08 『王の座』探索5
『王の座』の4階も、通路の雰囲気はそれまでと変わらない。
出現する雑魚モンスターはゴリマッチョなリザードマンになる。身長は2メートルほどなので3階ボスほどの威圧感はない。
3階と同じように那乃ちゃんたちにとどめをささせたりしながら先に進む。途中で那乃ちゃんも鬼木さんもレベルアップをしたようだ。正直彼女たちも、警察庁の練川さんたちに知られたら問題になるくらいまで強くなってしまっている。その話は後でしておかないとマズいだろう。
ダンジョンの通路は一通り見て回ったが、結局観覧車の残骸がひとつあったのみで、人はまったく見つからなかった。どうも那乃ちゃんたちだけがダンジョンに取り込まれてしまったような感じであった。
さて再びボス前の扉である。少しだけ休憩をして、扉を開く。
やはり広い空間にボスが3体。出てきたのはもはや見慣れた『恐竜もどき』こと『クロウリザード』だった。ただし雑魚のそれと違って全高は3メートル近く、頭部から尻尾までは5メートルを超えているだろう。前足が発達しているのもそのままで、赤い爪が3本、鈍い光を放っている。
そのいかにも大型モンスターな姿を見て那乃ちゃんたちは固まってしまったようだ。仕方ないとは思うが。
「ワタリ、足止めを頼む」
「了解」
俺たちが作戦を口にすると、クロウリザードたちが一斉に足音を響かせて走ってきた。
小型のトラック3台が突っ込んでくるような迫力があるが、俺の『裂空刃』によって足が切断されると、3体ともその場に崩れ落ちて床の上でもがくだけとなってしまった。
「ワタリの強さには呆れるしかないな。『アイスピラー』」
一体のクロウリザードが氷の柱で串刺しになる。
それを見て那乃ちゃんが復活したのか、「おじさん、とどめささせて!」と言ってきた。
「いいけど気を付けてね」
と答えると、那乃ちゃんは走っていって、口をパクパクさせて噛みつこうとするクロウリザードの頭部にメイスを叩きつけた。3発でクロウリザードは光の粒子に変わっていく。
それを見て鬼木さんも「渡さん、私もいいですか?」と言ってきたので、同じようにさせてあげた。バールでは威力が足りないようで、鬼木さんは途中で那乃ちゃんにメイスを借りてとどめをさしていた。
しかし彼女たちのモチベーションはどこから来るのか。女子でも中学生くらいの時は力を求めるものなのだろうか。おじさんには理解不能である。
出てきたアイテムは魔力を回復する『マジックポーション』とミスリルのインゴットと、それから籠手が一双だ。
籠手は以前拾った黒い籠手と同種の、あの両真さんが使っていたような金属製のいかつい形状をしたものあった。
那乃ちゃんがのぞき込んできて、
「それかっこいいね!」
と目を輝かせる。
「これは多分、つけて殴るタイプの格闘用の籠手だね」
「格闘用? それ私使ってみたい。今やってる格闘技とぴったり合う気がする」
「ああ、確かにそうかもしれないね。使ってみようか」
あの黒い籠手はかなり重量があって那乃ちゃんでは持て余しそうだが、今拾ったものはそれより軽いので使えるだろう。
俺が籠手を渡すと、那乃ちゃんは両手にはめてシャドーボクシングのような動きをして具合を確かめ始めた。
「うん、すごく身体に合う気がする。これ使ってみるね」
「あ、じゃあ那乃の使ってたメイス、私が使ってもいいですか?」
鬼木さんもバールだと物足りないのかそう言ってくる。モーレマーナが言っていたが、ダンジョンのモンスターにはダンジョン産の武器じゃないと効きが悪いようだから仕方ないのだろう。
メイスを渡すと鬼木さんはそれを両手で握って素振りを始めた。片手武器なのだが、少し大きめなので女子には両手でちょうどいいかもしれない。
新たな得物を得て嬉しそうな2人を嵯峨さんがうらやましそうな、少しまぶしそうな目で見ている。彼女も何か感じているところがありそうだが、那乃ちゃんたちに比べると気の弱そうな嵯峨さんが武器を振り回すのは似合わない気もする。
