Dans les bois de l'illusion. 迷いの森で

「ふーん…」

一通り話し終わったアーリンの横で、リュートは解ったような解らなかったようなあいまいな相槌を返す。

「で?その双子はどうなったんだよ」

「双子のその後の話までは解らないけどさ、まぁその血が受継がれて俺たちに回ってきたんだろーね。きっと」

アーリンはふぅっと一息つくと、リュートを見上げた。

「でも残念ながら俺はお姫様じゃないし。本で読んだ言い伝えじゃ王子と王女がそのまま生まれ変わって、また同じ目に遭うみたいな話だったけど」

「…っていうか、そのままの方が俺は楽しかった……。野郎2人でこんなトコに来たって、楽しくも何ともねーし」

そう言って、あーあ…と目一杯残念そうに呟くリュートをアーリン呆れ顔で見てこう返した。

「楽しいとか楽しくないとかそういう問題じゃないからさ。とにかくちゃんと真面目に魔物を退治すりゃ帰れるんだから、さっさと退治して帰ろうよ」

「お前に言われなくったって解ってるっつーの」

「どーだか」

2人はお互い目を細めてにらみ合う。

「まぁまぁ、お2人ともそんなにもめなくても。まだ先は長いんですし」

アイビーは2人を交互に見て、困ったように笑った。そんなアイビーにミントは諦めたように言う。

「ムリムリ。リュート様みたいなデリカシーのかけらも無いような野蛮な人間には何を言っても無駄なんだから」

目を細めて自分を見るミントを引っつかんで、リュートはブンブンと上下に振った。

「この小動物。黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって」

「いやーーっ!殺されるぅーー!」

「いててててて!!!!」

自分を掴んでいるリュートの指にミントが噛み付いた。

「何しやがる!!この下等動物が!てめぇから先に退治してやる!!!」

もう一度ミントを掴もうとしたリュートの腕を、アーリンががしっと掴む。

「…もーやめなって。見てるほうが疲れるじゃん。それに、超クールなリュート王子のキャラが台無しだよ?それじゃ」

帰ったらみんなに話さなきゃ、とアーリンはため息をつきながら言う。

「……わーったよ!やめりゃいいんだろやめりゃ」

ったく…と遠くを飛ぶミントを睨みながら、リュートはかまれた指をさする。

森の中を抜けるように作られた一本道を進みながらアーリンはまた言い伝えの話を始めた。


⊹⊱⊰⊹════⊹⊱⊰⊹⊹⊱⊰⊹════⊹⊱⊰⊹

 


「でも、2人は戻ってきた時、何も覚えてなかったんだよね。それは何でなの?」

肩に止まっているアイビーにそう尋ねると、アイビーはちょっと考えながら首を傾げる。

「…さぁ……、すみません私もよく解らないんですが、世界と世界をつなぐ空間の間で記憶をなくしてしまったんでしょうね。オーボエ様なら、そのことについてもちゃんとご存知だと思いますけど」

私は詳しくは知らないんです…とアイビーは言う。

「そっかー…まぁ、覚えてなくても支障はないんだろうけど…」

アーリンは考え込みながら、アイビーを見つめた。そんな様子を見ていたリュートは一言こう言った。

「けど、じゃなくて、支障なんか全然ねーだろ。帰ったって、どーせ同じようにテメーがケンカふっかけてくるんだろーが」

「なんで。記憶が消えちゃうなんて何か嫌な感じじゃん。それに何してたか説明できないんだよ?そんなの変じゃん。それにさ、ケンカふっかけてんのは俺じゃなくてそっちだし」

