が引き締められる理由として実力に影響する。普段から気が緩い奴は戦闘中の隙が出来やすい傾向を持ってしまうところが活躍の見込める点を失わせる。

 とにかく俺は日頃を重視した上で生活が送れるように努める。仮に生活を乱す理由が出来た時は臨時で対応する他になかった。


 集合場所を訪れて待ち望む気持ちを抱いてしまうことで無自覚に時間の経過が進んで行く。それを退屈だと思いながら待つ時間はストレスが溜まる原因を作った。ストレスは簡単に発散が出来れば大して怖くない。それだから俺は残り時間が僅かを切ったところで気持ちを入れ替える準備が必要だった。早く試験が行われて後悔する覚悟は出来ているから俺の内心は少し安心させる要素が胸に秘めていた。

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