ヤリ逃げクエスト列伝!星将スバルの孕ませタイムトラベル!〜人類滅亡を回避せよ!魔王も女神も関係無い!子作りタイムアタック!【R-15版】

猫屋犬彦

プロローグ

 世界滅亡。

 それは最早秒読み段階だ。


「何故?何故世界は滅ぶのだ?」


 帝国府宮廷魔導院十二魔天将末席、星将スバル。

 そんな大層な肩書きが今の俺の役職だ。


「まぁ帝国が…世界が滅ぶならもうどうでもいいがな」


 軍事力を拡大した帝国、その魔導錬金術の粋を集めた機械化兵団の暴走。

 加速する砂漠化を止める為に禁呪に手を出し、世界を植物で埋めようとするハイエルフ。

 いつの間にか復活した魔王の解き放った、モンスターの大群。

 更に降臨した古き神の尖兵、浄化天使。


『スバル様。十二魔天将主席就任おめでとうございます』

「AZ。彼等はまだ死んだ訳ではないぞ」


 俺の心臓に埋め込まれた賢者の石とリンクしている帝国が誇る超大型演算機、通称AZが話しかけて来る。


『ですが生体反応は消えました。定義で云えば死亡です』

「まぁ確かにな」


 AZは生体パーツを使用していた為に機械化兵団の統率AIの暴走には巻き込まれていない。

 今の俺の唯一の味方にして最高のパートナーだ。


「次元魔法で逃亡か。大博打にも程が有る」


 俺の上に居たはずの十一人はもう誰も居ない。

 魔導錬金に通じていた者は機械化兵団制圧に向かい、帰って来なかった。

 精霊魔法に長けた者はハイエルフの植物化を防ぐ為に、世界樹の呪いの巫女に挑み取り込まれ養分と化した。

 戦闘に特化した者は身体強化と攻撃魔法でモンスターの大群に挑み、全て散って逝った。

 神聖魔法を極めた者は天使を通じて神との交信を試みたが、光に包まれた後に塩の柱となった。

 他にも多くの者達が戦い殉職した。

 俺は元々魔導戦士として白兵戦に投入されていた。

 死線を潜り抜け能力が開花し、偶々生き残り戦果を上げ続けた。

 その結果、欠番の出た魔天将の穴埋めで昇格したに過ぎない。


(俺の能力と特性の所為で大出世した訳だが⋯滅びゆく世界で成り上がってもな)