「お前がいちいち小せぇ事に反応してギャーギャー喚いてんじゃねーか。っとに。ガキはしょーがねぇ」

「喚いてないじゃん!それに小さい事じゃないしさ。人の事バカにして。だいたいリュートは―…」

「しっ」

文句を言いかけたアーリンの口を塞いでリュートはわき道の奥の方をじっと見る。

「居るな…。…お前、見たことあるか?」

「…何を?」

リュートの質問の意味がわからないアーリンは、首をかしげてリュートを見る。

「…魔物だよ。こっちに来てる。まぁ小物だから、たいした事はねぇと思うけど」

「…魔物?見えてんの…?」

アーリンは目を大きくしてリュートが見ている方を眺める。でも、何も見えない。

「…何にも見えないけど」

「それはいいから。魔物を倒す自信は。あるのかないのか」

「あるよ。何回か森で遭った事もあるし。ちゃんと退治したよ?」

「ふーん…」

リュートはアーリンと、わき道の奥の方にいるらしい”魔物”を見比べた。

「…それじゃ、やってみっか」

そう言うとリュートは、トン!とアーリンをわき道の方へ突き出した。不意をつかれたアーリンは慌てる。一度わき道の奥の方を見ると、振り返ってリュートを睨んだ。

「ちょ!何すんの!魔物来てんじゃないの?!ってえ?うわ!!」

ザザっと音が聞こえたかと思うと、アーリンの目の前に真っ黒な犬の様な形の妖獣が3匹姿を現す。それは緑色の炎のようなものを吐きながらアーリンに向かってきた。

「ひぇぇー!何コレ!だーもうっ!サイアクーー!」

アーリンはグッと左手を握ると、一気に腕を突き出した。すると左腕からは真っ白な炎が凄まじい勢いで上がり、それは魔物目掛けてギュルギュルと捩れながら走っていく。先頭の1頭にそれが当たると、魔物はギャン!と鳴き声をあげて燃え上がる。

「ほー。なかなかやるじゃん」

リュートはアーリンの様子を少し離れた所から笑って眺めていた。そんなリュートを見て、アイビーとミントは横で叫んでいる。

「アーリン様!後ろですー!あっ!左!左っ!」

アイビーはおろおろしながら、アーリンに必死で魔物の位置を伝える。一方ミントはのんびりアーリンの魔物退治ぶりを見学しているリュートに抗議する。

「リュート様!見てないでアーリン様を助けてあげたらどうなんですか!へらへら笑ってみてるなんて、なんて酷い方なんですか!」

ミントの必死の抗議に、リュートはふふんと笑って答える。

「いいじゃん。腕試しだよ。それに、こんなもんでくたばられちゃ俺も困るし。練習させてやってんだからありがたいと思ってもらいたいね」

そういうリュートの言葉が聞こえたのか、魔物も気にせずアーリンはくるりと向きを変えた。

「テメー!!黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがってー!練習なんかさせてもらわなくったっていいっつーの!それに!」

アーリンは腕からゴォっと炎を上げて、リュートを睨んだ。

「悪いけどこんなもんじゃくたばらないからね。先にくたばるのはそっちじゃないの?」

アーリンはフンと笑うと身体の向きを変え、腕に絡んでいた炎を一気に吐き出す。

炎はアーリンに向かって突進してくる魔物を2頭同時に見事に焼き払った。魔物はシュウゥ…と音を立てながら煙になって消えていく。

「あーもう。ビックリした」

左腕をブンブンと振りながら、アーリンは笑いながら自分を見ているリュートの所まで戻った。

「あのね。人を見くびるのも大概にしてくれる?俺もそれなりには修練もしてるしさ。こんな位じゃビビリもしないしくたばったりもしないから」

チラリと自分を見あげて不機嫌そうな顔をするアーリンを見て、リュートはフフンと笑う。

「別に見くびっちゃいねーよ。魔物退治に慣れてないんなら、練習させてやろうと思ったんだろ?親切心だぜ」

人の好意はありがたく受け取れよ、とリュートはアーリンの頭を撫でた。

「もー!!さわんな!!」

そう言って、腕を振り払おうとするアーリンの腕を逆に掴んで、リュートはその身体を自分の方へ引き寄せた。

「―な……に?!」

驚くアーリン。一瞬何が起こったかわからなかった。振り返ると、白く光る剣が振り下ろされるのが見えた。バリバリと響く音が聞こえて、青い閃光が周辺を照らす。その先ではさっきの3倍ほどの凄まじい咆哮を上げながら、真っ黒な影がうねりながら燃え上がっていた。それはさっきアーリンが倒した魔物の大きさの4倍はあるだろうか。魔物は真っ青な炎になって、姿を消していく。

