5.「無慈悲すぎますわ」
祝福の修行として開拓者ギルドの医療部門に勤務することになりました。重症患者向けに祝福を授ける形になります。それを見た人々が信じてくれるって寸法です。
今日は膝から下を熊に噛まれて欠損した人が運ばれてきて、それを治すという状況に。かなりよろしくないですね。
「これより大地賛美教のお祈り、祝福を致します。しかし大地賛美教は信者数が少なく効果はあれども力が限定的です。ここにおられます皆様のお祈りによって少しでも力が増すように、このときだけでも大地賛美教、ダーイチ様のことを信じてあげてくださいますようお願い致します」
「血を作るポーションがもうない! 急いでくれ祝福士様!」
「皆さんは何も考えず祈るだけで結構です。ダーイチ様ダーイチ様、このお方に祝福を。ダーイチ様ダーイチ様、このお方に祝福を。このお方がなくした肉体を取り戻せるよう、何卒お願いします」
患者の頭上に光る玉が現れる。光球だ。なんか今日はえらくもったいぶって光っている感じがします。時間ないんだけどなあ。
「ダーイチ様ダーイチ様、今回は緊急事態なんで急いでちょんまげ」
急に光り輝く光球。
「こ、光球の光によって血が止まりました!」
「医師様、もう少しパワーを上げたいのですがそれくらいの時間はとれますでしょうか?」
「すまない、わからない。ただ失血は止ったというだけだ。失血性のショック死とかは現段階でも十分考えられる」
「わかりました。ダーイチ様ダーイチ様、このお方に祝福を。ダーイチ様ダーイチ様、このお方に祝福を…………」
数分後、やっとの思いで満タンになった光球が炸裂する!
光球の中は煙で、一帯が煙に包まれました。
「医療現場で煙幕爆弾はやってはいけませんよ……そういうところですよダーイチ様」
煙が引き、欠損患者の身体が見えてきます。すると……。
「か、完璧だ、完璧に復元しているぞ!」
まあわれわれは、欠損した状態で運ばれているので元がどうだかわからないのですが、確かに綺麗な膝下が生まれておりました。
後日確認したところ完璧だったって連絡が。よかったよかった。
莫大を通り越したとんでもねえ魔素保持量を持つ私ですが、それでも祝福は一日3回も使えば魔素は枯渇します。
割合で消費されているのかもしれないですね。そのぶん祝福も強烈ですが。
一月も立てば、私の(祝福の)凄さを知ってもらい、医療部の人たちや噂を聞きつけた患者様と一緒に信心向上をはかって、信者数の獲得をしました。
信者がいて、組織が出来て、そこからの祝福の巫女なので。まずは信者、信者は力。
今までの宗教を捨てろって話でもありませんしね。併存可能なのが大地賛美教。
そして……
「古城行くか。道具も揃った」
「えぇ。私はアイテムを補充したのとお洋服を洗いに出して綺麗にしたくらい。もふりんはそのまんまですし。なにが揃ったんですか?」
「身だしなみを整えればそのぶん防御力も上がるだろ」
おお、凄い、これは凄い。さすがクラックスさん。マジで言ってるのかな。
次の祝福炉に祝福を入れるタイミングと、私の魔素容量が十分になる時間を見計らってから古城へと出発!
古城は私達が住む森とは正反対にあるところで、ヴァンパイアの巣窟です。
「うおおおおおしねえええええ!!」
ヴァンパイアが襲ってきます。
「ダーイチ様ダーイチ様、聖なる光球をお作りください。ダーイチ様ダーイチ様、聖なる光球をお作りください……できました!」
でも、聖なる光をともす祝福とともにあればヴァンパイアの動きは怖くないね!
「聖なる祝福を食らええええええ」
「ぎゃあああああ」
進むこと地下1階。霊灰所ですね。ここではヴァンパイアといえども大きなことは出来ません。
「安置されている灰を照らして浄化させていくか。ヴァンパイアは光に弱い、何より祝福の光なら消滅させられるはずだ」
ぴかーと無慈悲にもやってヴァンパイアを枯らすクラックスさん! 私が産みだしている光球なのに使っているのはクラックスさん、なんか腑に落ちません。
「調度品は一階に集めて、二階へ進軍するぞ」
クラックスさんのかけ声とともに二偕へ到達しました。二階は不思議なことにこぢんまりとした部屋が一つ。この古城の広さには見合いませんね。
「あ、中央の床に魔法陣がありますね。移動系かな?」
「まずはその魔法陣を詳しく調べてみるか。どこに行くかわからんからな」
しかしね、このカラクリが解けないんですよ。
なんたって魔法陣の術式を読み解ける人なんていません。私は祝福とスリングショットが使える女の子、クラックスさんは魔導工学と機械系そして盗掘ですからね。
「上層にはまだ部屋があると思うんですけどねえ」
「埒があかん、祝福で吹き飛ばせ」
「ええ……まあできますけど、これであと1回ですよ」
「もうヴァンパイアなんていないだろ」
うーん、まあやっちまいますか。
ダーイチ様ダーイチ様、このお方に祝福を
ダーイチ様ダーイチ様、このお方に祝福を
「光球動きませんねえ。ものじゃダメかなあ。ダーイチ様ダーイチ様……」
すると、私に光球がぶつかってきました。
「ぎゃあ! ……ああ、私に学を付与してやらせようというわけですか。一時的に記述が読み解けそうです」
「お祈りが廃れるわけだ、力が強すぎる」
そして読み解くこと30分。すげー時間かかった。けど。
「ダミーの記述はこれで最後ですね。あとはわざと消している記述を足してあげれば、真の転移魔法陣になれそうです」
完成した魔法陣に警戒機を突っ込んで安全を確保したら突入!
