好きは狂気。最高だろ?
止ヒ糸ケン(むらさきけん)
第1話走りにくい
走る。原始時代、狩のため。中世時代、戦争のため。現代、スポーツのため。走るというのは健康にも良い。運動をして体を動かし、汗をかく。基本的に運動しない人間からしてみればキツイだけ、そう感じるだろう。実際その通り。だがそれが好きな人間がこの世には溢れかえっている。
彼もその一人だ。
「ぜ……えぶ…ぐぅ…ん……ふ……」
息すらままならないほど走り続けることの辛さなんて、毎日当たり前の生活をしている男がいた。23キロ、彼は数えてないが毎日このくらい走り続ける。「あが……ぐ…けぼ…げほ…は、はぁ……ん、はぁ…あ、あした…も、やらない…やらないと」使命感を背負ったかのように永遠に休みなく毎日走る。
足の筋肉が悲鳴を上げる、風邪をひいて足がおぼつかなくなる、骨折して固定される、そこまでなったとしてもぜったいに足だけは止めなかった。「ただいま。……はぁ、」温もりもなく悲しい。一人暮らしをしてからずっと感じ続けている静かさ。嫌いではないが、正直言って人が恋しくもなる。
「今日は雨…か。カッパ……」
サー…
たったったったっ…
雨だからと言って走るのをやめるなんてことは一度もなかった。そんなのはやめる理由にはならないからだ。上げる。蹴る。進む。上げる。蹴る。進む。この反復動作が彼の体を支配した。
夢の中。自分が想像すら超えるスピードで駆け抜ける姿を見た。「ぁあ…おれは、このために……」
その日から異常だった。いや、嬉しかった。足を見ると筋肉にしては筋が出過ぎて、角張った形。言うなれば細かいブロックが足に張り付いてるような見た目だ。
一度その足で床を蹴って見れば、おかしなことに、床が入れ替わっている。正式には一蹴りだけで50メーター弱進んだ。そう、異常。
だが好奇でもあった。「はは!気持ちいい!」
本気で走ってしまえば23キロなど一瞬だ。もはや物足りない。しかもどれだけ走ったとしても疲れる気配が全くない(いっそのこと、本気の先まで走りたい)力の枷を開放する。それは限界を超える力を入れること。だが人間は限界以上の力はほんの少ししか出ない。
だがこの男は違った
瞬間世界は止まった。だが
体だけは光すら越したのだ。全身を使って前に進み、唸り、世界をまたにかける。
光を超える弊害がやっと脳に伝わった。光が無い。見えなくなってしまった。感触すらも電気信号という存在が故何が起こったのかすら理解できる頃にはもう体は別のところにある。
壊れた。だがこれを望んでいたのかもしれない。彼、ハシレは。
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