「…やっぱりね…。そのうち出てくると思ったぜ」

ふーっとため息をつきながら、リュートは剣を腕に収める。

「だから言ったろ?練習させてやるって。これが試験だったら、お前絶対に不合格だな」

リュートは得意げに笑うと、なぁ?とアーリンを見下ろした。アーリンは不満そうな顔をすると、リュートにくってかかった。

「最初からあの親玉も見えてたんだろー!だったら教えてくれりゃいいじゃん!!!」

「バーカ。それじゃ意味無いだろ。お前がどれくらいおバカさんか実験しなきゃならないんだからよ」

「おバカさんって言うな!!」

「じゃあおマヌケさんか?まぁどっちでもいいけどさ。これ貸しにしとくから、後でちゃんと返してくれよな」

「何でそんな貸し作んなきゃなんないワケ?!勝手に自分で退治したんじゃん。俺だって気づいたらあれくらいちゃんと―…」

大きな目をさらに大きくして怒鳴るアーリンのおでこをピッと指で押さえてリュートは言った。

「ぜーんぜん気づいてなかったのはどこの誰だよ」

くすっと笑うと、抑えていた指でピンとアーリンのおでこをはねるリュート。

「とりあえず、お前は魔物の気配も見えないんだから俺の言うこと聞いていい子にしてな。まぁ食われない程度には手助けしてやるからさ」

ふふんと笑って、得意げな顔でリュートはアーリンを見下ろす。アーリンは返す言葉がなく、じーっとリュートを睨んでいる。

「…ちくしょー…変な特技持ちやがって。っとに何者?」

あーあと嫌そうに呟くと、アーリンはリュートの前を歩き出す。その肩の上でアイビーとミントは必死にアーリンを励まそうとする。

「アーリン様、そんなに気にされることないですよ。私たちがちゃんと魔物見つけたらお知らせしますから」

「そうですよ。リュート様の言うことなんか無視しとけばいいんですよ。ろくでなしのサイテーな野蛮人じゃないですか」

そんなミントの言い様を聞いて、アーリンはクスリと笑う。

「それは言いすぎでしょ。サイテーっていうのは確かに当たってるけど」

「当たってますよね?だってサイテーですもん」

エヘン!とミントは胸を張る。


「おい」

後ろの方で3人の会話を聞いていたリュートはボソリという。

「…誰がろくでなしでサイテーな野蛮人だって?」

目を細めて自分を見るリュートに、ミントは平気な顔で言った。

「決まってるじゃないですか。リュート様の事ですよ。それくらいで済んでるんですから感謝してくださいよ。ホントはそれじゃ足りないくらいなんですから」

ミントも同じように目を細めてリュートを見返した。


「……この…クソ妖精がー!!」

リュートはその言い様にまた逆切れしミントを掴む。が、掴まれたミントも負けじと言い返す。

「お上品な言葉遣いですこと。ろくでなしの上に、見掛け倒しって言うのはリュート様みたいな方の事を言うんですね」

ニヤリと笑うと、ミントはまたリュートの指に思いっきり噛み付いた。

「痛っってぇぇぇーーーー!!!!」

その場に一瞬座り込むと、リュートは手をブンブンと振る。その後また立ち上がって、上をひらひらと飛び回るミントを捕まえようとする。

そんな2人を眺めながら、アーリンは大きく長いため息をつく。

「…あーあー…魔物退治よりもこっちの方が疲れるよ…」

呆れるアーリンを見上げて、アイビーは困ったように笑う。

「でも、ケンカするのは仲のいい証拠っていうじゃありませんか。コミュニケーションが取れてるって事で…」

「……取り方にかなり問題があるけどね…」

アーリンはははは、と力なく笑うとまたあーあ、とため息をつくのであった。




⊹⊱⊰⊹════⊹⊱⊰⊹⊹⊱⊰⊹════⊹⊱⊰⊹



 

