第11話:プロの加減(草木灰の投入)

異世界十日目。 朝、俺は昨日完成したばかりの「掘り返された土地」の前に立っていた。 オウムもどき(グリーン1号・2号)のおかげで、一反の土地は深々と耕されている。


だが、これはまだ「畑」ではない。「耕された荒れ地」だ。 土は大きな塊(つちくれ)のままで、粘土質の重い性質も変わっていない。


俺は、畑の隅に積んである、魔法の炎で作った大量の「草木灰(そうもくはい)」に目をやった。 次の工程は、こいつの投入だ。 スギナに似た植物が生えていたことからも分かる通り、この土地は強い酸性だ。 草木灰のアルカリ性で、これを「中和」する。


「……だが、ここが一番のキモだ」


素人なら、この大量の灰を惜しげもなく全部撒くだろう。 そして失敗する。


俺はプロ(の端くれ)だ。 草木灰は、入れすぎれば土を強アルカリ性にしてしまい、作物が育たない「死の土」に変えてしまう。 特にここの粘土質と合わさると、カチカチに固まる「セメント化」のリスクもある。 目安は、1平方メートルあたり一掴みか二掴み。薄く、均一にだ。


「……さすがに、あの鳥たちにこの作業は無理だな」


あいつらに「薄く撒いて混ぜろ」と指示しても、クチバシで地面を引っ掻き回し、灰が舞い上がるか、一箇所に固まるのがオチだ。 重機(オウムもどき)がやったのは「粗(あら)仕事」。 ここからの「仕上げ」は、俺の仕事だ。


俺は焼き木のシャベルを手に、灰の山から少量ずつ灰をすくい、耕された土塊の上に、慎重に、薄く撒いていく。 雪がうっすらと積もったように、黒い土が白っぽく色を変える。


そして、ここからが本番だ。 俺はシャベルの背(せ)を使い、その土の塊を叩き、砕き、灰と混ぜ合わせていく。 「フンッ!」「フンッ!」


重い。 オウムもどきが掘り起こしたとはいえ、粘土の塊は手強い。 シャベルで叩き、砕き、灰をなじませる。 また灰を薄く撒き、叩き、砕き、混ぜる。


汗が滝のように流れた。 腕が、腰が、昨日までの比ではない悲鳴を上げる。 オウムもどきが一日で終わらせた作業(天地返し)よりも、この仕上げ(土壌改良材の混合)の方が、遥かに地味で、遥かに過酷だ。


ドンッ! ギャアア!


結界の外では、今日も魔物たちが大騒ぎしている。 俺が汗だくで土塊と格闘しているすぐ横で、巨大なムカデのような魔物が壁にぶつかって消し飛んだ。


「うるさい……!」


俺は悪態をつきながら、作業を続けた。 結局、日が傾くまで丸一日作業しても、終わったのは畑全体の十分の一ほどだった。


俺は地面にへたり込む。 だが、作業を終えた一角は、明らかに違っていた。 大きな土塊は砕かれ、灰が均一に混ざり、手で触れると(まだ重いが)昨日までとは違う、少しサラリとした感触がある。 確かに「畑の土」へと、一歩近づいていた。


「……さて」 俺は立ち上がる。 「酸性の中和はこれでいい。だが、問題はまだある」


この土の「水はけの悪さ」そのものだ。 この粘土質の構造を改善するには、アレが必要だ。


俺は、岩棚の拠点から森の奥を見つめた。 「次は、腐葉土(ふようど)……か」 また、途方もない作業が待っている。

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