 俺の他にも穴埋め、数合わせで魔天将と成った者達も結局は次々と死に、補充が追いつかなくなった。

 数日前には確か五人に減ってたかな。

 生き残った魔天将の一部と、同じく生き残っていた皇帝と皇族が次元魔法で別次元へ逃亡した。


「異世界転移か。俺が若い頃にそう云った創作物が流行ったもんだが」


 異世界転移計画は世界がやばくなってからずっと研究されていた。

 しかし遂には異世界を観測する事は出来なかった。

 いや、厳密には異世界は観測出来た。

 だがそのどれもが人類の存続を拒む過酷な世界だっただけだ。

 ある世界は酸素も水も植物も無い無の世界。

 ある世界は酸の雨が降り注ぎ水銀の海が地表を覆う毒の世界。

 ある世界は今帝国内を跋扈するモンスターが可愛らしい猫ちゃんに見える程の凶悪な生命体が主導権を握る死の世界。


「猫ちゃん」

『⋯猫ちゃん?こんな可愛い私を差し置いて獣が恋しいのですか?おーい』


 どの世界へ逃げても秒で終わる。

 アイツラはいったいどの世界を選んだのだろうか。


「まぁ逃げたくなるのも解る」


 毒ガスが撒かれ機械化兵が暴れ、食人植物が地表を覆い、モンスターの大群が町を襲う。

 そして世界の浄化を願う古き神の炎が全てを燃やし尽くす。


「――が、ベットするなら逃げる方向じゃない。勝利の為に」


 次元魔法を使ってくれたのは有り難い。

 魔力残滓から俺の術式で修正する。


「AZ、演算結果を出せ」

『はい、スバル様』


 一か八か。

 コレで駄目なら世界は滅ぶ。


「⋯⋯⋯この4人か」


 ターゲットを、確認。


「この四人を消せば良いのか?」


 空間にディスプレイが浮かぶ。

 其処には四つの人物の画像が浮かんでいる。

 ただ一人は肖像画。

 もう一人は最大望遠で撮影したガタガタの画像。

 さらにもう一人は帝国府魔導図書館の禁書に描かれた異形の姿。

 最後の一人は古代遺跡の壁面に掘られた抽象的なものしかない。

 とても個人を特定出来るシロモノではない。


『スバル様の能力を私の拡張術式で増幅させました。誤差は有るでしょうが間違いは無いでしょう』

「『星詠み』は別に占いって訳じゃねーんだがな」


 戦友からは占い師とか言われたな。

 罠が張ってあるとかヤバそうな瞬間は山勘で回避したり出来た。

 俺の能力の一つ『星詠み』は、膨大なデータから算出した情報を収束させ特異点を予測する。

 戦闘に於ては敵の急所を見破る。

 突発的な事故を回避する。

 しかし脳味噌が自動演算してる為になかなか任意で好きな未来は見れないけどな。

 そう云った訳でリソースを自身の危機的状況に設定してあるので、大局を見抜く様な使い方は出来ない。


「世界を救うなんてふわっとした目的だとどうにも不具合を起こすからな」

『はい。あくまでもスバル様自身の命の危機に関する条項に絞りました』

「その結果がこの作戦なのは、異世界へ逃げ出したアイツらの事を言えないけどな」


 俺とAZが弾き出したのは、俺が助かる為には過去に飛んで歴史を改変すると云う荒唐無稽なものだった。

 魔天将になる前、能力に覚醒する前、いやそもそも徴兵される前の俺だったら鼻で笑ったろう。

 しかしここ数十年は酷いものだ。

 機械化兵の暴走からの毒ガス散布。

 世界樹の森の侵蝕。

 モンスターの大発生。

 神話でしか語られなかった天使達の降臨。

 時間旅行ぐらい霞む程、色々な事が起こり過ぎている。

 それに時魔法の研究はずっとされていた。

 研究者は実験中に行方不明になったんだがな。


『ターゲットを消しても歴史は変わりません。恐らく修正力が働き、別の人物が成り代わるか、そもそも殺せないでしょう』

「ならどうする?」


 遥か未来で世界を滅ぼさない様に説得するのか?


『孕ませてしまいましょう』

「は?」


 何を言ってるんだコイツは?


