▽第14話 苗床の村

「あ、マレイア様だわ!」

「マレイア様が帰還したぞ!」


 マレイア辺境伯を見るや、村から退避していた者たちが集まってくる。


「皆の者、状況はどうなっていますか?」

「状況は深刻です、マレイア様。ワイバーンは飛び去りましたが、村は触手に支配されている状態です」

「マレイア様のご令嬢方は未だ戻らず、救出に向かった冒険者たちは悲鳴を最後に帰還出来ておりません」


 マレイア辺境伯が聞くと、兵士たちは状況の深刻さを告げた。

 ルデンバ村は既にTSbに占領され、マレイア辺境伯の娘以外に複数の冒険者が苗床として捕まっている。


「マレイア辺境伯、娘の人数は?」

「二人ですわ、勇者イサム」

「なるほど」


 マレイア辺境伯の娘は二人。


「救出に向かった冒険者は?」

「え、あぁ、確か三人だ」


 兵士が答える冒険者の人数は三人。


「全部で五人か」


 苗床の人数が増えればTSbの繁殖速度は更に高まる。

 そして現在苗床となった人数は五人。

 投入直後のTSbが村全体を襲える規模と仮定した場合、三十分ほどで村の外へと巣を拡大していくだろう。


「善は急げって感じじゃない?」

「あぁ、ルーシー。早速取り掛かった方が良さそうだな」


 時間はあまり掛けられない。

 苗床になった者の救出とTSbの駆除を急がないと、対処は難しさを増していく。

 早急な駆除が重要なスピード勝負である。


「マレイア辺境伯、俺とルーシーと共に村へ突入しましょう」

「それなら兵士たちも連れて──」

「ダメです。TSbの苗床になる者を減らすため、人数は制限します」

「じゃあワタクシと、勇者二人で?」

「はい。マレイア辺境伯にはTSbの対処方法を教えますので」

「分かりましたわ」


 ユウはルデンバ村に突入する人数を制限。

 TSbが占領中のルデンバ村に突入するメンバーはユウとルーシー、マレイア辺境伯の三人だけとした。

 苗床になる人数が増えるほど、対処が難しくなる故の人数制限である。


「マレイア様……本当に我々の加勢なしでよろしいのですね?」

「ええ、皆の者はここで待機。分かりましたわね?」

「はい。マレイア様も、そちらの勇者様もどうかお気を付けて」


 心配する兵士の言葉と見送りを背に、三人はルデンバ村に突入開始。

 足を進めて村へと入る。


「勇者様」

「ここからは戦闘態勢で、巣に引きずり込まれないようにいつでも踏ん張れる状態にしてください」

「了解ですわ」

「それなら変身しとこ」


 ユウは告げる。

 村の中は既に敵地。ルーシーとマレイア辺境伯は捕まった時に踏ん張れるように準備を始める。


「ドレスアップ! マジックステップ、チャージファイター!」


 ルーシーの変身。衣服が光り輝く。

 いつもの格好から徐々に姿が変わり、その手に剣を握った女戦士の格好となった。


「我の意思の下、我が身を敵に打ち勝つ力に変えたまえ! パワーブースト!」


 ルーシーの変身に続いて、マレイア辺境伯は身体強化の魔法を出した。

 二人の準備は万全である。


「オッケー、ユウ君! いつでもいけるよ!」

「こちらもよろしいですわ」

「よし、実践だ」


 三人は前へと踏み出し、建物群を通り過ぎて村の中心部に近付く。

 すると地面が盛り上がり始めた。


「来たか。予想よりも巣が拡大されているな」


 地面の下で動く物体。三人の方へと地面を盛り上げながら急速に近付く。


「ユウ君!」

「すぐそこ、来ますわ!」

「実践開始」


 目の前まで地面が盛り上がると、TSbの触手が地面から一気に飛び出した。その勢いのまま触手が三人の体に絡み付く。


「きゃあ!」

「なっ、ああっ!」


 足元から肩の高さまで絡み付き、巣に引きずり込もうとする触手。

 ルーシーとマレイア辺境伯は抵抗する。


「くっ、こんのーっ!」

「さすがに力が強いですわ! 巣に引きずり込むには充分ですわね!」


 チャージファイターの格好と身体強化魔法はただの飾りではない。

 今の二人は魔力を常に身体強化に回しており、常時身体が強化されている。

 力強く踏ん張る二人が巣に引きずり込まれることはない。


「ルーシー、大丈夫か?」

「へっ! こんなのに負けたら、勇者とか魔王は名乗れないって!」

「マレイア辺境伯は?」

「ワタクシだって大丈夫ですわ!」


 がんばって踏ん張る二人に対して、ユウは表情一つ変えないで体をピクリとも動かさない。


「よろしい。では説明を始めます」


 ユウのマナ制御による身体強化は二人よりも強力。説明する余裕すらある。


「まずは自らの体を使い、TSbを捉えます。自らの体に接触してきたら巣に引きずり込まれないように注意しつつ逆に引っ張り出します」


