第20話 妹陽花里
江梨香は父恭介と同じ東都大医学部を目指して猛勉強中だ。その傍らにはいつも寄り添い微笑む桜木の姿がある。
「江梨香ちゃんこんなんじゃ東都大医学部は到底無理だから、しっかり頑張って夢を掴もうね」
「はい!はい!はい!はい!桜木先生頑張りますよ!ふっふっふっ」
以前は桜木に何の関心も持てなかった江梨香だったが、ましてや異性として意識することなど皆無だったが、江梨香が多くの医学用語を暗記する必要があるので、江梨香の為にわざわざ家に帰って、手作りで医学部受験のための暗記帳を作ってくれている。今までのどの家庭教師よりも、真剣に江梨香の夢を応援してくれているのだ。
この様な姿を見るにつけ江梨香の心には、いつしか淡い恋心が芽生え始めている。
一方の桜木は、高校3年の美しい江梨香の為だったら、どんな苦労もいとわない覚悟だ。たとえそれが一方通行に終わろうと、側にいられるだけで十分なのだ。
その熱意は至る所見られる。江梨香の日常生活にまで踏み込んで助けてくれている。
それは、母美琴の余りの許しがたい行為を、自ら父に直談判して美琴の悪行を訴えてくれたのだ。それは中々出来る事ではない。ましてや自分がいずれお世話になるかも知れない東都大附属病院の、元病院長お嬢様美琴夫人の悪行を、洗いざらい夫の恭介に訴えることは中々出来る事ではない。
たまたまそれによって好転に転じることに成功したので良かったが、中々勇気ある行動だ。そんな真剣さにほだされ、最近は桜木といる時間が何より安心できる空間となっていた。
医学部受験は中途半端な気持ちでは到底受からない。それこそ多くの医学用語を暗記する必要がある。実は…医学部は理系で、暗記科目が少ない文系と比較して暗記量が多いことから「暗記ゲー」と言われる。
例えば人体や病気のメカニズム、診断や治療に関する基本的な知識。 医学部に入学後の学習で必要となる解剖学、生理学、薬理学などの専門用語。 医学部受験の面接や小論文で必要となる時事の医療用語や倫理に関する用語など、覚える用語が山積している。
2人はまだ手もつないだことはないが、陽だまりの中で微笑み見つめ合っている。
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美琴は心筋症で亡くなったが、それは原因不明の突然死だったのだろうか、それとも誰かの手により故意に手を加えられ意図的に殺害されたのだろうか?
確かに夫恭介にすれば美琴は生きていてもらっては困る存在だ。いつ治るとも知れない「代理ミュンヒハウゼン症候群」という疾患に侵され、大切な娘江梨香の命を脅かす厄介な女なのだから……
代理ミュンヒハウゼン症候群は、加害者が子供の症状を捏造したり、故意に病気を作り出したりする。例えば、薬物を飲ませたり、窒息させたりといった行為により、子供は実際に身体的な不調や病的な状態に陥ることがある。
代理ミュンヒハウゼン症候群の加害者に対する治療は、主に精神療法(認知行動療法やカウンセリング)が行われるが。しかし、治療に応じるかどうかは個人差があり、完治が難しい場合もある。
このような理由から、娘江梨香に危険が及ぶ可能性大な女美琴を、致し方なく医学知識を悪用して殺害した可能性はゼロではない。確かに美琴は家柄は申し分のない家柄だ。父は自ずと知れた元東都大病院長で母方の祖父は大企業「フラワー」社長で現在は息子が社長を引き継いでいる華麗なる一族。
一方の静香は高級ホテルの主任パティシエールで現在まだ40歳手前だが、超美人だ。只一点欠点を挙げるなら、生い立ちは決して自慢できたものではなく、児童養護施設出身者だ。
「名を捨てて実を取る」ということわざを取れば、見かけだけが立派なものよりも、実質の優れたもののほうがよいということになる。
こうして…恭介は静香と会って余りの美琴の娘江梨香に対する仕打ちに、深く話し合った。2人は大切な娘の体を、想像を絶するダメージを与えた事への許せなさで、1人の時の怒りが2人で話し合う事で何倍、何十倍にも憎しみが膨れ上がった。
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実は…この家庭には秘密があった。
実は…夫恭介には全く別の顔があった。美琴は長きにわたり不妊治療を行ったが、障害のある亜里沙だけしか、産めなかった。そこで恭介は考えた。恭介の子供たちの中では江梨香が一番優秀で、また愛人も静香が一番魅力的だったので、恭介は江梨香を跡取りにしようと考えた。
どうしても跡取りが必要だと義父聡から責め立てられて、江梨香を親戚の子供だと言って貰い受けたが、現実は愛人の子供だった事で、この家庭には不協和音が鳴り響いている。
恭介は誰もが知りうる超ウルトラスーパードクターだ。何もノーベル賞を取ったからと言って急に名前が、世界中にとどろいたわけではない。若い頃から頭一つ抜けた優秀な医師だった。脳神経外科の手術には、最新の非常に精密な技術と特殊な手術器具が必要だが、恭介は脳神経外科手術の根本的な要素が最初から備わった医師だった。
だから……若いうちから待望視され日本医学会ではチョットした有名人だった。更には母麗子が非常に美しい女だったので、母に似て容姿にも優れていた。
この様に完璧な恭介には愛人が沢山いて当たり前だ。何も恭介が求めるのではなく向こうからやって来るのだ。それこそ今まで女医に看護師、薬剤師と枚挙に暇がない(まいきょにいとまがない)。
だからここで言いたいのは、妻美琴と揉めていた愛人は星の数だったという事だ。そして…愛人との間に誕生した子供は江梨香だけではなく、他に看護師との間に誕生した赤ちゃんがいたが、美琴が暴れて多額の慰謝料を払って無理矢理別れさせた。その看護師は東都大の看護師で現在は産婦人科の看護師長となって働いている。
更にはとんでもない事実が判明した。実は…美琴には1億8千万円もの生命保険が掛けられていた。そして受取人が何と、妹の陽花里だというのだ。
実は…妹は民間総合病院の長男と大恋愛の末結婚していた。
民間総合病院とは、民間団体が運営する病院なのだが、陽花里が嫁いだ立花総合病院は多くの診療科を備えた総合病院だったが、経営難に直面していた。
まあ保険金目当てで妹陽花里が姉美琴を、毒薬を盛って殺害した可能性は無きにしも非ずだが、高々1億8千万円では焼け石に水ではないか?