テーブルの上には山盛りのケーキ。それに紅茶。

ライラックはフォークを振りながら、目の前に居るサファスに文句を言う。

「どう考えてもおかしいじゃない。ぜーったいリュートのせいよ。アーリンはそのせいでとばっちり受けたに決まってるんだから」

じゃない?と大きな目でキロリと睨まれ、サファスははぁ、と力なく返事を返す。

リュートが書いていない報告書の事で宮殿にいる師範に相談に来たサファスは、帰り際にライラックにつかまったのだ。ライラックの方は自分の師匠に論文を出しにきた所であった。

サファスは有無を言わさずカフェへ連行され、アーリンが居なくなった事の文句を延々と聞かされていた。

「このまんまじゃアーリン留年しちゃうじゃない。どーしてくれんのよ!」

「そんな事俺が知るかよ」

サファスは呆れたような困ったような顔をして、自分を睨むライラックから目を逸らし特注サイズのヨーグルトドリンクをすすった。それから隣の皿にあるピザを1切れとると一口で平らげる。

「いいじゃねーか。アーリン王子はキアロスクーロ1優秀な法術修練生なんだろ?1回くらい留年したってどーってことないだろ。それよりもあのバカ王子のせいで、期限に追われてる俺のほうがどうにかしてくれって言いてぇよ」

