第17話:炎のノコギリと、最初の来訪者(の足跡)
異世界十六日目。 俺は、ヤカン岩で沸かした茶を啜りながら、自分の領地を眺めていた。
畑には種が蒔かれ、テラコッタ製の用水路からは、溜め池に絶えず清らかな水が注がれている。 オウムもどき(グリーン1号・2号)は、あの後も定期的に結界の外に現れ、俺が地面を掘るフリをすると喜んで外の地面を掘削している。適度に木の実(報酬)を与え、餌付けは継続中だ。 巨大ミミズは地中に消えたが、土は完璧な状態を保っている。
やることはやった。 あとは、芽が出るのを待つだけだ。
「……だが、待っているだけというのも、性に合わん」
やることは、まだ山積みだ。 最大の問題は「住居」。 あの岩棚は、寝床としては最低限だが、雨風が強い日は湿っぽく、何より収穫した芋や豆を貯蔵する場所にはならない。
「家……いや、まずは貯蔵庫か。地下室(セラー)が要るな」
それには、大量の木材が必要だ。 焼き木のシャベルを作った時のように、炎で「焼いてはナイフで削る」方法では、家一軒ぶんの木材を加工するのに何年かかるか分からない。
俺は自分の右手の指先を見た。 「最強の炎」。 こいつは、火柱(ゴミ掃除)、強火(調理・陶芸)、弱火(着火)と、出力を調整できる。 だが、その「形」を変えることはできないか?
俺は森へ向かい、手頃な太さの、すでに倒れていた木(倒木)の前に立った。 指先に意識を集中する。 イメージは、火柱ではない。拡散する炎でもない。 一点に集中した、細く、鋭い「熱線」。まるで、プラズマカッターのような。
「……やれるか?」
俺は指先を倒木に向け、集中した。 プスッ、という小さな音と共に、指先に灯った炎が、収束していく。 空気が揺らぎ、指先から放たれた見えないほどの熱線が、倒木に触れた。
ジュウウウゥッ!
甲高い音と共に、木材が切断されていく。 燃え上がるのではない。熱で「切断」され、切断面は瞬時に炭化している。 俺が指先をスライドさせると、まるでノコギリで切ったかのように、倒木が真っ二つになった。
「……おいおい」 俺は、自分の魔法の新たな可能性に、思わず笑ってしまった。 これは「炎のノコギリ」だ。
これなら、木を切り倒すのも、丸太を角材に加工するのも、ログハウス用の切り欠き(ノッチ)を作るのも、自由自在だ。 これこそ「最強」の使い道だ。
俺は、本格的な家(ログハウス)の建設場所を選定するため、森の奥へと少し足を踏み入れた。 日当たりが良く、地盤が固そうな場所を探す。
「……ん?」
その時、俺は地面にあるものを見つけて、足を止めた。 土の上に、真新しい「足跡」が残されていた。
それは、獣のものではない。 俺のブーツの跡とも違う。 もっと小さく、裸足の……まるで、子供のような足跡だ。
俺は神に「人間がいない土地」を要求した。 結界は、外からの侵入者を防いでいる。 だが、あの巨大ミミズのように、「最初から結界の内側にいた存在」は、この限りではない。
俺はいつでも炎を出せるよう右手に意識を集中させ、足跡が続く先――森の奥を、静かに見据えた。 どうやら、この100万エーカーで「一人きり」というのは、俺の早とちりだったらしい。
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