晴れ、ときどき地球。光の手紙
もりちゅ
第1話 青の観測
地球は、今日も静かに回っている。
観測窓の向こう、青がゆっくりと動いて、雲が筆でなぞられたように流れていた。
私はカップのコーヒーを揺らしながら、
その青に“今日も変わらないな”と呟く。
「ミナ、観測データに変化は?」
『ありません。海面温度も気圧も、
昨日とほぼ同じです。』
「そうか……俺もだよ。」
『リクさんも、気圧が安定しているのですか?』
「いや、気持ちの話だ。」
AIのミナは一瞬だけ沈黙し、
いつものように真面目な声で言う。
『人間の気圧は観測不能です。』
「だろうな。だからコーヒーで調整してる。」
カップの中で、黒い液体が微かに波を立てる。
その揺れ方が、まるで地球みたいだと、いつも思う。
『リクさん。孤独は、ストレス要因になります。』
「そうでもないさ。孤独ってのは、
距離の単位みたいなもんだよ。」
『距離、ですか?』
「そう。誰かを思い出すたびに、少し近づくんだ。」
『……詩的ですね。』
「また出た、それ。」
私は笑いながら、モニターに映る地球を指差した。
「詩的って言うなよ。研究者にそう言うなよ。」
『失礼しました。では、哲学的です。』
「それもやめろ。」
ミナの声が、わずかに笑っているように聞こえた。
人工知能に“笑う”プログラムなんてないはずなのに。
その瞬間、通信パネルのランプが小さく瞬いた。
地球から届いた光が、少しだけ強くなったようだった。
「おいミナ、地球、今日は少し機嫌がいいぞ。」
『観測値、照度プラス0.3パーセント。
異常はありません。』
「そういう意味じゃないんだよ。」
ミナは数秒の間を置き、
『……承知しました。地球は本日、快晴です。』
と答えた。
私は笑って、コーヒーを飲み干した。
窓の外の青は、いつも通りだったけれど、
ほんの少しだけ明るく見えた。
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