第45話:白い砂と、第三の素材

異世界四十三日目。 俺は、昨日完成したばかりの「ハーブガーデン」の前にしゃがみ込んでいた。


《月の雫》は湿った日陰で瑞々しく葉を広げ、《火吹き豆》は乾いた砂利の上で太陽を浴びている。 「……完璧だ」 自生環境の再現(シミュレート)は成功したようだ。リアの知識と、俺の土木技術の勝利だ。


畑の巡回を終え、ログハウスに戻る。 扉を閉めると、中は薄暗い。窓には「雲母(うんも)」を薄く剥いで嵌め込んでいるが、これは光を通しはするものの、磨りガラスのように景色がぼやけてしまう。それに、少し脆(もろ)い。


「……そろそろ、やるか」


俺は、部屋の隅に転がっている、閃緑岩を切り出した際に出た「白い砂」の山に目を向けた。 川の上流、閃緑岩の岩盤の近くには、石英(セキエイ)質の白い砂が大量に堆積していた。 成分は二酸化ケイ素。つまり、ガラスの原料だ。


木(有機物)、石(無機物)ときて、次は「ガラス」だ。 最強の炎を持つ俺にとって、これを作らない手はない。


俺は白い砂を「テラコッタの大皿」に盛り、庭に出た。 「グェ!」 従業員(グリーン1号・2号)が、「今日は何の仕事だ?」と寄ってくる。 「今日は見学だ。危ないから離れてろ」


俺は皿の上の砂に、指先を向けた。 これまでの「切る(ノコギリ)」「削る(ノミ)」といった鋭い指向性ではない。 イメージするのは、包み込み、溶かし尽くす「炉」の熱量。


「最強の炎よ、溶かせ」


(ゴオオオオオッ……!)


俺の指先から、陽炎(かげろう)を伴う熱波が噴き出した。 砂の温度が急上昇する。千数百度。普通の焚き火では到底届かない領域だ。 白い砂が赤熱し、オレンジ色に輝き、やがてドロドロの飴状の液体へと変わっていく。


「……ここだ」


俺は炎を維持したまま、傍らに用意しておいた、表面を鏡のように平らに磨いた「黒曜石の板(作業台)」の上に、そのドロドロの液体を流し込んだ。 そして、すかさず熱した「黒曜石のコテ」で、上からプレスする。


(ジュウウッ……)


飴細工のように、液体ガラスが薄く広がる。 不純物が混じっているため、無色透明とはいかない。薄い緑色を帯びた、アンティークガラスのような色合いだ。 だが、向こう側は透けて見える。


俺は慎重に熱を冷まし、固まったそれを手に取った。 厚さ5ミリほど。大きさはランチョンマットくらい。 表面は少し波打っているが、紛れもない「板ガラス」だ。


俺はその板を透かして、空を見た。 緑がかった視界の向こうに、三つの月が薄っすらと見えた。


「……文明の、色だ」


俺はニヤリと笑った。 これで、ログハウスの窓が「本物」になる。


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