いや、中学生の女子が武器を振り回してモンスターを倒すこと自体おかしいよな、などと思い直しつつ、俺は5階への階段を上っていった。
5階もそれまでと同じようなダンジョンだったが、黒い壁に赤い波のような模様が入り、少しだけ特別感がある雰囲気があった。
「ダンジョンは5階ごとに区切りがあるからな。5の倍数の階は他とは少し様子が違うのだ」
というのがモーレマーナの説明だった。
さて、出てくるのは予想通り『恐竜もどき』こと『クロウリザード』だ。
全高2メートル、長さ4メートルほどの雑魚バージョンで、やはり那乃ちゃんたちにとどめを譲りながら先に進んでいく。
那乃ちゃんたちは自分に合う武器が手に入って戦いたそうにしているが、さすがにクロウリザードは無理がすぎる。モーレマーナ曰く、屈強な戦士が複数で一体を倒すことが推奨される相手である。
この階にもテーマパークの残骸などはなかった。
「もしかしたらナノがもともと力を得ていたことで、ダンジョンに引き付けられてしまったのかもしれぬ」
というモーレマーナの仮説が正しそうな気配がある。
さて、クロウリザードは俺にとってはもう何度見たか忘れるくらいのモンスターなので、ボス前までで問題が起きることはない。ボス部屋の扉も赤い模様が描かれていておどろおどろしいが、中にいるのは『
「これが最後のボス戦になるはずだ。火の玉を口から吐いてくるけど、俺が防ぐから驚かないようにしてね」
「はい」
と3人が答えるのを確認して俺は扉を開いた。
中は体育館2個分くらいのさらに広い空間。
その中央付近には、『
全長は頭の先から尻尾の先まで20メートルを超えるだろうか。首の長い恐竜のような身体、背中には蝙蝠の羽根のような翼が折りたたまれている。全身は黒光りする鱗で覆われ、彫の深い爬虫類顔の頭部には真紅のツノが二本、天に向かって突き出している。
そう、そこにいたのは『もどき』ではなく、正真正銘の『ドラゴン』そのものであった。
「これは……もしかしてこれがダンジョンマスターか?」
「いや、これは本ドラゴンの中では最下級のものだな。ダンジョンマスターのドラゴンに比べたら小手調べみたいなものだ」
「だがランクで言うとAになるんだろう?」
「Bランクの最上位の一角だな。Aランクは見た瞬間腰が抜けるほどの力を感じるものだ」
Bランクなら大狼男の『レッドヘアーファング』と同ランクだからなんとかなりそうだ。
もちろん油断はできないだろうが……、と思っていると、ドラゴンは俺たちに気付いたように巨体を起こした。
二本の太い足で立ち上がると、その巨体は圧倒的だ。長い首の先にある頭部は地上5メートルくらいの位置にあるだろうか。前足は『クロウドラゴン』ほど発達した感じではないが、それでも重機のアームくらいはありそうだ。
俺たちを見下ろす瞳は爬虫類のそれだが、どことなく知性を感じさせるのがいかにもモンスターの王という雰囲気である。
「ワタリよ、『結界筒』を貸せ。こちらはそれで身を護るゆえ、少しドラゴンと戦って経験を積んでおくといい」
「勝てるのが当たり前みたいな言い方だな」
「お前はドラゴンの力を30体分得ているのだぞ。負けるはずがあるまい」
「それはそうかもしれないが……」
そう言いつつ、俺は『空間拡張バッグ』からアロマポットみたいな魔導具『結界筒』を取り出してモーレマーナに渡した。
ちなみに那乃ちゃんたちはさきほどから固まってしまっている。モーレマーナは『結界筒』を床に置き、那乃ちゃんたちを覆うように結界を張ったようだ。
「仕方ない、やるか」
俺は『龍斬丸』を片手に、巨大ドラゴンに向かって歩いていった。
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