封印された騎士たち:二十世紀に甦る運命

@ObyuTenka

第1話― それは夢だったのか



ランスロットは目を開けた。しかし、そこは自分のベッドではなかった。


頭上の空は深紅に染まり、黒い稲妻が地平線を引き裂いていた。足元の大地は揺れ、ひび割れ、威圧的な影が進んでくる──四人の騎士、それぞれが恐ろしい馬にまたがり、言葉では表せない混沌を放っていた。


大地は彼らの足音に悲鳴を上げ、冷たい風は理解できぬ囁きを運ぶ。まるで世界そのものがランスロットに語りかけているかのようだった。


ランスロットの胸は激しく高鳴る。


最初の騎士は炎の剣を振るい、二番目は漆黒の黄金の天秤を携え、三番目は緑の馬に乗り、目は虚無のように空っぽだった。そして最後の騎士…最後の騎士は濃い影に包まれ、周囲の光さえも吸い込むかのようだった。


遠くで、低いうなりが空気を震わせた──ラグナロクだ。


宇宙の閃光が空を引き裂き、世界の運命が目の前で繰り広げられているかのようだった。ランスロットは叫びたかったが、声は轟音に消え、体はその光景の圧倒的な力に凍りついた。


そして、彼は目を覚ました。


ベッドはいつも通りで、朝の柔らかな光が部屋を包んでいる。シーツは乱れ、背中には冷たい汗が流れていた。彼は何度も瞬きをし、深く息を吸い込む。


これは…ただの夢に過ぎない、と彼は思った。


ただの夢だ。数分の眠りを奪い、口に苦味を残した夢。しかし、彼の中にはそれだけでは片付けられない感覚が残っていた。


洗面所で鏡を見る。


彼の瞳は不思議な光を帯びており、騎士たちの記憶が心に刻まれたかのようだった。頭を振り、彼は小さくつぶやく。


「考えるのをやめろ…ただの夢だ。」


しかし、記憶の片隅では、理解できぬ言葉を囁く声がまだ響いていた。


学校に着くと、ランスロットは日常に戻った。


窓から差し込む光、机や椅子のきしむ音、笑い声──すべてが穏やかに感じられる。友人たちはロッカーのそばで彼を待ち、からかう準備をしていた。


ランスロットはくすっと笑い、トリスタンに目を向ける。彼は不器用に本を落としてしまったばかりだった。


「手伝おうか、それともそのままおちゃらけ続ける?」とランスロットは冗談めかして言った。


「おい、かっこつけてるふりすんなよ」とトリスタンはため息をつきながら、本を拾った。


ランスロットは手のひらに目をやり、指先に微かな痺れを感じた。


大したことではない、ただの奇妙な感覚──遠い力が皮膚の下で震えているような。


彼は頭を振り、目覚めの衝撃のせいだと思い込み、友人たちと教室へ向かった。


歴史の授業が始まるが、ランスロットの集中は途切れがちだった。


夢の光景が瞬間的に脳裏をよぎる──赤い空、騎士たち、ラグナロクの轟音。


彼は無意識に板書に日付や名前を書き留めるが、心はその意味を探して彷徨った。


休み時間、彼は壁にもたれ、他の生徒たちを観察した。


生活は穏やかで平凡に見えるが、心の奥には張り詰めた感覚が残る。


まるで世界が今にも傾きそうで、そしてその余波を感じ取るのは自分だけのような気がした。


彼には、この夢がただの想像の産物ではないことなど分かっていなかった。


何世紀も眠っていたものが、彼の中で目覚め始めているということに。


授業は続いたが、ランスロットは集中できなかった。ノートに書き留めながらも、頭の中にはあの奇妙で重苦しい夢が断片的に蘇る。

先生が歴史の戦いや年代について語るたび、ランスロットの脳裏には赤い空と騎士たちの姿がちらついた。


休み時間、彼は友人たちのもとへ向かった。トリスタンはすでにベンチに座り、いたずらっぽい笑みを浮かべている。


「で、今朝はどれくらい寝てたんだ?」とトリスタン。


「短すぎた…」とランスロットはこめかみを押さえながら答えた。


授業はゆっくりと過ぎていったが、やっと最後の授業が終わった。ランスロットは半ば反抗的に荷物をまとめた。彼は、ほんの少しだけ目立ち、存在を無視されない程度に反抗するのが好きだった。


その後、彼は柔道部の道場へ向かった。道場には畳の匂いと、以前の練習の汗の香りが漂っている。

彼は真剣に練習を始めた。打つ、かわす、技を決める──そのすべてが、彼の中で何かを制御する手段のように感じられた。


練習を終え、額の汗を拭いながら道場を出る。外の冷たい空気が心地よかった。トリスタンが校門の前で待っていた。手には袋を持ち、出かける準備ができている。


「ねえ、マクド行かない?」とトリスタン。


ランスロットはうなずき、二人で歩いてファストフード店へ向かった。席につくと、トリスタンは山盛りのポテトをかじり始めた。ランスロットはドリンクをいじりながら、少しためらった。


「ねえ…」ランスロットは少し声を落として切り出す。「今朝、変な夢を見たんだ…」


トリスタンは目を上げ、すでに懐疑的だ。「ああ、また変な夢かよ?」


「違うんだ、聞いてくれ!」ランスロットは食い下がる。「荒廃した戦場にいて、四人の騎士…恐ろしい姿で、そして…ラグナロクが来るんだ。空は赤く、すべてが揺れていた。」


トリスタンは笑いながら首を振った。「マジで?ただの悪夢だろ。現実じゃないって。」


「かもしれない…」ランスロットはドリンクを見つめながらつぶやいた。「でも、あまりにもリアルで…ただの夢じゃない気がするんだ。」


トリスタンは肩をすくめ、再びポテトにかぶりついた。「そうか…俺は普通に食べるけどな。」


トリスタンの無邪気な態度にもかかわらず、ランスロットはぞくりとした。なぜか、この夢が自分にまとわりつくように感じられた。何かが彼の中で、静かに目を覚まし始めている──そのことをまだ彼は理解していなかった。


食事の残り時間は穏やかに過ぎた。トリスタンはゲームやテレビの話をして盛り上がる。ランスロットは聞きながらも、心はどこか遠くを漂っていた。

いつか、この夢のことを誰かに打ち明ける勇気が出るのだろうか、それとも心の奥に秘め続けるのだろうか──そんなことを考えながら。



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