おらー! 時間かかったんだぞー! 伝説の聖剣とか出てこいやあ!
突入した先には真っ白な空間と奥に棺が一つ。
ほほーん、ここのボスだなあ。処すべし!
「棺を開けて出てこいよ、ぶちのめしてやる!」
私が宣言する。
その声に反応したかのように棺がガタガタと動き、蓋が開いていく。
「あなた達があたくしの僕を全滅させたお方達ですわね。時間かけて軍団を作ったのに、酷いことをしてくれたものですわあ」
「先制攻撃の聖なる光の祝福コャ!」
ピカーン! 部屋が聖なる光で覆い尽くされる。
ま、どう考えてもボスも終わりましたね。掃除して調度品見て帰りましょう。
「――っぶしーですわね。でもあたくしは光も聖属性も克服しているヴァンパイアなのですわ。なんといっても」
――ヴァンパイアロードなのですから――
そのお嬢様は綺麗な金髪に赤い目、整った身体と魅惑の顔、ほどよい高身長と、生物として『完璧』でした。
ああ、私が惨めになる。わ、わたしのほうが胸はありますから! 贅肉は……贅肉は……およよよよ。
「さて、反撃させていただきますわ。レイ」
ヴァンパイアロードが軽く私を見た直後に光がほとばしる。
私の目前に、魔法防御陣が自動展開する。
「あら、死なないのね。結構防御は良いですわね。じゃあこれで消し飛びなさい。ファイアストライク」
悪夢のような炎の塊が頭上から連続で降ってくる!
怖い!死ぬ!
しかし私はこれまた自動防御で対応!
古代の衣服がなかったら即死だよぉ!!
「死なないわね。たいしたものだわ」
「ここここ、今度はこっちからいきますよ。マーカー弾!」
このお嬢様の魔法はほぼ必中みたいだけど、スリングショットもかなりの速度で弾を発射するんでほぼ必中なんですよね。
ぴちゃっとマーカー弾が当たります。
「予備動作ねこれは。さあ、何をしてくれるのかしら」
「必殺技ですよ! あなたの攻撃は私には効かない! 妨害されることもない! 一撃食らわせてやります!」
そういって必殺の魔弾をスリングショットの弾の受け手にセット。
思い切り紐を引き絞る。
このスリングショットは魔素を込めることで際限なく威力が上昇する。やけにならない程度に込めに込めた。
「くーらーえー! オメガ・ストライク!!」
私の最大最高の必殺技。
純粋に速い弾を当てるだけの技なんだけど、物体が物体を保持できない速度であたるので全ての物体は自分を保持できない。つまり大体貫通するし大体死ぬ。ちなみに魔素をいっぱい込めると光速を越える。
さすがのお嬢様も衝撃が凄すぎて関節から四肢が千切れ飛んだ。
「心臓を抜いたしあとは全部焼いてしまえば……!」
「火炎瓶投げるぞ!」
「いったー……ちょっと何なのですの、そのぱわぁは。ずけずけと人の家に入り込んで調度品を奪い下僕達を始末し、挙げ句の果てにはあたくしに痛みを感じさせるだなんて! 本当酷い泥棒猫ですわね!」
急に口調が変わった。というかどこにいるんでしょうか。火炎瓶の炎の中には居ません。
「そんな酷い泥棒猫からはプレゼントもらわないとね。実は小さいコウモリになってあなたの首筋に移っておいたのよ。血を頂くわ――って魔法で防御されたんですけど! もー、なんなのよあんたは!」
「私に触りたいなら悪意なくが大前提ですよ」
「このクレア・ソバカス、決めましたわ。あなたに悪意を持って一撃入れるのを目標に生きますわー! あたくし伊達に300年生きているわけじゃないんですのー! あなた何歳かしら? 25くらい?」
「5017年ほど生きてますね」
――ハァ!!!???
この日一番の大きな音でした。
「5000年だろ」
「なにか言いましたか、大将」
「いや、なんにも。このヴァンパイアを全て灰にしてから調度品奪うぞ。棺は爆破する」
「無慈悲すぎますわ」
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