▽第8話 地平線に落ちていく戦火

 寝息を立てて、ベッドの中で抱き合うユウとルーシー。

 寝静まる夜は過ぎていく。

 地平線の向こうから顔を出す太陽の光。

 暗い薄青の空が朝焼けに染まり、夜から朝になる。


「……っ?」


 薄い生地のカーテンに閉じられた窓から、朝の光が差し込む。

 徐々に室内が明るくなる。

 朝に気付いたユウは目を覚まして、窓を見る。


「朝か」


 朝を認識。したと同時に、窓の外で眩しく輝いたものが空を通過していた。


「なんだ?」


 ユウはベッドから出て、窓のカーテンを開ける。

 目に映るのは朝焼けの空を流れる火球。正体は宇宙から大気圏に突入途中の物体だった。


「あれは……」


 嫌な胸騒ぎ。夜中の内に抱いた懸念、自らが元々所属していた軍──敵がこの世界に転移して来ているという懸念が浮上する。

 ユウは思考型魔法の物質生成で片手持ち可能なサイズの単眼鏡を作成。窓を開き、大気圏突入に成功した物体の確認を急いだ。


「やはり来たか」


 高倍率の単眼鏡によって拡大した視界内に見えたもの。

 それはユウにとって見覚えのある、全長約500mの大きさでシンプルな長方形の艦船。

 ユウの元世界では500m級支援艦と呼ばれていた航宙汎用艦。

 特別な白一色の塗装、敵のエンブレムである黒い両翼も視界に入れる。


神人類宇宙統一連盟軍しんじんるいうちゅうとういつれんめいぐん


 彼の口から出たのは敵の名、自らが元々所属していた軍の名前、腐り始めた内政の末に内戦と異世界侵攻に走り出した戦争の火種。


「この世界を悲劇で塗り潰させはしない」


 500m級支援艦は地平線の向こう側へと飛行。

 敵であれば、地平線の向こう側から侵略が始まる。戦争という名の魔物がリーロ・ラルレ大陸に影を落とすのは間違いない。


「んぅ……」


 後ろで寝ぼけながら目を覚ます声。

 ユウが窓から声の方に視線を移すと、ルーシーが上半身をゆっくり起こしていた。


「ユウ君、おはよぉ」

「おはよう、ルーシー」

「えへへ」


 挨拶を交わしてルーシーは喜ぶ。

 こんな平和な日常はもうすぐ終わる。

 戦争の訪れを感じながら、ユウは思考型魔法でいつもの軍服姿に着替えた。


「ルーシー」

「なにー?」

「ルゼン王に用事が出来た」

「王都に行くの? アタシも一緒に行っていい?」

「構わない。ただ……いつでも戦える準備だけはしていてくれ」

「んぅ? まぁ分かった」


 侵略が始まる予感と戦争の気配。

 ルゼン王に敵の存在と戦時体制への移行を言わなければ、取り返しがつかない状態になる。

 ユウはこの世界の平和のために、起きたばかりのルーシーと共に王都ルクセフォンへ行く準備を進めていく。

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