『この四人は生涯独身、性交渉も無く一生を過ごしています』

「確かに歴史や神話にはそう書かれているが」


 初代皇帝には子供は居ない。

 ハイエルフの巫女は純潔を保っていた。

 魔王は子供代わりにモンスターの生産に勤しんだ。

 古き神は一神教の頂点。

 土着信仰の神話では神々が結婚や出産をしてる話もあるが、文献通りなら今世界を席巻してる宗教の神は一人だけだ。


「ふむ。試してみる価値は有るか」


 殺すのが不可能なら違う一手を講じるのも悪くない。

 俺の直感も⋯『星詠み』もそれをしろと告げている。


「俺が人の身である事も意味があったか」


 魔天将の中には敵に対抗する為に改造手術を受け入れ、機械化や植物化、モンスター化や天使化した者達も居た。

 皆戦死してしまったがな。


「先ずは何処から攻めるか」


 現皇帝は逃亡。

 ハイエルフの巫女は世界樹と同化。

 魔王はモンスターが湧き出るアビスの底に。

 古き神は天空の果てに。


「故人は一名、初代女帝か」


 術式を展開、ルーツを辿る。

 脳内演算で座標を特定。


「歴史が合っている事を祈ろう」


 生涯現役を務め、後継者には未婚独身処女の女を選ぶ。

 それが慣例と化し、以降皇帝は独身を貫かざるを得なくなる。

 処女や童貞をコッソリ捨てた皇帝が居たら粛清された。

 処女童貞は神聖化され、性行為は汚らわしく獣の様な行いだと忌避された。

 結果、少子化に繋がる。

 少子化対策で編み出された技術は魔導錬金によるホムンクルス生成と脳移植。

 兵士の機械化と軍事力拡大。

 そして機械化兵団の暴走。


「確かに初代皇帝を孕ませれば少子化と機械化は防げるか」


 俺は時間遡行の為に術式を展開し―――


『ところでスバル様。性交渉の経験はおありですか?』

「⋯⋯⋯⋯⋯」


 AZの質問に俺が固まる。


「無いな。童貞だ」

『奥様もお子様もいらっしゃらないのは知っていましたが、恋人もですか』


 心なしか少し嬉しそうな響きを感じる。

 気の所為だな。


「そうだ。居ない」


 俺は元々社会不適合者の烙印を押され、結婚出産の許可が貰えない下級国民だった。

 半日働き、帰って寝るだけ。

 休日は猫を撫でながらゲームを過ごす日々。


「猫か。懐かしいな」


 犬はまだ居たかも知れないが、猫はすでに絶滅している。


「思春期の頃は動画を見ながら自慰をした事もあるが、異性との性交渉は無いな。愛玩用のホムンクルスも高かったし」


 金持ちはホムンクルスを買って性欲処理や家事をさせていた。


『従軍時代には良い仲の女性兵士も居たと聞きましたが?』

「死んだよ。それにアイツは機械化兵だったからな。下半身は機械だったよ」


 いい女だったんだがな。


『そうですか』


 俺だけでなく、現代人はほどんど処女と童貞のはずだ。

 帝国の不老不死計画は失敗したが、延命計画は成功した。

 俺は見た目は十代だがすでに七十程の年齢だ。

 最高齢の老人は三百歳だったかな?

