宇宙人ザルクの異世界録
カイタクン
第1話 事故から異世界
真っ暗な宇宙、コレでもかと言わんばかり
に輝く星々。そんな綺麗な空間に似ても似つかない錆びついた船がある。
機体の名前は“ゼルリック号“我が故郷で一
番安いと言われている宇宙船だ。耐久性も低いし攻撃力もない、だが宇宙を探索するだけならコレで十分だ。
ピピ、ピピ、ピピ、誰も居ない船に無機質
な機械音が鳴る。すると船の奥からピタ、ピタ、ピタ一定のリズムで水が地面に滴るように綺麗な音が迫って来て、ソレは姿を表した。
綺麗な肌色、今にも崩れてしまいそうな液体のように滑らかな身体、緑色の目、触手のような髪。
俺の名はザルク、惑星連合の探索者、
識別コードZX-47。宇宙の力でなんでもこなす二足歩行の宇宙人。形状は人間と一緒だ。
銀河を渡り未知の文明を記録するのが私の使命だ。
ザルクは静寂な空間でただ一人淡々と作業をこなしている。探索を終えて次の惑星を探して座標を設定していたのだ。
すると先程まで静寂だった空間に
ピー!ピー!ピー!と不快な音が張りのある敏感な俺の皮膚に振動する。
『何があった? 』
俺は原因を探るため眼を複眼に切り替え
た。先ほどまでの緑色の眼は、赤色のルビーのように輝き変化した。この複眼は生物、物体、問わず遺伝子レベルまで情報を読み取ることができ宇宙人であればみんな持っている機能だ。
神経使うからあまり使いたくないんだけど、しょうがない。
――スキャン――ワームホール調査中、
転移装置が誤作動――
頭の中で無機質な声が響く。俺が設定をミスった可能性、3.7%。…いや、5.2%…
上がっていく数値とは裏腹に俺のテンションは滝のように下がった。
ドスン!ズゴォーー!激しい轟音が鳴り
驚いて尻もちをついた。激しく揺れる船、頭に響く轟音、初めての経験に俺は充電が切れた機械のように思考が停止してしまった。
そんなザルクを素通りするように宇宙の眩
しい光の奔流が船を襲った。その瞬間
ゼルリック号の全ての機能が停止した。
その危機を察知したのかザルクの身体は、
無意識に防御形態を取った。先程までの滑らかで軽薄な肌からダイヤモンドのような蒼い硬い姿に変化し、固まった。船は座標不明の空間に投げ出された。
数分すると俺は意識を取り戻した。一体何が起きたんだ、気がついたら船はボロボロだし。
「設計者の責任にしたいが、俺のミスか? 」と呟き、ボロボロになった機体をみて俺は初めて心臓がギュウ〜と締め付けられた。
安い船だが初めて買いゼルリック号と名付けた船だ悲しくないと言えば嘘ではないのだろう。
ボロボロな機体を見て初めて味わう感傷に、身を投じたがそれも束の間。重大な事実に気づいた。
まずい、非常にまずい。この船はシュメル
星人によって作られた機体。シュメル星人とは高度な技術をもつ宇宙人の中でも創造・建築に秀でた一族。探索員である俺では直せない。
『クソ〜 』
情け無い声が出る。どうやって故郷に帰ればいいんだ。救助信号も何故か遅れないし。
当分はこの星で生活するしかない。触手を
パタパタと震わせながら俺は悩んだが、 ビクンと身体の神経が突如反応した。船の外から生体反応を感じる。
俺は静かに戦闘体制に入り身体を液体のように変化させ隙間から船の外に出た。
周辺は高密度樹木、青色霧、上空には丸 い衛星のようなものが二つある。
その下には、大型爬虫類が蛇のようにコチラを睨んでいる。体長は15メートルほど、
赤色の鱗に大きな翼。所々に炎を纏っている。
『どうりで暑いわけだ 』
俺は複眼を使用し情報を探った。
――推定「竜」――の音波を検知。未知のエネルギー放射、呼称「魔法」
魔法?なんだソレ。俺は初めて聞く単語に、好奇心を震わせたが頭の中で声が続く。
――非科学的、解析不能。接近する生命体を検知。人間型複数、個体名「エルフ」
弓装備。
どうやら竜だけではないようだ。
「侵入者を討て!」
とエルフの集団が俺に吠える
どうやらエルフは、竜に気づいていない。
テレパシーで警告するが、反応なし。いや
言葉が分からないのか?エルフは以前として俺に敵意剥き出しだし、睨んでいた竜も此方に向かっている。
俺は、複眼から得た情報で竜の方が危険が
高いと判断し形態変化した。自分の頭部にある触手を高硬度ブレードアームに変換、先程までグニャグニャしていた触手は一瞬にして銀色の鋭利な刃物に変形。
このブレードで切れないものは無い。自慢げに待ち構えると爬虫類は、俺に向かって赤い炎を放つ。
俺は残りの触手でまな板のようなシールドを貼り炎を無効化。
竜は自分の炎に自信があったのか、無傷の俺を見て固まっていた。ザルクは油断しているターゲットをロックしブィン…と鈍い音を自分から出す。
その瞬間、竜は声を出す間もなく辺りの木々ごと首が切断された。
ズドン、と竜の首が落ち地面が振動する。
エルフの生命体はその光景を見て立ちすくむ、身体をガクガクと震わせ俺に何かを言っている。
『貴様! 魔王の手先か?! 』
魔王?また知らない単語だ。俺はエルフ達にゆっくり近づき魔王について尋ねた。
『シラを切るな! 恐ろしい魔法 異形な触手のような髪、どう見ても魔族ではないか! 』
確かに人間に近い姿ではあるが、近しいだけで人ではない。俺は必死に事情を説明する。
違う星から来たこと、道中で船が故障し墜落したこと、敵意はないこと。
しかしエルフは依然として警戒を解かない、するとエルフの子供が俺に近づき無邪気な顔で一言。
『キラキラ、可愛い 』
自分の容姿を褒められた事なんて一度もない、むしろ畏怖を抱き近づこうとしないのがほとんどだ。
でもこの少女はちがう。目の前の出来事に俺は、混乱した。
周りのエルフは、少女に戻るよう騒ぎ立てる。痺れを切らした一人の屈強なエルフが俺に向かってくる。
その瞬間、先程倒した竜に似た生物が上空から舞いが激しい声を発しながらエルフ達に火を吹く。おそらくは番か何かだろう
『グウェエー! 』
竜の猛攻は止まらない。少女は俺の足に捕まり震えている。
俺は少女を触手で抱え安全な場所に退け
た。静かにそして素早くザルクの身体は飛行形態に変わった。
まるで推進ジェットのような速さで移動し竜を捕捉する。
『対象「竜」をロックオン』
俺は小さな声で呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます