マリオネット

@suiseiyarou

追憶

静かな部屋に、ただ何かを書く筆の音が聞こえてくる


この部屋にいるのはただ一人だ、薄暗い部屋誰かが机に向かってただ作品を作る

自分はそれを後ろから眺める


自分がなんなのか、それは分からない。

ただ、彼が作品を作るのをひたすら眺めている。


彼との出会いは、本当に偶然。

知り合いに紹介され、関ることになった


特に会話もなかったのに、何故か部屋に入れる程の存在になっていたらしい。


言葉が少ないので、どんな存在かは分からない。

しかし、部屋まで入れて貰えるようになったのだ、きっと少しは特別に違いない。


ほとんど話さないが私はたまにお茶やお食事を彼のいる机に持っていく。

時にはそれ以外のこともする。


返事は無いが食べてくれている。

それだけでも何か自分に意味があると思っていた。


だが、知らなかった


彼には私が見えていないということに


私は彼に恋をしていた、彼の作る作品が好きだった


しかしながら、彼が見ているのは作品であり自分ではない


自分の中で燃え上がった感情良く考えれば自分一人の空回り、つまり相手のことなど何も見えていなかったというわけ。


私はなにを勘違いしていたのか、、、

彼が恋をしているのは彼の作品。

物作りが彼の魂、そこに私は関係ない。


わたしは、いらない存在になってしまった。

もう会話を交わすことが出来ないかもしれない。

作品には人の思いが反映する。


今自分は、まるで意味の無い存在、彼にとって人ではなく何物でもない存在。

舞台の一装置、時に使われる。

まるでマリオネット。


しかし、私が好きなのは彼の魂、作品は彼の魂。

彼もまた、作品のマリオネット。

私もまた、彼を通してその作品に恋をしている。


紛れもなく恋をしたのは、彼の作りだしたもの。


わたしは、彼の魂をまもるため静かに部屋を出た。

もう二度とその部屋に帰ることは無い。

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