 だいたい元の三倍程の寿命になっている。

 戦死しなければだがな。


『性欲は有りますか』

「解らん」


 人類は寿命の長命化と共に性欲が減衰し、少子化が加速。

 人類は緩やかに滅びの道を歩んでいた。


「まるでエルフだな」

『彼等は滅びました』

「奴等の感覚なら生きてるかもだが」


 エルフ共は世界樹の森と同化した。

 アレを生きてるとは認めたくないが。


「ん?なんだ?」


 駆動音と共に壁が開き、培養液に満たされた大型のカプセルが現れる。


「用意が良いな」


 緑色の培養液の向こうには小柄なシルエットが見える。


『本来ならば貴方の子種を頂き繁殖する為でした』


 人影に何かが注入されたのか、ゴボリと気泡を吐き出し、薄っすらと目を開いていく。


「そうなのか?」


 まぁ人口は増やさないといかんしな。


『しかし、セキュリティがかかっていて妊娠機能はございません』


 AZの声に若干寂しそうな色が混じる。


「魔導錬金の最先端技術でもか?」


 低下した人類の繁殖力をカバーする為に対不妊用の技術は高いはずだが。

 まぁしかし大体は試験管ベイビーだ。

 自然妊娠出産等はレア中のレアだ。


『いえ、私の素体⋯せーたいパーツがとくしゅなのです」


 カプセルが開き、ゲル状に変化した培養液からゆっくりと歩み出て来るAZの肉体端末。

 真っ白い肌に銀髪。

 眠そうに開かれた瞼から覗く赤い目。


「ロックがかかっているよーで、このねんれーよりいくせーするとにくたいがほーかいしてしまいまつ」


 辿々しい舌っ足らずな言葉で説明を続けて来る。


「お、無事受肉したか」


 普段脳内でお話するAZと肉声で会話するのは不思議な気分だな。


「そのよーなたいそーなものではありまてん。のーみそもみはったつでちから。しんごーであやつってるだけのにんぎょーでし」


 ところどころ噛むな。

 俺はAZを抱き上げ、仮眠用の簡易ベッドに座らせる。

 俺の身長の半分ぐらいしかない。

 胸も平坦だし、下の毛も無い。

 当たり前だが未経験だろう。


「ここに挿れるのか。入るのか」


 俺も衣服を脱ぎ捨てる。


「そーですね。じゅんびをしましょー。あむっ」


 AZは俺の下半身に頭を埋め、唇を動かし始める。


「⋯んっ、んんぶっ⋯―――」


 AZは目を瞑り、熱心に続ける。


「ぺろっ⋯ぶじぼっきしましたね」


 AZの可愛らしい唇からは銀色の糸で伸びている。


「勃起など何十年振りか」


 俺が感慨に耽る。


「もーすこしかたさがほしーですね。⋯んんっ」

「人間を止めた様な俺が今更交尾等、皮肉なもんだな」


 俺は炎や氷を出したり、脳波コントロールで機械化兵器を操ったりが苦手だ。

 一番得意だったのは身体強化と肉体改造。

 俺の発現した能力もサポート向きだったしな。

 機械化兵を拳で殴り壊し、モンスター共と激闘を繰り広げ、植物化を食い止め、浄化天使を殺しまくった。


「浄化天使が来なかったら俺は一兵卒のままだったな」

『スバル様は偉大です』

「んんっ」


 誇らしげに俺のモノを口にするAZ。

 そろそろ頃合いかな。


「お返しだ」


 俺はAZをベッドに押し倒し、足の間に舌を伸ばす。


「ん⋯」


 俺はAZも唾液で濡らしてやる。


「ぺろっ、培養液って甘いんだな」

「んくっ、あじみ、してないで⋯」


 AZが足を開く。


「はやく、ください⋯」


 無表情な顔だが、切なげに眉根が寄っている。


「解った」


 俺はゆっくりと腰を沈める。


「うっ」


 呻き声を上げるAZを抱き締める。


「い、いっきに―――」


 痛いのかと躊躇してしまったが、そちらのが辛いらしい。


「痛覚遮断はしないのか?」

「ん⋯んっ⋯」


 AZは脳内音声も発する余裕が無いのか、俺の背中を非力な指先で引っ掻いてくる。


「解った。イクぞ」


 俺はAZに伸し掛かり腰を振る。

 培養液から出たばかりのAZの身体は壊れ易いはずだ。

 本気でする訳にもいかず、加減しながら動く。


(なんだ?これは―――)


 正直何十年振りに発射出来るか不安だったが、背筋をゾクゾクとナニカが迫り上がって来る。

 これが、性交―――これが、射精かっ!


「あっ、あっ、あっ、ああああっ!」


 俺のその気配を感じたのか、AZもギュッと俺を締め付けてくる。


「ぬ。出る」 


 俺は特に我慢する事無くAZの中で果てる。


「これが性交か。妙な感覚だな」


 女を抱く。

 男として生まれたからこう云う事も有るだろうとは思っていたが、まさか相棒の生体コンピューターが操る培養ホムンクルスで童貞を捨てるとは思わなかった。


「この後はどうするんだ?」


 怪我をさせてしまったのか、ベッドには鮮血が流れている。


(ああ、初めてだと血が出るんだっけ)

「えーと、その、キス、してくだ、さい」


 AZはぽわぽわした顔で俺に甘えてくる。

 おかしいな。

 いつもは俺よりも年上の様な頼り甲斐のある奴なんだが。

 今は見た目通り幼く見える。

 そんな風に事後を甘く過ごしていると、轟音がその全てを終わらせた。


「なんだ?」


 俺は慌てて服を着る。

 AZはシーツで身体を隠す。

 すぐにそれが現れた。


「アキャアアアアアアアアアアアアッ!」


 扉をこじ開け、巨大な顔が咆哮してくる。


「浄化天使っ!」


 地下深くに有るこの基地まで侵攻して来るとはっ!