 そう説明しながら身体強化による怪力で、地下から伸びる触手を地上に引っ張り出していく。


「TSbは外部の影響を受けやすい地上が苦手なので地下に戻ろうとします。その行動を逆手に取り、巣に案内してもらいましょう」


 説明通りに、地上に晒されたTSbは地下へ戻ろうと動き始めた。

 この動きを逆手に取る。

 ユウは触手を離さず、巣へ戻る動きに合わせて移動。ルーシーとマレイア辺境伯もユウと同様のことをして移動する。


「巣って、ここ?」

「ワタクシの屋敷ですわね。まさかこの下に……?」


 移動した先にあったのは村の中心に位置する大きい建物。マレイア辺境伯の屋敷だ。

 ここにTSbの巣がある。


「巣をおおよそ特定した後は巣を丸ごと引きずり出しての対処か、出来ない場合は巣に突入しての対処となります」


 巣を丸ごと引きずり出して対処した方が楽にTSbを駆除、苗床となった者を救出出来る。

 だが、今回はマレイア辺境伯の屋敷の地下もしくは屋敷そのものが巣と化している。


「これ、巣を丸ごと引っ張り出したら屋敷が崩れるくね? 捕まった人たちが死んじゃうよね?」

「そうだ。だから今回は救出対象の保護を優先、巣に突入しての対処になる」


 このまま巣を外に引きずり出せば、屋敷は倒壊。マレイア辺境伯の令嬢二人と冒険者三人が巻き込まれる可能性は高い。

 そのため巣への突入を選ばざるを得ない。


「マレイア辺境伯、あなたの屋敷に地下は?」

「ありますわ。武器と防具の保管庫で……まさか巣が?」

「可能性は非常に高いです」


 三人がTSbの触手を離すと、屋敷の下に戻っていった。

 触手の挙動からして屋敷の地下にTSbの巣があるのは間違いないだろう。


「ワタクシが先導します。行きますわよ」

「了解」

「うい!」


 マレイア辺境伯は屋敷の扉を開き、中へと先導。ユウとルーシーはマレイア辺境伯に続いて屋敷の中へ入る。


「誰もいないね、触手も見えないし」

「やはり地下に巣があるか。マレイア辺境伯、場所は?」

「こっちにありますわ、付いてきてくださいまし」


 屋敷の一階にTSbはいない。根を張るように巣を形成する特性上、それ以上の階層にもいない。

 残るは地下。

 三人は地下に繋がる扉に迫り、地下扉の前に来た。


「ここですわ、開けますわよ」


 開かれる地下扉。

 開けて見えてくるのは、一面にびっしりと張り巡らされたTSb。ピンク色の触手が屋敷の地下全てを覆っていた。


「うぇっ!?」

「こんなに!」


 内臓が壁を覆っているような触手の肉壁。鳥肌が立つほどの大量の触手。

 ルーシーとマレイア辺境伯は反射的に驚く。

 その最中にTSbは三人を認識。巣に引きずり込もうと足元へと触手を伸ばした。


「下から!」


 ユウは触手の動きを察知。思考型の氷魔法で寄ってくる触手を凍らせ、そのまま一直線上の床と壁の触手も凍らせた。


「あっ、危ねぇ!」

「驚いている場合ではなかったですわね」

「ここからは巣です。TSbは充分な大きさの穴という穴、つまり口や肛門などに子種を植え付けてくるので気を引き締めてください」


 目の前は敵の巣。敵の領域。

 対処の遅れが苗床へ導く。


「うぇぇ……気だけじゃなくてケツ穴も締めておかなきゃじゃん」

「口も閉じないといけませんわね」


 巣に入れば老若男女問わず等しく苗床の対象。

 ルーシーとマレイア辺境伯は巣を間近にして緊張する。


「突入します。触手はなるべく無力化するので先導してください、マレイア辺境伯」

「……分かりましたわ。行きますわよ」


 マレイア辺境伯を先頭に、TSbの巣と化した地下へ突入。

 ユウの思考型魔法で壁と床に張り巡らされた触手を凍らせ、巣の中を進む。

 行く先は暗い地下。降りるごとに一階の光が遠のき、真っ暗になっていく。


「……ォっ……が……」


 暗闇の中で聞こえる、女性の声。


「誰かいるよ」

「魔法で明るくしますわ。我に光よ、シャインライト」


 マレイア辺境伯の手に浮かぶ魔法陣。そこから光が現れ、ランタンほどの光量で周りを照らした。


「どこかしら……」

「あっち、奧の方だと思う」

「声からして一人だな」


 階段を降り、地下に入った。

 周りを凍らせながら僅かに聞こえる声を辿っていく。


「お゛っ゛……オェェッ!」


 なにかを吐き出す声。

 声を辿り、光魔法で照らした。


「い、いた!」

「っ!?」


 照らした先に苗床となった人物を発見。

 金髪でピンク色の目、ボンキュッボンを過剰にした太ましくもスタイルの良い体型で、童顔の美女。マレイア辺境伯のビキニアーマーと似た鎧を着ている。


「たすけて」

「マカルタ!」

「おかあさま」