実は…妹陽花里は父譲りの頭脳明晰な女で、お医者様になるべくしてなった。結婚して立花総合病を舅、姑、夫、それに陽花里で切り盛りしている。当然義父が病院長で夫が副院長そして…義母が事務長で陽花里は事務長補佐だが、経営悪化を食い止めるために悪戦苦闘を強いられている。
そんな時に婿養子に入った恭介と過ちを犯してしまった。
陽花里は、姉と結婚したその日から義兄恭介に目を付けていた。陽花里はその時大病院の1人息子と付き合っていたのだが、結婚式のタキシード姿の余りのイケメンぶりに度肝を抜かれた。いつも見る普段着とは違い恭介のタキシード姿にビビッと来てしまったのだ。容姿だけではない。その上能力にも長けている姉の旦那さんが欲しくなった陽花里は恭介に言い寄っていった。
実は…姉美琴にはとっても大切な趣味があった。だから…専業主婦の美琴は家の用事が済むとすぐさま習い事に出掛けるのが日課になっていた。一見何の取り柄もない美琴に見えるが、習字の腕前は師範にあと一歩のところまで来ている。そこで熱心に先生に個人レッスンを受け努力を重ねていた。
一方の妹陽花里には悪い癖があった。姉美琴の大切なものが欲しくなる癖のある陽花里は、姉がいない時を見計らって姉の自宅に度々お邪魔していた。自分には愛する夫がいるにも拘らず、こんな危険な真似をするのには訳があった。病院経営が上手く行っていないのだ。事務長の義母の補佐として手を尽くしているが、状況は深刻だ。
この様な状態の病院にストレスマックスの陽花里は、今まで一度も感じた事のないコンプレックスを姉美琴に感じていた。
(何の取り柄もない姉でも夫が優秀であれば、無能なあんな姉でも光り輝けるなんて……本来は私の方が注目されていて当たり前なのに、最近は夫恭介の力で医学会の至宝の妻なんて言われて持て囃され、癪に障るったらありゃしない。全くうちの夫と大違い。坊ちゃま育ちでどうしようもない!💢💢💢)
陽花里にすれば自分の方が遥か上をいっていて、姉など眼中になく見下していたのに姉が脚光を浴びているのに我慢ならない。
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ある日のことだ。姉美琴は相変わらず習い事の虫となり出かけている。江梨香は小学生でいない。亜里沙は別荘にひっそりと隠されているようなものだ。
そんな時間帯を見計らってやって来る陽花里は、良き妹を演じて姉が夫を放ったらかしているのを気の毒に思い、手伝いに来ているフリをして、そそくさと食事の準備に取り掛かっている。
「お義兄さんハンバーグ大好きなんでしょう。早速作りますね」
そう言って甲斐甲斐しく料理を振舞う陽花里の姿があった。
「どう……美味しい?」
「陽花里ちゃんお料理上手なんだね。凄くおいしいよ。ありがとう」
そんなある日の事、またしても陽花里の姿が神宮寺家にあった。
それは恭介がたまの休みで椅子に腰かけ、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいた時のことだ。陽花里が後ろから恭介にそっと抱き付いて言った。
「お義兄さんのことがずっと好きだったの。お義兄さん……私のことどう思っているの?」
こうして事態は急変する。
※医師とは適切な技術と知識を持っていることが、手術を成功させるために重要になる。脳神経外科医は、手術だけでなく、救急対応、非外科的治療、画像診断、術前術後管理、リハビリテーションなど、幅広い分野に携わるため、常に最新の医学知識を習得し、患者さんの状態を正確に判断する能力が不可欠だ。
患者さんの命を預かる責任の重い仕事であるため、強い倫理観と使命感は医師にとって最も重要な要素の一つ。高いプロ意識を持ち、患者さん一人ひとりに真摯に向き合う姿勢が求められる。
現代の医療は、医師だけでなく、看護師や薬剤師、理学療法士など、多職種が連携して患者さんをサポートするチーム医療が中心。円滑なコミュニケーションを通じてチームをまとめ、それぞれの専門性を最大限に活かす能力が重要だ。
脳神経外科の手術は長時間に及ぶことも多く、精神的・肉体的な負担が大きい仕事。プレッシャーの中でも冷静さを保ち、集中力を維持できる強い精神力と、激務に耐えうる体力が必要だ。
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