第18話 「代理ミュンヒハウゼン症候群」
美琴の死は人為的な事件なのだろうか、それとも突然死による心筋症だったのだろうか?
今となっては亡くなった美琴ですら、真実に辿り着けないまま旅立った可能性が濃厚だ。
実は…健康に見える人が突然死に至ることは十分に考えられる。その主な原因の一つが心筋症であり、自覚症状がないまま、心室細動のような致死的な不整脈を引き起こして突然死につながることがあるのだ。
だから……美琴の死は人為的に仕組まれた事件ではない可能性も十分考えられる
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テトロドトキシンは、神経細胞にあるナトリウムチャネルをブロックし、脳から筋肉への信号伝達を遮断する。これにより、呼吸や運動ができなくなる。一方で、痛みを感じる神経の働きも抑える可能性があるため、鎮痛剤としての研究が進められている。
もし人為的に仕組まれた事件であったなら次のことも考えられる。
フグ毒と鎮痛剤としての利用が研究されているテトロドトキシンは同じものなので、美琴はダイエットサプリを飲んでいたので、その中に混入してあれば飲む可能性は十分考えられる。あの日食事会から家までは車で30分くらい運転して帰って来てから容体が急変したらしい。
だが、恭介に美琴を殺すほどの殺意があったとは到底思えない。ノーベル賞を取ったら、ハッキリ言って義父の聡に今までのような媚びへつらいは無用となる。反対に義父聡が恐縮するほどだ。そのくらい偉大な賞なのだ。
第一義父母と一緒に生活している訳ではないので、全く問題ない。以前より家庭での地位も上がり妻美琴もきっと以前のような訳にはいかない。何といってもノーベル賞を授与されたのだから……
義父聡も、偉大な娘婿に腰も低くなるだろうし、良いことずくめなのに恭介が美琴を殺害する必要がどこに有るのか?
まあ1つ挙げるなら、美しい静香に嫉妬して江梨香を虐待する可能性は決してゼロではないが。
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美琴は夫恭介の浮気の実態を知って手を尽くして調べ上げた。
その結果自分とはかけ離れた美しい女で、超一流ホテルの主任パティシエールであることが判明。余りにも美しい静香に嫉妬の炎がメラメラ燃え上がった美琴は、想像もつかない行為を繰り返した。
その時期は、江梨香が丁度小学2年生の頃だった。恭介の部屋を掃除して本型金庫を見つけた事で夫の浮気が判明した。
(あんな美しい女では、手も足も出ない。私なんかがどうやって勝負すればいいの?精神が崩壊して娘江梨香を見るだけで、憎しみが込み上げて江梨香を粉々に破滅させてやりたくなるの。シクシク(´;ω;`)ウッ…嗚呼……どうにもならない。あんなに可愛かった江梨香だったが、今は静香にそっくりの江梨香を見ると血が体中に激流して醜い心が全てを支配してしまう。ぅううう( ノД`)シクシク…そして…更に恐ろしい境地に達したわ。そう…子どもにわざと病気を作り、熱心に面倒を見ている母親を装うことによって、周囲から関心を集め、愛する夫からは感謝され、一方ではあの憎い静香の娘を虐待する事で夫を奪った女に復讐が出来る)
美琴が恐ろしい境地に達したとはどういう意味なのだろうか?
実は…美琴によって恐ろしい事態が起こりつつあった。最近江梨香に様々な異変が生じていた。
例えばこんな事があった。娘の江梨香が気分が悪くてだるいと言ったので、美琴が風邪薬を飲ませた。
すると、非常に危険な症状が現れた。
立ちくらみ、めまい
吐き気、嘔吐
著しい錯乱状態、会話困難
意識障害、昏睡状態
けいれん発作
呼吸が遅くなったり苦しくなったり、一時呼吸停止状態に追い込まれた。
実はこれには原因があった。大量の風邪薬を水に溶かして飲ませていたのだ。
「江梨香大丈夫どうしたの?しっかりして!」
美琴は顔色を変えて必死になって江梨香の看病をしている。更に恭介に泣きながら訴えている。
「あなた大変なの。江梨香が気分が悪くてだるいと言ったので、熱を計ったら39℃もあったので、風邪薬を飲ませたの。すると急変して大変なの。ぅうううっ( ノД`)シクシク…帰って来て!わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」
急遽帰って来た恭介だったが、夫の恭介が早く帰って来たので事なきを得たが、恭介は心臓が止まると思うほどショックを受けた。それはそうだ。たった1人の大切な娘が死にそうになったのだから……。
更にはこんな事があった。
寝ている江梨香の顔に故意に美琴がサランラップを被せ、窒息しそうになったことがあった。その時は美琴は恭介に美琴がうつぶせになって眠り窒息しそうになったのだと噓をついた。
美琴自ら江梨香の容体を江梨香に感づかれないように悪化させておきながら、夫の前では必死に看病して良き母を演じていたのだ。
美琴は静香という恭介の愛人を知ってからと言うもの血が激流して、良い事と悪い事の判断もつかないというよりも、それ以前に感情のコントロールを完全に失って、感情が崩壊して、到底まともな精神状態ではない。そして…2人の間に誕生したその子が江梨香だと知ってからと言うもの、他にも数えきれない程の不審な病気に手を染め命を脅かさせていた。