 苗床になった人物──マレイア辺境伯にマカルタと呼ばれた美女。


「マレイア辺境伯、あなたの娘さんですか?」

「間違いなくワタクシの娘ですわ」


 目の前の美女はマレイア辺境伯の娘──マカルタ・ビスだった。


「でも、こんなに酷いなんて……」


 しかし娘を発見出来ても、母親のマレイア辺境伯は安堵や安心を感じない。

 目の前のマカルタが触手の肉壁に四肢を囚われ、TSbに汚されているからだ。


「おかあさま、アタクシを殺しっ……オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ!」


 ぬるついた粘液にまみれ、マカルタの口から白濁の液体と共にTSbの触手が吐き出される。

 その吐き出された触手こそ、マカルタの肉体で繁殖した触手。

 吐き出された触手は即座に巣の触手と結合。巣の拡大に役立っていく。


「ユウ君!」

「分かっている。彼女を救出する、手伝ってくれ」

「母親としてワタクシも手伝いますわ!」

「お願いします」


 三人はマカルタの救出を始める。

 まずは上下左右、周辺を凍らせて安全を確保。マカルタまで凍らせないために体を拘束している部分の触手だけは残す。


「これしっかり手足捕まえちゃってるし、ケツ穴とも繋がってるよ。どうする?」

「ヒートナイフを使う。これで一つ一つの四肢から触手を切り離す」


 ユウは思考型魔法で武装現出を発動。赤熱化する刃で金属さえも溶断が可能なヒートナイフを作り出した。

 これで触手の肉壁に四肢を囚われたマカルタを救い出す。


「うぉ、スゲー武器!」

「足から腕の順番で行く。彼女の体を支えてやってくれ」

「あいよ」

「こっちは任せてくださいまし」


 ルーシーとマレイア辺境伯が左右からマカルタを支える。

 その間にユウは救出作業を開始。ヒートナイフで触手を溶断し、再びマカルタを捕まえないように触手を凍らせる。

 そうやって宣言通りの順番でマカルタの四肢から触手を切り離していった。


「……よし」

「おっとと」

「マカルタ、後少しだからもう少し我慢していて!」

「おかあさま……」


 触手の切り離しを終えた。

 マカルタの四肢は自由。ぐったりと重力に身を任せ、支えてくれるルーシーとマレイア辺境伯に全体重を掛ける。


「ユウ君、後はケツ穴の触手だけ!」

「このまま切断して、体内の触手を引き離す」

「切らずに引っ張るのは?」

「ダメだ、巣と繋がった状態の触手の力は強い。無理に引き離すと触手が抵抗して内臓を傷付けてしまう」

「結構シビアだね」


 力ずくで触手から引き離そうとすれば、マカルタの内臓を傷付ける。

 だから肛門の触手に対してもヒートナイフを使用する。


「切るぞ」


 ユウは告げる。マカルタの肛門と繋がった触手をヒートナイフで溶断、TSbの巣から切り離した。


「よし、次は肛門の触手を引き離す」


 そこからマカルタの内臓を傷付けないため、触手の切断面を触って刺激。自ら外に出るように促した。


「ア゛ァ゛ァ゛ッッ!」


 直後、腸と肛門で触手が動く。

 腹の中をかき回されるような痛みと不快感がマカルタを襲う。


「ギィ゛ィ゛ィ゛ッ!」


 肛門から垂れ落ちる白濁の液体と共に、触手が肛門から徐々に出てくる。

 次に襲ってくるのは快楽。痛みと不快感に加わり、マカルタをぐちゃぐちゃにする。


「ヴッッッ! うぅ……♡」


 体内で触手が動く度に、痛みと不快感と快楽が絡み合って襲ってくる。


「うっ、うえ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ッ!」


 そして肛門から長さ1mほどの触手が出てきた。同時にマカルタの口から再び白濁の液体と共に触手が吐き出される。

 それだけではない。肛門からも次々に触手が吐き出される。


「オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ!」


 まるで繁殖を一気にやり切るように触手は止まらない。

 次々に、次から次に体内で繁殖した触手がマカルタの体外へ出ていく。


「勇者様、ワタクシの娘はどうなりますの?」

「今は繁殖した触手が体外に出ている状態です。巣の外に落とすと新しく巣を形成してしまうので、この巣の中で体内の触手が全て出てくるのを待ちましょう」

「……分かりましたわ」


 早く自分の娘を救出したい、マレイア辺境伯の心境。しかし巣を増やさないためには触手が全て出てくるのを待たないといけない。


「オ゛ォ゛ォ゛ッッッ!」


 だから触手が全て出るのを見守り、待つ。

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