26.


「失礼しまーす⋯⋯」


中を伺うようにゆっくりと扉を開けた。

朝から曇っている空のせいか、保健室の照らす電灯がいつもよりも明るく感じる。

室内を見渡すと、先輩らしき姿は見かけなかった。

今日は調子が良くて、教室に行っているのだろうか。


「──兄貴、無理をするから⋯⋯」


ベッドの方へ目を向けた時とほぼ同時に、控えめな声が耳に入ってきた。

この声は陽輝だ。

一箇所カーテンで閉じられたベッドの中に先輩がいるということだ。

陽輝の声の後に、聞き取れない声らしき声が聞こえてくる。

その声の耳を澄ますために忍び足になりながら、そしてカーテンをそっと引いた。

果たしてそこに明星兄弟がいた。


「何勝手にカーテンを引いてんだよ」

「あ、ごめん⋯⋯」


確かに流石に失礼だったかと申し訳なさそうな顔を見せていると、「日向君、来てくれたんだ」と声を掛けられた。

声がした方へ振り向くと、横になっていた先輩が口元を緩ませた。

喜んだのも束の間、いつもより顔色が良くないことに気づき、表情を引っ込めてしまった。


「先輩、今日はどうされたんですか」

「体育の時、急にめまいを起こして、ふらついた拍子に転んだ」


日向の問いに陽輝が不機嫌に答えた。


「えっ、大丈夫なんですか」

「うん⋯⋯まぁ⋯⋯」

「これで大丈夫に見えるなら、お前は今すぐにでも帰れ。兄貴の迷惑」

「陽輝、ブーメランだぞ⋯⋯」


はぁ⋯⋯とため息混じりに言う先輩のか細い声が、胸を苦しませた。


「先輩、ごめんなさい⋯⋯もう話さなくて大丈夫です」

「特に体育は慎重にって言われてたのに、何でやったのさ」

「⋯⋯⋯日向君がやってるのを、見て⋯⋯」

「日向ぁ?」


キッと睨みつけてきた。

お前、何か余計なことを言ったのかと言っているように見え、無罪ですと首を横に振った。

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