「隔壁を破って此処まで来たかっ!」


 俺は瞬時に臨戦体勢に入る。


「下がってろっ!」


 俺はAZの前に立ち術式を解放する。


「身体強化っ!」


 ドクンッ!と心臓が跳ね、鼓動が早まる。

 俺は機械化手術の代わりに肉体改造を受けている。

 心臓に埋め込まれた賢者の石から血液を通して魔力が全身に走る。


「第一連解放っ!」


 第一連だけでなんとかしたい。

 こんな雑魚に切り札はそれ程切りたくない。

 力は温存しなければ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 俺の魔力を込めた拳が浄化天使の顔面を砕く。

 何もさせない。

 先手必勝だ。


「アキャアアアアアアアアアッ!」


 顔面を狙ったと云うか、この個体は顔面に手足が生えている様な姿をしていた。

 顔のサイズの身体がなくて良かった。

 浄化天使は個体差が激しい。

 空にも届く程の巨体を誇る物や、人間サイズの物、巨大な足に目の生えた異形とかとか、熱に魘されてる時に出てくる悪夢みたいな連中だ。

 デカイ面に俺の拳が突き刺さった浄化天使が複数の小さい手足をバタバタと暴れさせる。

 背中⋯と云うか後頭部の羽が震え、頭の上の光の輪が回転を早める。

 反撃する気か。

 往生際の悪い。


「気色悪いんだよっ!」


 俺が叩き潰した顔は崩壊し、ひび割れた顔面の下から複数の顔が増殖していく。


「燃えて、死ね」


 俺の拳が火を吹く。

 浄化天使との長き戦いで得たデータにより、奴等には普通の魔法や機械の武器がほぼ通じない事が解っている。

 理由は不明だが、人間本来の力で挑む方が一番攻撃が通る。

 具体的に云えば格闘戦が一番効く。

 だからと云って普通に殴り殺せるサイズではない。

 俺は魔力で体内の熱を収束し拳から解き放ったのだ。

 浄化天使の内臓と云うか脳味噌を焼き切り、頭蓋を破壊して光の帯が壁に突き刺さる。


「ふぅーーーー⋯⋯⋯」


 俺は拳を引き抜き、息を吐き出す。

 なんとか浄化天使を一体仕留め―――


「ちっ!」


 油断した。

 熱線で真っ二つにした浄化天使の頭から無数の顔が出現する。

 しかし増殖しながら崩壊して逝く。

 すぐに死ぬだろう。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!」


 しかし最期の力を振り絞り、頭が割れんばかりの大音声を上げてくる。


「ぐおっ!?」


 浄化天使の断末魔。


「しぶといっ!」


 俺が慌ててトドメを刺す。

 拳を手刀に切り替え、体内電流を増幅して解放する。

 雷の斬撃が一瞬で浄化天使を細切れにし、肉片をバチバチと電撃が包み焼き尽くす。


「キャア―――――⋯⋯⋯グビュッ」


 幾つか残った顔も血の塊を吐き出し、流石に鳴き止んだ。


「しまったな」


 俺が悔やみ切れずに歯噛みする。


「キャーーーーン!」

「キャアーーーーーン!」


 地上の方から甲高い鳴き声が聴こえて来た。


「ああ、くそ、仲間を呼ばれた」


 仲間の死体を目掛けて殺到して来るだろう。

 浄化天使の二、三十体ぐらいなら難無く殺せるが、奴等には撤退や退却等の思考は無い。

 結局は数の暴力に押し切られる前に逃げ出すしか選択肢が無いのだ。

 だがAZを置いて逃げれば彼女は破壊され、もう二度とこの作戦は実行出来なくなる。

 仮受肉したホムンクルスだけ連れて逃げても本体が壊されれば死んでしまうだろう。

 そもそもあのホムンクルスはそれこそ俺の性欲処理ぐらいにしか役に立つまい。

