▽第2話 距離を縮める自己紹介
「ルゼン王に依頼に関して話がある。王城に行きたいが、良いか?」
「はい、構いません」
「ルーシー殿! ルゼン王に顔合わせしてあげてください、心配していましたぞ」
「あはは……はーい」
勇者と共にルーシーが戻ってきた。しかし勇者であると同時に脅威とみなされた魔王でもある。
そんな魔王のルーシーも魔物も既に脅威はない。
彼は魔王及び魔物の討伐依頼を出したルゼン王に依頼破棄をするため、王都ルクセフォンに帰還することにした。
「出発します」
「よーし、行くぞぉ! ルーシー殿を連れて帰還だ!」
騎士たちの乗る馬が進み始め、勇者とルーシーが乗る馬車も動き出す。
「ルーシー様! おたっしゃでー!」
「ルーシーお姉ちゃん! また遊んでね!」
村人たち、魔王城に案内してくれた村の子供の見送り。
ルーシーは勇者として応えるように元気良く手を振る。馬車が進むごとに村の見送りの光景は離れていく。
「慕われているな」
「そ、そうかなぁ?」
「あぁ、見ているだけで分かる」
勇者に言われて、ルーシーは照れる。
「我々も慕っておりますぞ、ルーシー殿!」
「うちの子供の相手をしてもらったの、今でも覚えていますぞ」
「手間の掛かる妹の相手してくれた時は助かりましたよ」
騎士たちが直接言うくらいにルーシーは慕われていた。
「慕われていることが証明されたな」
「えへ、そうだねぇ」
ルーシーは顔を赤くして更に照れた。
コロコロと変わる彼女の様子に、勇者は自然と固い表情を緩めた。
「そういえばさ、勇者君はどこから来たの? 来る前はどんな感じだった?」
勇者に顔を近付けながらのルーシーの問い。
勇者は返答を口に出す前に思考する。
この世界は魔王と魔物を敵と認識している。魔王の肩書を口にすれば、あらぬ誤解を生む可能性は極めて高い。
「俺は異世界から召喚された。召喚前は……軍人をしていた」
そして誤解、失言がないように情報の取捨選択をしながら慎重に答え切った。
「へぇー! 異世界から召喚された軍人さんなの?」
「お前は?」
「アタシはぁ~……あ、そういえばアタシはルーシー・フェルタン! ルーシーって呼んでね!」
「あ、あぁ、分かった」
急な自己紹介。
勇者は「それでルーシーはどこから?」と言い直して質問する。
「あ、そうそう! アタシは王に呼ばれて、南の村から来たの!」
「南? 異世界からの召喚じゃなくてか?」
「うん、このリーロ・ラルレ大陸の南にある村からトコトコとね!」
勇者にとっては初耳の大陸名。
脳内で情報を整理しながら、次の言葉を出す。
「村の名は?」
「勇者村」
「直球だな」
「まぁ過疎村なんだけどね。住人が初代勇者の元パーティーメンバーとその子供だけで、アタシ含めて四人しかいない。若いのはもうアタシだけだし」
勇者村という直球の名前をした村の出身、住人の少なさ、若いのはルーシーだけ。
勇者にするにはルーシーが丁度良い存在だった。
「なるほどな」
「じゃあ次は勇者君」
「なにがだ?」
「名前とか出身とか、そういうの!」
勇者は再び情報を取捨選択。口に出す情報、言葉を慎重に選ぶ。
「俺の名前はイサム・ユウ。出身はマカハドマだ」
勇者は、ユウは答える。
「イサム・ユウ……変わった名前だね。ユウ君でいい?」
「構わない」
「じゃあユウ君、マカハドマって?」
「極寒の資源惑星だ。両親の元職場で、俺の出身。俺を出産した後は別の惑星に住所を移している」
ユウの出身──マカハドマ。そこは氷点下200度を下回る極寒の資源惑星。多くの鉱物資源が眠る、大地が氷に覆われた幻想的な惑星である。
「極寒、資源惑星……んん?」
ルーシーは理解が追い付かなかった。
それもそのはず二人の文明レベルはあまりに違い過ぎていた。
「星って、空の上で輝いている星のことだよね?」
「そうだ」
「なるほど、ねぇ……」
途方もない数の星と銀河、宇宙全体を支配下に置く文明と中世レベルの文明。
あまりに差があり過ぎるため、ユウにとっては当たり前でもルーシーにとっては創作物のような話だった。
「星……惑星……うーん、星ねぇ」
ルーシーは揺れる馬車から空を見上げて、ユウの言ったことを理解しようと頭を動かす。
その間にも馬車は進み、彼らは王都ルクセフォンへ帰還していく。
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