まったく…とボヤキながら、サファスはもう1切れピザを平らげる。

「あーあ、もうっ。今度のクリスマスにはばっちり決めて一緒に舞踏会に行こうって決めてたのにっ」

ライラックはふくれながらそういうと、カップのお茶を一口飲んだ。そんなライラックを眺めながら、サファスは考えながらこう聞いた。

「…っていうかさ…俺ちょっと気になったんだけどさ…」

サファスは口ごもりながら、ライラックを見る。ライラックはそんなサファスの様子を見て、真っ直ぐ向き直る。

「何よ」

「いや……アーリンてさ…」

「アーリンが何?」

真剣な目でじっとサファスを見るライラック。そんなライラックを見ながら考え込むサファス。


「…やっぱいいや」

「もーっ…何なのよ。アーリンの事なら何でも知ってるよ?小さいときからずーっと一緒なんだから」

ライラックは得意げにサファスに自慢する。

「私、お嫁に行くならアーリンの所にいくって決めてるもん」

「…いや、決めてるって、相手の気持ちもあるじゃねーか」

呆れるサファスに、ライラックは言い返す。

「だってアーリンいいって言ったもん。じゃあ俺がもらってあげるねって」

「…それは社交辞令だろ。冗談だって思ったんじゃねーの?だいたいお前結婚なんてガラじゃな―…」

そこまで言いかけて、サファスははっと口を塞いだ。

「あ、いや、今のは言葉のアヤ。気にすんな」

はははと笑うサファスを、黙ったままじーっと眺めるライラック。しばらく沈黙が続き、やっと口を開いたライラックは―…。

「これ、サファスのおごりよね?」

腕を組んだライラックにまたキロリと睨まれ、サファスはやっちまったという顔をした。

「……すいません……おごらせていただきます……」

「ありがとう。遠慮なくおごってもらうから」

ライラックはサファスを一瞥すると、おもむろに手をあげてカフェのウェイトレスを呼ぶ。

「すいませーん。チョコパフェとミルフィーユ下さい」

そうやってさらりと注文するライラックをサファスは情けなさそうに見る。見ながら、さっき聞けなかった事をまだ考え込んでいた。


―何だろな―…何か気になるんだよなー…


この前の舞踏会でサファスは初めてアーリンを見た。その時からサファスの頭の中ではずーっと引っかかっているものがあった。

ただ、それはあまりに突拍子もない疑問で、きっと誰に聞いてもまさか!と言われるであろう疑問なのだがサファス的にはどうしても気になって仕方がない。

あまりに気になるのでそれをアーリンの弟であるルシュフィーにも尋ねたが、ルシュフィーにはあっさり否定され、結局サファスの疑問は残ったままだ。


―うーん…俺の勘が当たってたらな―…、…あー…嫌な予感がする…


もしもこのサファスの勘が当たっていれば、それはキアロスクーロ一の”一大事”になるはずだ。

さらに、嫌な予感が当たってしまえば、もっと”大事件”に発展することは間違いない。


―そうなったら―…また面倒見るのか…俺が……


目の前でパクパクとケーキとパフェを平らげるライラックを横目に、サファスは一人ユウウツになっていくのであった。



⊹⊱⊰⊹════⊹⊱⊰⊹⊹⊱⊰⊹════⊹⊱⊰⊹




月の光が木々の合間から降りてきている森の中。パチパチと燃える火を眺めて、アーリンは大きなあくびをする。

「…あー…眠い…」

周りをちょっと見てくると言って出かけてしまったリュートの帰りを待っていたが、もう限界だ。

よほど魔物の住みやすい森なのか、少し歩けばすぐに魔物に出くわし、その度にリュートにバカにされるのが嫌で一人で魔物退治をしていたアーリンは思ったより疲れてしまい、夕方から眠くて仕方なかった。

「もうダメだー」

そのままそこへぱたりと倒れこむと、くーくーと寝息を立てて眠り込んでしまった。





―…誰…?

自分を見て笑う誰かの影。

昼間歩いた森の中を歩いている。

―これは……夢…?


フラッシュバックの様にどんどん切り替わる景色。場面。

でもそれは初めて見るものではない気がする。


誰かの名前を呼ぶ自分。

―誰の名前……?


聞いたこともない名前で誰かを呼び、聞いたこともない名前で呼ばれる自分。


恐ろしい魔物が目の前に迫ってきて、いきなり消える。

そして場面が真っ白になったと思うと、遠くから誰かが自分を呼ぶ声が聞こえてくる―…。


―何?…誰―…?

声に振り返る。

振返って―………。



「ウソ!!!」

ハッと目が覚めて、起き上がるアーリン。

「何で?!」

起き上がったその手には、しっかりと毛布が握られている。

「―…あれ…」

毛布をかぶった覚えはない。だとすると、それをアーリンにかけてくれるのは1人しかいない。アーリンは握り締めた毛布をしばらく眺めた後、これをかけてくれた相手の方を見た。

「どーしたよ」

大声で叫んで起き上がったアーリンに驚いて、リュートは反対側からアーリンの隣へ歩いてきた。

そんなリュートを見上げて、アーリンは首を傾げる。

「…うん…いや、何でもない…。夢見ちゃって…」

「夢?どんな」

「…ん…あんまし覚えてない…んだけど…」

「はぁ?でもお前、ウソ!って叫んでたじゃん」

不審そうにアーリンを見るリュート。アーリンはひたすらリュートの顔を眺めて考え込む。

「…叫んだ…かな?…ごめん…気にしないで…」

何の説明もなしに、アーリンはまた毛布をかぶってうずくまってしまった。そんなアーリンを見て、リュートも首を傾げる。

「…んだよ…。変な奴…」

しょーがねぇな、と呟いて、リュートはまた自分が座っていた反対側へ戻っていく。


―なんで。なんで。なんでそうなっちゃうの―?

毛布に包まって、さっきの夢を思い返す。

その景色は鮮明で、まるで自分の思い出のような夢。しかもその結末は―…

―ウソウソウソ!そんなのぜーったいに有り得ない!!!

打ち消そうとしても、あまりに強烈で頭から離れない。

―もー…っ、なんでこんな変な夢みちゃったんだろ…

おかげで眠れなくなってしまい、アーリンはただただ毛布の中でうずくまるしかない。

 

リュートはそんなアーリンを反対側から眺めていた。

おかしな夢を見たらしいが、にしては反応がおかしい。飛び起きるようなビックリする夢なら、どんな夢か普通は覚えているはずだ。

―超天然か……?寝ぼけ癖か……?

とも考えてみるが、そんな訳はない。だとしたら、あの反応は何なのだろう。アーリンの余りにも不可思議な反応がリュートは気になった。

―ま、いいか。まだ先は長いし、この先いくらでも聞く時間はあるよな


聞いても答えないなら、これ以上考えても仕方がない。面倒になって、そこで疑問を打ち切る事にする。

まさか、その夢のせいでこの先大変な事になっていくとは思ってもみないリュートだった。



 

Dans les bois de l'illusion.

fin.

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