7.
「さっきから大丈夫? 転んだ時、足だけじゃなくて頭も打った?」
「打ってないです。大丈夫です」
さっきから人の話も聞きもしないし、奇っ怪な動きをするものだから、頭の心配をされた。頭が勉強できない以外なら大丈夫。
いや、転んだ拍子に頭を打っていれば良かったかもしれない。そうしたら、あの日の出来事を忘れることが出来て、何故か見てくる視線にここまでびくびくしなかったはずだ。
「あらそう? でも、ちょっとでも気になったことがあったら、遠慮なく言ってね」
「はい、ありがとうございます」
もう用が済んだのだから、ここから早く立ち去ろう。
軽く会釈した後、歩きだそうとした時だった。
「君が日向君?」
「え⋯⋯」
不意打ちとも呼べるものに、つい振り向いてしまう。
明星兄と目が合った。
「明星君、日向君と知り合いだったの?」
「まあ、そんなところ」
先生の方へ一旦向けていた目をこちらに向けた。
「先週の火曜日の二時間目、かな。来てた?」
「いえいえ、来てません。見てません」
「いや、俺の弟が迷惑を掛けたかもしれなくて⋯⋯」
「えと、明星、陽輝君⋯⋯?」
「そ、俺と同じ髪色を前髪の一部に染めているヤツ」
「⋯⋯弟⋯⋯」
友達から兄の特徴から聞いて分かってはいたが、今は怖さよりも兄弟であのようなことをしていたのかとさっき思っていたことが頭の中が支配され、宇宙に投げ出されたような意識が飛んでいく感覚があった。
自分が思っていたよりも視野の狭い世界の中で生きていたんだなと、現実逃避をし始める。
「まずはごめん。弟にも謝らせておく」
「あ、いや、そこまでは⋯⋯」
きっちり90度曲げて頭を下げる明星兄に、咄嗟に頭を横に振る。
見た目に反して悪い人じゃなかったんだ。
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