告白してきた彼女はヤンデレでした。
無趣味
第1話
窓から自室へ入ってきた春の夜風が頬をなでた。
夕方の熱がまだほんのりと頬に残っている。
今日の夕方、俺は校内で1番美人だと噂されている女性、紅静葉に告白された。
告白された直後、俺の脳は一瞬機能停止しかけた。
だって授業も違う、クラスも違う。廊下ですれ違う時は周りにたくさんの人がいて、顔も本土見た事なくて、全く接点がなかった
それなのに、放課後、学校の空き教室に呼び出された俺に
「大樹くん、好きです。付き合ってください。」
まっすぐな目でそう言ってきた。
全く理由がわからなかったがふとある言葉が思い浮かんで、理由を確信した
嘘告白、ってやつかな。
一瞬だけ、胸の奥が冷たくなってチクっとした
だけどすぐに思った。ここで断るよりも彼女のプライドを守るのが、一番だろうと。
「うん。いいよ。」
その瞬間。え?と一瞬ポカンとした顔をうかべたあと
「……ありがとう…ごさいます……」といつも通りの無表情に戻ってそういった
俺は、ただ微笑んだ。
数日後の日曜日。
待ち合わせは午後一時、駅前の噴水広場。
俺は彼女を待たせたくなかったから正午には着いた。
それなのにすでに彼女がいた。
赤いスカート、黒い髪を一つにまとめた女性。
狐のような切れ長の少し赤みがかった黒い瞳。
「……紅さん?」
声をかけると、彼女はこちらを見たぺこり。と軽く礼をした
「待たせちゃったかな?」
「いえ、別に。」
冷たい声。でもどこか柔らかい響きが混じっている。
俺は少し気まずくなって笑いながら言う。
「そっか。それなら良かった。まだ時間も早いし、喫茶店でも寄ろうか。」
「……わかりました。」
そう話した僕らは喫茶店へと向かった。
喫茶店では、まだ客が僕たち2人だけで古い時計の音だけが響いていた。
俺は珈琲とパフェを、紅さんは珈琲だけを頼んだ。
テーブルの上に、沈黙が落ちる。
目の前の彼女は静かにカップを持ち上げ、唇を寄せる。
その動作ひとつひとつが、どこか品があって、見惚れてしまう。
ふいに、紅さんが口を開いた。
「なんで、告白を受けたんですか?」
「……え?」
「私が言うのもなんですが別に私たち、接点なんて一切なかったじゃないですか。」
その声には、ほんのわずかに寂しさが混じっていた。
「そうだな。純粋に……嬉しかったから、かな。」
それは本音だった。
嘘告白でも、誰かに好きと言われるのは、少し嬉しかった。
「そう、なのですね。」
紅さんはそう呟き、少しだけ微笑んだ。
その表情が、どこか満足そうに見えた。
そのあと、俺たちは街を歩いた。
映画館で笑い、ゲーセンで取ったぬいぐるみを彼女にプレゼントして、服屋では彼女が選んでくれたシャツを買った。
夕方、紅さんが言った。
「よかったら、夕食を作るのでうちに、来ませんか?」
「え? いや、迷惑だろうしいいよ」
「いえ、私がしたいのですだからお願いします。」
彼女の目はまっすぐで、少しの迷いもなかった。そんな目をされると断ることもできず…
夜、俺は紅さんの家の前に立っていた。
「やっぱり悪いよ。こんな遅くに」
「どうぞ。」
彼女の手が俺の背中を押して玄関へと押し込む
次の瞬間、玄関の鍵が“カチリ”と閉まった。
(……あれ?)
どこか、胸の奥がざわついた。
「はい。できましたよ。」
台所から紅さんの声がした。
テーブルの上には湯気の立つ生姜焼き。
サラダも彩りもきれいで、見ただけで食欲が湧いた。
「俺も手伝うよ。これ、運ぶね。」
「ありがとうございます。」
二人で並んで食卓を整える。
「いただきます」と声を合わせて、食べ始めた。
ひと口食べて、思わず「美味しい!」と声が出た。
「それならよかったです。」
優しく笑顔を浮かべた彼女に、胸が少し温かくなった。
それからは少し雑談をしながら夕食を食べた。
「なんか、ごめんね。お風呂まで借りちゃって。」
あの後、彼女に風呂を沸かしたので入ってきてくださいと言われ、断ることも出来なかった俺は無事彼女の家で風呂に入った
「いえ、謝罪は結構です。」
淡々とした声。
部屋の壁にかけられた時計を見て俺は
「そろそろ帰るよ。遅くなっちゃったし。」
そう言うと紅さんがゆっくりと振り向いて
「今日は、彼女の家に泊まるとお義母様に連絡しておきました。」
「……は?」
「それに、大樹さんの服は今、洗濯中です。」
「え?いや、でも――」
「大丈夫ですよ。両親は旅行中ですから。」
(全然大丈夫じゃねぇ……)
心臓が妙に速く打つ。
紅さんの声色がとても静かだったのが逆に恐怖を覚える
「それじゃあ、寝ましょうか。」
「……あ、俺はリビングで寝るよ。」
「…………」
返事はない。
ただ、彼女の指が俺の手を強く握った。
「こっちです。」
そのまま引かれるように歩かされ、辿り着いたのは、予想通り紅さんの部屋。
白いカーテン。整えられたベッド。
女性の部屋にしてはとても落ち着いた色合いで、先程までの緊張感は和らいだ
「じゃあ、寝ましょうか。」
彼女はこちらを見てベッドをポンポンと叩く。
「いや、俺は床で――」
「……だめです。」
目が、笑っていなかった。
「……わかりました。」
俺はしぶしぶベッドに横になる。
電気が消える。
暗闇の中、隣から彼女の吐息が聞こえた。
(この距離……近い……)
ほんの少し動くだけで、肌が触れ合う距離。
心臓が落ち着かない。
「私、貴方のことが好きです。大好きです。」
紅さんの声が耳元で響く。
「うん。」
それしか言えなかった。
「大好きなんです。あの時からずっと。」
「あの時?」
「もう数年前ですし覚えてないですよね。街で転んだ私に、貴方が絆創膏を貼ってくれた日です。」
(……そんなことが、あったのか。)
「貴方の優しさは、打算から来るものではなく衝動から来るもので、その一つ一つをあまり深くは考えないのでしょう」
その声が、震えていた。
「でも私はこの出会いのおかげで、私は貴方に会えて、未来を決められた。」
紅さんはゆっくりと顔を寄せ、俺の唇に彼女の唇が触れた。
柔らかくて、あたたかくて、切ない。
「私、今とっても幸せなんです。」
彼女は涙を浮かべて、笑っていた。
「貴方を独り占めできて、貴方が私だけを見てくれて……私が貴方の大切な人になれて。」
その目が、少しだけ狂気を帯びた
「だから」
彼女は俺の胸に顔をうずめ、囁いた。
「結婚してください、ね?」
その夜、窓の外では月が静かに光っていた。
まるで、俺たちを見守るように。
彼女の言葉が逃げられない鎖のように、俺の全身に巻きついたような気がした
告白してきた彼女はヤンデレでした。 無趣味 @mumeinoshikisainomonogatari
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