絶対に一人を選ばないラブコメ
山影維縁
プロローグ ふざけるなラブコメ
◇
放課後。男は一人、教室の自席に座り右腕で頬杖を付きながら左手の親指で読んでいない方のページを抑え、目で文の列をなぞる。
男はつまらなそうに見え、慣れているといった感じのスタイル。読むペースは早く普段から読書をしているといった様子だ。
「…………」
そしてパラパラとページを進めた頃。本をパシッと勢いよく閉じ大きなため息をつく。そして、男は俯いたまま動かない。
窓からは斜めに差し込む日差しとカーテンを風がなぞり揺れている。
静寂。というわけではなく野球部であろう掛け声が「ふぁいおーふぁいおー」と遠くから届いてくる。
そんな中、ポツリと一人俯いていた男が顔をあげ。
「……許せないな、どうしてこうなるんだ」
と、つぶやいた。
「途中までみんな幸せそうだったじゃないか」
ギュッと拳を握りしめ力の加わる部分が白くなる。
「なぜ、1人を選ぶ? 何故なんだ」
「全員幸せにするのじゃダメなのか?」
「世間体なんて気にしないでみんなを幸せにすることもできたんじゃないか?」
次々と、感想。いや、作品への文句をつぶやきはじめた。
「なぜ、こんなにも魅力的なキャラたちを見捨てることができる……俺は……」
そして、輝いた目で急に叫んぶ。
「俺は!ヤンデレキャラが大好きだ!」
ガタ……清掃道具棚の方から音がした。
だが、男は気にせず叫ぶ。
「そして、クーデレキャラも大好きだ!」
ガタガタ……教卓が不自然に揺れた。
だが、男は気にもしない。
「何より妹が大好きなんだ!」
ガラガラ……入口の扉が少し揺れた。
だが、男は気にもしない。
その後も、男の怒り混じりの思いを、次々と口に出していき『思い』が声となって他に誰もいないはずの教室にスッと広がる。
これは、この男のエゴであり。エゴでしかない。
だがしかし、エゴであっても思わずにはいられなかったのであろう。
大抵の物語は残酷で最終的に選ばれるヒロインは一人だからだ。
そんなことがあっていいのか?
他の魅力的なヒロインたちは物語の後どうなるのか?
これは恋愛だから仕方ないのか?
一夫一婦制だから仕方ないのか?
そうじゃないだろ。主人公は途中でそのヒロインたちに少しでも好意があるような行いをしていたじゃないか。
何が、難聴系主人公だ。
何が、やれやれ系主人公だ。
何が、鈍感系主人公だ。
キリがない。クソだ。
大体、あんな大胆なヒロインたちがいて好意に気づかないわけがない。クソ喰らえてか、控えめに言って○んでしまえ。
作者も作者だ。最終的に選ばれるヒロインは序盤から誰かわかってしまう作品が多いい。なのに他のキャラを魅力的に描くのはなぜなのか?
作品を面白くするため?
作品の展開を広げるため?
ふざけんなヒロインたちの気持ちを考えろ。
こんな感情はただのエゴであり。傲慢だ。なにより作品に、非はない。もちろん作者にもだ。
だが、そんなことは男にとって知ったことではなかった。
だから男は立ち上がり強く、強く胸の中で宣言する。
「俺は絶対一人を選ばない」
と。
そう、これはそんなエゴで傲慢な男が絶対に一人を選ばない物語。そしてこれがその物語始まりであった。
◇
男が、教室から出て行ってから数分が経過したころ。
教室ないでは3人の女生徒たちが驚いた形相で見つめあっていた。
一人は、清掃用具いれから。
一人は、教卓から。
一人は、男が出て行った逆の扉の裏から。
絶対に一人を選ばないラブコメ 山影維縁 @yamakageiori
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