禁書の悪魔
「イタタタ」
本に吸い込まれた。
一般的には揶揄で使われる言葉だ。
……揶揄ならどれだけ良かっただろうか。
妙にカラフルで、妙に角ばっていて、妙にモノクロで。
そんな風邪の時の夢みたいなツギハギな世界が目の前にあった。
「大丈夫ぅ?」
「ええ。なんとか」
永夜と私。そして乱雑な巨乳。
……はぐれていないだけ良かった。
「こっちは大丈夫じゃなさそうだけどねぇ」
「まあ、いいでしょ」
襲ってきたのはあっちだ。
ひとまず、自分たちの心配をしよう。
「本の中なのはわかるけど、なんなの? ここ」
「本の中。としかいえないねぇ」
立方体が何かを形作っては崩れる。
ひどく散らかった未完成な世界。
「まあ、十中八九“領域“だろうね」
「“領域“?」
「魔力で作られた一つの小さな世界。それが“領域“。いわば魔法さ」
「世界……」
永夜いわく、この世界は発動者の心によってその姿を変えるらしい。
優しい心なら優しさ溢れる世界を。暗い心なら暗い世界を。
「つまりこの世界が未完全なのは未完全な心の持ち主が作ったってこと?」
「そうだねぇ。でも油断しちゃいけないよ」
小さいといえど、世界を作るには膨大な魔力が必要である。
つまり、発動者は膨大な魔力を持っていると言うことだ。
「そして領域の本領なんだけどねぇ。領域内の相手にルールを課すことができるのさ」
「え? つまり“酸素が存在できない“とか?」
「うーん? 一つ言うなら発動者が思い描けるルールしか無理だよ。
まあ思い描けたらできるけど」
「え」
「“即死“とかそう言うのは相手の死を思い描けないとダメだしぃ、
酸素とやらもどういう動きをするのか“正確“に重い描けないとダメじゃない?」
じゃあ問題ないか。
どんな人間でも分子がどんな動きをするか完璧に想像できる人なんておるまい。
それに不完全な心なら可能性は皆無だろう。
「あとは細々。あえて言うなら自分以外の魔法を弱体化する効果かな? ものによっては……ていうかボクの能力……魔法は使用不可にできるね」
「結構重大じゃない!」
「まあ、領域自体が魔法だからね」
そもそも魔法の中で魔法を行使するのは難しいらしい。
ちなみに異能力も魔法の一種だから弱体化は免れないとのこと。
つまり永夜は雑魚同然になったと言うことだ。
「誠に遺憾だねぇ」
「……まあ、ピンチに陥ったことはわかった。じゃあ、どうやってここから出るの?」
「それに関しては簡単さ。弱点を突くんだ。どんな方法でもね」
心には弱いところがあることと同じように、領域にも弱点がある。
発動者が攻撃したり殺したりしたら綻ぶものもあれば、火に弱かったり、水に弱いものもある。
「ま、例外もあるけどね。だいたいこんな感じだ」
「へぇ。じゃあこの領域はどうなの?」
「わからないよぉ?」
「え?」
「まあ、いったん発動者を殺すかぁ?」
まあ、それが手っ取り早いか。
あたりを見渡してみるが、この辺りには自分たちしか見当たらない。
探すしかないのか?
「ま、その必要はないかねぇ」
「え? なんで?」
「上」
瞬間、私を掻っ攫うように永夜は避ける。
「やば」
バランスを崩した永夜を抱き止めるように支え、転がる。
「危ないねぇ」
轟音が鳴り響いた。
やばい。まじでやばい。
さっきまで立っていた地面がクレーターと呼んでいいほどに凹んでいる。
さぞ大きな……
「子供? ヤギ?」
土煙が晴れるとそこには子ヤギみたいなのがいた。
“みたいなの“だ。その身に纏う悍ましい雰囲気は子ヤギではない。
「悪魔か……非常にまずいよぉ?」
「悪魔?」
「簡単に危険と覚えてくれていい」
「なるほどね」
「……悪魔には階級があってね。生きた年数によって力が増すんだ」
じゃあ、この悪魔はどれくらい……
「昔、私はこいつを見たことがある……というか封印した」
「封印……そして昔?」
「後の世でやつはこう呼ばれた。禁書のグリモワール」
「禁書の……グリモワール?」
ケタケタとこちらを見て笑う悪魔。
その目は深く。深く。
「階級は百魔。原罪の14悪魔と最も近しい存在さ」
「えっと?」
原罪の14悪魔を知らんからわからん。
「締まらないねぇ。まあ一番偉い階級の一個下ってこと」
「一個下……」
これ、無理じゃね?