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(私は絶対に静香が許せない!夫を誰にも奪われたくない。あの日夫と娘の秘密、愛人静香との娘だということを知り、急遽帝都ホテルに駆け付け、そこであの女を目の当たりにして、到底私では恭介を引き留めて置けないと確信した。清楚で凛とした佇まいの山本静香(元木下静香)を見た時の衝撃は今も頭から離れない。どうしてこのような女が恭介の前に現れてしまったの。どうしたら恭介を繫ぎ止めれるだろう。こうして私はある方法を思いついた)
良い母親を装い江梨香にありえない行為を繰り返した。
「代理ミュンヒハウゼン症候群」というのは、子どもにわざと病気を作り、熱心に面倒を見ることによって、周囲から関心を集めようとする精神疾患で、虐待の一種であると言われている。
加害者となるのは、子を近くで養育する親であることが多く、実際、子を一番身近くで養育しているのが母親であることが多い現状なので、母親が加害者であることが多い。
「代理ミュンヒハウゼン症候群」の過去に起こった事例をいくつか紹介しておこう。
*母親が、いずれも病院で治療中の自分の幼い子どもたちに対し、医療関係者等の目を盗んで、点滴に水道水等を混入させたりし、1人を死亡させ、2人に菌血症等を発症させたとして、傷害致死、傷害罪の罪に問われた。
*1970年代から1980年代にかけて、テキサス州の准看護師であるジェニーン・ジョーンズは、自身が担当する乳幼児60人あまりを殺害した疑いがあるが、その背景には代理ミュンヒハウゼン症候群があった可能性も指摘されている。
*1996年、オハイオ州で、フロリダ州の母親が児童虐待の容疑で逮捕された。難病と闘う8歳の少女と、けなげな母親として、しばしばマスメディアに登場していたが、実は、娘に毒物を飲ませたり、バクテリアを点滴のチューブに入れたりしていた。その少女、ジュリー・グレゴリーは、200回の入院、40回以上の手術を受けて、内臓の一部を摘出されていた。逮捕後、母親には判決が下り、出所後も女児に接近禁止令が下され、手紙のやり取りだけで会っていない。女児はこの一連の出来事を書いた書籍を発表し、代理ミュンヒハウゼン症候群から子供たちを守るためのライターとなった。
*1998年、福岡県久留米市で、1歳半の女児が20代前半の母親から抗てんかん剤を飲まされた。嘔吐や下痢、痙攣(けいれん)などの症状で入院するが、1週間ほどで回復し退院。ところが1ヶ月後に救急車で病院に運び込まれた。女児は意識障害を起こしていて揺さぶっても目を開けず、発作が起きるという母親の訴えで、抗てんかん剤を少量投与すると、いきなり血中濃度が高まり、中毒状態に陥った。同じ薬を大量に飲まされていた可能性が高かった。病院が調べると、母親が自分の神経痛で、二つの病院からその薬を処方されていた事が判明。女児は他に、水を1日2リットル以上も飲まされていて、水中毒による低ナトリウム血症を起こしていた。担当の医師は「『うちの子、難しい病気なんでしょう』と繰り返し聞いてくる。よくいる心配性なお母さんという感じだった。
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それでは…妻美琴が何故この様な精神疾患にかかってしまったのかと言う事だ。
「代理ミュンヒハウゼン症候群」の主な原因は、幼少期の虐待やネグレクト(育児放棄)といったトラウマ経験、他者からの注目や承認欲求、境界性パーソナリティ障害などの精神疾患との関連が指摘されている。これらの心理的・社会的要因が複雑に絡み合っていると考えられているが、根本的な原因は明確には解明されていない。
お嬢様育ちの美琴に一体何があったのだろうか?
実は見えてくるお嬢様美琴の実態。
美琴の祖父に当たる母方の祖父が、洗剤メーカー「フラワー」社長で、美琴の母真知子は超お嬢様だった。
脳神経外科医の優秀な父聡と母真知子は結婚したが、聡は仕事で神経をすり減らしているので、家では手がつけられない暴君で、少しでも気に食わない事があるとすぐ家を出て、愛人宅に向かうどうしようもない男であった。
それでもそんな父を尊敬し、愛していた母真知子は、父に付きっ切りで機嫌を損ねないように必死で尽くしていた。
聡の愛人は現在は看護師長でテキパキとした超美人だ。一方の真知子はお世辞にも美人とは言えないが、一般人とは育ちが違う超お嬢様。それこそチョットした所作などにもお嬢様然とした雰囲気を醸し出す品の良さに、両親のごり押しで結婚させられた女だった。
そこに誕生した2人姉妹の美琴は長女だったので、母真知子から妹の面倒を見なさいと、小さい頃から口が酸っぱくなるほど言われ続けて育った。
年子だったので、気がついた頃には、親の愛情を独り占めできる状態はとっくに過ぎて、妹に愛情が向けられ寂しい思いをしていた。ましてや妹陽花里(ひかり)は非常に美しい娘だった。一方の美琴は母に似て余り美人ではない。この様に何の取り柄もない美琴は、自分を良い子に見せかけるには、どうしたらいいか、自分に注目を集めるにはどうしたら良いか、そんなことをいつも頭の片隅に持っている女の子だった。
妹陽花里は父親似でしゅっとした超美人だ。更には頭脳まで父親譲り。一方の美琴は母真知子に瓜二つだから品位の備わったお嬢様ではあるが、これと言った取り柄はない。
この様な状態なので自ずと両親も陽花里に全幅の期待を寄せ、美琴など只の出来の悪い付属品ぐらいにしか思っていない。こうして「代理ミュンヒハウゼン症候群」と言う疾患に憑りつかれてしまった。
このような実態が事件にどのように重くのしかかって行くのやら……。
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