 妊娠機能も無いなら子孫も遺せない。


「ここはまかせてください」


 幼い裸身が俺の前に立ち塞がる。


「AZっ!」


 そうだ。

 もうこれしかないのだ。

 頭では解っているのだが。


「だがっ!」


 今のアイツに戦闘能力はほぼ無い。


『ご心配無く』


 心臓に埋め込まれた賢者の石から通信が来る。

 次の瞬間、ゴゴゴッと云う地響きと駆動音を鳴らし、防衛機構が作動する。

 部屋中から魔導機銃が顔を出し、装填された魔弾が魔法陣を空中に展開する。


『多少なら時間稼ぎは出来ます』

「さぁ、はやくっ!」


 脳内音声と肉声で俺を追い立てるAZ。


「くっ―――!」


 歯噛みする。

 確かに空を覆う浄化天使や地を覆うモンスター。

 大地を蝕む世界樹の森。

 ついでに暴走する機械兵団。

 コレらを俺一人でなんとかするのは無理だ。

 目の前の浄化天使達から逃げ延びても、いずれは力尽きる。

 ジリ貧だ。


「すまん」

 俺は先程の性交時にAZと同期した演算結果で俺の能力を拡張する。


(この為か)


 性的快楽を貪ってるのかと思っていたが、違った。

 セックスを通して彼女の演算能力を俺にコンバートしたのだ。

 これで俺は、AZ無しでも時間遡行が出来るだろう。

 くそっ!


「次元魔法構築」


 だが目指すは異次元の別世界ではない。

 並行ではなく、進むは縦。

 俺が助かる為に。

 AZの死を、無駄にしない為に。


「時間遡行術式」


 術式発動。


(手応えは無いが、魔力がゴッソリ抜かれた)


 先程AZの胎内に射精した時よりも激しい虚脱感を得る。

 そして―――


「なに?」


 それは現れた。

 何の音も無く、其処にずっと在った様に当たり前に。

 見えない。

 円なのか球体なのか。

 光を吸収する為に実態が解らない。

 深淵を満たした様な真っ黒い真円が、俺の目の前に現れた。


「発動した、のか」


 最早是非も無い。

 俺が後ろを振り返る。

 ホムンクルスの肉体に機械化兵の鎧を纏わせ、AZが戦っている。

 最初の一匹が開けた穴から無数の手が入り込んで来ていた。

 掌には目や唇や鼻や耳が生えており、俺を⋯生き残りの人間を探してギョロギョロパクパクスンスンと探し始めている。

 俺に温もりを与えてくれたAZの事は無視だ。

 判断基準が解らんが、奴等はホムンクルスは人間認定していない。

 優先度は人間だ。

 人間を殺し切ればホムンクルスも喰い殺すだろうが。


「AZっ!必ず戻るっ!」


 何と無責任な約束か。

 過去を無事改変して戻った時、AZは居ないかも知れない。


(その方がアイツには幸せかも知れんがな)


 彼女は天使から奪った脳髄をパーツにして取り込んだ生体コンピューターなのだ。

 今は非道にも同士討ちさせてるって訳だ。

 国家機密なのだが、優秀過ぎる彼女はそれを理解している。

 そしてそれなのに俺に協力してくれた。

 俺を抱き締め、受け入れてくれた。

 俺はそんな女を、置いて行く事しか出来ない。

 いくら今起こっている出来事を無かった事に出来たとしても、俺を庇って死ぬ事は変わらない。


「いや―――変えてみせるさっ!」


 俺は振り切る様に前に向き直り、漆黒の穴に飛び込む。


『どうか、ご無事で―――』


 俺に呼びかけるAZの言葉は途切れ、俺の意識も底無しの暗黒へと堕ちて行った――

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