「逃しては……くれないようだね!」
「!」
空中に浮かび上がった火の玉がこちら目指して一斉に飛んできた。
「避けてねぇ。当たったら死ぬよぉ」
「言われなくとも!」
右に左に避けながら距離を取る。
このまま逃げてしまいたいが……。
「わ!」
進行方向に炎の壁が立ち塞がる。
炎の壁は瞬く間に私と永夜を囲い込む。
「ははは。圧倒的だねぇ。こりゃ死んだねぇ」
「あんたも死ぬでしょ!」
「残念ー。不老不死だがら死にませーん。くっそ痛そうだけど」
そんなことを言ってる間にも呼吸が苦しくなってきた。
視界が白くなってきて……。
「わー。これはやばいかも。火傷後が数十年残りそう」
「私は……骨も……残らんわ」
意識はまだ明確だったようだ。
その明確な意識が上から迫る巨大火球を発見した。
周りはすでに炎の壁に覆われている。
チェックメイトというやつだろう。
「皆さん! こっちへ!」
ああ幻聴が聞こえてきた。
妙な幻聴だな。聞いたことある声だけど、聞いたことない口調だ。
「ボサっとしてないで行くよ!」
「?」
困惑の中、永夜に担がれていった。
*
「ちょっと整理させて欲しい」
安全な物陰に隠れて数十分後、
意識がはっきりしてきたため、オーバー気味になっていた情報を整理する。
・まずここは、禁書の悪魔(百魔)グリモワールの領域内。
・領域は相手に非常に有利な空間(永夜は能力の性質上使用不可)。
・ただし領域は不完全(おそらく“相手にルールを課す“は不可能)。
・グリモワールには勝てない。
「ってところかな?」
「ま、概ね正しいんじゃなぁい?」
「なんか、大変なことになってますね?」
もとを言えばお前のせいだろ!
と突っ込みたいが……なんというか別人? な気がするため控える。
「もとを言えば君のせいだよぉ? それを忘れるとかどうなってんのさぁ?」
ただし、永夜は控えなかった。
私の言いたいことを容赦なく叩きつけた。
「え。ま、え?」
「うん」
私に“本当か?“と尋ねるような視線を送ってきたので肯定しとく。
「えっと。あ、なんて言えばいいか……スミマセン……」
「スミマセンじゃ済まないよぉ? 最悪、全員死ぬからねぇ? 私は永遠に苦痛に悶えることになる」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「えっと? なんか事情があるんでしょ」
「あ……はい」
なんか少しかわいそうな感じがしたので助け舟を出しておく。
「あってもなくても君の責任は変わらないからねぇ?」
「ひッ、ごめんなさい」
「永夜。話が進まないからちょっと黙って。……説明してくれる?」
永夜は頬を膨らませて黙る。
結構怒ってるみたいだ。
まあ、当然だけど。
「あ、まず名前から行きますね。えっと、え、あわ、私一ノ瀬! あうう」
「ちょっと、落ち着こうか。気持ちはわかるけど」
「……」
律儀に黙っている永夜だが、視線がすごい。
“さすが孤高の天才だねぇ“とでも言いたそうな目だ。
膨らんだ頬を人差し指で突く。……いい音がした。
「……ふう、私の名前は一ノ瀬双葉です」
「双葉……さん?」
「あ、好きに呼んでください。呼び捨てでもいいですよ?」
「わかった。じゃあ双葉なんで私たちを攻撃したことを覚えてないの?」
一番気になることを尋ねる。
「えっと、信じられないと思いますけど……」
「うん」
「私、多重人格者みたいなんです」
なるほど。
確かにそれなら合点がいく。
この子があんな口調で話せるとは思えないし、
記憶が別々なタイプの多重人格者なら記憶がないのも頷ける。
「異能力を使ってたみたいだけど……」
「はい……えっと……東京ダンジョン出現で騒がれ始めた頃、から使えるようになりました。確か、その頃から多重人格もひどくなった気がします」
「ひどくなった?」
「はい。前は……記憶があったんです。でも今は」
異能力獲得による影響か……。
それに東京ダンジョン。
やはり、異能力……魔力はダンジョンに関係している。
「……」
「見えた!」
物思いに耽っていると永夜が突然、声を上げた。
「見えたって、何が?」
「ここから出る方法!」
不老不死でも生きていたい 悪魔的なケチャップ @ketchup666
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